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鏡と禊と情報過多






 行為自体は、ゲームのシステムのアシスト通りに行えば良いのでまだ楽だし、難しい事でもない。

 魔法と同じで、何をするか選んで、半自動的な流れに任せつつ、時折独自性を織り混ぜて発動させるのと変わらない。


 そして、ゲームのシステムに頼らずに、全て自分の意思で行使する奇跡を魔術と呼ぶと言うのは、ジェミア様から教えられた事だ。


「ミラちゃん、はいこれ」

『自我の無い魔力体程度の相手なら、私達の敵ではないでぇす』

「ん、お疲れ様、メリアリスさん、ありすさん」


 数分と待たずに黒いナニかを仕留めた二人が戻る。

 手渡されたのは艶一つない漆黒の球体で、切り離された呪いを討伐した時に残した物らしい。

 調べてみれば銀竜の魂片と出たが、詳細まではわからなかった。

 試しにレキシファーにも見せてみたのだが、彼にも詳細は不明とのこと。


『魂片と言うのも、初めて聞きますネ。銀竜と呼ばれる存在に心当たりはありますが、文献では数百年前に生きていた竜しかいませんヨ。しかし、それが呪いの正体であるならば……竜の呪いとは、竜の魂の欠片だと言うことになりますガ』


 魂の一部であるならば解呪が効かないのも納得ですネと続いて、レキシファーの言葉が途切れた。

 他に知っていそうなのは居ないし、今はそれを考えていた所で仕方ない。

 問題は、これの扱いだろう。


『ぴ。みーりゃ!』

「うん?」

『あすぴ!』

「あすぴ?」

『ぴ! ……あー、てすてす、聞こえているかな?』

「は?」


 魂片を手にそんな事を考えていれば、首に巻き付いていたサビクが腕に移動してきて、言葉を放った。

 までは、よかったのだが。

 突然流暢に喋り始めたと思ったらつい最近聞いた声に変わっていて、周りの全員が目を見開いてサビクを注視していた。

 思わず魂片を握り潰しそうになったのはご愛敬。


『いや、伝え忘れていたんだけどね。それの扱いだけど、君が取り込んでおくといいよ、カーミラ。その子に戻すのは、やめておいた方がいいね』

「うんと、名前呼んで大丈夫なのかな?」


 そういえば、メリアリスさん達との話の途中でドラゴンやらなんやらに乱入されたせいでその辺りの話が完全に中断されていたのを今更ながらに思い出す。

 私が十二人の神様のいずれにも属さない謎の聖女であるという事しか伝わっていなかった筈だ。

 そんな感じでお伺いを立ててみる。

 アスクレピオスinサビクは暫し思案し、口を開く。



『そうだね。ジェミアの聖女はまあいいとして、猫の子と山羊の子、そのスピリアも……まあ、いいんじゃないかな? 初めまして、僕の事はまだ聴いていないようだから自己紹介しておこうか。僕はアスクレーピオス、カーミラのパパだよ』

「へ?」

『はいぃ?』

「パ」

「パ?」


 メリアリスさんにありすさん、火影姉妹の順にすっとんきょうな声を上げて、空気が固まる。

 キサラちゃんとレキシファーは蚊帳の外と言わんばかりに見守っているが、今山羊の子とそのスピリアって言ってたねアスクレピオス。

 え、レキシファー、君、スピリアになったの?


