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無彩色の願望  作者: 哀川
第二章 黒の正義

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第十三話 不鮮明

 白鏡はくきょう鈴美すずみ。魔術の世界の上位に君臨する白鏡グループの現当主の孫娘。

 幼い頃から数々の英才教育を施され、年齢が二桁に到達する頃には、すべての学問を極め終えたらしい。

 残された疑問は、細かいところを除けば宇宙と深海くらいらしかったが、そこには手を付けずに次のステージへと進んだ。

 魔術と魔法。

 その疑問の解消へ挑もうとした時、別の疑問が現れた。


 それは——霊。


 存在するしないを数値で表すことのできないもの。

 彼女はそれに挑み——壊れた。

 正体不明が直ぐ近くにありながら、それの真実を予測すらできない不快感からのストレスと、霊によって付与された精神障害により、白鏡鈴美は今までの知識の全てを失うこととなる。

 それから、彼女は一日の大半を病室で過ごした。一ヶ月のうちに五回は自殺を図るほどの精神状態は、周囲の人間の手を煩わせたという。

 そんな天地真逆の生活を送って三年目、一人の霊術師が救いの手を差し伸べる。

 約二週間のうちに、その霊術師は彼女に取り憑いていた悪霊を祓うことに成功したのだ。

 すぐにまともな生活に戻り、再び学問のすべてを頭に詰め込もうとするが、今回の反省から学ばせる量を落としたという。

 魔術師としての生活を送って、彼女は燈明学園で十七歳を迎える。

 ある日、彼女はふと思った。


“今までの知識が、ただのストレスで本当に無くなるのだろうか。もしかすると、無意識のうちに記憶が抑圧されているだけなのでは?”


 白鏡鈴美はその可能性があることを、家族に相談は出来なかった。そもそも二桁までに学問を極めるなど、異例も異例だった。その反動で白鏡鈴美は一部の記憶を失ったのではないか、と言われており、それからは彼女の負担になるようなことは一切させられなかった。

 もしも彼女が『知識を取り戻したい』などと言えば、家族が賛成するわけがない。

 だから彼女は、白鏡と昔からの繋がりがあるという《授戒》を頼った。

 授戒蒼夜——三年前の二十五歳。十七歳の白鏡鈴美と出会う。

 蒼夜さんは一つの仮説を立てた。白鏡鈴美は解離性障害になっており、別の人格に知識が眠っているのではないか——と。

 しかし、白鏡鈴美が防衛の為の人格を作り出すタイミングがない可能性が高い。別の人格に知識が保存されているという点だけを固定し、彼女は新たな予測をする。

 白鏡鈴美の肉体には、死者の魂が宿っているのではないか。……そこからさらに予測を重ねる。

 彼女が《透視の魔眼》を宿している可能性について。


「透視の魔眼——。一般の認識からいけば、障害物の向こう側を確認する程度なんだろうけど、それだけじゃないの。コレは、不可視の概念や他人の思考……そして、魂のカタチさえも認識することができる。この世に溢れている魔眼の中でも、すごく価値が高いんだよ」


 東条さんはそう言っていた。

 蒼夜さんは考える。白鏡鈴美は自分自身が透視の魔眼を宿していることに気付いていない。それは白鏡の一族も同じだろう。

 そして、これは透視の魔眼と彼女の知識を手にするチャンスだと確信した。

 もしも授戒が透視の魔眼を手にすることができたら、これからの魔術世界での立場は絶対的なものになる。

 しかし、白鏡鈴美に何かしたとなれば授戒の立場も揺らぐことになる。だから、蒼夜さんは、始めに霊の人格を呼び覚ますことにした。


 ——それは成功したが、その行為自体が失敗だった。


 眠っていた人格を覚醒させることは、霊にとっては『最悪の事態』。

 肉体の主導権を得た霊は自殺した。もちろん、人格が消えて無くなると言う意味ではなく、肉体そのものが死んだのだ。復元不可能なほどに——無残なほどに。

 その光景を、偶然にも蒼夜さんに用があった白鏡誠司は目撃することとなる。

 彼女は全てを白鏡誠司に語ったことだろう。

 だからこそ、彼は蒼夜さんと“血の契約”を交わし、どうにかして引き留めた魂を、新しく作った肉体に入れ込もうとしている。

 結局、

 白鏡誠司がなぜ魔術師のみを誘拐していたのか。それは、透視の魔眼を復元させる為だろう。魔術因子のない肉体に白鏡鈴美の眼を埋め込んだとしても、透視の魔眼は効力を発揮しない。

