第五章 取り残された村と黒の騎士団
家の鍵を閉め私を玄関先に残し、ジェイさんは家の隣にある馬小屋へと向った。
私は1人、朝靄に霞む光景をぼんやりと見つめる。
西に沈む月と東から登る太陽が混在する世界は、不思議な空気を漂わせている。
明け方の空は神秘的な色をしていて、芸術画の様に見えた。
街の住人達はまだ寝静まってる。
耳が痛くなるぐらいの静けさが、この世界でたった1人になってしまったような誤解を産みだす。
少し怖い感じするな。
私を危険に晒すものは無いというのにおかしいね。
家の前の通りを抜けていく風は朝露の湿り気を含んているようで、少ししっとりとしている。
ローブの裾が風に揺らめきはためいた。
大好きなラノベにでてきそうな光景を見つめながら、本当に自分が異世界に存在してるんだと改めて思わされた。
「日本から随分遠い所まで来ちゃったんだんだぁ」
お母さんやお兄ちゃんは、今頃どうしてるんだろう。
不意に湧いてくる里心。
肉親に甘えるような年じゃないけど、恋しくて仕方がなかった。
当然にあるものが、突然当然じゃなくなる。
側にあったはずなのに、今では手の届かない場所にいる。
電話もネットも繋がらないこの世界では、2人に連絡を取る方法すら分からない。
リュックの奥に押し込められた私のスマホはもう電池さえも失ってしまった。
「帰りたい」
そう口にすれば掴まれたように胸が苦しくなった。
この世界の人に、どんなに優しくされても、親切にされても、奪われた生活を忘れる事なんて出来やしない。
ラノベの主人公達は、こんな思いをしていたのかな。
物語の中だけの話だった異世界召喚が、現実に起こるなんて、少し前の私に思いもつかなかったよね。
「ヴィオ、待たせた」
ジェイさんの声と馬の蹄の足音に振り返る。
そこに居たのは大きな白馬。
安定感のある長く太い足、しっかりと筋肉のついた洗練されたボディをした白馬は軍馬じゃないんだろうか。
今まで見たどの馬とも違う風格と迫力を持ち合わせていた白馬に、さっきまでの思考が吹き飛んだ。
「えっ? 軍馬なの」
こんなのレンタル出来るのだろうか。
「知り合いに借りた」
「そ、そう」
こんな立派な馬を貸してくれる知り合いって、凄い人じゃないのかな。
やっぱりジェイさんは謎が多い。
「こいつは大人しいから怖くないぞ」
いや、そんな事を考えてたわけじゃなくてですね。
まぁ、軍馬の大きさにちょっと怖いと思ったのも事実だけどさ。




