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妖精迷宮アリアドネ  作者: ふゆより
prologue きっとすべては悪い夢
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0-4 魔女になるまでの物語

 ――魔王城エントランスホール。大きな階段が目立つその空間に、少女が上から落ちてきた。


「落ちるっ……!」


 不注意に気づいた時にはすでに手遅れ。咄嗟の魔術にも気が及ばず、少女は地面に激突した。


「げぶっ!!!」


 胴体に直撃。魔法少女の身でなければ即死だっただろう。


「いっっだあっ……からだ、いったぁいよぉ……」


 半ば泣きべそをかきながら、ゆらり、と立ち上がろうとするレイチェル。


(イリス、助けて……)


 こんな時、あの子ならけらけらと笑ってくれる。少しむっとするけれど、それでも不思議と心が安らぐ。


「……あれ、イリス?」


 だけど、目の前には誰も居ない。肩の上にも、頭の上にも気配がない。


「イリス、どこ……?」


 変身は解けていない。パスはまだ繋がれているはず。なのに、どこにも彼女の姿が見当たらない。

 そもそも……わたしが接続先として指定していたのは、()()()()()()()なのに。

 全部座標のズレ?いくらなんでも……そんな訳がない。


(……違う。これは座標のズレなんかじゃなくて、もっと――)


 青ざめるレイチェル。ぞくっ、と押し寄せてくる不安の波を、必死に食いしばって耐え忍ぶ。


(何が起きたの?何をされたの?)


 イリスを探して、あるいは希望を信じたくて周囲を見渡していると、彼女の視界に一匹の蝶が迷い込む。


「ちょうちょ……?」


 幻想的な極彩色の、ありえない色合いの蝶が一羽。

 まるでレイチェルを見定めるかのように周囲を飛び回り、彼女の視線を釘付けにする。


「あなたは……イリスがどこに行ったか、知ってるの?」


 その蝶に人格の存在を感じたレイチェルは、一縷の望みをかけてそう言った。

 彼女の問いに応えるかのように、蝶は眩く、太陽のように発光する。


「わっ、まぶしっ……!」


 周囲が眩い光に満ちる中、聞き馴染みのある声がレイチェルの耳に届く。


「【……知ってるよ。あなたの全て、何もかも】」


 頭の中に響くような声。あるいはそれは、そもそも()()から放たれているのか。


「【……わたし、また失敗しちゃったんだ。】」


 光の中から、レイチェルと瓜二つの少女が現れる。

 同じ顔、同じ声、同じ身長、同じ体格。

 ただひとつ、その退廃的な眼差しだけが、彼女がレイチェルとは違う存在であることを物語っている。

 身に纏う豪奢なドレスからは冷たい鉄の腕が覗き、剥き出しの骨組クリノリンみが更に破滅的な雰囲気を強調させる。


「え、わたし……?」


「【そう、わたし】」

「【私はあなたで、あなたは私】」

「【……けれどあなたは、私の操り人形に過ぎないの】」


 その言葉と同時に、レイチェルの四肢が無数の糸に絡め取られる。


「何っ?!これ、なんなの……っ!?」


「【大丈夫。ぜんぶ、ぜんぶ、嘘だから】」


 彼女はぺかっ、と儚げに笑うと、更に四方八方からレイチェルを糸で巻き付けた。

 ――いつの間にか、ホールの壁がまるで糸のようにほつれている。


「……え、何、これ……」


 扉の向こうから零れる光も、糸。大きなホールを支える柱も、今さっき通ってきたワープゲートも。

 彼女の囁きも、まるで耳に無数の細い繊維が詰め込まれていくようで――


「――え、あ」


  自分の眼が映す景色も、鼓膜が伝える音色も、そのすべてが蜘蛛の巣だと気づいて……それを知った時には、もう遅い。

 神経も、脳髄も、魂すらも、レイは彼女によって支配されている。


「【だからこの景色も、すべて嘘】」


 まるで映画のセットのように、目に映る景色すべてが崩れていく。その先にあるのは、ただどこまでも続く暗闇だけ。

 レイは彼女の齎す根源的な恐怖を前にして、それでも怯まず、直視した。


「……ここはどこで……あなたは、何者なの……?」


「【良い質問ね。その口答えだけは許してあげる】」


「【私は未来の魔女、アリアドネ】」

「【ここは私の妖精迷宮。紛れもない現実だけど、これからあなたの夢になる】」


「夢に、なる……?」


「【なかったことにするの。結局、失敗しちゃったから】」


「そんなこと、できるの……?」


「【できる。私は未来の魔女だもの。現実と幻覚に、境目なんて無いんだから】」

「【経験も、記憶も、何もかもリセットしてあげる】」


 嫌、だと思った。でもその嫌っていう感情も――彼女に与えられたものじゃないの?


「【うんうん、嫌だよね。ここまでたくさんがんばってきたのに。その気持ちは本物だよ】」


「【でも――あなたは失敗してしまった】」


 まるで機械音を口ずさむ人形のように、彼女は無表情でそう言った。


「【ねえ、あなたが魔王から助けるべきだったお姫様のこと、覚えてる?】」


「……誰のこと?」


「【覚えてないよね。うん、覚えてるわけがない】」

「【でもひどいよね。幼馴染の名前を忘れちゃうなんて――】」


 幼馴染……?そんな人、わたしには……


「――っ?!」


 そのことを考えようとした瞬間、脳髄にびりっと電撃が走るような感触を覚えた。


「えぅ、あ……誰か……何か……!」


 ■■、■……

 ■■■、だっけ……?◇◇◇、だよね……?

 違う、そんなの×××じゃない――


「【ほら、忘れてるっ】」

「【言っておくけど、私がやったんじゃないんだからね?そんなひどい事、私はしないよ――】」


 頭に霧が掛かったみたいに、脳の中がぐちゃぐちゃになる。

 蜘蛛の巣に加えて、頭の中の五感を封じられたような心地だった。


「【だから、ね?全部やりなおそうよ】」

「【最初のしんどいだけの部分は飛ばしてあげるから、あのお家から――】」


 彼女の言うことはめちゃくちゃだけど、反論しようとか、そういうことを考える余地は、もうわたしの中にはなかった。

 たぶん、きっと――何となくだけど――そんなに間違ったことは、言ってないと思う――


「【……あ、意識、なくなっちゃったかな?】」

「【うん、それでいいんだよ。さすがわたし、物分かりがいいよね】」


 そうして、視界の全てが絡め取られて、悪夢は奈落へと下がっていった。


「【私たちは未来永劫、悪夢に囚われ続ける運命……】」


 ……ああ、でも。ひとつだけ、彼女に言っておきたいことがある。

 あなたを見た時から思ってた。あなたを知ったその瞬間から、気持ち悪くて仕方がなかった。


「わたしは……私に、なりたくない……」

「……。」




「【……私も、そう思うよ】」


「【☆お願い……目覚めて、レイチェル☆】」


「【過去の悲劇も、未来の不安も】」

「【惨たらしいまでの現実も】」

「【きっとすべては、悪い夢なのだから――】」

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