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竜と少女といつか聞いた声




「メイファ、ランファ、そのままみそぎちゃんとメリアリスさんを守ってて!」


 放たれ迫る火炎弾へと右手の剣を振るう。

 まだ距離はある中弾け飛ぶ火炎弾に目を見開くメイファちゃんとランファちゃん。

 動かないみそぎちゃんを抱いて、狂ったように言葉にならない声を叫び続けるメリアリスさん。

 全力で駆けて、両手の双剣を逆手に握る。

 ホーリーライトを装填しつつ、メリアリスさん達の方へと向かう火炎弾だけを撃ち落として、真っ直ぐにドラゴンゾンビへ駆ける。


『ミラ様、支援致します』

『今のがディメンション・レイヴ? 凄いね!』

『ぴ?』

『う!』


 聖双剣イリスの固有スキル、ディメンション・レイヴ。

 振るった斬撃を複製し、幾つもの斬撃を指定した空間へと転移させるアーツ。

 スヴィータやみそぎちゃんがしていたような直接斬撃を飛ばすのではなく、指定した場所へ直接転移させるので動かれると当たらないのだが。

 目視は不可能で着弾までのラグが無く、盾等で防ぐ事が出来ないというのが利点だろうか。

 傍らに浮かび上がる黒い本が開き、パラパラと捲れる。

 メサルが今の私に使える手札を全て纏めてくれている。


 四人とドラゴンゾンビの間に立って、双剣を構える。



「ミラ様、無茶です!」

「メリアリスさん、みそぎ、しっかり!」


 ドラゴン本体には魔法は効かないのだろうが、放つ火炎弾は魔法で相殺出来るのは最初に吹き飛ばした時に確認している。

 視線の先のドラゴンの体高はおそらく五メートルあるかないか。

 西洋風の、二足歩行で立つ、前足の小さな翼のあるトカゲだ。

 ところどころ爛れ、腐れ、朽ちてはいるが、火炎弾を吐いたりとドラゴンとしての能力は健在のよう。


 ドラゴンゾンビが口を開き、火炎弾を放つ。

 装填していたホーリーライトで相殺し、剣を振るう。

 転移した斬撃はドラゴンゾンビの鱗を切り裂く事はなく、金属音と共に弾き返されたのが判る。


 ……どうやら、私の攻撃力では腐ったゾンビ相手だとしてもドラゴンの鱗は貫けないらしい。



「ランファちゃん! もう一体のドラゴンは!」

「えっと、もうすぐ近くに……上です!」


 反撃とばかりにドラゴンゾンビが放つ火炎弾を再度装填したホーリーライトで相殺し、空を見上げる。

 空から降り注ぐ光の中に、黒い点が一つ。

 ドラゴンゾンビに加えて、もう一体と来たら逃げ延びるどころか生きて帰る事すら絶望的だろうか。

 私や、メリアリスさんは、まだいい。


 だけど。


 みそぎちゃんや、火影姉妹だけは……死なせる訳にはいかない。

 みそぎちゃんの怪我も見なければならない、おそらく、出来るだけ迅速に。

 剣を握る手に汗が滲む。



「どうしたものかな」

『子羊ちゃん、後ろへ』


 上空から迫る、ドラゴンゾンビとは比較にならないほどのプレッシャー。

 ありすの声に地面を蹴って後ろに跳んだのと同時に、目前の地面が砕けて吹き飛ばされる。


 ズドンと、大地を揺らして落ちたのは巨体。


 空中で体勢を整え、地面を滑りながら着地する。

 トントンと地面を蹴って後退しつつ、メイファちゃん達の側で止まって、視線を上げる。

 同時に、鼓膜をつんざくような咆哮と共に、声が聞こえた。


『あー、テステス、聴こえていますカ? 聴こえていますヨね?』


 視界に入ったのは丸太のように太く長い尻尾と、大きな翼。

 黄金色の竜の背中は私達に向けられていて、ドラゴンゾンビと対峙するように立ち塞がっていた。

 ドラゴンゾンビが放つ火炎弾を翼を広げて受け止めているそれは、まるで私達を守っているようにも見える。


「……空耳、じゃないよね?」

『当たり前でショウ?』


 耳に直接響いた声に周囲を見回す。

 誰もおらず、気配もない、不思議な声。

 スピリアと話している時と同じ感覚の。

 しかし、どこかで聞いたことのある声だった。



「……禊ちゃん!」

「その手を!」

「離せ!」


 背後から聞こえた声に振り返る。

 メリアリスさんの腕の中にいた筈のみそぎちゃんを抱いているのは、ボロボロのローブを纏った見知らぬ少女。

 ありすさんとは違う濃い紫色の髪と、頭から後頭部へと湾曲して伸びる二本の角がまず目に入る。

 それぞれ武器を構え、新たな闖入者を包囲するメイファちゃんとランファちゃん。

 メリアリスさんは地面にへたりこんだまま、その少女を見上げてみそぎちゃんを取り替えそうと手を伸ばす。


『その子の指定する座標へ、転移なサイ。そこの腐っていないトカゲは安全ですカラ、その場は任せて、お早く。狐っ子を助けたいなら、急いでくだサイ』

