2. 一緒に居る条件
夢の中で、この子の記憶が流れ込んでくる。
名前もなく、両親にも瞳の事で愛されず。村の生け贄として使われたこの子供の記憶が……。
悲しい……悲しい記憶だった。
「……た……なん……」
……声が聞こえる。
(今、寝ているんだから静かにしてほしい。)
「この子をどうするんですか!」
「私が育てる」
側で、誰かが言い争っている。
(確か、仕事から帰って来て。疲れて寝てしまってた。目が覚めたら、魔界に居て。それで……そうだ!! 魔王様に会ったんだ!! 魔王様に会って。魔王様に、私の首根っこを掴まれて。空を飛んだ瞬間、私は意識を飛ばしてしまったんだった!! 飛び上がるんだったら、一言言って欲しかった!!)
「こんな小さな子を……それも、人間を貴方様が育てれる訳ないでしょ!! 貴方様は、魔王ですよ!?」
「くどい。シルベット、そいつを追い出せ」
「畏まりました。クラウド様」
「話を聞いて下され!」
魔王と、言い争っていた人の声が遠ざかっていった。
やっぱり、人間の事を反対する人だっていた。
(どうしよう。ここで暮らしていくのは難しいかもしれない。やっぱり、出ていかないと駄目? )
出て行ったとしても、魔物や魔族がいる中で生きていける自信が今の自分には無かった。
そんな事を考えていると、頭を誰かが撫でる。
「起きているのだろう?」
初めて会ったのに、何故か安心できて信じれる人……。
「まおうしゃま?」
話を聞いていた事がバレないように、今起きた様な素振りをする。
体を起こすと、魔王様の横には銀色の短髪に赤色の瞳をした男の人が立っていた。
誰だろうか……。
「だ~れ?」
「あぁ、本当に珍しい瞳だ。……これは、失礼致しました。私は、魔王様の側近であるシルベットと申します」
シルベットと名乗った男は、軽く頭を下げる。
「シルベッチョ?」
「シルベットです。」
「シルベッ……ト!!」
「はい。よく言えました。」
そう言うと、シルベットは包み紙に包まれているお菓子をくれた。
「おいし~ね! シルベットありあと~」
「気に入って頂けて良かったです。」
そんな事をシルベットと話していると、魔王は少女を抱き上げ。膝の上に座らせた。
「まおうしゃま、一人でもしゅわれるよ?」
「此所にいろ。……それで? お前の名はなんと言う?」
(……名前。この体の子には、夢で見る限り名前は無かった。)
名前を付けてもらえず、「おい」や「おまえ」と呼ばれていたのだ。周りの子供達が、名前で呼ばれるのをこの子はいつも羨ましそうに見ていた。
「……ミオでしゅ!」
だったら、自分が名前を付ければいい。
元の世界に戻れないなら、この子も私もこの世界で幸せになろう!
そうと決まれば、快適生活をおくるために頑張らなければ!!
「ミオか……良い名だ。」
魔王様は、そういうと目を細めて頭を撫でてくれる。
「まおうしゃま! お願いがありましゅ!」
「……? 何だ?」
「このお城にょ掃除やしぇんたくをてちゅだうので、ここにしゅみたいです!」
「掃除、洗濯をするのでここに住みたいと……なるほど。どうしますか?魔王様」
「……何もしなくても、ここに居ていいんだぞ?」
「めっ! でしゅよ。働かざるもの食うべからじゅでしゅ!」
「なんだ? それは」
「とにかく、はたらきましゅ!!」
タダで置いてもらうのは、申し訳ない。掃除や洗濯、料理とかは元の世界でしていたから出来るはず!
「……では、シルベット。ミオは私付きの侍女にしろ」
「畏まりました。ではミオ、魔王様の身の回りの世話をお願いしますね?」
「あい!」
ミオはそう言われ、元気好く手を上げた。
(魔王様の身の回りのお世話……責任重大だわ!! ちゃんと覚えないと!!)
「では、明日からお願いします」
「あい! でも、今日からでも大丈夫でしゅよ?」
「貴女は倒れたのです。きちんと、安静にしていなさい」
(シルベットさんって、お母さんみたい……。)
でも、そんな事は口が避けても言えない。
シルベットはそう言うと、軽く魔王に頭を下げて部屋から出ていってしまった。
「……さて。寝るか」
「……? ねむたくにゃいよ?」
「あんだけ気絶していたからな。だが、もう夜だ。寝ろ」
魔王はそう言うと、お腹を優しくポンポンと叩いてきた。
いっぱい寝たから眠く無いはずなのに、魔王が寝かしつけてくれるからどんどんと瞼が閉じてくる。
(……明日から、頑張らないとな。)
寝る前に、先ほどから気になっていた事を魔王に聞くことにした。
「まおうしゃま。まおうしゃまのお名前はなんて言うの?」
「……ク……ドだ。」
「……しょっか~」
魔王の名前を聞いたと同時に、ミオは眠りについてしまった。