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竜と呪いと迎撃準備

おまたす





「メイファちゃん、ランファちゃん、状況は?」


 小屋を飛び出したありすさんを追いかけ、私の後にありすさんとメサル達が続く。

 飛び出すや否や叫んだメリアリスさんにメイファちゃんが駆け寄って来て、私に視線をよこしたメイファちゃんに頷いて見せた。


「ミラ様、みそぎママ。現在北方からドラゴンが二匹、こちらに向かって来ているようです」

「ドラゴンが二匹……? ドラゴンって、あのドラゴンだよね?」

「はい。どうにも、後方のドラゴンが前方のドラゴンを追いかけるようにこちらに向かっているらしいです」


 ランファちゃんとみそぎちゃんもやって来て、全員で合流する。

 こちらの世界のドラゴンの事は、ノアさんとのお勉強で教わった中にある。

 ドラゴンはモンスターでもなんでもなく、正式には鱗人。ドラゴニュートとも。

 オウルさんのような鳥人や、私達獣人のようにこの世界に存在する種族の一つに分類されている、れっきとした知的生命体らしい。

 モンスターに分類されている翼竜……ワイヴァーン等も存在しているらしいが、それと同じ扱いをされると怒るとかなんとか。

 人の姿とお話に出てくるような大きなトカゲの姿とを自在に切り替えられるのが特徴なのだとか。


「ドラゴン……ドラゴニュートは大陸最北部の大樹海に住んでる種族で、滅多に外に出てこないって聞いたけど?」

「なの。みそぎもそう習ってるの。でもどらごにゅーとは居ないって事はないの、たまには見かけるの。でも、いまのじょーきょーは、おかしいの」

「そうですね。ランファちゃん、メイファちゃん、到達予想時間は?」


 私の疑問にみそぎちゃんが同意し、それにメリアリスさんが続いて火影姉妹に話を投げる。

 メイファちゃんの肩には梟がとまっていて、彼女の耳がぴくぴくと動いた。


「おそらく、今のままこちらに真っ直ぐ向かってくるのでしたらあと十分もあれば。どうやらドラゴン二体は戦闘を繰り返しているようで、時々森に降りては暴れているようです」

「あまり近付くと危険な為、遠巻きからの監視しか出来ないので正確な情報は得られませんが……その」


 メイファちゃんが一度言い淀み、ランファちゃんに視線を向ける。

 何か言いにくい事なのだろうか。数秒の空白の後、再びメイファちゃんが口を開く。


「その、ドラゴン達の戦闘で追いたてられて半狂乱になったモンスターが奥地から多数押し寄せているらしいのです。もっと早くに気付くべきでした」

「それって、そのモンスターの群れもここに向かってきてるってこと!?」

「全てではありませんが。広範囲にばらけて逃げていますので……ですが、森の奥地のモンスターが、少なくない数浅い部分に移動しているというのが現状です」


 ドラゴンもだが、それはそれで大問題なのではなかろうか。

 おそらくではあるが、あの蟷螂みたいなのが結構な数こちら側に向かってきていると言っているのだ。

 メリアリスさんがいてようやく倒せた化け物クラスが、複数体。

 それも、王都のある方面に押し寄せて来ているなんて、大事件だろう。


「王都に伝えに戻るべきかな?」

「そうですね。私のスピリアに手紙を持たせて組合に飛ばしましょう」

「メイファちゃん、お願いできる?」

「御意に」

「小屋の中に道具があるから、使っていいよ」

「みそぎママ、ありがとう!」


 メイファちゃんが小屋の中へ駆けて行く。

 ランファちゃんに視線を向ければ目を閉じて何かを呟いていて、誰かと会話しているようにも見える。

 今は邪魔しないほうがよさそうだ。


「メリアリスさん、どうしよう?」

「ドラゴニュートの目的がわからないし、深部のモンスターが広範囲に散らばって移動してるなら下手に動くのも危ないかな?」

『村の外で迎撃して安全確保、そこから王都へ走るかですねぇ……ああ、そういえばぁ? 子羊ちゃんはぁ、何をしにこの森に来てたんですかぁ?』

「うん? 私達はこの辺りを根城にしていた死霊術師の地下墓地に用があったんだよ」

『そういえばそんなものもありましたねぇ?』


 そうなのだ、蟷螂やらの騒動で忘れていたが、私達はレキシファーの地下墓地に向かっていたのだ。

 随分と寄り道になってしまっているが、そのおかげでメリアリスさんと出会えたのだから良しとしておく事にする。


 閑話休題。



「地下墓地への入り口なら、この村の近くにも一つあった筈。ただ、その入り口が北に少し行った所にあるから……下手すると、モンスター、或いはドラゴニュートと鉢合わせになる可能性があるの」

