第十三話 後押し
×七月五日
「……起床」
気持ちの良い朝とは言えなかった。死んだ時の状態の矢戸静樹が脳裏から離れてくれないし、そもそも僕の意思で起床するのではなく、携帯のバイブレーションに叩き起こされているからだ。
ソファーに寝たまま携帯を耳に運ぶ。
「こんにちは。白瀬です」
「……はあ、どうも……」
「すまない。寝ていたかな?」
今が午前ならばともかく、午後一時半なものだからその言い訳は通じないだろう。僕は「別に」と答えた。
「三人目の話?」
「うん、それもあるのだけど……ほら、明日からテストだろう? 三人目のことを話すついでに一緒に勉強でもどうかと思って。今回はそこまで手間ではないんだ」
「……テスト?」
「明日からだよ」
「……、……そうか」
失念していた、で許される問題でもないよな。しかしなんだろう……変に冷静だ。
諦めの感情を通り越したその先にあるものはなんだろう。
「もしかして諦めていたりする?」
「まさか」
その向こう側です。
「ならよかった。それで、どうだろう。私の家で勉強というのは」
「かまわないが……」
やけに積極的だな。と、直接言うだけの度胸はない。言葉の続きに悩んだ末に、僕は「かまわないよ」と言い直した。
「じゃあ、待ってる」
三秒の沈黙の後に通話が切れる。
液晶に映る自分を見てため息を吐いた。
なんだか今日の彼女は元気だ。……白瀬兄が余計なことを言っていなければいいのだが。
「あー……行きたくねえかも……」
しかし待っていると言われた以上は向かわなければならない。
僕は鞄を握る。
×
クリーム色のフローリングに黒のカーテン。僕たちの身長ほどの本棚に敷き詰められた本の数々。シンプルなワークデスクの上に並ぶ教科書。大窓の横に設置された二つのソファーに円形のテーブル。白瀬九織という人物像を一切崩すことのないシンプルな部屋だった。
ぼんやりと本棚を眺めているところに声をかけられた。
「つまらない部屋だろう?」
白瀬さんは運んできた二つのコップをテーブルの上に置き、ソファーに腰をおろした。
「そうでもないよ。広さと景色を合わせれば少し騒がしいくらいさ」
僕もソファーに座り、差し出されたコップに口をつけた。ただの緑茶だったがとても美味しく感じる。きっと場所が場所だから錯覚しているだけだ。
それからは予定通りただ勉強をした。僕が一方的に数学を教えてもらうだけの時間を果たして勉強と言っていいのかどうか定かではないのだが、あくまで僕は招かれた立場だ、そこまで気にすることでもないだろう。
そして三時間が経つ──
「少し疲れたな……休憩にしようか」
集中力が突如として切れたようで、白瀬さんは地理の教科書を閉じた。二時間の時点で景色を眺めることが多くなっていた僕としても嬉しい提案だった。
「じゃあ、三人目の話を聞かせてくれ」
白瀬さんは表情を暗くすることなく「うん」と頷いた。本当に電話の通り『手間』ではなさそうだ。
「お墓参り代行っていうのかな……。子供に恵まれなかった老夫婦がいたんだ。お婆さんが先に他界してしまって、その二年後──お婆さんの命日の一週間前にお爺さんも亡くなってしまった。最後にお墓参りに行けなかったことが後悔なんだってさ」
「それだけ?」
矢戸静樹のせいか、なんともインパクトに欠けるお爺ちゃんだ。
「素敵な話だとは思うけどな」白瀬さんは朗らかな様子で答える。「憧れる老夫婦だよ」
「なんにせよ迷惑な話だ」
白瀬さんは苦笑した。そして今度は申し訳なさそうに眉を顰めて言う。
「それで、その墓の場所なんだけど……」
「……?」
白瀬さんはスマホを取り出してマップを見せた。
「……七十キロって……」
山に囲まれたピンを見て思わず息を吐く。電車とバスを使った苦行かよ……。
