三種の神器【アイテムボックス】編
「さて、異世界三種の神器の最後、【アイテムボックス】についてじゃが。」
「なんていうか、あれだよな。ストレートに欲しい物って感じ。」
「扱いも様々、普通に誰もが持っているパターンから主人公だけが持っているパターンまであるからの。」
「スキルだったり魔法だったりアイテムだったりもするな。」
「アイテムボックスが成立する原理も意外と多いの。」
「空間の拡張、別空間、闇やら光みたいな属性系、スキルって説明しか出てこないパターンもあるな。こう考えると【鑑定】ほどじゃないがとっ散らかってんな。」
「まあ、大まかに分類するとすれば『アイテムボックスってスゲー!』に使われるか、使われないかの2つじゃろう。」
「チート扱いされるかされないか、みたいな。」
「そんなところじゃな。まずは範囲の狭いチート扱いされない場合から考えよう。
まず、このパターンではアイテムボックスが普及しているパターンがほとんどじゃろう。」
「誰もが使えるんなら特別性はねえもんな。」
「では、特別性がないにもかかわらず、アイテムボックスが登場する。その理由について考えたことはあるかの?」
「理由も何も便利だから、とかだろ?」
「それだけの理由じゃったら、この世に存在するありとあらゆる小説においてアイテムボックスが登場することになるじゃろうな。」
「いやいや、何言ってんだよ。本気で言ってんのか? アイテムボックスなんて出しても問題ないのはファンタジーの世界くらいだろうが。」
「例えば少年漫画や、特撮といったファンタジーか入り込む余地のある一般作品においてアイテムボックスの存在を見たことは?」
「……四次元○ケットとか。」
「あ、ああ。あれはかなりの例外……というか、アレの存在で一般作品ではアイテムボックスを出しづらいというのはあると思うが……。
それ以上に、普通の作品では単に必要がないから出てこない場合が多い。」
「そうなのか? 別にあればいいな、と思う場面はいくらでもあると思うぞ。」
「いや違う。あればいいな、ではなく無くては困る、という状況がほとんど登場しない。逆にーーーなろう小説では、無くては困るという場面が多くある。」
「それは?」
「狩り、じゃ。」
「狩り?」
「そう、狩り。それもただの狩りではなくなろうにおける狩りじゃ。よく考えよ。普通、獲物は一匹二匹捕まえれば終わりじゃろう?」
「え、いや、知らんけど。」
「まあ我もよく知らんが。」
「おい。」
「じゃが、なろうにおける狩りはよく知っとる。奴ら一日で十も二十も、多ければ百以上の獲物を捕まえるじゃろ?」
「あぁー、それはよく知ってる。」
「ダンジョンなんかある場合は顕著じゃな。魔物とバンバン戦ってその戦利品をガンガン獲得する。それを持ち帰るためにはアイテムボックスが必要になるってわけじゃよ。」
「確かに。でもよ、ダンジョンの魔物が落とすのは魔石だけ、とかドロップアイテムがある、みたいな設定もよく見るぞ。あと、ポーターみたいな職業があって荷物の持ち運びはそいつに任せとく、みたいな。」
「まあ、確かにあるの。個人的に言わせてもらえればアイテムボックスが無くても成り立つような世界観を無理して考えるよりも、諦めて普及しているという設定にしたほうが楽だと思うんじゃがな。というか、ドロップアイテムとアイテムボックスはむしろ共存するシステムじゃと思うし。」
「ああ、結局数倒せば嵩張るわけだもんな。」
「あと最終的にアイテムボックスは持ってる主人公スゲーに行き着く場合が多いしの。」
「それはあれだな。アイテムボックスが普及してるんじゃなくて主人公だけ持ってるパターンのやつだな。じゃあ次はそっちのパターンの話に移るか。」
「いや、待て。アイテムボックスが目立たない場合について、もう一つ紹介したい事例がある。」
「なんどよ、それは。」
「アイテムボックス以外の要素がチートすぎてアイテムボックスの凄さがスルーされる場合じゃ。」
「とうでもいいな! それは!」
「さて、アイテムボックスがチート扱いされる場合についてだが。」
「基本、アイテムボックスを持っているのは主人公だけ、あるいは極々少数、という場合が殆どじゃの。
あるいは主人公のアイテムボックスだけ特別仕様か。」
「特別仕様ってのは仕舞える量が多かったり、中身が時間停止してるとかだよな。他になんかあるか?」
「うーむ、あまり思いつかんの。中身の時間停止というのが本当によく見るチート仕様アイテムボックスなのじゃが。」
「逆に中の時間の進みが早くなるパターンとかありそうなものだけどな。」
「うーむ、見たことないのう。」
「というか、そもそもこのパターンは他の奴には出来ないことができるってだけで充分にチート仕様だよな。」
「先にも言ったように、なろう主人公……というかなろうの世界観における冒険者は大量に物資を獲得するからの。それを無駄なく持ち運べるアイテムボックスが便利なわけないのじゃ。」
