第一章 突然の召喚
「お嬢ちゃん、風邪を引く前にそこから出たらどうだい? さぁおいで」
「え?」
声のする方に顔を向けると、年配のお婆さん。
白髪頭の小奇麗で小柄な黒いローブを纏ったお婆さんが私を見て、優しく手を差し伸べてくれていた。
この手を掴んでも良いのかな? 差し出された手に一瞬の躊躇いが過る。
苦労と年齢を重ねて来たであろうその手は、随分としわがれていた。
だけど、不思議と危険な感じはしなかったんだ。
見ず知らずの場所で見ず知らずの人の手を簡単に取るなんて安直すぎると思う人もいるかも知れないけれど。
私はこの手を掴みたいと思った。
「そうします。いつまでも水に浸かってるのも可笑しいですね」
そう言って微笑んだ後、噴水の底についたままのお尻をゆっくりと持ち上げた。
見事にずぶ濡れな私が立ち上がると、水が豪快に滴り落ちていく。
「随分と、まーずぶ濡れだね」
お婆さんは、私の頭から足先まで見下ろすと楽しそうに笑った。
「濡れてない所を探す方が難しいかもです」
つられたように自分を見下し私も笑う。
白いシャツがベッタリと体に張り付いて気持ち悪いけど、麻のベストを着てるおかげで体のラインが透け見えない事だけが幸いだ。七分のチュニックは薄だいだい色だったはずなのに。今じゃ水を含んで茶色っぽく見えてる。
「とにかく、このままじゃどうしようもないから一先ず家においで」
「・・・えっ? いいんですか」
優しく声を掛けてくれただけじゃなくて、さらに家にまで呼んでくれるなんてこのお婆さんいい人過ぎる。
「たまには人助けもいいかと思ってね。さぁ、噴水に落としたままの荷物を拾って上がっておいで」
もう一度そう言われお婆さんの手を取る為に自分の手を伸ばした。
あれ? なんだか私の手小さくない?
感じた違和感に目を丸め伸ばした自分の手を見た。
なんだか子供のようにふっくらして見える自分の手
どう見ても小さい気がする。
私って子供だったっけ? なんてとぼけたりしてみるが、どう考えても私の頭の中には23年間生きてきた記憶があるのだ。