白瀬さんも肩をすくめてスマホを置いた。
「疲れるかもしれないね。けど、退屈はしないと思う」
知らない人の墓参りが退屈じゃない──なんて意味合いではないだろう。滅多に行かない場所、見慣れない景色に多少の高揚感を得る……そんなところだ。その感覚自体は僕自身も知らないわけではないし、なんなら共感できるまである。
でも面倒なことに変わりはないんだよなぁ。
「やっぱり、面倒かな……?」
少し俯きつつも黒い瞳では僕を捉えている。なるほど、これはあざとい。愛らしいものには目だけでなく心までも囚われることがあるらしいが、なるほど、もしかするとこういう感覚をいうのかもしれない。しかもこの人はこんなことをするようなキャラではないから無自覚だ。
「どのみち行くしかないんだ。構わないさ。面倒だけど、それは僕が選んだ茨の道だ」
「そうか……ありがとう。藍歌くんは本当に爽やかな人だ」
「まさか」
お世辞にしても他の言葉ないのかと思った。
爽やか? みちるが笑い転げてしまいそうな言葉だ。そもそも、だ。君に対しての好奇心が解消されたその時も僕が君を助ける可能性は高くない。
君は何も知らない──僕が人を殺していることも。
言ってしまえばどうなるのだろう。一泡吹かせることくらいはできて多少の心地よさは得られるのかな。
「難しいな……」
思わず声にしてしまう。当然白瀬さんにも聞こえていたようで、彼女は「え?」とキョトンとしていた。
「……いつ行くかさ。これだけ距離があるんだ、テスト前に時間を潰すのは白瀬さんの望むところではないだろ?」
「そうだね。金曜日にテストが終わってその後は通常授業だし、部活も始まってしまうな……。土曜日のお昼からはどうだろう? 私都合で申し訳ないけど」
「いいよ。問題ない。懸念があるとすれば、それまでに自殺してしまうことだが──」
「藍歌くんが生きている間は大丈夫だと思う」
「…………」
ああ、そう。それでもいいけど、死んだとしても僕のせいにするなよ。
……なんて七割の冗談を思いつつ、午後六時まで勉強をした。多少の雑談も交えつつであったが、普段よりも集中できたような気がした。
しかしまあ、結局は白瀬さんの部屋よりも狭い我が家が落ち着くのだけれど。
午後十時になって、まるで健康児のように僕は眠りにつくことにした。
明日からテストだが、脳内では白瀬九織のことを考え、瞼の裏側だけを見つめ続ける。
×
『で? 結局お前は何がしたいんだ?』
これが夢だと自覚するのに一秒とかからなかった。
夢を夢だと自覚しても尚この世界に居続けられることは多くない。得をした──とまでは言えなくとも、少しは新鮮な感覚になる。
しかし、こんな感覚は朝を迎える頃には忘れてしまっている。『夢を見ていたかもしれない』という曖昧な感覚が残っているだけだ。
『だから、何がしたいんだって』
暗闇に景色が創造される。十五畳の部屋。敷き詰められた本棚。懐かしい古本の香り。
向かいに足を組んで座る吊妃名。
何がしたい? どう言うことですか?
『今回はやたら好奇心を言い訳にしているようだが、その答えを見つける気はあるのか?』
その答え? 抽象的すぎますよ。
『お前が言うか』
あなたこそ曖昧の典型だった。あなたの教えには矛盾が存在する。僕はあなたの理想を片方だけ取り込んだだけにすぎない。
『まあ、認めるほかあるまいよ。私は困難な理想ばかりを口にしてきたからな。そして私はそこに至らなかった』
到達できなかった。だから僕に押し付けた。
『押し付けた? あの時のお前にとって良い生き方と思ったから語った──善意だったのだがな』
冗談です。感謝してます。
『だろうな』
それで、なんの用ですか?
