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間引き

今回は短めです

 神の代行になって20年。私は今、大きな難問にぶつかっていた。

「うーん……解決が難しすぎる……」

 それは、とある村の、とある人物。彼の処遇に、この数日間ずっと頭を悩ませている。

 正直、放っておいても全然構わない。構わないのだが、気になりだすとどうしても気になってしまい、気づけばこの村のことを考えているのだ。

 そこはそんなに大きくない村なのだが、住人の数が非常に多い。このまま放置すると食糧不足になり、程なく滅んでしまうため、適当に間引くことは決定している。

 が、その中の一人。これが頭痛の種だった。

 この男は結構な遊び人で、放置するとかなりの女性を妊娠させ、さらに進むと村全体が近親婚のようになって滅ぶ。だが困ったことに、仕事も何もしない癖に気遣いは一級品で、彼を慕っている人は男女共に結構な数がいる。

 昔お世話になったおばあちゃん、腐れ縁の幼馴染、子供の頃からの悪友、博打仲間……本当に色んな人に慕われている。

 しかし、この男が何をしようと、将来的には幸せの総数値が大きく目減りしてしまう。なので早いところ間引きたいのだが、下手に処分すると何がしかの問題が起きてしまうのだ。

 雷を落とせば、それが近くの木も燃やしてしまい大火事になり、洪水は村の地盤が緩いせいで全体が滅ぶ。病気になんてすればやたら滅多に移しまくり、動物に襲わせれば無駄に強く返り討ちにしてしまう。

 村を出るように誘導すれば、彼を慕う者が何人も抜けて結果的に村を滅ぼし、村の外で処理しようにもやっぱり色々と問題が起きる。

 そのため、どうやったらこの男をうまいこと処分できるか、非常に頭を痛めている。

「うぅ~ん……どうしようかなぁ」

 神の力で、力を行使した時に何が起きるかはわかる。だけど、どうしたら望む結果が得られるのかはわからない。殺したらどうなる、病気になったらどうなるということはわかるけど、どうしたら安全に間引けるか、とかはわからないのだ。

 何をやろうとしても、結果的に幸福値が下がる。幸福値を下げずにこの男を処分するのは、もしや不可能なのではないかと不安になってくる。それこそ神に愛されているのではないかと疑うほどだ。少なくとも私は愛してないが。

 悪人ではない。それでも、村のためには居てはいけない人物なのも確かだ。どうにかしたいけど、どうにもならない。もどかしい。

 目の前では、その男が村を襲った数人の盗賊を返り討ちにし、それでも命を奪わず懇々と諭している姿がある。彼の持論として、命を奪うのは本当に最後の手段、とにかく人としてやり直させるのが、犯罪を防ぐ最良の方法だそうだ。

 無職の遊び人の分際で、なんでこんなに立派なのか。そしてこんなに立派なのに、なぜ幸せを減らしてしまうのか。人間とは本当にままならない。

 結局、その盗賊達は村の一員となり、彼の元で自警団のような仕事をするようになった。当の本人は遊び呆けているのがまた腹立つ。

 彼と会う人は皆幸せそうで、そんな人達を見る彼自身も嬉しそうで、実際に彼のおかげで人生の幸福値が高まっている人が何人もいる。だけど、もう潮時だ。間もなく、彼の行いによって村が破滅してしまう。

 気ばかり焦って色々試すうち、ふと気づいた。

「……別に、殺す必要ってないよね?あと無理に出て行かせなくてもいいし、要は子供作らなければ……」

 そこまで考えると、私は二人の女性に向かって力を行使する。これで十分。あとは、ただ見守るだけでいい。

 まず初日。彼は幼馴染の家に泊まり、ゆっくり『お楽しみ』をした。二人で狭いベッドの上、イチャイチャと語り合っていたが、幼馴染の方がふともじもじして恥ずかしそうに口を開く。

「あの、さ……最近、なんか無性に寂しくってさ……あ、明日も、泊まっていかない?」

「ん?お前がそんなこと言うなんてめっずらしいな!」

 その言葉に、幼馴染はムッと頬を膨らませる。

「わ、私が言うのがそんなにおかしいかよ……!?」

「いやあ、男勝りを絵に描いたようなお前にも、乙女な一面があったんだなって思ってな。いいぞー、可愛いお前の頼みとあっちゃ、断るわけにはいかねえや!」

「ふふ……ありがと」

 そしてまた、二人はイチャイチャし始める。二人まとめて爆発させたくなったけど、ここはじっと我慢だ。

 翌朝、彼は幼馴染の家を出て、また村をぶらぶらと歩き出す。今日も色んな人に声かけて、気を遣って、本当に毎日楽しそうだなこの男!

