森と連戦ともっとやべーやつ
「まずは足をうばうの。たじゅうてんかい、れんけつきどー。ふりーずうぇーぶ、すぱーくうぇーぶ」
準備を終えてそう間を置かずに森を突き破って姿を現したモンスター達。
おそらく速度のあるタイプの小さなモンスター達が先行してきたのだろう、鹿のような物だったり、猪だったり、走る鳥だったり。
蜂や……おそらくクワガタムシだろうか、飛行する種類の小型と中型のモンスターの団体さんだ。
「まずは私達が前に出ますから、メイファちゃんとランファちゃんはミラちゃんと禊ちゃんを守りつつついてきてくださいね」
『貴女達は無茶しちゃ駄目ですからねぇ?』
モンスターの団体さんを出迎えたのは禊ちゃんが放った地を走る冷気の波と空を駆ける稲妻の嵐。
地面を走るモンスター達は冷気によって動きを止めたり足を滑らせたり。
空を飛ぶモンスターは稲妻によって撃ち落とされ、麻痺して地面で痙攣している物も居た。
そして、そこに突っ込んで行くのは二人の兎さん。
チェーンソーを手に正面から突っ込み、勢いのままに薙ぎ払っていくメリアリスさんと、その後ろから細剣を使って討ち洩らしを片付けて行くありすさん。
遅れて、ランファちゃんを先頭にして禊ちゃん、私、メイファちゃんと続く。
メリアリスさん達を抜けてきた小型のモンスター達は私達で討伐しつつ、前へと進む。
「こいつらには魔法が効くんだね!」
「ドラゴンの影響から逃れる事ができたモンスター達なのでしょう」
「なの、問題はこの後なの」
メリアリスさんが猪をチェーンソーで両断し、道が開ける。
魔法が通用するとわかってからは禊ちゃんと私による援護射撃もあって、それほど時間を使う事なく第一波の殲滅が終わる。
森の境界線の前で一旦停止し、補助魔法をかけ直しておく。
「みそぎママ、凄いね」
「なの、みそぎのママなの、とうぜんなの」
『ありすのありすですからぁ、当たり前ですよぉ?』
そんな会話にメリアリスさんが苦笑を浮かべているのを眺める。
私はと言うと、メリアリスさんにもポーション類を渡しておこうと思ってインベントリを物色中だ。
見慣れない素材類が色々と増えているが、これはさっきの群れの奴だろうか。
このゲーム、住民達とも普通にパーティーが組めるらしく、住民達にはそういう魔法として認識されているのだとか。
メリアリスさんからパーティー申請が飛んできた時には少し驚いてしまったが、メイファちゃん達がプレイヤーと同じように申請を許諾しているのを見て慌てずに済んだ。
というか、そんな事ならメイファちゃんやランファちゃん達とパーティーを組んでおくべきだったなぁと独りごちる。
「メリアリスさん、これを」
「あ、ポーションですか? 随分いいものですけど、貰ってもいいんですか?」
「うん、自分で作ったものもあるけど、殆どはうに達が作ったものだし」
「……うに?」
『う!』
ポーション類を渡し、メリアリスさんがインベントリにそれらを仕舞いながら私の言葉に首を傾げる。
実はずっといたぶらうにーがミトラを持ち上げて顔を覗かせ、メリアリスさんにご挨拶。
ぴょこんと飛び出したうにを両手でキャッチし、目の前に掲げてみせる。
トゲを一本だけ伸ばしてうにうにと振り始めた。
挨拶……しているのだろうか。
『妖精なんてまた、珍しいモノを連れてるんですねぇ? 自分から人前に姿を見せるってのも珍しいですけどぉ』
「ああ、これが妖精……ブラウニーって確か家に住み着く妖精でしたよね。……なんでうになんでしょう?」
それは運営に聞いて欲しい。
メイファちゃんとランファちゃんが周囲の警戒に回っていて暇だったのかみそぎちゃんまでやってきて、うにに瞳を輝かせていた。
随分とのんきな光景にも見えるが、こちらから森に踏み込んで行くよりはこうやって視界が開けている場所の方が戦いやすく安全なので仕方がない。
さっきの集団は特に足が速い部類だったらしく、次の波までにはまだ少しだけ猶予がある。
「禊ちゃん、魔法はどこまで使えるようになりましたか?」
「なの。水、風、光、ふくごーで凍、雷なの」
「じゃあ、さっきの爆音は」
「いみてーとけらうのすなの」
『末恐ろしいですねぇ……流石はありすの愛娘ですよぉ』
「うへへへへ、なの」
ありすさんに撫でくり回されたみそぎちゃんの顔がとろけた笑みに変わる。
