月の王子様7
やあ (´・ω・`)
ようこそ、バーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、また投稿が遅くなったんだ。済まない。
でも君はこの投稿通知を見た時、ときめきみたいなものを感じてもらえたと思う。
そんなわけで、読んでくれると嬉しい。
「遅いなぁ…………」
ぷらぷらと足を揺らしながら、チラチラと入口を見やる。
いつもならアレクはとっくに戻ってきているくらいの時間だ。
何かあったのだろうか?
多少疑問に思い外を覗いてみようかと椅子から立ち上がる。
その瞬間、ようやく扉が音を立てて開き、アレクが姿を現した。
「遅かったですね、アレクシス様。
…………アレクシス様?」
話しかけても反応が薄いことに違和感を覚え、ことりと首を傾げる。
ここで「すみません、僕は多忙なものですから」くらいの言葉が出てこそのアレクシスのはずだ。
アレクが顔を上げ、ここ数日で見慣れてきた胡散臭い笑顔を浮かべる。
何もかも同じはずなのに、何故かより一層人形めいてみえるのはどうしてだろうか。
「遅くなってすみません、さあ、レッスンを始めましょう」
アレクが声を掛ければ他のメイドや講師は特に気にしたそぶりもなく動き始めた。
もしかしてただの気のせいだったのか?
スッキリとはしないが、始まるようなのでとりあえず音楽鑑賞と洒落込むとしよう。
先程までいた席にシャロンが戻ると、一つの音も落ちない静けさが部屋の中に張り詰めていた。
間もなくアレクが細い指で、弓をヴァイオリンの弦へと滑らせる。
始まりの音が静かに生まれ、瞬きの間に、力強い旋律へと姿を変えた。
「星霊に心臓を売った」とまでいわれた作曲家の最難関楽曲である。
到底子供が軽々と弾けるような代物ではないのだが、奏でているアレクの表情は涼しいものだ。
しかし対照的に、紡がれる音は身を焦がす炎の如く激しい。
否、激しすぎるといっても過言ではなかった。
この曲がもとから持つ苛烈さだけではない。
一音一音にアレクが強い力を叩きつけるようにして掻き鳴らしているのだ。
こんなにも恐ろしい何かを腹の底に飼っていると思い知らされ、ゾワゾワと身体中が疼いてたまらなくなってしまう。
旋律は佳境へと至り、いよいよもって見えない炎は全てを焼き尽くしにきた。
気を抜けば一瞬で崩れてしまうような危うさや、飲み込まれそうな恐ろしさが這い上がってくる。
いつもの美しいく包み込むような彼の演奏とは違う。
ゆえに、ヴァイオリンが鳴りやんでも、部屋の中の誰も動くことができなかった。
もし今動いたら、あの炎に包まれて骨すら残らないのではないか。
そんなことはありえないのに、誰もが口を閉ざしていた。
いつのまにか、シャロンはスカートの裾をシワになるほど握りしめていたことに気がつく。
ああ、これは、なんて _________
「みなさん、どうかしましたか?」
柔らかなアレクの声で、全員が息を吹き返した。
戸惑うような空気は一瞬で、すぐにその場にいる人たちは口々に彼を称賛し始める。
そうしなければと本能にかられるようにして。
「殿下、今の演奏はいつもとはまた違った素晴らしさでした!もちろんいつもの演奏も素敵なのですけれどね」
「ええ!力強くて震えるような、聞き惚れる演奏でございました!」
未だ汗が伝う頬を動かして、彼らはとびきりの笑顔を浮かべている。
その道のプロであるアレクには、きっと生存本能から来る愛想笑いだとバレているだろう。
まさしく字の如く、圧倒された。
この人はあどけなさと愛らしさを持ちながら、どうしようもなく支配者だと。
シャロンは茫然と、その様を眺めていた。
動くことができない、言葉を声を出すことができない。
それほどまでに強い衝撃だった。
結局シャロンは父親が迎えにやってきて、さよならの挨拶を交わすまで一言も口を開くことはなかった。