『なんの用? おいおい! ここはお前の夢、お前の世界だ。お前がこの空間と私を創ったんだ。お前は鏡に映る自分に向かって“なんでこっちを見てんだ?”なんて激怒するのか?』
…………。
『分かった、一つ質問をしてやる。お前、白瀬九織に対しての好奇心にどうオチをつけるんだ? どう結論付けてどう応えるんだ?』
さあ。分かりませんよ。僕が何故彼女に好奇心を持ったのかなんて。分からないまま、きっと薄れていくんだろうなって感じです。
『何故?』
僕が僕であるから。それ以上の理由はありません。
『なら、きっと答えが見つかるな。断言できる』
それこそ何故?
『お前は変わってきてるよ。周りに人が増え始めている。奴らは良い人間だ。少なからずお前に影響を及ぼしてるよ結果的に鬼が出るか蛇が出るか気になるところではあるが──自覚はしてるんだろ?』
あなたの理想に成りつつあると?
『興味を持ち、関心を持ち、多方面に関係を築け。おまえの優しさのカタチを変えるんだ……いつか言ったな。私の理想であり、お前の目指すべきカタチだ。お前はそこへと変化しつつある。絶対に白瀬九織に対する応えが見つかるぞ』
……あなたなら予想がついているのでは? 教えてください。僕は白瀬九織にどう対応するんだ?
『殺しはしない』
×
ふざけた夢だ。
けれど、忘れてしまうには惜しい気もする。夢の中の彼女に言わせれば自問自答のようだが、それにしてはあまりにも彼女らしさが鮮明だった。
切り捨てられるのか……? 無理だよな。
「法号さんあたりだったらすぐ切り替えられるのにな……」
呪われそうなことを言って体を起こす。
さあ、地獄の五日間の始まりだ。
×七月十一日
地獄というのも過ぎてみればあっという間に感じた。
そしてその地獄の内容というのも『案外点数が取れた』と落ち着くので、これといって特別なことはなかった。
未来を視ることもなかった。
夢を見ることもなかった。
──白瀬九織が自殺することもなかった。
土曜日の十一時半。
大丘高校内は休日だというのに活気に満ちていた。……否、休日だからこそと言うこともあるのだろう。平日の勉強に塗れた学校生活よりも、自分自身が打ち込める部活に時間を費やすことができるのだ。活気があって当然とも言えるのかもしれない。
白瀬九織もそのうちの一人だ。テニスコートを駆ける彼女は生き生きとしている。
その様子を僕は一階の休憩スペースから見ていた。
もしかすると過去に一度くらいは運動する彼女を視界に入れたことがあるかもしれないが、こうしてじっくりと観察することは初めてだ。動きに女々しさがなく、単純に巧さだけを追求した可憐な動き……なるほど。本当に両性にモテるわけだ。
スポーツ観戦は案外娯楽になるかもしれないなと思いつつ、缶のカフェオレに口をつける。
「珍しい奴がいるな」
聞き慣れた声が聞こえたと思うと、そいつは僕の右隣になんの遠慮もなく座った。
井宮奏斗だった。
「何をして──ああ……」
井宮も目の前のテニスコートに目を向け、何を思ったのか納得したように声を漏らす。
「おまえも忙しそうだな」
「何が」
試しに聞き返してみる。
「白瀬さんだろ? 何を抱えているかも最近の藍歌を見れば予測できなくもない」
「教えてほしいね」
「最近やたらと桃春への接触を避けている。しかし嫌悪感はない。何故その他の対応は正常なのか。桃春が特別な点を考えると──幽霊の類いと見えるけど?」
その通り。
僕は極端に桜内桃春を避けていた。それは彼女が『悪霊』を宿しているからだ。悪霊と言うほどに悪い奴ではないと桜内は言っていたが、しかし彼女が悪霊を語るとき、よくない感情が渦を巻くのは言うまでもない。
そんな人間を白瀬九織の問題に巻き込むと厄介なことになる──そんな気がしてならなかったのだ。本人に確かめてもいない漠然とした直感なのだけれど……。
