洞窟と大鎌と声の主
途中でデータが飛んで1600くらい書いたとこから書き直しになった地獄
「あ、ミラ様!」
「うん、みんな居るね?」
空間の裂け目を抜けた先に全員揃っているのを確かめて、安堵する。
駆け寄ってくるメイファちゃんと、周囲の警戒に努めているランファちゃん。
みそぎちゃんを抱いて踞るメリアリスさんと、みそぎちゃんの様子を見ているキサラちゃん。
どうやら、どこかの洞窟の入り口の前に出てきたらしい。
小さな崖のようになっている場所にぽっかりと穴が空いていた。
『時間がありまセン。先導はキサラに任せて、お早くなサイ』
「……この洞窟に入れってことでいいんだよね?」
『イエス』
「ミラ様?」
ふむ。
やはり、この声は私にしか聴こえていないようだ。
キサラちゃんの隣に屈み、みそぎちゃんを見る。
声の言うとおりに急いだ方が良さそうだ。
治療不可能な竜の呪い、スピリアの居ないみそぎちゃんは抵抗力がほぼ無い。
そんな言葉を思い出して、焦燥感に駆られる。
「キサラちゃん……でいいんだよね。道案内、頼める?」
「ん、その為に来た」
「じゃあ、よろしく」
てくてくとキサラちゃんが洞窟の入り口に歩き、直前で立ち止まる。
彼女が取り出したのは身の丈を越える巨大な鎌と、小さなランタン。
ランファちゃんを呼び、メイファちゃんにメリアリスさんの事を任せて揃ってキサラちゃんへと続き、洞窟の中へと足を踏み入れた。
「ミラ様、信用してもよいのですか?」
「構わないよ。向こうから敵意は感じないし、どうやら私の知り合いも居るらしいからねぇ」
「御意に」
殿へと下がるランファちゃんを見送り、前を歩く少女の背中を見る。
五人ほど並んで歩けるような洞窟を急ぎ足で進む。
途中で襲ってくるモンスターはキサラちゃんが手にした鎌で薙ぎ払い、ランタンの灯りを頼りに洞窟の奥へ。
時折後ろを振り向き、私達の方を確認する少女の視線はどちらかと言うと、メリアリスさんの腕の中のみそぎちゃんへと向いているようにも思えた。
「メリアリスさん、大丈夫?」
メイファちゃんに支えられて歩くメリアリスさんに並ぶ。
俯いた彼女の表情は抜け落ちていて、小さく言葉を呟き続けるだけで返事は無い。
促せば動いてはくれるようだが、どうにも会話が出来る状態ではないようだ。
『今は、そっとしておいてくださぁい。少しばかりぃ、トラウマって奴にのまれてるだけですからぁ』
パリンと砕けてありすさんが姿を見せる。
彼女には何か心当たりがあるようで、メイファちゃんと入れ替わるようにメリアリスさんの隣に立って背中に腕を回し支える。
あの子を手伝ってきますと言って離れていくメイファちゃんにお礼を言った。
「トラウマっていうのは、記憶の?」
『いいえぇ、それもあるんでしょうけど、一番はこの子の、本当のありすの方にあるみたいですねぇ』
「現実の?」
『はぁい。ありすはありすと一心同体ですから、なんとなくそんな感じってだけですけどねぇ』
この様子を見るに、とても辛い事があったんだろうか。
先ほどまであんなに元気だったメリアリスさんが、完全に憔悴しきっていて痛ましい。
時折、みそぎちゃんの名前に混じって、ありあ、と。
誰かの名前を呟く小さな言葉があった。
『子羊ちゃんは、手帳持ちだったんですねぇ?』
「……まあね。でも、内密にお願いしたいかな?」
『まあ、子羊ちゃんの正体を考えると、そうした方が良さそうですよねぇ。子猫さん達には教えるんですかぁ?』
「まあ、小屋で忠誠も貰っちゃったしなあ。それに応えないのも、気が引ける……かな?」
『ありす並みのお人好しですねぇ』
もうどれくらい歩いただろうか。
緩やかに下っていく洞窟をひたすらにあるく。
途中にある分かれ道を迷いなく進むキサラちゃんに、頭の中に響く声。
おそらくだが、この洞窟は私達の当初の目的だった地下墓地へと続いているのであろうという予感がする。
というか、あの独特のイントネーションの声で思い当たるのが居るのと同時に、死んだんじゃなかったのかなと疑問に思う。
「止まって」
「ミラ様、ご注意ください」
洞窟の曲がり角の前で静止がかかる。
死角になっている壁の向こうを覗くキサラちゃんとランファちゃん。
ありすさんと視線を合わせて急ぎ目に合流すると、メイファちゃんが後方へ移動し殿を交代する。
曲がり角の向こうからは何やら争うような音が響いているのに気付いた。
「ランファちゃん、どうかした?」
「どうやら、この先でモンスター同士で戦闘を行っているようです」
「モンスター同士が?」
