正体と真相と赤い頬
寝室から場所を移してソファーセットへ。
なんか、昨日もこうやって、この場所で話をしたけど、そういう流れか何かなのだろうかね。
さて、現状なのだがあれから少し時間が経った。
現在ソファセットには私と、対面にメリアリスさんとみそぎちゃんが並んで腰掛けている。
ミリアちゃんは隣の部屋、寝室でお着替え中だ。
小さな女の子の服なんて持ち合わせていなかったが、そこはうに達がどこからともなく用意してきてそのまま寝室へ連れていった次第である。
その間にダイアリーを開いてミリアちゃんの事を確認してみたのだが、実際にテイムモンスターとして登録されていた。
私の使役スキルは神獣使役しかなかったと思ったのだけれども、権能:アリエティスに統合された結果普通のモンスターから妖精までなんでも使役できるトンデモスキルに進化していて、メリアリスさんを呆れさせたのはご愛敬。
それを伝えるやいなやうに達がぴょこぴょことアピールして来たのだが、既に使役されていた一匹を除く十四匹全員は無理だよと伝えたらしょんぼりしていて可愛かったね。
「おまたせ、ミラちゃん!」
そして、廊下を駆ける音の後に部屋の扉が勢いよく開かれ現れたのはノワイエお母様。
忙しいだろうに、時間を取らせて申し訳ないと思うが、今回私は悪くないと思うのだがどうだろう。
息を整えながら私の隣に腰掛けて、うに達が待たせる事なくお茶を用意してノアさんの前へ。
随分と急いで来たのか軽く乱れた息を整え、紅茶を口に一息ついてからカップをソーサーへ。
寝室前で待機しているうにに視線を向ければ、まだ少しかかると仕草で伝えられたので話を先に始める事にしよう。
「……それで、みそぎちゃん? あの子の事、説明してくれる?」
「なの。朝方にお散歩してたらみつけたの。はいはみの実物は初めて見たから珍しくって、色々と遊んでたの」
「それで、禊ちゃんを捜していた私が遊んでるこの子達を見つけたんですが……流石に、モンスターが聖区に入り込んでいるのを見過ごせずに剣を抜いたら、その」
「ミリアがびっくりして逃げ出したって訳なの。もんのすごく気配を消すのが得意な子だったの」
「で、それを捜していたんですが、禊ちゃんがたぶんミラちゃん関連じゃないかって言うので」
「こうやって駆けつけてきたの」
で、逃げ出したあの子は私の部屋に入り込んで一緒に寝ていた……と。
聖区に入れた理由とか色々と確かめなきゃいけないけれど、とりあえず今一番気になっている事から解決しよう。
種族名はダイアリーに表示されているんだけど、詳細が不明なのだ。
「とりあえず一つ質問なんだけど、ハイハミってどんなモンスターなの? あの子が私とメリアリスさんに似てる理由もわかるなら教えて欲しいんだけど」
というか、先にも言ったのだが。
テイムしたとは言え、私とメリアリスさんを混ぜたような姿をしたモンスターと戦ったりした覚えはないし、見た事もない筈なのだ。
どこかで接点はあったのだろうが、全く記憶にないと言うのが現状である。
「ハイハミというのは、不定形魔法生物……つまり、スライムの一種ね。地を這い食む者で、這い食み。何回か進化を重ねたスライムの上位種よ」
「スライムって……あの、葛餅みたいな?」
「ええ。王都の周囲にも出現するわりとポピュラーなモンスターね。這い食みが出ることはないけれど……ミラちゃん、どこでテイムしたの?」
あの女の子、スライムだったらしい。
ちらりと左腕に視線をむける。
ミリアちゃんのぷにぷにもちもちな感触と同じ、この腕の触感。
不定形なスライムのあの子がこの腕をどうにかしたって事なら……ふうむ?
「ちなみに、あの姿はみそぎが教えたの。ミラママとメリアママの姿を教えて、変身させたの。みそぎにかかればカラー氷像くらいお手の物なの。ミラママとメリアママが混ざって最強に可愛くなったからみそぎのいもーとにすることにしたの」
デン、デン、と。
みそぎちゃんが尻尾の中から取り出したのは、ミニサイズの私とメリアリスさんの小さな人形。
そのまんま私とメリアリスさんが小さくなったように精巧で、色までついていた。
お母様、懐に入れようとしないで。
ええと、つまりだ。
みそぎちゃんが見つけた時にはまだスライムの姿で、この人形を使ってそのスライムに変身を覚えさせたと。
で、私とメリアリスさんを足して割ったような外見をしているのはみそぎちゃんがそう教えたから……でいいのかな。
「それで、ミラちゃん。スライムと戦った事、あるの?」
「えーっと、少し待ってね……スライム、スライムねえ」
ノアさんの問いに、とりあえず記憶を遡ってみる。
つい最近ではない筈だ。
西の森で出てきたのは虫とか獣とかばかりで、スライムは居なかった気がする。
ならば、もっと前。
レキシファーの襲撃から、さらに遡って。
ほんの僅かに引っ掛かるものを覚えて、すぐ思い出した。
「……もしかして、あの時のフツーノスライム?」
「フツーノスライムって、周辺に沸く、あの雑魚モンスター?」
「私がスライムと戦ったというか、関わったのは、あれ一回だけだったと思う」
それは、そう。
スヴィータと合流して、レフィリア王女を助けた夜の事だ。
確かに、スライムと戦闘状態に入った。
私に向かって体当たりを仕掛けてきたスライムをスヴィータが弾いて、一刀両断にしたのだったか。
