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第一話 転生

今日もまた、クソみたいな一日だった。

うだるような暑さの中、会社で経理課長という名の便利屋としてフル稼働。

しかもよりによって税務調査の対応日。あんなもん、戦争と一緒だ。

口を開けばツッコミどころしかない調査官に神経をすり減らし、なんとか致命傷を回避して帰宅した。


ふらふらになりながら最寄駅に降り立った頃には、時計の針はすでに22時を回っていた。

明日は土曜日だ。久しぶりにのんびり出来る。シリーズ物のラノベを買いたかったが、もちろん、本屋など閉まっている。

「今日もコンビニ弁当か……」

いい年して独身のおっさんは、ため息まじりに最寄りのコンビニに入る。


冷えた空気が、少しだけ命をつなぐ。

ビール、弁当、ついでにコンビニスイーツ。甘いものが沁みる歳になったんだな、と自虐気味に笑いながらふと本棚に目をやると、そこにそれはあった。

くすんだ文庫本。古びて、少しホコリをかぶっている。

タイトルは……『オリバー・ツイスト』。

「おっ……!」

子どもの頃に読んだ記憶がある。面白かった。妙にリアルで、でもドラマチックで。

今日は土曜日、明日は休み。名作をゆっくり読むのも、悪くない。


「たまには、な。」

そう呟きながら文庫本をかごに入れた、その瞬間だった。

「おじさん!」

…ん?...

背後から声をかけられて振り向くと、そこには――

制服姿の美少女が立っていた。しかも国民的美少女と言っても通じるレベルの、まさに“天使”みたいな子。

「えっと……君は?」

…こんな夜遅くになんだ…

そう思いながら顔をしかめて聞き返した。

見たところ中学生くらいにしか見えない。なんだか嫌な予感が頭をかする。

「私? 私は、5次元コーディネーター。」

「……は?」

意味不明だ。なんだこの案件。

全身から“ヤバい”がにじみ出てる。これは関わっちゃいけないやつだ。

「あー、そう。じゃ、おじさんはこれで失礼するよ。君も早く家に帰んな。」

「オリバーのこと、好きなの?」

…何言ってんだこの子。…

だが、妙に気になる一言を残して、彼女はそのまま姿を消した。


自宅に帰ると、すぐにエアコンを除湿にセット。

汗を流すようにシャワーを浴びて、ようやく落ち着いた部屋で缶ビールをあおる。

「かぁ〜っ、生きててよかった……!」

この一杯のために働いてるって奴、多いんじゃないか?

それなりに疲れたサラリーマンにとって、これはもう合法ドラッグだ。


さっきの美少女、ちゃんと家に帰ったんだろうか。

なんとなく不安を覚えるが、「一応声はかけた」と自分に言い聞かせる。

むしろ責任があるのは、あの店員の方だ――などと都合のいい理屈を並べながら、ふと思い出す。

「あなたはトリッパーよ。そうねぇ、名作トリッパー、決まりだね。」

…何が決まりなんだよ。可哀想に…

あんなにかわいいのに頭のネジが一本抜けてそうだ。

ぼやきつつ、ビール片手にコンビニで買った『オリバー・ツイスト』を開く。


久しぶりの紙の本。

スマホゲームばかりの生活だったが、この紙の手触りとインクの匂いが妙に心地よい。

物語は、オリバーが救貧院で生まれるシーンから始まる。

そうだ、こんな不幸な物語だったっけ。子供の頃に呼んだ時には感じなかったディストピアな世界感にちょっと顔をしかめる。


弁当を食べ終え、ベッドに寝転がって続きを読み始めようとしたその時だった。

――異変が起こる。

尋常じゃない眠気が、波のように襲ってきたのだ。

まぶたが落ちる。意識が沈む。


そして、暗闇の中に――あの少女が立っていた。

「さあ、約束通り行くわよ。You〜〜〜Trip!」

そう叫びながら、彼女は魔法少女みたいなバトンをくるりと回した。

その瞬間、オレの体はまばゆい光に包まれ、意識は一瞬で吹き飛んだ。

…ていうか、約束なんてしてねぇぞ!…

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