愛のみずたまり
梅雨の大雲が過ぎ去り、雨宿りをしていた屋根から出た時、彼女から別れのメールが届いた。
「いきなりごめんね。私たちもう付き合って3年くらいだけど、もう別れない?」
頭が真っ白になった。客観的に自分の顔を見ることはできないが、顔面蒼白という言葉がよく似合う顔をしていることだろう。
「どうして?」といつの間にか入力し、彼女に送信していた。
「別に、嫌いになったわけでもないし、他に本命ができたわけでもないけど、このままだったら、お互い前に進めないかなって。」
返ってきたのはこれだった。
前に進めないってなんだ?
自分的にも客観的にも、いいカップルだと思うし、1週間に1、2回は会っていた。
体の関係も、レスになることはなかったし、相性も良かった。
「『前に進めない』ってなんだ?」
そう送信した。
「悪い関係じゃないのに、毎回同じ感情で会って別れるを何度も何度も繰り返してたら、なにがよくて付き合ってるのかがわからなっちゃって。」
彼女はそう答えた。
確かにごもっともだ。
悪くもよくもない、そんな中途半端な関係で、お互い先に進めるわけがない。
勝手にいい関係だと思っていただけで、お互いに感情がなくなっていたのかもしれない。
「わかった。おかしな感情にさせて悪かった。」
彼女は、「今までありがとう」という文を残し、メールは途絶えた。
ポタポタと屋根から垂れる水滴のおとを背に、道路に溜まったみずたまりを眺めた。
このみずたまりが、今まで無駄に降らして、こぼれた彼女への愛なのかもしれない。
「さよなら」
独り言としてつぶやいたこの言葉が、彼女への最後の愛の言葉だ。
愛のみずたまり
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は敢えて年齢、名前を考えずに執筆しました。
ご自身の想像と経験で話を完成させてあげてください。
※フィクション