表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢のアトリエ  作者: とうふ
24/30

虚空の額縁6


 時計の長針と短針が、ピッタリ重なり合う。

 つまりは全人類が腹をすかせるお昼時。


 「シャロンちゃん、お昼ご飯一緒に食べてもいいかな?」


 そして小首を傾げ、絶妙な上目遣いを駆使した美少女の誘いに断れる人間などいない。それが世の心理である。


 素敵なお誘いに釣られたシャロンは、ロビンに手を引かれて裏庭へと訪れていた。

 曰く、人があまりいなくて落ち着ける場所らしい。早くも土地勘を得ているようだ。

 迷子になったら絶対頼ろう。シャロンほどの人間ともなれば、プライドは迷うことなくポイ捨てしなさる。もう少し頑張ってほしい。


 「ここだよ!あのベンチに座って食べよ!」


 「へぇ、たしかに自然豊かで綺麗だね」


 ポツンと佇むベンチを、彩豊かな花々が飾り立てていて、一枚絵にしても見栄えするような場所だ。

 側に佇む大きな木が日傘の役割を果たしていて、暑い日でも快適に利用できるだろう。


 「ふふ、気に入って貰えてよかった!」


 どうやら昨日垣間見せていた不気味さは一旦波が引いたらしい。

 今はいつもの可憐で愛らしい少女そのものだ。

 そのことに少しだけ胸を撫で下ろしつつ、シャロンはベンチに腰掛ける。

 隣のロビンが手持ちのカバンから、小さなバスケットを2つ取り出した。

 

 「実は私お弁当、作ってきてるんだ!シャロンちゃんのお口に合うかは、わからないんだけど…」


 「え⁉︎わざわざ作ってきてくれたの⁉︎」


 出会って2日かそこらの人間にサービス精神が旺盛過ぎやしないか。ブラック企業とかに捕まったら絶対にエナドリのお世話になるタイプだ。

 驚きで二の句が告げないシャロンの様子に気が付いたのか、慌ててロビンが訂正を始めた。


 「あ、あのね!いきなり過ぎるかなぁとは、思ったんだけど…昨日助けてくれたお礼がしたくて…私にできることって、こういうことしか思い浮かばなかったからさ」


 徐々に不安げに声を細める姿に、シャロンの心臓は強めに締め付けられる。

 これを断れるとしたら、そいつの心は超合金で出来ているのか。


 「ううん、せっかく作ってきてくれたんなら、お言葉に甘えて!」


 受け取って蓋を開くと、精巧に作られたうさぎのキャラ弁が顔を覗いた。

 細かに考えて作られたのだろうそれは、芸術品といってもいいほどに完成度が高い。インスタに載せれば、間違いなくバズることだろう。


 「うわ、すっご‼︎これ作ったの⁉︎食べるのちょっと勿体無いなぁ〜‼︎」


 キラキラと興奮を隠しきれないシャロンを見て、ロビンの顔からも不安が色褪せていく。

 嬉しいなぁ、と笑う顔は薄く桃色に染まっていた。


 「よし!いただきます!」


 手始めに丁寧に花型にくり抜かれた人参を口に運ぶ。

 程よく染み込んだ、素朴ながら安心する懐かしいお味だ。

 

 「!美味しい!見た目も味もいいとか、もういっそ店だしていいと思うよ。収益絶対見込める」


 もう少し褒め方なかったのか、という感じだが、本当にお気に召したようで、お弁当は次から次へと腹の中に消えていった。

 

 「よかった〜こんなに喜んでもらえるなら、作ってきた甲斐があるよ!どんどん食べてね」


 美味しいお弁当と、春の暖かな陽気に包まれてシャロンの心と腹が満たされていく。

 花園で可憐な少女とお喋りをする至福の時。

 今この瞬間が、過去最高にヒロインらしいシャロンであるといえた。今後この記録を更新することがあるのかだいぶ危ぶまれる。


 「おや、そこに誰かいるのですか?」


 その時、聞き慣れた声が少し遠くから飛び込んできた。

 反射的に声の主を探してみると、渡り廊下にアレクシスの姿がある。

 その手にはいくつかの本を抱えていて、何やら作業でもしていたのだろうと察せられた。

 ひらひらと手を振れば向こうもこちらが誰なのか気がついたようで、2人の方に近づいてきた。

 