『我が姫、その事はまた後にしまショウ?』

「まあ……そうだね。とまあ、そんな訳でね。私が聖女として仕えている相手は、医神アスクレピオスで、私の父らしい。血縁に関してはさっき知ったんだけども」

『そして母は女神アリエティスだよ。くれぐれも内密にね』


 苦笑を浮かべながらキサラちゃんの頭を撫でているレキシファーがうらやまうらめしい。

 突然の暴露に思考停止している四人を引き戻して、話を元に戻そう。

 私の話はまた後で改めてする事にして、今はみそぎちゃんを救うのを優先すべきだろう。

 ……うん、完全に固まってるようだ。


 ほっとこう。


「それで、この魂片ってのは、何なの?」

『その名の通り、魂の欠片だよ。ほんのごく僅かの欠片と言うよりも老廃物とかそんな類いのものだけれどね。竜のあらゆる攻撃にはその魂片が付与されていてね、竜以外が傷を負うとそこから侵入されて、魂を侵し喰らう不治の呪いに変わる。』


 私の腕からテーブルへ飛び移ったサビク……アスクレピオスがとぐろを巻いて鎮座する。

 思考停止した四人はまだ復活できていないのか口を挟む事はせず話に耳を傾けている……と思う。

 いや、まあ、アスクレピオスが本物の神様って言うなら許可も無く話したりするのは畏れ多くあるというのもあるのかもしれないけども。

 メリアリスさんなんかはジェミア様達と面識もあるみたいだし、疑うという事もないのだろう。


『カーミラの眷属として変生させ、天使マルキダエルの庇護を得たとしても、竜の魂は毒だからね。それなら、より上位の存在であるカーミラが取り込んだ方がいい。なんていっても、君は僕の娘だからね、竜の魂との相性はいい筈だよ』

「……? アスクレピオスは蛇であって、竜じゃないよね」

『竜……まあ、トカゲだね。鱗を持つ種族……主に爬虫類かな。その辺の子達は僕の管轄だよ。だから、まあ。僕が神として在り続けられているのは、彼らが存在してくれているからでもあるね。あと、カーミラは鱗人に会った事があるよ』


 全く記憶にないのだけれど、どうだろう。

 しかし、蛇であるアスクレピオスが鱗人達の神様だと言うのは、よく考えてみれば頷けなくもないのだろうか。

 そういえば、ノアさんと行ったお勉強の時にも鱗人達は信仰を持たないとか言っていた気がするね。

 信仰を持たないというよりも、鱗人以外からは忘れ去られたと言うべきなのだろう。

 そして、信仰を持たない鱗人達は回復魔法が不得手で、代わりに薬品を作るのが得意だと言う。

 この辺りは、アスクレピオスが医神とされる所以なのかね。



『話を戻すよ。その調子なら、問題なく狐の子は助かるよ。僕とイリスの権能を受け継いで、さらにはジェミアの祝福まで得た熾天使がその程度を救えない方が難しいからね……まあ、変生したその子が良い意味でどうなるかはちょっと予想できないけど』

「うん、情報が多い。ジェミア様の祝福って何さ?」

『ああ、伝言を預かっているよ。第三者にカーミラが本物の聖女だって気付かれたりした時はジェミアの名前を出してもいいし、実際聖女認定したらしいから、真実でもあるので上手く使うようにってさ。二人で一人の聖女は嫌らしくてね、彼女達は聖女を二人持てるんだよ……今まで二人選んだことはないらしいけど』


 この蛇神は人の思考をシャットダウンするのが趣味か何かなのだろうか。

 ちらりと横目で見たメリアリスさんは大きく口を開いて呆気にとられており、ありすさんに至っては人の姿からスピリアの姿になって辺りを飛び回っている。

 あんなに取り乱したありすさんは普段の印象から一転して、メサルやティムに通ずる可愛らしさを覚えるね。


『だからまあ、ジェミアの聖女に気付かれたりした時のように、カーミラが既に聖女だとばれかけた時の為にはジェミアの名前を使うといいよ。メリアリスだったかな、娘をよろしく頼むね』

「は、はいっ!? ええと、ジェミア様から神託がありましたから、ええ、はい。私としても特に異論はありませんし、むしろ一緒に居る理由にもなりましたから。お任せください!」

