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神に届く者

少々胸糞な展開ありますので注意

「あれ?どうなってるんだろ?全然見えない……」

 思わず疑問が口に出てしまった。というのも、今目の前にありえない光景が映っているからだ。

『これは大変珍しい事例です』

 ポン、と文字が浮き出してきた。心なしか、今までより出方が早かった気もする。

「そんなに珍しいの?」

『はい。この者は神に匹敵する力を持っており、そのために近くの未来すら不確定なのです』

 神の代行になって156年。本当に何の気なしに注目した人物は、名前や過去以外が何もわからない状態だったのだ。

 普通であれば、その人がどんな生活を送って、どんなことをして、どんな風に死ぬかということがわかる。だけど、この人は本来そういった情報が現れる部分が、すべて真っ黒に塗り潰されていたのだ。

『何が起きるか、何を起こすか、そういったことはほとんどわかりませんので、何かするときは気を付けてください』

「わかった、ありがと」

 改めて、対象をよく観察する。

 現在12歳。性別は女。生後2年で魔法を使い始め、3歳ではほとんどの魔法を使いこなし、幻と言われる転移魔法や暗黒魔法まで使うことができる。

 信仰心はそれなり。何かしらの苦労は神の試練だと言う両親の言葉を信じており、どんな困難であっても乗り越えられるものだと思っている。

 過去を見てみると、確かに何がしかの困難を乗り越えた時、彼女はより強い力を身に付けている。学校の授業開始3分前に目が覚めた時に転移魔法を使えるようになったとか、馬車に轢かれた飼い猫を助けようとして回復魔法を身に付けたとか、スケールの大小はともかく、そういったことを乗り越えるために新たな力を身に付けている。

 しばらく悩んで、私は彼女に更なる試練を課してみることにした。彼女の力なら、うまくいけば世界をより良くすることも可能かもしれない。

 まず軽めに、何をやってもうまくいかないようにしてみる。学校のテストはケアレスミスを連発し、料理は焦がし、友人との何気ない会話では相手を怒らせる。

 そんな生活を一月も続けると、彼女の周囲にいた友人はかなり減っており、彼女も落ち込んでいた。しかし、それでも『これは神の試練だ』と奮起し、腐らず努力を続けていた。その甲斐あって、彼女の魔力操作は非常に精緻なものとなっており、魔力の無駄がほぼ無くなっている。これほどまでに無駄のない魔法は、神以外ではありえないかもしれない。

「うーん、さすが選ばれし子……じゃあ、これはどうかな?」

 何とか調子も戻り始めた二ヶ月後、彼女の両親は暴走した馬に跳ね飛ばされ、他界してしまう。もちろん、私がそう仕向けたのだが。

 彼女は泣いて泣いて、泣き続けて、それでも死者を蘇らせることなどできず、そんな自分が認められず、ずっと落ち込んでいた。

 今まで、彼女が本気で何かをしようとして、出来ないことはなかった。だが、死者を蘇らせることは不可能だった。

 自身の限界と現実を嫌と言うほど突きつけられ、彼女はそれまでの性格が嘘のように、暗く消極的になっていった。だが、それでも両親を取り戻そうと磨き続けた回復魔法は人智を超えたものとなり、死者は蘇らせられなくとも死の寸前までいった生き物を、即座に健康体に戻せるほどにはなっていた。

 ここに畳みかけて潰れてしまうのも困るため、しばらく様子を見てみる。こういう時、神の力で未来が見えないのは不便なものだ。

 彼女は叔父が面倒を見ることとなったが、その叔父は彼女を便利に使っていた。ちょっとした怪我や病気などでも、すぐに彼女の回復魔法を使わせ、家事を含めた雑用をすべて彼女にやらせている。自分は家の財産を食い潰しているだけで、収入などまるでないのだが、いざとなれば彼女をどこかに売ってしまえばいいと考えているようだった。

