表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

定年退職

 神様の代行になって、かれこれ1000年近く経った。厳密には989年だったかな?

 結局、あれからご飯をくれる人には出会えていない。ディシー、本当に稀有な人材だった……。

 まあ、そもそもが仕事もなく、特にここ300年くらいはだらだらぐだぐだしていただけだった。ほんっと、魔道具の驚異的な発展もあって私の出る幕が無いのよね……海水から真水も作れるようになったし、馬すら使わない高速鉄道とかいうのもできてるし。

 今の世界では、空飛ぶ乗り物を作ろうと皆が必死に頑張っている。とりあえず滑空は何とか成功したみたいだけど、飛び続けるとなるとかなり難しいらしい。あちこちで墜落事故が起きている。

 そうやってみんなが必死こいてる中、私は悠々と空のお散歩。この優越感、たまらない。

 そんな私の素敵なダラダライフに、大きな転機が訪れるなんて、思ってもいなかった。

 神代行になって990年が経過した時、突然文字が浮かび上がった。

『貴方が神の代行になって、990年が経過しました』

「あ、文字さん久しぶり。あと10年経つと、もう千年もやったことになるんだねえ」

 のほほんと答えた私に、文字さんは絶望的な言葉を浮かべた。

『10年後の千年目に、貴方の代行の任が解かれます。長い間お疲れ様でした』

 その言葉の意味が、一瞬どころか一分ほど理解できず、私は固まってしまった。やがて、その意味が頭の中に染み渡ると、思いっきり取り乱してしまう。

「えっ!?なっ、ちょっ……んなんっ……え、なんっ……なんで!?わたっ、私何っ……何かした!?何かやっちゃった!?え、やだっ、やめたくないっ!」

 そんな私をよそに、文字さんはいつも通り冷静に答える。

『貴方は何もしていません。ただ、元々がそうなっているのです。今まで千年も勤めあげる人がいなかったので、貴方が初めての例になりますが』

「えええ……ど、どうしてもダメなの?延長とかないの?」

『はい。普通であれば、人間の身で千年も勤めることが難しいですし、これ以上続けると魂そのものに、ここの記憶が刻み込まれてしまうかもしれません。そうなると、輪廻の輪に戻った時、色々と苦労することになるため、千年で終了することになっているのです』

「うぅ~……だったら、なんで初めてここに来た時、教えてくれなかったのぉ……」

『正直に言いますと、千年続くと思っていなかったからです』

 うう、それはそうかもしれない……大体100年前後で入れ替わってたみたいだし、まさかいきなりその十倍勤める人が来るとは思わないよねえ……。

 思いっきり凹んでいる私に、文字さんは言葉を続けた。

『こちらとしても、貴方にやめてほしいとは思っていません。ですが規則ですので、あしからず』

「……えっと、でも……そういえば、後任は……?今、あの洞窟、忘れられてるけど……」

『それは確かに問題でしたが、神にはこの世界で何が起きているかが、しっかり伝わっています。ですので、その対策も既に終わり、後任も選定済みです』

「そっか……もう後釜も選ばれてるのね……うう、本当にお別れなのかぁ……」

 意外だった。まあそりゃ、世界作って完全に放置ってこともないよねえ……。

『ですが、貴方は本当に理想的な人物でした。代行者の村の中でも、最も優れた代行者だったと言えます』

「ん?代行者の村?それって……私が育ったところ?」

『そうです。そもそも、あの村は神の代行となる者、その候補達が住む村だったのです』

「えええっ!?あのクソド田舎村がっ!?」

 代行990年、人間歴十数年、合計千年以上生きて、初めて明かされた衝撃の事実。私の村、実は由緒正しい村だった!そしてその村はとっくに滅びた!

『神が代行を置くと決めた時、それを知った人間達の中でも、特に信仰心に篤い者達が、あの村を作りました。そして、神はその者達に伝えたのです。積極的に何かをしようとしないでいい。何もしないことを楽しめるような、そんな人物を代行にしろ、と』

 ……うん、私のことかな?私のことだよね?それ完璧に私。

『人間の寿命を超え、悠久の時を生きるのは、大きな苦痛となり得ます。それを知るが故の優しさだったのですが、如何せん信仰に篤い者が優秀だという誤解と、代行に選ばれるということが名誉だと考えてしまっていたため、神の言葉通りの者が送られることはほとんどありませんでした』

 生贄に選ばれたのを光栄に思えという、あのクソ長老の言葉……あれって、割とマジだったのか。あれ、生贄だっけ?封印の巫女だったかな?

