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二羽と使命と迫るモノ

長い

 



「えーっと」

「……私が軽率でしたね。その、名前で呼ばないほうが良かったかな」


 メリアリスさんが私の名前を知っていたのは、導き手と同じように彼女の称号欄にも私の名前が……それも、真名が記されていたからなのだろう。

 普通なら、名前を呼ばれたところで問題はないけれど、私の場合はそうではない。


 アリエティス。

 この世界の住民なら子供でも知っているような、神様の名前。

 その名前を持つ獣人は、その神様の血縁か、なんらかの関係者しか存在していないと言うのはノアさんの話で、こちらの世界の常識でもあった。


「十三人目の聖女様で」

「アリエティス様?」


 メイファちゃんとランファちゃんの視線が突き刺さる。

 とりあえずメリアリスさんの抱擁から脱出し、乱れた衣服を整える。

 なのぉ! と突撃してきたみそぎちゃんを受け止めて、くるりと回して背中から抱き締めてみる。

 即座に尻尾が絡み付いてきた。もっふもふである。


「あー、うん。まあ、仕方がないか。メイファちゃん、ランファちゃん」

「はい」

「はっ」

「さっきメリアリスさんやありすさんが言ってた通り、絶対に他言しないって誓ってくれるかい?」

「勿論です」

「言えない事でしたら、無理に言う必要もありませんからね、ミラ様」

「みそぎもちかうの。いわないの。ひみつなの」


 火影姉妹が頭を下げようとするのを制し、どれから話したものかと思案する。

 流石に、何もかも話すわけにはいかないだろうが、ある程度は話さなければ現実味はないだろう。

 名前の方はメサルとティムを見せてしまえばある程度信憑性は出るだろうが、聖女の件とあの蛇神についてをどうするか。

 既に忘れられた神だと自称するアスクレピオスだったが、実際に書物を読んだところ彼の名前は一文字足りとも見かける事はなかった。

 聖区の書庫ですらそうなのだから、おそらく知る者はいないだろう。


「私は、ミラ。真名をカーミラ・アリエティスと言う」


 シンと、小屋の中に静けさが満ちる。

 みそぎちゃんのあごのしたをくすぐりながら次の言葉を探す。

 メイファちゃんとランファちゃん、そしてメリアリスさん。

 ありすさんは相変わらず笑みを浮かべているだけで、まるで全て知っているかのようにベッドに腰かけている。

 とりあえずメサルとティムに出て来て貰おうと口を開きかけたところで、静寂が途切れる。


『ミラちゃん、なんか来る!』

『とても大きな……これは一体?』


 呼ぶまでもなく、金と銀のスピリアが私の黒い本から飛び出し躍り出る。

 火影姉妹が眼を見開き、メサルとティムが叫ぶ。


 ピイィィィィィィィィィィッ! っと、高く響く、鼓膜に突き刺さるような鳥の鳴き声らしき音。

 同時に、小屋の窓を突き破るように姿を現した影がメイファちゃんへと迫った。

 窓が割れる事は無く、すり抜けたというのが正しいだろうか。


『ホゥ、ホーウ!』

「テト? ……ラン!」

「わかってます、先に出ます!」


 突然小屋に乱入してきたのは、深緑色の大きな梟のような生き物だった。

 まっすぐにメイファちゃんの元に降り立ったそれは彼女の差し出した腕に止まり、必死に何かを訴えるように鳴いて、その様子を見てランファちゃんが慌てて小屋を飛び出して行く。


