探偵「あなたなら犯行は可能です!そう!壁貫通の能力のあなたならね!!!」俺「!?!?」
「犯人はあなたです!!」
トレンチコートを着て帽子をかぶったその探偵の男は、そう言いながら青いシャツを指差した。
ここはとある屋敷、俺はそこで使用人をしている青年だ。なぜこんな事になっているのかと言うと、犯人という言葉でわかると思うがここで殺人事件が起きたのだ。青いシャツの男は「はあ?」と言いながらとぼけるような顔のなる。
「俺があのオバさんを殺しただって?バカにしてんのか?部屋は密室だったんだぞ!」
この屋敷の主人である山田という男性の奥さんが何者かによって殺害されたのだ。この部屋には使用人の俺の他に先程言った山田という小太りの主人、その息子のヒロシゲ、そしてメイドが3人いる。
今回犯人として名指しされたのはそのヒロシゲという一人息子だ。青いシャツにゴムのズボンというラフな格好をしている。そうかこいつが犯人か。俺もメイドも主人もヒロシゲの方を見ていた。
「あなたという証拠もちゃんとあるんですよ」
「なんだと?」
きたきた、証拠を出すというドラマに良きあるシーンだ。別に楽しんでいる不謹慎な青年ではない。こういう探偵が犯人を見破るシーンというのはドラマぐらいでしか見ないのでいい経験なのだ。さて、どんな証拠を...。
「壁貫通の能力があるあなたならね!!」
「は???」
俺はその言葉を疑った。壁貫通?は?この探偵は何を言っているんだ?なんだか壁貫通という非現実的なワードが聞こえたような気がする。いや、きっと気のせいだろう。そんな訳が流石にない。
「壁貫通だと?はは、何言ってんだ」
「そうだな」
誰も聞こえないぐらいに。小さく俺はそう呟いた。別に犯人をフォローする訳ではないが。突然壁貫通とかいう事を言い出したこのわけわからない探偵にそう言ってやれ。
「な、なら、体をスライムのようにできるこのメイドだってできるだろ!!」
「ええっ!?」
突然名指しされたメイドはそう声を出した。いや声を出してツッコミたいのはこっちだ。スライム?は?スライム?え?
何を言っているのだろうか?俺は普通の、テレビとかでよく見るやつを期待していた。だがどうだ。壁貫通とかスライムとか何を言っているんだ。
しかも当たり前のように話していて、俺がおかしいのだろうか??
「ですが彼女にはアリバイがあります。この部屋にいたというアリバイがね!!」
「くっ!」
なんだか刑事ドラマとかでよく聞くセリフを聞けて少し安心する。先程から何を言っているのかが分からないので「アリバイ」という言葉自体が心の拠り所のようになっている。俺はつい口が出てしまった
「待ってください、スライムとか壁貫通とか、一体何を仰っているのかが...」
「え?」
一気に視線がこっちに向いた。それはまるで「なんで知らないの?」というようなもの。言わなくても、誰もがそのような事を考えてるような目なのは分かる。俺は小さく「何でもないです」と言って縮こまった。
「しかもこのトリックはあなたにしかできないのです!」
「なんだと!?」
もう俺は諦めかけていた。なんかもう意味不明で話についていけないがもう好きにしてくれ。
「スライムなら跡が残ります。残らないのはあなただけなのです!」
もう正直根拠にしては意味不明すぎたが諦めた俺にとってはどうでもよかった。ヒロシゲはクソっというとナイフを持ってその探偵に襲いかかってくる。お?こういう展開は刑事ドラマにもあるしいいかもしれない。
そう思っているとすぐにその希望は打ち砕かれた。探偵が突然手から炎を出し始めたのだ。それは宛ら能力バトル漫画のようだった。突然のバトル展開にただボケーっとそれを見ていた。メイドも加勢してスライムになったり。ナイフを自分の近くに出してそれを投げつけたり、完全に推理モノというよりかはバトルもののようだった。
「はあ...もうなんでもいいよ」
俺は無気力に母...と笑いながらただそれを見るしかなかった。
誰のだか知らないが、球のような攻撃がこちらに飛んでくる。すると青いバリアが無気力の俺を守ってくれた。それはメイドの1人が出したものだった。
「さあ、あなたも能力で戦いましょう!!」
「え?あ..はい」
と言っても唐突なバトル展開についていけない俺はもちろんそんなものを持っているわけがない。平々凡々な普通の人間なのだ。
「貴様まさか、ダークソードの一味か!?」
「気づくのがおせえんだよ..父さん!!!」
「あーダークソード...」
もうこの急展開にダークソードとかいうワードを出されても驚きもなかった。思考停止している俺の頭にはその言葉が入らないように守られているような...。
「貴様らもいずれダークソードによって滅ぼされるのだ!!ははは!!!」
ヒロシゲはそう言いながら消えていった。戦いが終わり周りには壁にヒビが入っていたりぶち抜かれていたり、物が散乱していたり戦いの激しさを物語っていた。
「ダークソード...少し前に私が滅ぼしたはず!!」
主人がそういうと探偵は警察手帳のようなものを出した。
「私は闇の組織を撲滅する特別捜査官です。ダークソードについて詳しく...」
「ダークソードは闇の組織で...」
まるで小学生が考えるような設定がつらつらと出てくる。もう推理というものはその場からは消滅していた。
話を聞き終わった探偵は、こちらを見てくる。なんだ、こっちにも何か用があるのか..?もう関わりたくないので勘弁してほしいのだが。
「あなたも行きましょう!」
探偵が突然俺の手を掴んでそう言い始めた。引っ張られるように探偵に外に連れられながら、俺はこんな事を考えていた。
「はあ...屋敷間違えたなぁ...」
私が能力で世界を救う!!能力探偵アギロ!!!4月より放送開始!!みんな見てくれよな!!!
テレビの中では、探偵のキャラクターがガッツポーズをしながら、新しく始める新番組を宣伝していた。