「あと、ローファンタジーでもよく見るよな、アイテムボックス。」
「そっちの場合は、物資の大量輸送という点ではあまり利点にならんがの。」
「そうなのか?」
「常にトラックで移動してるようになるだけじゃからな。」
「十分じゃねえかな、それは。」
「いやいや、たかがトラックじゃからな。むしろ見られたらマズいものを隠すだとか、他人の物をこっそり盗るために使うとか、コスい使い方がメインのように思うの。」
「と、こんなところで、今度は書き手から見たアイテムボックスについて紹介したいの。」
「なんか今までと違うのか?」
「今までのはあくまでも読み手からも見えるメリットじゃよ。それ以外にも便利なのじゃぞ〜アイテムボックスは。」
「神様ずっとそれ言ってねえか?」
「便利じゃから三種の神器に選ばれるほどポピュラーになったわけじゃからな。」
「それもそう……なのか?」
「まずメリットその1、金を稼がせやすい。」
「それは普通に読み手からでも分かるわ。」
「否、否。金を稼ぐことへの説得力を持たせやすいと言うべきかの。一日で十万円稼いだ、と聞くとそこそこ非現実的じゃが、千円のものを百個持ち込んだと聞くとまあそんなこともあるかな、と思うじゃろう?」
「んー? なんとも。」
「数がある、というのはシンプルに強い。世界観によっては持ち帰るのが困難だから希少性がある、とかの理由をつければさらに簡単じゃ。」
「そうかもしれねえけどよ。」
「そしてもう一つ、こっちの方が大事なのじゃが、キーアイテムを常に持ち運ぶことができるという点じゃ。」
「うん?」
「例えば他の場所の冒険で手に入れていた正体不明のアイテム、それを使えば今の危機的状況から脱せれる! となったとしてだ。」
「よく見るような、全然見ないような、変な状況だな。」
「そのアイテムをそのとき持っているなどという都合のいいことがあるか、普通?」
「いや、そもそも、そのアイテムを手に入れているって時点でご都合主義満載なんだが。」
「アイテムボックスがあれば『そうだ! あのときのあれが!』と即座にそのアイテムを取り出せるわけじゃよ。」
「普通に持ち運んでたってことにすればよくねえか?」
「正体不明のアイテムを? 持てる荷物は限られているのに?」
「いや、それはなんとか、うまいこと理由つけてよ。」
「その理由をつける、という部分を問答無用に飛ばせるから書き手にとって楽なのじゃよ。手に入れたアイテムは全て持っている扱いにできる、このことは作劇においてかなり便利じゃぞ?」
「では、まとめに入ろうか。とはいえ言うことはそこまで無いかの。」
「普通にあれば便利だもんなアイテムボックス。」
「なろう小説における、中世ファンタジーという世界観において、大量輸送という行為が非常に便利。書き手からしても色々楽が出来て便利、ということだけじゃからな。」
「ホントにシンプルにまとめたな……。」
「今回は三種の神器編最後じゃから、そっちもまとめようと思っての。」
「最後っていうか、本当は1話にまとめるところを分割しただけでは……。」
「うるさい。ともかく、この三種の神器と勝手に読んでいる3つの要素は、書き手にとって非常に楽をするための要素であるということじゃ。」
「言葉の問題を解決する【異世界言語】、世界観説明、及び強さの比較がしやすくなる【鑑定】、そして金銭面とアイテム面での説明を楽にする【アイテムボックス】か。」
「正直に言って、無くてもなんとかなるような部分でもある。言語は学んだという描写を入れればよく、鑑定も知識人に話を聞いたり実際に戦闘させて比較させるなどいくらでも方法はある。アイテムボックスもリュックやら馬車やらアイテムを持ち運ぶための要素を入れ込めば無くたって話を回すのに支障はない。」
「無ければだめな要素ってより、あれば便利な要素ってわけだ。」
「正直、この3つの要素すべてを使わずに異世界ファンタジーが書けるなら充分に上級者だと思っておる。」
「なるほど。」
「逆に、始めて書くときやまだ上手く書けないと思う場合はテンプレだのありきたりだのと思われるのも覚悟でこれらの要素を入れたほうが良いと思う。」
「はーん。」
「それではこれで三種の神器編を終わりにしよう。」「ではまた。」
「今更だが、三種の神器って勝手に言ってるだけなんだよな。」
「まあ、異論は認める。我的にスターターセットみたいなイメージが強いだけじゃし。」
「スターターセットって……。でも、初心者パックみたいにまとめられてることも多いか?」
「まあ、もう終わった話じゃ。次回からは別の話題に移るぞい。」
「何についてやる気なんだよ。」
「いろいろ考えたんじゃがの。やはり今のなろうを語るのならば外せない話題が1つあるとおもっての。」
「それは、まさか……?」
「そう、【追放】じゃ。」