第二話 今どきの転校生
チャイムがなる。
相変わらず男子達はうるさいままだ。
外は曇っていて、中からでも寒いのがわかる。
今どき珍しい、きしんだドアから先生が入ってきた。
あれ…………?
そしてもう一人。
先生の後ろにテコテコと男の子が続いてきた。
同学年にしては背が小さい。
顔はまぁまぁの美形だ。
…………。
…………!
静まった教室に先生の声が響く。
「ホームルームを始める。日直よろしく!」
そして、その声を遮るように男子が大声で口を開いた。
「センセー! そいつ誰っすかー?」
「あぁ、この子は今日からこのクラスに入る転校生だ。みんな仲良くするように!」
転校生か……。
この学校では、きっとボク以来だと思う。
どんな奴なんだろうか。
ボクは顔を上げる。
外からの風で、カーテンが音を立てて広がる。
影が揺らいだ。
「えぇ!? 今からですか!? もう卒業一週間前ですよ!?」
学級委員長の女子が驚く。
「そうだ! まぁ色々事情があるんだ! とりあえず、ホームルーム始めるぞー!」
日直が起立の号令をするも、クラスは普段より一段とざわざわしている。
事情ってなんだろう。やら、親の事情なのかな? やら。
中にはちっちゃくて可愛いと言う甘い声もあった。
そしてその騒がしい状態のまま、次の休み時間に入った。
『……ボクは彼に見覚えがあった。
……そして知っていた。
……彼の事情と、その中身を』
休み時間に入ると、ボクの周りは醜い猿どもが泣き喚く。
先程まで異物に興味を寄せていた、アホ面をした猿は、姿をなくし、ボクの周りで群れている。
男子達はボクの周りで煽ったり、罵倒の言葉を投げる。
まぁいつものことかと、その鳴き声に耳を塞いでいると、こちらに一人の足音が向かってきた。
誰かって?
なんとなく予想はついている。
あの転校生だ。
ボクに何用かと思い顔を上げると、彼はボクではなく男子達に目を向けていた。
そして言った。
「迷惑だよ。やめなよ」
周りの男子達は一斉に黙り込んだ。
あの、親達に注意されても反抗できるが、電車内とかで知らない人に注意されるとビクッとするあの現象だ。
男子達にとって、転校生=知らない人、なのだろう。
ボクは唖然としていた。
なぜならこの男子達に説教するのは彼が初めてだからだ。
先生も、さっきの学級委員長も、ボクの周りなど目もくれなかったのに。
彼は一瞬こちらを見たがすぐに目を逸らし、自分の席へ戻っていった。
その瞳はなぜか悲しげな瞳だった。
何はあれ、今日は彼のおかげか、何事もなく終えることができた。
だが、そのことを素直に喜べない自分がいる。
この感情を言葉に表すことは、とても難しかった。
その夜。
ボクは夢を見た。
そこは転校する前の学校で、目の前には自分より二個年下の男の子がいた。
窓際にある花瓶の影の長さ、下校時刻の間もない、この微妙な静けさ。
その他全てを、この時間を、ボクは覚えていた。
男の子は言った。
「どうして……&#¥@**#&tsv/67#¥@&¥……」
最後の方がよく聞き取れなかったが、ボクには分かった。
この子が何を言いたいのか。
そして、大粒に水滴を目からこぼしながら返した。
「ごめんね……」
そして思える。
明日も頑張ろうと。
朝を迎えた。
枕は湿っていた。