 一日中遊び歩き、部下の自警団と話をし、幼馴染の家に向かおうとしたところで、ある未亡人に声をかけられる。

「あ、あの……すみません」

「ん?どしたぃ?」

 その人は、若くして結婚したはいいが、なんと新婚生活2ヶ月にして未亡人となってしまった人だった。夫婦仲はとても良かったようで、夫を亡くした直後は後を追おうとして大変だったらしい。ちなみに、それを立ち直らせたのもこの男だったりする。

「その……お、お願いが……」

 顔を真っ赤にし、しかし苦しげに話す彼女の様子に、彼は意図を察したらしい。

「あ~、言わなくていい。いいんだが……ちっと参ったな」

「め、迷惑なお願いなのは重々承知ですが、その……」

「いやいや、迷惑なもんかい。ただなあ、今日はあいつんとこ行くって約束しちまっててなぁ」

「で、でしたら!そのっ……い、今から……なら……」

「ん~……それなら、まあ、間に合うかもなぁ。そんじゃ、ま、ちょっと寄ってくことにするかぃ」

 未亡人の腰に手を回し、歩き出そうとした瞬間、彼の幼馴染の声が響き渡った。

「ああー!!お前、何してんだよ!?きょ、今日は私の家に来る約束だろ!?」

「あっちゃぁ……ここでかよ……」

 厄介な相手に会ったと言いたげな彼に、早くも怒り心頭の幼馴染。

 普通なら、いつものただの言い合いが、かなりの勢いで熱を帯び始める。未亡人が宥めようとするも火に油。幼馴染はどんどんヒートアップ。

「この猿野郎!相手が女なら何でもいいわけ!?私との約束も守る必要ないってこと!?」

「んなこと言ってねえだろ!大体、終わった後でちゃんとお前のとこには……!」

「他の女とヤッた直後に来るとかふざけてんの!?ほんっと最低!この屑!」

「そりゃ俺も悪かったかもしれねえけどよ、そりゃ言いすぎだろ!だからお前、俺以外に男が寄ってこね……」

「うるさい!この馬鹿!」

 言うなり、幼馴染が思いっきり足を振り上げる。本人は顎を蹴り上げようとしたらしいんだけど、距離が近すぎた。

 あまりに近すぎた。

「おみ゛ゅっ!?」

 人とは思えない、おまけに悲鳴とも思えないような悲鳴が聞こえる。幼馴染の足は、吸い込まれるように、股間に命中していた。

「おうぇ……ぇあぃ……」

 股間を押さえてぶるぶる震え、その場に崩れ落ちる彼と、必死に彼の名を呼ぶ幼馴染と未亡人。

 この日、一人の男の宝玉が、この世から消え去った。


「ふーい、何とかたっせーい」

 雲の上でごろごろしつつ、気の抜けた声を出す。実際、だいぶ気は抜けてるし、気を張る必要もないしね。

 結局、あの後彼は股間の宝玉を失い、すっかり落ち着いた人物になってしまった。彼の宝玉を消し去った幼馴染はひどく落ち込んでいたが、やがて責任を取るという名目の元、彼と結婚。

 子宝には恵まれるわけもないが、それなりに幸せな一生を過ごすこととなった。

「何でもかんでも、殺して処分っていうのも良くないよねえ……これからできるだけ、命は大切にしようかなあ」

 そんなことをぼやきつつ、今日も今日とて雲に寝転がる。伝説の遊び人、後年は賢者と化した彼の住んでいた村は、現在なぜか義侠集団が暮らす村となっていた。まあ、彼に感化された盗賊達が頑張って子供作って、その教育も頑張ってたしねえ。

 今回もいい仕事と暇潰しをしたと、私はいつものご褒美お昼寝に勤しむのだった。

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