「あの、封印の巫女とか呼ばれてた気がするんだけど……」

『代行は洞窟に行き、そのまま帰らない。そして、洞窟はその口を閉じる。その様が封印されたように見えるため、誰かがそう言い出し、やがてそれが実態だと誤解されて広まったようです』

「そうなると、女である必要性って……?」

『まったくありません。最初の頃は、男性も選ばれていました』

 まあ、結果的には最高の職場に来られてラッキーだったけど、あのクソ長老がここに来ても良かったわけか。

『呼び名同様に、いつしか村そのものの意義も忘れられていき、何者かに生贄を捧げる風習となり、今や村そのものが消えてしまいました。時の流れを感じます』

 なんか、文字さんが若干人間的な感傷に浸ってる気がする。これもコミュニケーションを円滑にするための仕様なのかな?

『ともあれ、貴方の任期はあと10年です。初めて会った時にお伝えした通り、貴方は輪廻の輪に戻って生まれ変わるか、再び人として残りの人生を歩むか、好きな方を選べます。その時までに、しっかり考えておいてください』

 そう言われても、今更人間社会でやっていける自信もなく、また生まれ変わるということの漠然とした不安、そしてこの最高の場所から離れなければならないという絶望感。とても、一人で結論が出せるとは思えなかった。しかし、文字さんは当然相談できるわけもないし……どうしたもんだろう。


 結局、10年かけても答えを出すことなんてできなかった。今の状態をやめたくないし、一人で生きる自信なんてもちろん無いし、生まれ変わって人生もう一回っていうのも不安しかない。

 あれから9年と364日。あと一日でこの場所から去らなければならないなんて、本当に無念すぎる。そしてその時は、刻一刻と迫っている。

 日が昇り、東から西へと向かい、空が赤く染まり、太陽の代わりに月が出て、中天へと差し掛かる。

『いよいよ、千年目になります。覚悟は決まりましたか』

 フッと、文字さんが目の前に現れた。私は黙って首を振る。

『そうですか。ですが、選ばなくてはなりません。貴方のままでこの世界を生きるか、新たな自分に生まれ変わるか。どちらが良いですか』

「……どっちも嫌。このままずっと代行やってたい……」

『そう言うだろうと思っていました』

 ん?なんか10年前の時といい、文字さんが妙に人間臭いな。だがそれを怪訝に思う間もなく、文字さんからとんでもない爆弾発言が飛び出した。

『では、貴方の後任の方も交えて、お話してみましょうか』

「え、後任?え、ええっ!?」

 いや、ちょっ……ここ来てんの!?もう!?押し出されて出て行けと!?横暴だ!断固拒否だ!

『紹介は、しなくとも大丈夫ですね』

「いや、大丈夫じゃないし!?誰よ!?」

『良く知っているはずですよ、彼女のことは』

 ふわりと、光が空中に現われ、それが人の形を作っていく。それは女の子の姿を取り、やがて一人の人間の姿となり、その姿を見た瞬間、私はその場に固まってしまった。

「えっ……え、うそ……?」

 その子は私を見ると、にっこりと微笑んだ。

「……初めまして、だよね?神様」

「なんで……ディシー……!?」

 そう、間違えるはずがないし、すごくよく知ってる。私に唯一、食べ物をくれた子。え、だけどなんで?もう500年以上前の話のはず……。

『あの洞窟が忘れられたため、神は死者の魂の中から、適任者を探すことにしたのです。その際、彼女はどうしても代行になりたいと強く願い、500年後もその気持ちが変わらなければ、という条件でそれを認めました』