「正解?」
「さあ。知らない。白瀬さんに聞いてくれ」
「それ、ほとんど答えを言っているようなものだぞ」
「……そういえば。これは今ふと偶然どう言うわけかなんの脈絡もなく思い出したんだけど、お前は以前幽霊と戦っていたな。お前には見えてるのか?」
「もういいだろ……藍歌から聞いたとか言わないよ」
井宮は微苦笑を浮かべて肩を揺らす。
「あの時は生死の境界を曖昧にする術式を俺自身に使ったからな。日頃から幽霊が見えてるってわけじゃないよ……それについては桃春も同様さ。たしかに『彼女』は同類が居たら察知できるだろうけど、桃春にわざわざ報告することはない。彼女たちは同体であっても一心ではないんだ」
同体であっても、一心ではない。
なるほど……これはうまくあの二人を表している。
「それに、藍歌も知ってるだろ? 桃春は私情で他人に八つ当たりするような奴じゃない」
「……かもしれないな」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめる井宮。
「しかしまあ……頼られていないのに助けに割り込むというのも迷惑なのかな……」
「それは違うぞ」
僕は即否定した。食い気味に言う僕が──あるいは否定する内容が珍しかったのか、井宮は僕の視界の端で唖然としている。
「白瀬さんは助けられることを迷惑がるようなことはしない。なんなら感謝するくらいさ。でも自分から助けは求めない。断言できる」
「どうして?」
「あの人、気持ち悪い性格してるから」
「……冗談には聞こえないな。藍歌、それはどういう──」
井宮の台詞は突如として僕らに肩を組んできた奴に遮られる。
「よ! なーにしてんの、二人して」
桜内桃春だった。
濡れた髪の毛に着崩した制服、ボディシートの香り。明らかに運動直後だった。
「また部活の助っ人?」
僕が訊ねると、桜内は僕のカフェオレをあたかも我が物のように飲み干してから言った。
「そ。女バスのね。あんたたちは?」
「俺は前倒しで進路の相談してもらったんだ。その帰りに藍歌を見かけてさ」
「ふうん?」
桜内は窓の向こう側を見る。
テニスコートのベンチでは白瀬さんが部員に慕われている姿があった。
「白瀬ねぇ……」
察したのか察してないのか……珍しく曖昧な反応だ。
「ところであたし今日産まれたんだけど」
「知ってるよ。この後渡そうと思っていたんだ」
井宮はそういうとポケットから小さな紙袋を取り出して手渡した。
ありがと、と無邪気な子どものような笑顔で紙袋を開ける。
中身はリップだった。高級感ある輝く黒のそれを見て、井宮奏斗という男が常に期待通りの男であることが分かる。
「わあ……」ただはしゃぐだけかと思っていたのだが、桜内の反応はひたすらに女々しかった。「センスの塊じゃん。めちゃ嬉しい。本当にありがと」
「いいさ」
消耗品かつ実用性のあるもの……うん、たしかにセンスがいい。邪魔にならないし、使ってしまえば捨てられる。
「それで、あんたは?」
リップを大切そうに鞄にしまうと、今度は僕にせびってきやがった。
「さっきのカフェオレ、結構高級なんだけどな」
「ざけんな。百三十円が高級とは言わせないわよ」
「もう一本買ってやるから」
「そんじゃ昼飯奢ってよ。空いてるでしょ?」
と、桜内は井宮と僕に視線を巡らす。
「俺は空いてるけど……」
「僕は空いてない」
そう言って再び白瀬さんに視線を戻す。
テニスコートのブラシがけを終えて部員が白瀬さんの周りに集まる。彼女が何かを言った直後、部員たちは頭を下げて元気よく挨拶をした。その後彼女たちはボールの入った籠とラケットを手に校舎へと向かってくる。
人数が少なく顧問不在な状況下でも立派に部活をしていた。別に褒められた話ではないと思った。