『ありす、ありす。どうしましょう、ありす。やりましたねありす、家族が増え――』

「それ以上はいけないよ、うん」


 アスクレピオスに声をかけられたメリアリスさんが背筋を伸ばす。

 放心していたように見えたのは、ジェミア様達に呼び出されていたからなのだろうか。

 ありすさんはまだ混乱しているのか何やら口走りそうになっていたが、アスクレピオスが言い切る前にストップをかけた。

 ……聖女になったからと言って、別に家族になる訳ではないと思うんだけども。


『さて、話すべき事は今のところこれだけかな。後の説明とかそういうのはカーミラに任せるよ。それじゃあ、僕はこれで。狐の子の変生も終わりそうだからね』

「あー、うん。わざわざありがとう、アスクレピオス……お父様の方が、いいかな?」

『……はは、うん、不意討ちはいけないよ、カーミラ。その魂片は、さっさと取り込んでしまうといい。あと、君が天使の身体に馴染んだ頃に装備を贈っておくから上手く使うんだよ。それじゃあ、またね』


 最後の方、涙声になっていたけれど。

 彼は真実、この世界での私の父なのだなと思う。


『ぴ!』

「サビク、どこか変なところは?」

『ない!』

「なら良かった。いつでもアスクレピオスと話せるようになってたりは?」

『できる!』

「それは重畳」


 にょろにょろと定位置に戻ろうとするサビクを首に巻き付かせ、周囲に視線を回す。

 ようやく復活し、拳を握って何やら意気込むメリアリスさん。

 いつの間にやらメサルとティムに挟まれて三色団子のようになっているありすさん。

 やけにキラキラした眼差しで私を見つめるメイファちゃんに、それを微笑ましげに見守るランファちゃん。


『ああ、ついでにここで言っておきマスね。ワタシと、キサラは既に貴女の眷属のようなものデスので、よろしくお願いしますヨ』

「なにそれ初耳なんだけど」

『貴女に浄化された時になぜだかスピリアになってしまいましてネ。ここに保管というか、保存というか。保護していた死霊……キサラを不死者にして、スピリアとして憑いたのですヨ』

「パパと一緒……。みーも、もう一人にしない」

「キサラちゃん?」


 無表情だったキサラちゃんが僅かに笑みを浮かべたのと同時に、私のお腹の辺りに熱を感じる。

 ずっと翼で包み込んでいた淡い光が大きくなっていくのを感じて、視線を下ろす。


「ミラちゃん」

「……うん」


 とくんとくんと鼓動して、彼女が確かに生きている事を伝えてくれる。

 最後の仕上げは、システムには頼らずに自分の手で行うと決めて。

 閉じていた翼を広げ、次第に大きくなる彼女の魂を両手で抱えあげて。


 唇で触れて、息吹を注ぐ。


 元気に笑うみそぎちゃんの姿を。

 お菓子を見て涎を垂らすみそぎちゃんの姿を。

 友人達を助けるために勇ましく駆け出すみそぎちゃんの姿を。

 神楽さんに叱られて涙目になっているみそぎちゃんの姿を。

 メリアリスさんと再会して泣いたみそぎちゃんの姿を。

 メリアリスさんを庇う瞬間に見せた、必死なみそぎちゃんの姿を。


 思い出しながら、力を注ぐ。


 ただの魂の状態から、記憶を頼りに彼女の肉体を形成させる。

 光が大きく溢れ、部屋を白く塗り潰す。

 迷子を導くように、手を引くように、彼女の在り方を教えてあげる。

 光は私の腕の中でかたちを変えて、大きくなって、小さな女の子へと。


 獣人と言うよりは、ありすさんのような存在になってしまうけれど。

 例え獣人じゃなくなったとしても、彼女がまた生きて、お日様のように笑う顔が見られるのならば。

 種族の違いなんて、些細な事だと断言できる。



「おはよう、みそぎちゃん」

「……ねーさま?」



 腕の中で確かに感じる温もりを抱き締めて、不思議そうに私を見上げるみそぎちゃんの髪に、顔を埋めた。









感想とか読了とか毎度ありがとうございますですよ。

全て目を通させてもらってますし大変励みになりますですです。



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