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悪役令嬢のアトリエ  作者: とうふ
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月の王子様2


「はい、申し訳ないですがそのお願いは承諾しかねます」


 断り方すら子供らしさのかけらも見当たらなく、完膚なきまでに拒否を叩きつけられシャロンはつい素っ頓狂な声を轟かせてしまった。

 いやしかし、まさかここまではっきり断られるとは想像だにしていなかったのだ。


 「な、なぜでしょうか…?その、最大限お手間は取らせないように配慮致しますが…」


 「申し訳ありませんが、何度頼まれてもそのような話はお受けすることはできないのです」


 ふっとアレクの視線が落ち、顔に影がかかる。

 演技がかって態とらしいわかっているのに、こちらは二の句も告げなくなってしまうのだから美形は徳だ。


 「僕は次期国王になるために日々、様々な教育や行事ごとをこなさなくてはなりません。

 なので、そんな用事に手間を割く時間をすぐには作れないのです」


 「えっと、ではいつならご都合が宜しいですか…?ほんとに、1日だけ、いや1時間だけでも……」


 アレクはそうですね…と何やら考える素振りをしたあと、またあのアルカイックスマイルを差し向けてきた。


 お前の表情筋2種類しかないのかよ!!!!!


 さっきから寸分の狂いもなく同じ顔ばっかり見ていて、能面付け替えでもされてる気分になってきたシャロンは心中ブチ切れる。

 というか、さっきからちょいちょい言い草が失礼ではないか⁉︎

 そして一つ学んだことは、この0円スマイルパターンはこいつが主導権握る時のやり方なのだ。


 「今からですと、大体一年半は先になるかと」


 「いちねんはん…」


 繰り返しながらシャロンは気が遠くなっていく。

 そんな、そんなアホみたいなスケジュールで生きてるの…。予約の取れない人気のパン屋かお前は…。

 シャロンが呆然としているのをスルーして、アレクは席を立つ。


 「本当に、申し訳ありません。ですが、シャロン様の描かれる作品、ぜひいつか僕も拝見したく思います。

 さて、そろそろ戻りましょうか。婚約者として、親睦を深めるには十分な時間ですから」


 最後にそう締めくくって、もう一度こちらに手を差し伸べてきた。

 悔しすぎるが、断られてしまったならもう仕方がないと諦めるしかないだろう。

 少なくともここから切り返す起死回生の一手はシャロンにはなかった。


 再び差し出された手をシャロンは恨めしい思いで握る。

 アレクはこちらを振り返ることなく、シャロンを引いて前を進んで行った。

 特別歩きにくい速さでも無いのだが、そういえばとシャロンはふと思う。

 アレクは必要最低限の紳士的配慮はしてくれるが、こちらの手を握り返してはこないのだと。


 それこそシャロンが手を離して仕舞えば、一瞬でこの場に置いて行かれてしまいそうな。


 無意識のうちにシャロンは手の力を強めた。

 それでもアレクは振り返ることはなく、もう見慣れてしまった非の打ち所が無い笑顔だけが横顔から覗いている。

 アレクは間違いなく、紳士的で絵本から飛び出した完璧な王子様だ。

 しかし、きっと彼は誰に対してもそうなのだろう。

 たとえ婚約者という立場でも、その辺の有象無象とシャロンの扱いは変わらないのかもしれない。


 だがアレクシスほどの人間なら、それでこんな小娘はあしらえてしまうのだろう。

 そうやって実際生きてこれたのだ。


 なんとも言えないモヤモヤが次第に募っていく。

 そりゃあ初対面だし、これから仲良くなっていけばいいのかもしれないが、何となくこの男はずっとこの距離感なんじゃないかと思えた。

 なんせアレクシスの言動の節々から、シャロンを対等には見ていないような思考が垣間見えていた。

 きっとこのままだと、シャロンはアレクシスにただ引きずられて同じ道を歩まされることになる。


 そんなのは絶対の絶対にごめんだ。


 断られてしまったことに対する思念が混じっていないといえば嘘になる。

 しかしそれを差し引いても、アレクシスの態度は納得がいかない!


 もしかしたら、前世の記憶を取り戻す前のシャロンなら、捨てられまいと必死に縋り付いていたのだろう。

 しかし今のシャロンは、自分がどうしようもなく我儘かつ、かの有名な暴れ馬のような人間性であるという強い自覚がおありだった。

 なので、この澄まし顔王子様にわからせてやろう。


 お前は目の前の爆竹に点火してしまったのだと。

 

Q、流れが早くないですか?

A、この文章は俊足を履いて書いています。

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