 実際、彼女はどこの貴族でも喜んで大金を出すだろう。何なら王族だって、白金貨を使ってでも欲しい存在に違いない。それほど、彼女の能力は優れている。ただ、そうやって買われた彼女の将来は、神の力が届かずとも暗いものになるのは目に見えているが。

 そうした境遇も、彼女は神の試練だと思い、健気に耐えている。これに関しては私が手を下したものではないのだけど、間接的には関わってるので神の試練でも間違いはない。でも、それが神の意思、つまりは私の意思だと思われるのも癪なので、少しだけ手を出すことにした。

 散々にこき使われ、彼女が心身ともに疲れ果てて自身の部屋に帰ってきたとき、ほんの一瞬だけ、置いてある聖書を光らせた。彼女はすぐそれに気づき、聖書を手に取ってじっと見つめる。

「……神様……貴方のために人生を捧げれば、私は幸せになれるんですか……?」

 力なく呟くと、彼女はその胸に聖書を抱きしめ、何かを決心した顔つきになると、転移魔法を使って部屋から消えた。

 翌日、とある修道院に、一人の孤児が現れた。彼女は自身の境遇を語らず、ただ修道院に入りたいと言った。院長は何も聞かず、彼女を迎え入れた。

 それから、彼女はひたすらに、ひたむきに、神への祈りを捧げる生活を続けた。他者との関わりを避ける傾向があるものの、とても良く働き、そして一途に祈りを捧げる彼女のことを、シスター達は皆優しく見守っていた。

 修道院に入って数年が経ち、彼女は少し成長した。能力に関しては、あれからほとんど使っていないのであまり変わらないと思うが、まだまだ子供っぽかった体型はすっかり女の子の体になっている。暗く消極的になっていた性格も、少しずつだが元に戻り始めていた。

 これなら、次の試練を与えても大丈夫そうかな。

 そう判断した私は、たまにこの修道院を訪れる男性の司祭に対して力を使った。司祭は彼女を言葉巧みに部屋へ誘い込むと、逃げられないよう内側からしっかりと鍵をかけた。

 一時間ほどして、司祭が部屋を出る。部屋の中に残された彼女は、散乱した服を直そうともせず、ベッドの上で放心したように横たわっていた。その顔に表情はなく、涙の跡は残るものの、今は泣いてもいない。

 直後、私のいる空間全体が真っ赤に光り、慌てて彼女から視線を戻す。

「な、何!?何事!?」

 その時、これまでまったく見えなかった彼女の情報が、目の前にポンと表示された。

『警報 これまでに理不尽なほどの試練を課し、僅かな安息すら許さない神に対して強い恨みと怒りを抱き、神を殺そうと考えている。それに全人生を捧げる覚悟であり、一年以内にこの場所を攻撃出来』

 ズドォン!と凄まじい轟音が響き、修道院が跡形もなく消滅する。あんまり焦ったもんで特大規模の雷落としちゃったけど、うわあ……なんか、関係ない人申し訳ない。

 さすがに不意打ちで撃った神の本気は防げなかったようで、彼女は修道院の皆様と運命を共にしたようだ。

「あ~あ……失敗しちゃったかぁ。もったいなかったなあ」

 人間やめて156年も生きてると、ちょっと普通の人間の感覚がわからなくなってるようだ。軽い試練のつもりだったんだけど……うん、まあ、終わったことはしょうがない。いつかまた、彼女クラスの逸材が出るかもしれないし。

 でもなあ、やっぱり惜しかった。あそこで追撃さえしなければ、世界がものすごく発展したかもしれないのに……悔やんでもしょうがないのはわかるけど、どうしても後悔は残る。次があったら、この後悔を活かすことにしよう。

 そう心に決めて、いつもの通り雲の上に横たわる。今回はお仕事失敗だったから、ご褒美じゃなくて不貞寝の昼寝だ。

 しっかし、世界レベルの危機があるとあんな風になるのか。確かにあれならすぐわかるなあ。けど、二度と見たくないけど。ああ、出来れば一度も見ずにいたかった。

 そんな風にくすぶる後悔を感じつつも、私は目を閉じるのだった。

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