「はい。片方はスケルトンが数体。対峙しているのは猪のようですね。ホーンボアと呼ばれる個体です」
「それで、通れそう?」
「ホーンボアは発達した牙に加えて頭にも角を持っており、その巨体もあいまって危険指定されているモンスターでもあります。この先は広間になっているようですが、戦うにしては手狭かと」
「一分一秒が惜しいってのに……」
ランファちゃんの報告に眉をひそめて洞窟の奥を覗く。
灯りはキサラちゃんのランタンだけだが、ある程度は視界が確保できているのはこれが現実ではないからなのか、別の要因か。
視線の先にははっきりとは確認できないけれど、何かが動く気配とシルエットは感じられる。
腰の双剣に手を伸ばし、一本だけを引き抜いた。
『ふむ、何かありましたカ?』
「ああ、うん。どうにも、通り道に邪魔者がいるみたいでね。猪とスケルトンが戦ってるみたいだ」
『成る程……把握しました。少しだけお待ちくだサイ』
「うん?」
それだけ言い残して、声が途絶える。
キサラちゃんに視線を向ければ、彼女も私を見ていて頷かれたので、待てと言う事だろう。
キサラちゃんにもあの声は聴こえているみたいなのだが、ランファちゃんやメイファちゃんには届いていない様子。
強行突破しようにも今のメリアリスさんの状態を考えると現実的ではないし、今は待つしかなかろうか。
こう暗いし狭いと、同士討ちになるのも怖いしね。
「キサラちゃんはさ」
「……ん」
どうして私達に協力してくれるの、と。尋ねようと、声に
出そうとした所で地面が一瞬揺れる。
パラリパラリと天井から小さな岩の欠片が落ちて、同時に強い気配と動物の悲鳴。
真っ先に動いたのはランファちゃんで、背中の剣を引き抜いてメリアリスさんの側で臨戦態勢に入った。
「今のは?」
「たぶん、パパ」
「ぱぱ?」
ズシンと、二度目の地響きが足元を伝う。
急速に通路の先から漂っていた気配が消え去り、何事もなかったかのようにキサラちゃんがランタンを掲げて歩き出すのを引き留めた。
「……? 急いで?」
「いや、安全確認をしてからじゃないと……それに、まだスケルトンの気配が」
「問題ない。迎えにきてる」
「へ?」
『う!』
ぴょこんと肩から跳び跳ねたうにがキサラちゃんの頭の上へ。
迎えにきてるとはどういう意味なのかと問うか、それとも誰がと問うた方がいいのだろうか。
正直、この子についてもまだ何もわかっていないし、あの声に従って動いているのだろうということくらいしか理解していない。
あの声の持ち主に関しては個人的にいい思い出は全く無いのだが、敵ではなく味方であれば頼もしくもある。
キサラちゃんが先に進み、その後ろからメイファちゃん。
それから私、メリアリスさんとありすさん、殿にはランファちゃんが続く。
角を曲がればすぐに開けた空間に出れば、ぼんやりとした光が洞窟の中を照らし出してゆく。
まず視界に入ったのは倒れ付した大猪と、それを取り囲むスケルトンの群れ。
そして、大猪の前に立ち、スケルトンを従えている人影が一つ。
『待ちくたびれましたよ、我が姫と御一行。キサラも、ご苦労様デス』
そこに居たのは学者然とした男性が一人。
頭からはキサラちゃんと同じく二本の角が後頭部へ向かって湾曲して伸びており、身に纏っているのは純白の白衣。
手には杖を握り、コンと石突きで地面を鳴らせば男の背後の大猪が地面に沈むように消えて行く。
『ようこそ、と言いたいのはやまやまデスが、挨拶は後にしまショウ』
「……そうだね」
事態についてこれていない火影姉妹を促して、背中を向けて歩き出す男を追いかける。
キサラちゃんと手を繋ぎ、スケルトンを引き連れた謎の人物。
私が知っている姿とは遠くかけ離れたその姿に、本当に私が知る彼なのかと疑問に思うも、それは彼の放った我が姫と呼ぶ言葉に疑問は雲散霧消して。
「ミラ様、あの人は知り合いなんですか?」
「うん、まあ」
メイファちゃんの問いに、どう答えたものかと思案する。
別に、隠す必要も無いと言えば無いのだけれど……彼の正体を知ったこの子達がどういって反応をするのかどうかだよね。
……まあ、いいか。
「レキシファー。王都を襲った死霊術師ご本人……だと思うよ。なんでまだ居るのかよくわかんないけど」
「へ?」
案内されてたどり着いたのは、通路の行き止まりにあった岩肌に偽装された小さな扉の前。
信じられないとばかりに私と男性を交互に見るメイファちゃんが可愛くて。
「禊! 禊ちゃん!?」
『……もう猶予はなさそうですネ。行きますヨ』
メリアリスさんの悲鳴が反響し、洞窟の向こうへと消えた。
再☆登☆場