 燈明学園の最高責任者は蒼夜さんであり、その人が事件を見て見ぬふりをするのだから、そりゃあ手がかりも掴めない。

 それに……白鏡誠司。彼はとても用心深い男だ。血の契約で蒼夜さんを口止め。だからと言って自身が行動するわけでもなく、あくまで交渉という形で赤の他人を手駒にする。


「それはどうでもいいとして。……つまり、白鏡誠司は、透視の魔眼欲しさに人を殺してきたと」


 僕は白鏡鈴美の記録を読んで聞かせてくれた東条さんに言った。

 いや、それは正確じゃあないか。実際のところ、彼は人一人としてころしていないのだから。


「ところで、血の契約って?」


「あー、そこの説明はまだだったね」


 そこどころではないのだが、詳しく話を聞いていると夜が明けてしまうほどに長引くだろう。だから僕はそれ以上のことは聞かなかった。


「血の契約は、魔術師同士が《命》を掛けて守る誓いかな。文字通り、契約違反した者は死ぬ」


「死ぬ……ですか」


 あの時蒼夜さんが首の辺りを触っていたのはそういうことか……。


「私たちがこうして調べ物をしても蒼夜さんが生きているってことは、あの人はあの人で結構抵抗したんだね。『ああ、おまえのすることに、直接的な関与はしないさ』とか言ってそうじゃない?」


「ああ、言ってそうだね」


 あまりにも正鵠を射た発言だったので、僕は少しばかり唇を歪めた。

 その瞬間を見て、東条さんはどこか嬉しそうに微笑み、同時に遠い目をしている。それを誤魔化すように、机に散らしたさまざまな生徒の記録を片付け始める。

 ぼうっと突っ立ってるわけにもいかず、僕は「手伝うよ」と言った。


「ありがとう」


「……?」


 不自然なくらいに大人しいな。この人は、柩ちゃんと言い合ったり、紫橋さんにいじめられてたりしている時以外は、とにかく明るいってイメージなんだが。


「どうしたのさ」


 手を動かしながら僕は聞いた。


「いや……、そ、そうだ。どのタイミングで白鏡誠司の研究室に乗り込もうかと思ってね。彼の身内を連れて行ったところで証拠隠滅を目論むだろうし、授戒は手出しができないから……どうやって捕まえ……」


「え? なに言ってるのさ、東条さん」


 僕は、至極当然のように言った。


「白鏡誠司は殺すだろ?」


「………………」


「行方不明になった五人はもう死んでて、最近じゃあもう一人犠牲者が。加えて手駒である僕の友達が。そして、本来なら届けているはずの一人の死体をまだ届けていないんだから、もう一人犠牲者が出る。確定で七人、更に八人になる可能性だって捨てきれない。だってのに、東条さん、彼を捕まえようだなんて生温いこと考えてるわけ? どうして殺人鬼を生かすなんて選択肢があるのさ」


「もちろん、彼は最低最悪だよ。でもね、だからってすぐに殺すって選択をしちゃあいけない。だいたい、白鏡鈴美が死んだのは蒼夜さんの責任だし……」


「別にあの人の肩を持つつもりはないよ、透視の魔眼を奪おうとしたんだから。でもさ、結局のところ彼が人殺しだって事実は変わらないだろ」


「……まあ、それもそうか。でもさ……姫乃くん、まだ魔術も使えないでしょ?」


「あー……。まあ、たしかに」


 ×


「マジか……折り畳みナイフって案外するんだな」


 帰宅後。僕はスマホでネットショッピングに洒落込んでいる最中だった。文字で表すとまさに現代っ子だが、まさか最近の子どもが折り畳みナイフを買うことなんてあまりないだろう。

 今の僕に出来ることとは何か。

 未来視を利用して、相手の動きを先読みすること。しかし、それは僕の直接的な攻撃力を高めるわけではない。

 だからこそ、折り畳みナイフなわけだ。

 僕は喧嘩が弱いってほど弱くはないのだが、別に強いわけでもない。ましてや魔術師を相手にするのだから、これくらいの武器を所持していた方が都合がいいってことだ。

 さて。

 僕らが白鏡の所持する森に乗り込むのは、三日後の二十七日。それまでにはナイフも届いていることだろう。

 他に何か、忘れているものはないだろうか……?

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