「で、白瀬はなにを抱え込んでんの?」
「…………なにを──」
詰め寄るような言い方をされては反応せざるを得なかった。
そして、僕の中で『よくない何か』が騒ぎ出す。
「あんたらみたいなのは自分から『助けて』って言わないからね。やっぱ死なないって確証が持てないと不安だわ。どうなの? 死ぬ? 死なない?」
顔を合わせないようにした。黙って人の消えたテニスコートを見続ける。こうした些細な行動も桜内は見逃さない。
「あたしの目を見て『死なない』つってみ」
桜内は僕の顔を覗く。彼女はいつになく真剣な──『仕事の顔』をしていた。
この顔を間近で見て、隣で同情するように微笑む井宮を見て、協力してもらった方が最善のように思えた。
不安要素はたしかにある……が、それは僕の身勝手な妄想であり、それが正しいとしても彼女の勝手でしかない。
そうさ。助かる確率が増えるのだから文句を言われる筋合いは一切ないんだ。
「白瀬九織は幽霊を五人取り込んでいる。自分からは絶対に相談しないタイプだから、なんとか彼女が言い出しやすい環境を──……」
はっと桜内と井宮が正面玄関へ顔を向ける。そこには白瀬九織率いるテニス部五名が居た。
白瀬さんも僕たち三人の存在に気付き目を合わせる。彼女の性格上、合わせてしまってはそのままさようならと言うわけにもいかないだろう。
「先に行っててくれ」
申し訳なさそうに部員を払うと、彼女はこちらのそばまで来て足を止めた。
「よく見る三人だね。一体何を──」
しているのか、と訊きたかったのだろう。しかし、それは突然一歩踏み出した桜内によって封じられた。
「いやーあんたには言わん方がいいわ。白瀬にゃ関係ないし。巻き込むだけになっちゃうもん。うん、何も知らないあんたは何も知らないあんたらしく幸せになってくれ」
……早速仕掛け始めた。
「『知らぬが仏』とはまさにあんたに向けるための言葉だ。『人生字を識るは憂患の始め』とも言うな。さあさあ、行った行った」
「……藍歌くんと井宮くんには言ったのかい?」
「言った。そんですぐ後悔した。言うべきじゃなかったって……もしもこの問題に巻き込んでしまったらと思うと……!」
演技自体に不自然さはないのだが、内心を知れている身からすると絶妙に面白いと思える光景だ。
「そんなこと気にすんなよ」井宮も始まった。「友達なんだから、悩みがあったら相談するのが普通さ。相談できない程度の間柄と分かったら悲しくなるよ」
「奏斗……うん。そうだな、そうだよな!」
桜内は白瀬さんの肩を掴んでさらに詰め寄る。白瀬さんは困惑する一方だった。
──が。
「あたしの中に幽霊が居るんだ」
桜内の真剣な声音でそう聞いた時、その表情は変化した。困惑は同様──そして僅かな安堵の隙を作る。
「わ、私も同じ悩みを抱えている。それで今日も藍歌くんに相談を……」
「マジで⁉︎ そんな偶然ある⁉︎ どんな星回りだよ! 詳しく聞かせて!」
「……うん。その前に着替えてくるよ」
微笑みを浮かべてから部室棟へと向かう白瀬さん。
彼女の背中を見ながら井宮が言った。
「案外簡単に口にしてくれたな」
「おまえらが絶妙な演技をするからだ」
善意による疎外感を与えた後に受容する。そんなことをされたら大抵の人間が口を軽くするのも無理はない。
もちろんそれだけの話ではない。白瀬九織は賢い人間だ。その程度のことで秘密を打ち明けるようなことはしない。相手が桜内と井宮だったからこそなのだろう。二人がどんな人間かを判断した上で打ち明けた。
とにかく、彼女は二人の強力な助っ人を確保したことになる。
懸念点がないといえば嘘になるが、そんなのは些細なことである。
と、僕は桜内のしてやったりと言った顔を見て息を吐いた。
そういえば。
先程騒ぎ出した『よくない何か』──あの衝動のようなものはなんだったのだろう。




