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図書館と読書と予想外



 

 

 

「これかな? はじめての獣人共通語一巻から八巻。教科書みたいだね」


 本棚の森の探索に入って十数分。

 とーま君が上の段を、私が下の段を担当して探しはじめて、ようやくそれらしいものを発見した。

 図書館内ではチャットも筆談も使えず言葉も通じないので、とーま君のコートを引っ張って合図する。


「ミラんさ? んかっいごうつうょきんじうゅじのてめじは……どほるな、ねすでうそちたにくや」

「うん、何言ってるかわかんないね、相変わらず。……すっごい今さら気付いたけど、とーま君の言葉だけならティム達に通訳してもらえばよかったんじゃ……うん、会話が出来ないと意味無いし、ノーカウントノーカウント」


 とりあえずはじめての獣人共通語の一巻から八巻を引っ張り出した。

 わりとボリュームも重さもあるそれを両手で抱えるように持ち上げ……ようとした所で、横から伸びてきた手が本を全て拐っていった。

 見上げると、軽々と本を持つとーま君が。

 これは惚れるね。三割増しだね。



「おーい、メサルー、ティムー。本あったよー」

「ノクト、よいいてきてっども」


 一応図書館なので声を抑え目に精霊達を呼ぶ。

 声をかけてから十秒ほどで、金銀黒の精霊が揃って本棚の隙間から姿を現しそれぞれの主の元へと戻って来た。


『有用な本はございましたか?』

「うん、はじめての獣人共通語一巻から八巻。軽く中を見たら教科書っぽかったし、なんとかなればいいかな?」

『ふむ、見たところ子供用の教本でございますね。言語の習得には適切かと思われます』

「……本読むだけで言語って覚えられるのかなぁ」

『覚えられるかなあではなく、覚えるのですよ、ミラ様』

「おぉう、スパルタだねメサル先生」

『ミラちゃん、きいてきいてー! なんかねー、色んな本があったんだよー!』


 精霊と小声で会話しつつ、本棚の森を抜ける。

 少し奥まった所にある、人の少なそうな読書スペースを選んで腰掛け、とーま君から教本の一巻を手渡してもらう。


「それじゃあ、張り切って勉強しようかな」

「ねすまきてしがさかいなかになにかほはくぼ。よいさだくていにこことんゃち、うょちいか。ねいさだくてしだをえごおおらたっあかにな」

「メサル、ティム、通訳して!」

『……なぜさっきやらなかったのでしょうか。まあ、ダイアリーで会話が成立する場所でしたら必要もありませんか』

『えっとね、他にも何かないか探してくるから、ちゃんとここにいてね。あと、何かあったら大声をだしてね、だって!』

「私は子供じゃないんだけどなあ。とりあえず了解だよ、行ってらっしゃい、とーま君」


 とりあえず、とーま君がジェスチャーで何か伝えているのに頷いて、手を振って見せる。

 ジェスチャーが通じたと思った彼はもう一度だけ一言呟いて、再び本棚の森へと姿を消す。

 黒い精霊、ノクトは彼の頭の上。狼耳の間に挟まるように乗って着いていったようだ。


「それじゃあ、集中するから二人も遊んできていいよ」

『いいのっ? じゃあ、また探険……ぐえっ』

『相変わらず、貴女には自覚が足りないようですね、ティム。ミラ様、先程はトーマ様が一緒でしたので側を離れましたが、そうでない時にお側を離れるなどと言うことは致しません』