 つまり、ディシーは500年以上、代行を務めたいと思い続けて、今もそう思ってるんだ。

「えへへ。神様のお仕事を、人間が代行してるなんて思わなかったけど……でも、神様と同じことができるんなら、やっぱり神様だよね」

「……会いたかった。忘れたこともなかった。ディシーだけが、私を認めてくれてたんだもん」

 ぽろぽろと、言葉がこぼれ出てくる。こんなのは人生で初めてだったけど、少なくとも不快ではなかった。

「ご飯、くれたよね。おいしかったよ。あの時点で500年ぶりだったんだもん。いつも感謝してくれて、お祈りしてくれて、ずっとずっと嬉しかったんだよ」

「私も、途中から見てたからわかるよ。ずっと一人の、孤独な仕事だもんね」

「一人なのはいいの。でも、何しても感謝されなくって、でも当たり前って思ってるんだけど、でもやっぱり誰かに見てほしくって」

 後から後から、言葉が溢れて止まらない。私、何も不満無いって思ってたけど、結構不満あったんだなあと、どこか他人事のように思った。

「だからね、ディシーがご飯くれて、すごく嬉しかったの。絶対絶対、幸せにしてあげたいって思ったの」

「うん、ありがとう。暴走した馬車が私のとこ来た時も、大嵐の時も、守ってくれたんだよね」

「そう、そうなの。だって、絶対幸せにするんだって決めたんだもん」

「ありがとう。雨を降らせてくれたのも、婚約者が死んじゃったのも、貴族様のお嫁さんになったのも、全部神様のおかげなんだよね?」

「そうだよ!だって、それが一番幸せにっ……」

「へえ、やっぱりそうだったんだ」

 すうっと、部屋の温度が20度ぐらい下がったように錯覚して、私はヒュッと息を飲んだ。ディシーの顔には変わらぬ微笑みが浮かんでいるが、目が全く笑っていない。

「え、あっ……えっと、ディシー……?」

「うん、感謝はしてるよ。おかげでいい人生だった……けどね?やっぱり一つだけ、絶対に許せないことがあったんだよ」

 ディシーの表情は変わらない。けど、私は気づいてしまった。この顔、完全に貴族の微笑みだ。相手を追い詰めてる時の、貴族の怖い微笑みだ。姿は10歳そこそこぐらいなのに、雰囲気は百戦錬磨の貴族のそれだ。

「たとえ幸せになれなくたって、私はマークと結婚したかった。ずっとずっと好きで、それがやっと叶うって、そう思ってたのに、その恋人に死なれる苦しみって、想像できる?」

 マーク……?あ、あの婚約者か。それより、怖い。滅茶苦茶怖い。ディシー、本気で怒ってる。貴族スマイルと相まって本気で怖いんだけど!!!

「あ、あのあのっ……えっと、でも、だって、その方が幸福値が……」

「幸福値とかどうでもいい。最終的に幸せだとかもどうでもいい。マークを殺したことだけは絶対に許さないって、死ぬまでずっと思ってたよ」

「あわ……ひぃぃ、ご、ごめんなさいぃぃぃ……!」

「謝ってもマークは戻らないんだけど?そうなると、どうやって償ってくれるのかな?」

 ど、どうやってって言われても……どうしよう、神の力だって、もう使えなくなっちゃうし……うわぁ、何も思いつかない!

「す、すいません!わかりませぇん!」

 にっこりと、目だけが笑ってない笑顔でディシーが笑いかけてくる。ああ、私は今日死ぬんだな。

「じゃあ、まずは生まれ変わることにしよっか」

「え?う、生まれ変わるの……?」

「……嫌だと?」

「すいませんでした!生まれ変わります!」

 つい答えた瞬間、視界の端に文字が光った。

『では、話が終わり次第生まれ変わらせることにします』

 ああぁぁぁ……生まれ変わることになってしまった……うう、でもしょうがない。こんな怖い子に逆らうなんて不可能だし……。

「で?生まれ変わったら、どんな暮らしがしたい?遠慮しないで言ってみて?」

「えっ……?えっ……と、今までみたいに、だらだらしたい……です」

「うん、わかった」

 ディシーはにっこり微笑むと、私の両肩をがっしりと掴んだ。

「絶ぇっっっ対に、一瞬たりとも怠けることが許されない一生を送らせてあげるねっ!」

「えっ……ええぇぇっ!?ちょ、ちょっと待って!待ってください!そんなの無理です!死んじゃいます!助けてください!許してください!」

「や・だ・ね!」

 本当に、とびっきりのいい笑顔で、ディシーは私の必死の懇願を一蹴した。

「それじゃあ話はこれで終わり。幸福値的にはすっごくいい人生送らせてあげるから、楽しみにしててね」

「ちょ、ほんとにちょっと待って!まだ心の準備がっ……」

『では、長い間お疲れ様でした』

 ちょ、待てええぇぇ!!文字!貴様!裏切るのか!千年も一緒だったこの私を!!!

 そう思った瞬間、私の体は光に包まれ、そして文字さんの最後の言葉が頭に入り込んできた。

『千年もの献身、そして優秀な後任の育成。その両方に、神として貴方にお礼を言います』

 え、待って?神として?まさか文字さんって、神様そのもの!?

『こちらの世界に意識を飛ばした時に、必ず貴方がいることがどれほど私を安心させてくれたか。千年もの間、一緒にいてくれてありがとう』

 待って神様!最後にそんなこと言うなんて、そんなのずる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