私は手を出していないし、あの後に色々とありすぎて記憶に残らなかった戦いの一つ。
でも、あの時の鑑定では確かにフツーノスライムと出た筈だし。
さらに言うなら、あの時の私は普通のモンスターをテイムする為のスキルは持っていなかった。
「……フツーノスライムは一番弱いスライムだけれど、その分成長の行き先は多岐に渡るの。弱すぎて育てるのも苦労するからテイムする物好きもあまり居ないから余り知られていないのだけれど、確かにフツーノスライムの進化先に這い食みは存在しているわ」
「でも、確かにあの時スヴィータがやっつけてたと思うんだけど」
「たまに、倒されたモンスターが復活して、モンスター側から使役を求めるケースもあるのよ、そこのうに達みたいにね。その場合、テイムスキルは必要ない場合もあるわね」「でも、あの子をテイムしたって出たのはさっきだよ?」
「たぶんだけど、スライムが復活する前に一気に距離をあけたりしたんじゃない? そのせいで、テイムの待機状態と言う繋がりが出来たまま、けどまだテイムされていない状態っていう妙な事になったんじゃないかしら」
「……じゃあ、あのスライムが進化してたのは」
「ミラちゃんの得た経験値がスライムに流れてた可能性があるわね?」
「じゃああの子、ずっと私を追いかけて来てたの……かな?」
「可能性は、あるわねぇ」
と、ノアさんが苦笑を浮かべた所で、寝室の扉が開く。
まずぴょこぴょこ現れたのはミリアちゃんを連れていったうにが六匹。
その後に続いて姿を見せた女の子がきょろきょろと部屋を見回して。
ソファから腰を上げた私と視線がぶつかり、無表情の中でほんの少しだけ瞳を輝かせた。
「あら、可愛い」
「今さらなんですけど、服も変身させたらよかったんじゃ……禊ちゃん、なんであの子、裸だったのかな?」
「もくひけんをこーしするの」
這い食み……ミリアちゃんがとてとてと掛けてきて、私へ抱きついてくる。
ソファから腰を浮かせたメリアリスさんに大丈夫だよと視線で伝え、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる少女へ視線を落とす。
この子がこんなにも私にくっつこうとするのは……あれからずっと、追いかけてきていたからなのかな。
「ミリア」
「……?」
ソファへ腰を戻して、膝の上へミリアちゃんを乗せて抱き締めてみる。
相変わらずのもちぷにボディーで、ひんやりと気持ちがいい。
名前を呼んであげれば私を見上げて、なあにと言いたげに首を傾げて見せた。
「とまあ、見ての通り、危険は……多分無いよ、お母様。それに、ほら、左腕。ミリアちゃんがどうにかしてくれたらしい」
「腕は……ああ、スライムだものね。分体かなにかかしら? それにしても、本当にミラちゃんとメリアにそっくりね。全く違和感が無いけれど……うん、二人の娘って言われても信じるわね!」
「いや、お母様。女の子同士で子供は産まれないよ?」
「なにいってるの、ミラママ?」
「え?」
「なの?」
よし、何か嫌な予感がするのでこの事を深く訊ねるのはやめておこう。
それよりも、うにがミリアちゃんに用意した服だよ、服。
「ふむ……君たち、どこからこんな衣装もってきたんだい?」
『う?』
簡単に言うと……なんだろう。
喫茶店のウェイトレスさん風のエプロンドレスと言った所か。
黒と白でシンプルな色合いの、所々にフリルをあしらった大変可愛らしい服装で。
頭の上のヘッドドレスと、頭の両サイドで結ばれたリボンがベリーキュート。
髪型は変わらずウェーブヘアーのツーサイドアップなのだが、ツインテール部分は何故かストレートなのは二つの人形の姿が混ざっているが故だろうか。
顔立ちはよく見ると、どちらかと言えばメリアリスさん寄りかな?。
私とメリアリスさんとミリアちゃんで並んで立てば……うん、姉妹には見えそうだ。
「で、その子の名前はミリアちゃんでいいの?」
「ああ、うん。ミリアちゃんに決まったけど……みそぎちゃん、なんでミリアなの?」
「なの? ミラママとメリアママの名前を合わせただけなの。ミラママとメリアママの娘なんだからミリアなの、そしてみそぎのいもーとなの」
「あら、じゃあ私の孫って事よね。ミリアちゃーん、こっちいらっしゃーい?」
「……?」
いや、だからね。
そもそも私とメリアリスさんは夫婦じゃないっていうか、いつの間にかみそぎちゃんの呼称が私もママになっているのは何故なのかとか。
ミリアちゃんをノアさんの膝の上に移動させつつ、そんな事を思い助けを求めてメリアリスさんに視線を向けてみたのだけども。
「……こんシステム、実装されないかなぁ」
「メリアリスさん?」
「っ! な、なんでもないです! ミラちゃん、この子なんで喋らないんだろうねっ!」
「あ、それ私も気になってたんだけど……姿を似せているだけで、発声器官とかが無いのかな?」
何か呟いていたようだが完全には聞き取れず。
慌てた様子のメリアリスさんはぱたぱたと両手を振ってなんでもないと訴えて。
そしてメリアリスさんの発した、私も気にしていたミリアちゃんが喋らない事についての話に移る。
……私がその時のメリアリスさんの頬の紅潮の意味を知ることは、無かったのでした。
ぷにぷに幼女




