10.迷子ではないですよ?
ミオの前に降り立ったクラウドは、ミオが居ることを確認すると安堵の表情を浮かべた。
ミオの横に居たバルトにクラウドが気づくと、顔を横に背けた。
「……おにーたま? どーちたの?」
「……いや。何も無い」
(いや、何も無いわけないでしょ! 何で、バルトさんの顔を見た瞬間に顔を背けたの??)
そんなクラウドの事をバルトは、ずっと見ている。
「もしかして、クラ……」
「違う」
バルトが言葉を発すると同時に、クラウドは食いぎみに否定をした。
バルトは、髪の色が変わっていても魔力の量でクラウドだと確信をしていた。
「「……。」」
クラウドとバルトの間に、長い沈黙が流れる。
ただ、じっと二人が無言で見つめあっている。
ミオは暇になったのか、クラウドに貰ったぬいぐるみで遊び出す。
「魔王様ですよね?」
「……人違いだ」
「「……」」
また二人の間に長い沈黙が流れる。
「ウサたん。いちょにあしょぼ?」
ミオはそんな二人なんて気にせずにぬいぐるみと遊び始めた。クラウドに貰ったウサギのぬいぐるみと、ミオは追いかけっこをしている。
そんなミオを見て、バルトは目を疑った。
見た目は普通のウサギのぬいぐるみなのに、何故か独りでに動いているのだ。
バルトは勢いよくクラウドの方を振り向く。クラウドは、気まずそうに顔を背ける。
(何でぬいぐるみが動いているとかは、気にしちゃいけないな……。)
何故かいきなりぬいぐるみが動き出したのだ。
だが、ミオは考えることを諦めることにした。
(だって、クラウド様だもんね……。)
端から見ると、メイド服を着たウサギのぬいぐるみと幼女が楽しそうに遊んでいる様に見える。
「魔王様……。」
「……むっ。ミオを守るためだ、しょうがないだろう。」
バルトがクラウドを呆れたような目を向けると、クラウドは目をそらしながらポツリと言葉をこぼした。
ミオが連れ拐われるんではないのか。何か事件に巻き込まれるんでは無いかと、クラウドは心配していたのだ。
「……この事は、シルベットさんは知っているんですか」
「あぁ、当たり前だ。この事を知っているから、シルベットがミオの外出を許したのだ」
「……マジかよ」
バルトは頭を抱えながら、小さく呟いた。
「バルトしゃん。らいりょーぶ?」
「ミオ。心配してくれているのか? ありがとうな」
バルトはそう言うと、ミオの髪をグシャグシャと撫で回した。
クラウドは一気に二人に近づくと、バルトの手をミオの頭から払い除けた。
二人がポカンと驚愕した様な表情をしているが、クラウドはそんな事なんて気にせず、ミオを抱き上げた。
少し、クラウドの表情は不機嫌そうだ。
「おにーたま?」
「……。」
クラウドは不機嫌そうに、バルトを睨み付けている。
バルトは、そんなクラウドが珍しいのか目を見開いて固まっている。
クラウドはミオの方を向くと、心配そうな表情をした。
「ミオを見失ったのは私が悪いが、知らない人には着いていかないと約束しただろ?」
「あい。ごめんなちゃい」
(そうだ、シルベットさんとクラウド様と約束したのに……。)
ショボンと落ち込んでいるミオの頭を、目を細目ながら優しい手付きでクラウドは撫でた。
「ミオが無事ならそれで良い。危うく魔力が暴走するところだったぞ?」
(……今物騒な言葉が聞こえたけれど、気のせいかな?)
「……おにーたま」
優しそうな表情をしながらミオを撫でているクラウドの表情を見て、周りに居た女の人達は顔を赤くしていた。そんな周りに居た人達とは真逆に、バルトはまた驚愕した表情をしている。
「嘘だろ……あの魔王様が笑ってる?」
何かバルトが小さく呟いているが、ミオ達には聞こえなかった。
抱き抱えられていたミオは、クラウドに下ろしてもらい。側に居たウサギのぬいぐるみを抱き抱える。
クラウドはミオがぬいぐるみを抱き抱えるのを確認すると、ミオを側まで呼び戻す。
「ミオ。そろそろ帰ろうか」
「あい!!」
クラウドは、もう一度ミオを抱き抱える。
今にも去りそうな様子を見て焦ったのか、クラウドの周りには女の人達が近づいてきた。
「あの、お兄さん。今暇ですか?」
「お時間あれば、向こうで一緒に……。」
「いえ、良かったら私と……。」
いつの間にか、沢山の女の人に囲まれてしまった。
後ろの方では、バルトが焦った表情をしながら人混みを掻き分けてこちらに近づいて来ようとしていた。
(うぅ……周りに人が多い。何か香水の様なものを付けているのか、凄い匂いがする……。)
この世界に来る前からきつい匂いが苦手だったミオは、間近で匂いを嗅ぐのが限界だったのかクラウドの胸に顔を埋めてしまった。
「ミオ、大丈夫か?」
「ん~……はやくかえりゅ~」
クラウドは、心配そうにミオを覗き込んでいる。
胸に顔を埋めているミオの頭を優しく撫でる。
「……分かった。帰ろうか」
クラウドは、ミオを抱き直すと翼を広げる。
バルトに視線を一度向けると、クラウドは空へと飛び立った。
下の方では、クラウドが飛び上がったのを見ながら周りに居た女の人達が、上を見上げながら残念そうな声を上げていた。
クラウドは、そんな視線なんて気にせずに城へと戻っていった。
飛んでいる間に、匂いがマシになったからなのかミオは胸から顔を上げた。
日に反射して、ミオのオッドアイの瞳がキラキラと光っている。
行きしなにも見た景色だけども、ミオは楽しいのか景色に夢中になっていた。
そんなミオを、クラウドは優しそうな表情をしながら見ている。
「ほら、着いたぞ」
「ふぁ~! はやいにぇ~!?」
いつの間にか、城について居た。
クラウドは、行きと同じバルコニーへと降り立った。
二人が帰ってきたことに気づいたのか、シルベットがこちらに近づいてきた。
「お帰りなさいませ。魔王様、ミオ」
「たらいま~!!」
「今帰った」
抱き抱えられていたミオは、クラウドに下に下ろして貰う。
クラウドは、近くに居たメイドに上着を預けていた。
「ミオ、街は楽しかったですか?」
「あい!! いっぱいたべたの! しょれでね、あにょね? クラウドしゃまとはぐれてね? バルトしゃんにたしゅけてもらったの!!」
ミオは、街であったことをシルベットに一生懸命伝える。
「そうですか。魔王様とはぐれてバルトに助けてもらったのですね」
「あい!」
「街で疲れたでしょう? 部屋でゆっくり休みなさい?」
「あい!!」
シルベットは、近くに居たメイドにミオを預けるとクラウドの方に向き直った。
「クラウド様、少し向こうで話し合いをしましょうか」
「……う、うむ」
「クラウドしゃま、シルベットしゃん。おやしゅみなちゃい」
メイドと手を繋ぎながら出ていったミオの後ろでは、シルベットがクラウドの前に仁王立ちしながら説教をしている。
その説教は、朝まで続くのだった……。