 「アレクお疲れ様〜。見てよこれ!今ロビンに作ってもらったお弁当食べてるんだ」


 羨ましいだろ?と惜しみなく堂々と自慢していくスタイルである。

 しかし今のアレクはロビンの手前なので猫をかぶっているらしい。

 優美に、髪の流れすら計算され尽くした動きで、シャロンの手元を覗き込んできた。


 「おや、美味しそうですね。羨ましい限りです。


 あなたが作ったんですか?」



 月のように蒼い瞳が、春色の少女をしっかりと見据える。

 2人の目と目が合う瞬間、舞台装置が切り替わったかのような感覚を覚えた。

 形容し難い現象だが、入学式の時にもなんだか似たような体験をしたような気がする。


 

 「は、はい、私がつくりました!……えっと、初めまして?」


 「初めまして、ではないですよ。入学式に一度だけお会いしましたから。

 ふふ、忘れられるなんて、あまり経験がないから寂しいですね。

 僕のことは……まあ気軽にアレクと呼んでください」


 あれ?と首を傾げた。このやりとりに、どこか既視感があるような気がしたからである。しかしこの2人は、ほぼ初対面に等しいくらい面識がないはずだ。一体どこでこんなのを……




 ねぇねぇ!一回だけ!一回だけやってみてよ!そしたら絶対ハマるからさ!


 えぇ…今いい絵が描けそうだから無理


 じゃあ私が横でやってあげるから‼作業︎BGMに聞いて見てハマって‼︎もうほんと、人類最先端の治療法だから万病に効くし、締め切りにも効く。


 布教ドヘタクソか⁇新興宗教はお断りしてます。……あーわかった、もう好きにして……


 

 

 列車のように、脳裏の先を懐かしい記憶が走り抜けていく。

 そうかこれは、姉がやっていた『魔法使いと乙女のパヴァーヌ』、その一幕だ!


 ……待て待て待て、だとしたらだ。


 この「ロビン」という少女は、「主人公」ということになるのか?


 なるほど、これである程度合点がいく。

 パッケージには描かれていたと思うが、作中であまり一枚絵などに出てこないので気がつくことができなかった。

 しかし特別な力を持つのも、この愛される天性の才能も、全ては物語の主役ゆえ。


 その上さらに、シャロンはもう一つ、重要な事実に気がついていた。


 「ああ、ところでシャロン、明日のお昼は生徒会の仕事がひと段落するのでよければ」


 「ロビン‼︎これから可能な限りずっと私と一緒にいてくれないか⁉︎」


 何事か話しているアレクを押しのけて、シャロンはロビンの両手を力強く握りしめた。


 「え⁉︎そ、それは私も嬉しいけど、いきなりどうして?」


 「私実は絵を描くのが趣味っていうか、生き甲斐でさ‼︎ロビンといるとインスピレーションがドッカンドッカン湧いてくる感じがするんだ‼︎だから、お願い‼︎」


 先程、ほんの少しではあるが前世の記憶が思い起こされた。やはり乙女ゲームにまつわる事象が記憶の手がかりになる。

 さらに言えば彼女はこの物語の主役。

 放っておいても入れ食い状態で、乙女ゲームフラグが立つことは容易く予想できることであった。


 とはいえ、流石にアレクの時のように断られてしまうだろうか。

 不安が過ったが、そんな杞憂は一瞬のうちだけであった。


 「えっと、私でよければよろしくお願いします!」


 「いいの⁉︎まじで⁉︎よっしゃ‼︎ありがとう‼︎」


 高らかに両腕を挙げ、完璧な勝利のポーズが決まった。

 これで確実に記憶を取り戻す一歩を踏み出せたと言えよう。


 「ふふ、それにしてもシャロンちゃん、絵を描いてるんだね。今度私にも見せてもらっていいかな?」


 「あったり前田のクラッカーよ‼︎もう出血大サービスでいくらでも見せたらぁ‼︎」


 あまりにテンションが上がりすぎて、謎のおっちゃんがインストールされていた。ヒロインらしいシャロンは早くも幻と消えたらしい。


 まあ、そんなわけで、真横で事故が発生いることに、シャロンは気が付いていなかった。


 「いや〜助かっちゃうなぁ‼もういい女すぎて参っちまうよなぁ!アンタもそうおもっ

 ……え?アレクなんでミリとも動かないの?普通に怖い…」


 「…いいえ、なんっでも……」


 ぷるぷると震えながら耐えるアレクに、事の張本人はふーん?と返して、再びお弁当に舌鼓を打ち始めた。

 恐らくフラグをパッキンアイスだと思っている節がある。はやくデバッグ修正しろ。


 これが4年前のアレクくんであれば、今頃王子としての尊厳を損なうレベルで泣き喚いていたことだろう。しかし、月日の流れはアレクシスを大きく、強く育て上げた。だから決して、泣いたりなんかしないのだ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