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語らいと言い訳と広げた翼






「それじゃあ、改めてだけど、話を聞かせてちょうだいね、ミラちゃん」

「ああ、うん、それはいいんだけども」

「ミラちゃん、諦めた方がいいと思うよ?」

「メリアの言う通りね!」

「あ、はい」


 現状。

 復活したノアさんに捕獲され、膝の上に乗せられた上で、両手を腰に回して絶対に離さないという強い意思を感じている。

 対面のソファにはメリアリスさんが腰かけて、うにが用意したケーキをつついている。


「とりあえず、一通り何があったのか。もう一度教えてちょうだい」

「そうだね……どこから話したものかな」


 一応、話してもいい事、話す訳にはいかない事、それらはメリアリスさんと相談済みだ。

 話す訳にはいかない事と言うのは、主に天使関連。

 みそぎちゃんやキサラちゃんも含めて、その辺は全て秘匿するべきであると結論付けた。

 先程の天魔石の事もあるし、この辺は例えノアさんでも隠しておいた方がいいだろうと念を押したメリアリスさんの表情は真剣だった。


 逆に、確実に話しておくべき事は私がジェミア様の聖女になった事と、終の銀竜の事か。

 ノアさんの事だから薄々気付いていて、それでも黙ってくれているのだろうとは思うが、私は結構やらかしてしまっている。

 そのやらかしと言うのは、レキシファー襲撃イベントの時の神聖魔法の行使。

 本来なら聖女にしか扱えない属性の魔法を盛大に使ってしまっているので、実は早い段階からジェミア様の聖女になっていましたという事にした。

 ジェミア様からもそれでいいと許可は貰ったし、その理由に関しても私の導き手、メリアリスさんの護り手の繋がりがあったからだという事に出来るだろうと。


 その辺りを踏まえて、ノアさんに聖区を出てからの事を話していった。


 みそぎちゃんと出会った事。

 火影姉妹に出会い、忠誠を誓われた事。

 王都を出た先、森の入り口でカマキリに遭遇した事。

 カマキリに追われながら森を抜けて、たどり着いた村で、メリアリスさんと出会った事。


 その話をした時に、ノアさんが少しだけ反応を示したけれど、先を促すだけなので続きを語る。


 メリアリスさんと出会い、色々な話をした事。

 彼女が私の護り手である事を話し、私が導き手である事も話した。

 あの子と同じねとノアさんは笑った。


 そして、ドラゴンの存在。

 ドラゴンゾンビと、それと対峙した金色のドラゴン。

 怪我をしたみそぎちゃんを連れて離脱し、レキシファーの力を借りて治療を行った事。

 その際、リザレクトブレスポーションを使ったことを謝れば、ノアさんは怒ることもなく、新しいのを用意させるわねと頭を撫でてくれる。


 まとめてしまえば短く感じるような。

 つい先程にも感じる終の銀竜と戦い、左腕を失う代わりに刀を託された所で話を終えた。


「……あれから、国と合同で兵を派遣して、確認に向かわせたのだけれど、凶暴化したモンスターの存在は確認出来ませんでした。神殿としても事態は沈静化したと判断しましたが、一般人に被害が出る前で良かったわ」

「あの金色の竜に関しては、わからないんだけれど」

「ああ、そっちは問題ないわ。確認に向かわせた兵達と合流して、今は王都に居るわ。ミラちゃんへの面会を希望してるけど、ミラちゃんが望むならいつでも会えるわよ。……それと、メリア?」

「なんでしょうか?」

「これは……そう、独り言なのだけれどね。確認の為に派遣した兵たちが木々が開けた地点を見つけたから拠点を構築しようとしたらしいのだけれど、物資を降ろしたところでモンスターの襲撃を受けたらしくて。その際、拠点構築用の物資をその場に放棄してきたらしいのよね。放棄した以上はもう諦めるしかないし、誰かが拾って使っても問題はないわよね……ふふ」