メリアリスさんは少しだけ困ったような顔を浮かべた後、すぐにその表情を笑顔に変えて、ありすさんと一緒にみそぎちゃんを抱き締めていた。
……うん。
私とノアさんと同じように、彼女達もまた母娘なのだなと。
神楽さんはこの場合どういったポジションになるのだろうかと思ってしまったのは秘密だ。
「糸に反応!」
「次、来ます!」
メイファちゃんが叫び、ランファちゃんが身構える。
メリアリスさんとありすさんは途端に切り替わってみそぎちゃんをはなして前へ。
各々の武器を構え、私達に背中を預けた。
「なの。ミラねーさま、こっからはまほーは効かないぜんていでうごくの」
「そうだね。でも麻痺みたいな状態異常はカマキリにも通用してたし、妨害目的の魔法は使っていこう」
「なの。しょっぱなすぱーくうぇーぶするの」
腰から短剣を引き抜き、両手に握れば光が伸びて双剣へと変わる。
みそぎちゃんはと言うと、髪飾りについていた術札を一枚外して握ればぼふんと煙が弾け、みそぎちゃんサイズの刀が現れていた。
それを腰に差したみそぎちゃんは巫女服姿も相まってなかなか様になっているように見えた。
「ミラちゃん、禊ちゃん、メイファちゃん、ランファちゃん。これを突破したら地下墓地まで走ります」
『どうにも、嫌ーな感じがするんですよぉ。これ、たぶんですけどぉ、ただのドラゴンじゃなさそうですねぇ』
ありすさん達の視線がランファちゃんに向かい、それに気づいたランファちゃんが少しだけ目蓋を閉じて、数秒。
「ドラゴン達は……未だに争いながら此方へ向かってきています。もう少し近付ければ違和感にも気付けるとは思うんですけど」
『スピリアの視界を借りてるだけなら、仕方がないですよぉ。普通とは違う、これだけは心にとどめておいてくださいねぇ』
「まあ、ドラゴンがこんな所までやってきて争ってるって時点で普通とは違うんだけどね」
あえて空気を読まないメイファちゃんの一言にありすさんが苦笑を浮かべる。
それと同時に周囲に緊張が走り、全員同時に森へと向き直る。
メキメキと何かが倒れる音と、立ち上る土煙。
何かが近付いて来るのは確定的で、全員揃って身構え、みそぎちゃんが魔法を放つ体制に移る。
「数は……六、いや、八? これは……違う、多足か!」
「なの、れんぞくてんかい、へいれつ、すぱーくうぇーぶなの」
木々が吹き飛ぶ。
土煙が巻き起こり、敵の姿は見えず。
先制したのはみそぎちゃんの魔法陣から放たれた四つの稲妻。
ついでに私もホーリーライトを放っておいたのだが……稲妻と、私の放った光は何故か、目標へ届く前に消えたように見えた。
「サソリ!」
『これはまた、大物が来ましたねぇ?』
「ありす、戻って! ミラちゃんも、スピリアは出しちゃ駄目だよ!」
ありすさんの姿が消えて、スピリアに戻ってメリアリスさんの身体の中へと消えて行く。
「メサル、ティム」
『ミラちゃんごめーん、サポートできないかもー』
『あれは……そうですね、ダイアリーでの補助も控えた方がよさそうです、申し訳ありません』
常に浮かんでいた黒い本が浮力を失い、落下を始めると同時に私の中へと消える。
メサルとティムが引っ込んだのを確かめて、双剣を握り直す。
「なの。サソリ、ただしくはマナイーターなの。かまきりとかめじゃないほどの、やべーやつなの。そこなしの魔力喰らいなの、まほーむこうのくせにめっちゃかたいの」
「……街に帰ったら、暫くのんびりしようかな」
最近こんなのばっかりだし、と付け加えて。
森から姿を見せるのは二本の、左右でサイズの違う巨大なハサミを掲げ、天に伸びるのは太い尻尾と針……というよりは杭と言った方がよさそうな、その生物の最大の武器。
全身真っ黒で八本足のそれは尻尾の高さを除いても三メートル近くはありそうで、体長を考えれば最早、どうやって身体を維持しているのか理解が出来ない化け物で。
「……私のこの剣も魔力なんだよねぇ」
「……ミラねーさまはみそぎといっしょにさぽーとするの。ていうか、剣もってもまえにでちゃだめなの」
「マナイーターって、こんなのがうじゃうじゃしてるの、この森」
「あれはふぃーるどぼすなの。うじゃうじゃしてたらもりからせいれいもよーせーもいなくなっちゃうの」
戦闘開始の合図は、ハサミを大きく振り上げたサソリの甲高い咆哮だった。
おらにやる気をわけてくれ(ダイレクト