『お姉ちゃーん、重いー!』

「わかった。ありがとうね、メサル。それじゃあ、よろしくお願いします」

『はい、何かありましたらお知らせ致しますのでミラ様は読書をなさってくださいませ。ティム、貴女もミラ様の邪魔をしないように』

『それじゃあ、ダイアリーの勉強しとくね。そしたらもっとミラちゃんの役に立てるし!』

『許可しましょう。励みなさいね』


 一巻を開いて、頁をめくる。

 中身は小学校の教科書のようで、本当に文字の一つ一つから始まり基礎の勉強と言った所だ。

 ぱらぱらと頁をめくりつつも、書いてある事は余さず頭に叩き込んで理解していく。

 ある程度の時間をかけて一冊読み終え、次の巻へ。

 頁をめくる音だけが響く。


「ミラんさ、よたしまりあがうゅきうゅちのごうつうょきんじうゅじ」


 途中、とーま君が戻ってきて本を数冊追加してまた離れていった。

 ちらりと横目で確認すれば、それも教本の類いだろう。

 今は目の前の物に集中して、頁をめくる。

 一冊、また一冊と読み進め、ようやく八巻を読み終えた所で顔を上げた。


「……ふう。本当に、子供用の教本だったね」

『お疲れ様でございます、ミラ様。トーマ様が中級と上級の教本を置いて行かれましたが、休憩になさいますか?』

「いや、このまま続けるよ。時間は……まだまだ大丈夫だね。早く言葉を覚えないと、とーま君と遊ぶことも出来ないからね」

『畏まりました』


 実際、とーま君にはこんな事に時間を使わせて申し訳ないと思う。

 パーティーメンバーのリストの表示を見るに、とーま君のレベルは五だ。

 レベル上げだってしたいだろうし、何より彼はこんな所にいても楽しくはないだろうと思う。

 私としては一緒にいれるだけで嬉しいし跳び跳ねてしまってもいいくらいなのだけれど、彼からしたら面倒事に過ぎない。

 普段生徒会でも、副会長として世話になっている身だ。

 ここはレベルで先を行っている事も含めても、年上のお姉さんとしても、彼の役に立ってあげなくてはいけない。

 その為にも、こんな雑事は早く終わらせてしまうのだ。


「よし、頑張ろう」

『ご無理はなさいませんよう』

『ここをー、こうしてー、あーしてー、どっこいしょー』


 残った本は中級が三冊、上級が四冊。

 内容は難しくなっているだろうから、冊数だけで折り返し地点とは考えにくい。

 中級の一巻を手に取り、開く。

 内容は中学生から高校生くらいの物だろうか。

 中級でこれなら、上級はもっと手応えがありそうだ。

 一層気合いを入れて、次の頁を開いた。



*



「……終わっ、たぁー!」

『実に、お疲れ様でした。そして、おめでとうございます』

『ミラちゃん、取得言語に獣人共通語が追加されたよー。これからは、普通に喋ったり聞いたり出来ると思う! 私達と秘密の会話がしたいときは精霊語を意識して喋ればいいし、逆もおっけーだよ!』

「説明ありがとう、ティム。しかし、本当に教本だけで言葉を覚えられる物なんだねえ」


 ネーム:ミラ

 性別:女性

 真名:カーミラ・アリエティス

 種族:金羊族/Lv7

 精霊:ティム/メサル

 出身:精霊界

 取得言語:精霊語/獣人共通語


 一応ダイアリーを取り出して、ステータスの頁を開いて見る。

 そこには確かに獣人共通語の文字が。

 道中で豚さんを何匹か倒していたのもあってか、レベルの方も二つ上がっていた。

 ついでにAgiに振っておくことにしよう。


「あー、あー、これで、喋れてるのかな?」

『恐らくは問題ないかと思われます』

『あ、トーマクンさんが戻って来たよ!』


 ティムの言葉に、視線を上げる。

 また何冊かの本を手にして、本棚の森から戻ってきたとーま君。

 ノクトの姿は見えないようだ。


「ミラさん、どうですか? こっちはこっちで色々調べてみたんだけど……どうにも、言語に関しては獣人語以外には見当たらなかったんですよね。ミラさんが話してた言葉に関する文献はここには無いみたいです」

「……と」

「と? ミラさん、どうかしました?」

「……とーま君の言葉がわかるっ、わかるよっ!」

「へ? 会長、もしかして?」

「獣人共通語覚えた! 理解出来るし、その様子だと私の言ってる事も!」

「はい、理解出来てますよ、会長。じゃあこれは必要ありませんでしたか?」

「なんだい、それ?」


 とーま君が持ってきた二冊の本を私の前に置く。

 そこには獣人語、最上級。上巻、下巻という文字が。


「毒を食らわばなんとやらって、言うよね!」

「流石会長。じゃあ、ぼくは読み終わった本を戻してきますから」

「ありがとう、とーま君! 今度何か奢るからね!」

「わかりました、楽しみにしておきます」


 大量の本を抱えて本棚の森へ戻っていくとーま君を見送り、新たな知識への扉を開く。

 最上級って言うからにはきっと古語とかそういうのに違いないよね。

 新しい知識が増えるのは楽しい、昼寝ととーま君と話すのとのその次くらいには楽しめる。


 そんなこんなで小一時間程。

 獣人語の最上級上下巻を読破した。

 そして、顔を上げて満足した処で。


『ミラちゃん、古代神獣語を取得しましただって。それで、スキルも一個増えたよ。神獣契約だってー』

『えっ』

「えっ」


 古語とか言うレベルじゃなかった。

 そういえば、行動如何によってはスキルを取得できるとか聞いてたけど。

 図書館の本を読むだけで手に入っていいようなスキルじゃないんじゃないかな。文字の雰囲気的に。




 

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  一応ダイアリーを取り出して、ステータスの頁を開いて見る。 特殊技能ダイアリーの何が使えないのでしょう?
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