「……随分と、ピンポイントな独り言ですね、ノワイエ様」

「さて、なんの事かしら。それで、ミラちゃん」

「んー?」


 未だに違和感のある左腕をぶらぶらさせて遊んでいると、頭の上からノアさんの呼ぶ声が落ちてくる。

 少しばかり身体を仰け反らせて見上げれば、逆さまになったノアさんの顔。

 彼女の視線は私の左腕に向かっていて、ノアさんのしたい話を理解する。


「その左腕が治らないっていうのは、本当なの?」

「うん、そうだね。何て言うんだろう、存在ごと断ち斬られたって言うのかな。たぶん、祈り人として死に戻りをしても、腕はこのままなんじゃないかな」

「……死に戻りは試さないでね」

「自殺は趣味じゃないし、試すつもりはないよ。生き返れるからって簡単に死んでいいとは思わないし」

「それなら、いいの。……それじゃあ、義手か何か、用意するべきよね」

「義手か……そんなのあるんだ?」

「魔導具か、古代遺産か。探せば、あると思うわ……それか、造って貰うかね」


 そう、この腕だ。

 流石に、このままと言うのは遠慮したいが、どうにも治療が不可能なようで。

 みそぎちゃん達にしたような再構成を試せないかとメリアリスさんとあれこれ確認してみたが、この左腕の肘から先の存在自体が無かった事になっているようで。

 存在を切り離された腕の先である天魔の光輝石をくっつけたりもしてみたが、なんの反応もなかったのである。


「それなら、リーシェ……レオリシェルテ第一王女殿下にお願いしてみるのはどうですか?」

「そういえば、メリアは彼女の弟子だったわね」

「ええ、私の武器も彼女が作成した物ですし」

「……でも、駄目よ。この子の腕の事、知られる訳にはいかないわ。例え、貴女の師匠でも、レオニス王家には。そして、神殿の上部にも」


 有無を言わせない低い声でそう告げたノアさんからは、妙な迫力を感じて、メリアリスさんが息を呑む音が響く。

 時折感じる、ノアさんの王家、それと神殿の上部……聖都、正確にはヴィルジニア神聖国と言う、十二の神様を崇める宗教国家で、神殿の総本山。


「ミラちゃん、その腕をどうにかするまでは、外出は禁じます。オウルにも、私から口止めと、その他関係者全てにも箝口令を敷きますから、メリアもそのつもりで」

「それじゃあ、私との連名で。金羊と双女神からの箝口令であれば、万が一にも洩らされないでしょう」

「そうね、そうしましょう。ああそう、ミラちゃんがジェミア様の聖女になった……いえ、なっていたと言うのは、私からオウルに話しておきますし、秘匿していたのは私がそう指示したと言う事にしておきます」


 どんどん話が進むのだが、腕を失った事が広まるとまずい何かがあるのだろうか。

 私には想像できないのだが、ノアさんもメリアリスさんもわかっているようで、口を鋏みようがないまま纏まっていく。


「それと、ミラちゃんの腕を斬り落とした終の銀竜と名乗る女の本体であろうドラゴンゾンビは、金竜の話によると、突然活動を停止し、消滅したらしいから。竜の呪いによる影響も完全に無くなっているから、そこは安心していいわ」

「後で私が確認と、生息域を離れた大型がいた場合の追い返しに出てきますね」

「ええ、そうね。依頼に出しておくから、組合に寄ってちょうだい?」

「組合……組合ですか。神楽と会うの、どれくらいぶりかなぁ」

「まず間違いなく、待ち構えていると思うわよ。レオリシェルテ殿下が一緒じゃないだけ、マシね。禊ちゃんと一緒に行ってきなさい」

「……あはは」


 そう言うメリアリスさんの表情は嬉しそうで、困っているように見えなかったというのは、黙っておくとして。


「まあ、話はこれくらいにしておきましょうか。何があったかは大方把握できましたし、私は各部へ話を付けに言ってきます」

「それじゃあ、私も一緒に」

「そうね……それじゃあ、メリアは私と一緒に来て貰おうかしら。組合にも行って貰わなきゃいけないし?」

「……はい」


 名残惜しげにぎゅうと、一度強く抱き締めたノアさんの腕から解き放たれて、ソファに降ろされる。

 立ち上がったノアさんと、それに続いたメリアリスさん。

 はてさて、外出禁止を言い渡された私はこれからどうするべきかと二人を見上げた所で、扉を叩くノックの音。


「それじゃあ、ミラちゃん」

「お母様。私、とても嫌な予感がするのだけれど」

「諦めて、お話するしかないわね」


 入りなさいと、非情にもノアさんが扉の向こうへ返事を返す。

 ゆっくりと開く扉から、背筋が冷えるような何かが漏れ出ていて、そそくさとノアさんとメリアリスさんが扉の脇へと避難していく。

 私と扉を遮る物は何もなく。


「……えーと」

「おはようございます、お嬢様。私が居ない間に随分と……冒険なさった、ようですね?」

「ひえっ」


 扉の向こうから現れたのは、笑顔なのに全く笑っていない詩乃さんもとい、我がメイドのスヴィータさん。

 怒ってますよとアピールするように広げられた蝙蝠の翼がとっても印象的で、そして。


 絶対逃がしませんよと、物語っているようでした。







メイド からは にげられない!

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