序章
楽しかったけど、悔しかった人生だった。
悔いなく生きたら、人は天に召されて平和に過ごす。
悔いあれば転生して生き直しのチャンスが貰える、そう聞いたのは、誰にだったっけ…?
その記憶と一緒に目が覚めたのは、この身体が8歳の頃。
現代で生まれ育ったわたしからしたらとても中世感溢れ、かつファンタジーなこの国には、前世のわたしの最大にして最強の敵がはびこっていた。
その名も「肥満」という。
「ど、どういうことなの」
目覚めた侯爵令嬢リリエッタは絶望する。
鏡に映る自分の姿は丸い。丸すぎる。まだ8歳だというのに!!
「いかがなさいましたか、お嬢様…?」
いつもは起き抜けに生クリームたっぷりのパンと甘い蜂蜜入りのミルクティーを欠かさないリリエッタが、見向きもせずに鏡に夢中だ。しかも、青い顔で。
「だ…大丈夫よ、ごめんなさ――――――うっ…!」
転生者としての記憶はもとより、この世界で8歳まで暮らした記憶もちゃんと存在している。
リリエッタは「侯爵令嬢」らしくメイドを心配させまいと振り返り、愕然とした。
な、なんだ、そのクリームの塊は――――ッ!
(知ってる!知ってるわたしの好物です!知ってる!)
何なら前世の自分も好きだと思う。
だが、前世と同じように屈してはいけないのだ。
「悔いがあったから」転生したのなら、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「悪いけど、それ、下げて頂戴」
「えっ、お嬢様、でも……?」
「本当に。今日からいらないわ。徹底して頂戴」
「ええええっ?!」
リリエッタは決意した。
知っている―――会わずともわかっている。
自分だけではなく、父も母も、兄も姉も、弟も妹も、全員丸い。
それがこの家だけではなく、この国の習慣、そして文化のせいなのだと!
(改革してやる……!)
前世の記憶がリリエッタを燃え上がらせる。
自分だけ変わろうとしても、止められるだけだ!
さっそくリリエッタは、策を練り始めた。
のちに、この国を大きく変化させ、成長させることになった王妃誕生の瞬間だった。
暫くドタバタしていきます~
どうぞよろしくお願いします。