『ドラゴニュートは戦闘しているみたいですしぃ? 逃げてくるモンスターを短時間で撃破して突破からぁ、地下墓地へ走るのが安全策だと思いまぁす』

「もんだいがあるの。あのカマキリはみそぎのまほうがきかなかったの」

「確かに、あんな凄い魔法で殆どダメージを受けた様子が無かったね」


 ありすさんが地面に簡単な地図を描いて、現在地点ともう一つ地点を描いて線で繋ぐ。

 どうやらレキシファーの地下墓地への入り口はいくつかあるようで、この村の付近にもあるようだ。

 地上を逃げ惑うモンスターと、ドラゴニュート達を地下に潜ってやり過ごそうと言う計画らしい。


「それはおそらく、竜痕。竜によって傷をつけられた生物は決して治らない呪いを刻まれるの。同時に常に激痛を与えられて狂暴性を増し、本能のままに暴れまわったり、意図的につけられた思考を誘導されて活動したりと、厄介な呪いですね。魔法を軽減させるのも竜痕の影響」

『みそぎは、絶対に竜から傷を受けないようにするんですよぉ……? ありすや子羊ちゃん達はありす達スピリアが魂を保護しているから呪いはどうにか出来ますけどぉ……わかりますよねぇ?』

「……なの、わかったの」

「その呪いは解除できないの?」

「スピリアの保護があってようやく神聖魔法で浄化できますが、保護が無ければ死後に魂を浄化して呪いから解放してあげるしかありません。だから、禊ちゃんは、気を付けてくださいね」

「はいなの」


 心なしか、みそぎちゃんの表情が曇っているように見えるが、実際思うところはあるのだろう。

 自分の攻撃が通用しないどころか、自分が傷を負えば治療が出来ないから気を付けろと。

 メリアリスさんとありすさんは心配しての言葉なのだろうが、みそぎちゃんはきっと、足手まといになると考えてしまっているんじゃないだろうか。

 私が同じ立場でそう言われたのなら、きっと同じように感じてしまう。

 メリアリスさんを護ると言った端から、護られる側になってしまったのだからね。


「ミラ様、みそぎ、みそぎママ、王都へ手紙を飛ばしました」

「ミラ様、ドラゴニュート達が到達するまでに若干の猶予はありますが、モンスター達はもうすぐそこまで迫っているようです」

「わかった。ここの北に目的の地下墓地の入り口があるらしい。進路上から向かってくるモンスターをこの場で迎撃して撃破、そのまま一気に地下墓地まで走ろうと思う」

「御意に」

「御心のままに!」


 方針は決まった。

 それぞれ武器を準備し、戦闘準備を整えて行く。

 項垂れていたみそぎちゃんも、ありすさんの『竜の傷が無いモンスターが出た時はぁ、頼りにしてますからねぇ?』との言葉に元気を取り戻したようだ。


 小屋から急いで離れ、村の北側……村と森との間を迎撃地点に定め、準備を完了する。

 私はノアさんから貰った先の羊飼いの杖を。

 みそぎちゃんは沢山の術札を全員に張り付け、地面にも幾つかばら蒔いた。

 ランファちゃんはいつもの如く巨大な剣を肩に担ぎ、メイファちゃんは私のあげた指輪から糸を伸ばして周囲に張り巡らせてゆく。


 そして、メリアリスさんの取り出した武器に全員揃って目を剥いた。


「魔導式裂甲破断爪。リーシェから受け取った、私の本来の武器ですよ……似合わないでしょう?」

『うふふふふ、巷では切り裂き兎なんて呼ばれてた所以が、これのせいですけどねぇ?』


 メリアリスさんが取り出したのは私もよく知っている武器……嫌、現実世界では武器ではなく工具か。

 三枚並んだ先の丸まったガイドバーの長さは一メートル半ほどだろうか。

 並んだガイドバーの溝にはそれぞれ違う形状の刃が並んでいて、どう考えても本来の使い方を想定した物では無いことがわかる。

 ガイドバーが接続されている本体にはハンドルが二ヶ所にあり両手で保持できる構造になっていて、高速で震動するおそらくエンジン部分であろう機関。


 うん、メリアリスさんが取り出したのは、巨大なチェーンソー。

 本来は木材を切り倒す為の工具を戦闘……殺傷に特化させた、寒気すら感じるほどの、凶器。


「……ママは怒ると、とっても怖いの」

「……うん、怒らせないようにしよう」

「御意に」

「なんで照れてるのこの人」


 チェーンソーのエンジンをふかしながら、にっこりと。

 若干照れたような笑顔を作っているうさぎさんを見て、私達四人は揃ってそう心に決めたのであった。


 アリシエルの武器も大概だったけど、一番恐ろしいのはリーシェさんの感性なのかもしれない。







ぶっそう

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