「メイファ、ランファ、その子は多分敵じゃない! それより、みんなで集まって、早く!」


 疑っている余裕も暇もない。

 記憶に新しい、独特なイントネーションの声。

 姉妹に向かって叫びつつ、一息で駆けて合流する。

 みそぎちゃんもだが、メリアリスさんの様子が気がかりだ


 地面が揺れる。


 黄金のドラゴンとドラゴンゾンビが組みついて、格闘を繰り広げている。

 どうやら、あの黄金のドラゴンはこちらを襲ってこないというのは信じてよさそうだ。


「ミラ様!」

「お知り合いですか?」


 早足で歩み寄り、謎の少女の抱くみそぎちゃんの様子を確める。

 身体半分が焼け、同時に呪いが纏わりついているが、まだ息はあるらしい。

 私と同じくらいの身長の少女を改めて見る。

 腰までありそうな横髪が特徴的だね。



「……ここ」

「わかった」


 少女の手が私の傍らに浮かぶ黒い本に触れる。

 ぱらりとページが捲れ、声が指定している座標であろう文字列が記される。

 なんで私が転移魔法を使える事を知っているんだとか聞いている時間の余裕は無いことは明らかで、今はどこでもいいから安全な場所へと移動をするべきだと結論付けて、メイファちゃん達に視線を向ける。


「まだ、大丈夫。でも、急いで」

「わかってる。メリアリスさん、メイファちゃん、ランファちゃん、今から移動するからね。ありすさんは、メリアリスさんの中に戻ってね」

『はぁい』

「移動?」

「ですか?」


 二人はまだ少女を警戒しているようだが、武器は下げて私の言葉に首を傾げてみせる。

 謎の少女はみそぎちゃんを返し、受け取った娘を守るように、大事に抱え込んだメリアリスさんを支えてくれる。

 その間に指定された座標を頭に叩き込み、メサルとティムにも手伝って貰って魔法を構築する。


「転移先は、安全なんだよね?」

「確実ではない。でも、ここよりは安全」


 それもそうだ。

 抑揚の無い声と話し方の女の子。

 ぴょこんと髪から覗く毛に包まれた耳と特徴的な角からしてこの子も獣人なのは確かか。

 彼女からは敵意は感じないし、時折ドラゴン達の方へ視線を向けて警戒している様子も見せている。


「私はミラ。君は?」

「キサラ」

『ミラ様、いつでも行けます』

『色々と改造しといたよー!』


 発動するのは転移術式:アルゴナウタイ。

 安全地帯でしか使えないとか、ポータルへと転移するとかいう制約があった気もするが、ダイアリーに記された魔法の説明からはそんな文字列が綺麗さっぱり消え去っている。


 みそぎちゃんが自分で魔法を作っていたのを思い出す。

 ノアさんとのお勉強で知った事を思い出す。


 魔法の行使はイメージ次第。

 何も考えずに発動させるならば、みな同じように、決められた効果を発揮する魔力の奇跡。


 逆に言えば、考えて、基礎をそのままに自分で魔法の構築を組み換える事が出来るのならば。


 理解した。


 ニーナさんが習得しておくように言っていたスキル達はきっと、その為のもの。

 黒い本が物凄い勢いで捲れてゆく。

 まるで歓喜するように、周囲にページが舞い飛び、私達を包囲する。


「座標固定、術式展開」


 本の頁達が集めてくれる周囲の魔力を手のひらに纏め、自身の魔力と混ぜ合わせて握った剣へと送る。

 黒に染まっていた魔力の剣が、輪郭だけが浮かぶ無色透明の剣へと変わる。

 高く振り上げ、一直線に振り下ろして空を斬る。

 空間に現れた亀裂が口を開き、誰かが息を呑む音が響く。


「転移術式:アルゴナウタイ。行くよ」

「ミラ様……アリエティス、本当に」

「ラン、考えるのは後」

「この人は、任せて」


 少女がメリアリスさんを抱えて、一歩踏み出す。

 まずは少女とメリアリスさん、みそぎちゃんが亀裂に消えて、続いてメイファちゃん、そしてランファちゃん。

 全員が転移したのを確認して、一度後ろを振り返る。


 黄金のドラゴンが大きく身体を捻り、尻尾を使ってドラゴンゾンビを吹き飛ばした瞬間が視界にうつる。

 そして、黄金色の、片角のドラゴンと目が合った。


『――――』


 ドラゴンの口が開き、何かを伝えるように開閉する。

 その言葉は私に届くことはなかったけれど、そのドラゴンは確かに笑い、ドラゴンゾンビへと翼を広げて突進して行く。


「この借りは返すからね、必ず」

『ミラちゃん、いこ!』

「そうだね」


 ティムに急かされ、空間の亀裂へと身体を投げる。


 黄金のドラゴンへ見送られ、燃え広がっていく炎に包まれる村を後に姿を消した。


 









それは

奴さ

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