「ええと、何事?」

「お話の途中申し訳ありません、ミラ様。見張りに立てていた我々のスピリアが何かを発見したようで……確認して参りますので、暫しお待ちを」

「え? あ、うん?」


 梟を連れて、小屋を飛び出して行くメイファちゃん。

 残された私とみそぎちゃんと、メリアリスさんにありすさん。

 メサルとティムが訴えていたのと関係があるなら、我々も外に出るべきであろうか。


「なの……スピリア、羨ましいの。みそぎも出るの、ママとねーさまはここにいるの」

「え、あ、ちょっと、みそぎちゃん!?」


 するりと絡み付いていた尻尾がほどけ、私の腕の中からすり抜けたみそぎちゃんまで小屋の外へと走って行ってしまう。

 みそぎちゃんが出ていった扉が音を立てて閉まり、バチリと音を立てて稲妻が纏わりつくのが見えた。


『二匹の精霊って事はぁ、本当にアリエティスなんですねぇ?』

「それについてはみんな揃ってから話すよ。それよりも、何が起きてるかわかるかな、ありすさん、メリアリスさん。あと、さっきのフクロウはいったい?」

『ありすはありすで結構ですよぉ、さんはいらないでぇす』

「あの二人、小さいのに相当の実力者なんですね。あの年齢でスピリアをアニマスピリアにしてるなんて」

「……うん?」


 メリアリスさんがてくてくと小屋を横切り、一つだけある小さな窓へと歩いて外を覗く。

 ありすさんは変わらずベッドでくすくすと笑っていて、思わせ振りな仕草だけで答えてくれる気はなさそうに見える。

 残るのは外を見るメリアリスさんだけなのだが……とりあえず、私も外を見てみようと思い彼女の傍に寄った。


「……見える?」

「よいしょ……うん、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」


 背伸びをしてようやく見えるくらいの高さの窓に飛び付こうとして、背中からメリアリスさんに抱き上げられた。

 この背丈はもう少しどうにかならないものだろうかと思いつつ窓の外へ視線を向ける。

 そこには腕にフクロウを乗せたメイファちゃんと、同じように鳥……闇色の、鷹だろうか。

 さっきの鳴き声を放った正体だろうそれを腕に乗せたランファちゃんがみそぎちゃんを挟んで何かを話し合っているみたいだった。

 ……あれが、火影姉妹のスピリアなのだろうか?


「あの鳥は、使い魔みたいなものなのかな?」

「ううん、あれもスピリアですよ。正しくはアニマスピリアって言って、本来の精霊の姿から自分を昇華させて、別の姿を取れるようになったスピリア、かな?」

「アニマスピリア」


 窓の向こうのメイファちゃんとランファちゃんは揃って一つの方向を見ており、また何か話し合っている。

 ランファちゃんが大きく腕を振りかぶって投げるように鷹を空へ解き放つ。

 勢いよく飛び立った大きな闇色の鷹はぐんぐんと飛翔して一瞬でその姿を私の視界から消して行く。

 視線を下ろすと丁度、メイファちゃんの腕に居たフクロウが光を放つ。硝子が砕けるようなエフェクトと同時に、フクロウが見慣れたスピリアの姿へと変わった。


 フクロウだった深緑色のスピリアがメイファちゃんの胸の中へと溶けて消えるのを見つめるみそぎちゃんの表情で視線が止まる。

 その顔はとても悲しそうな、それでいて羨ましそうな、恋い焦がれるような。

 メイファちゃんとランファちゃんに何かを言われて我に返り、慌てて巫女服の至るところからお札を取り出して行くその姿に首を傾げた。



「禊ちゃんには、スピリアがいないんです」

「へ?」


 ストンと床に下ろされた後に、メリアリスさんへと振り返る。

 手を引かれて向かったのはベッド。

 促され、ありすとメリアリスさんに挟まれるかたちで腰かける。

 苦い笑みを浮かべた彼女が語る。


「禊ちゃんの本当のお父さんとお母さんと、あの子のスピリアは、殺されたんですよ」

「殺された……?」

「ええ。魂を食らって己の力に変えるっていう力……スキルを持ったプレイヤーに殺されました。本来ならモンスターを倒した時に、その魂も一緒に取り込んで強くなるっていうスキルだったんですけどね」


 ギリ、と。

 メリアリスさんが表情を無くし、思いっきり歯を食い縛り音をもらす。

 瞳孔が縦に細く伸びて、光を帯びているかのような錯覚すら覚える。

 後ろから抱き上げられて、ありすさんの膝に乗せられた。


「モンスターを狩って、その魂を食らうくらいなら、何も問題はなかったのに。そいつは、その人は、あろう事か、簡単に魂を狩れるからと言って、小さな子供を中心に、獣人達を襲ったんですよ」


 ゾクリと、背筋に悪寒。

 優しげなメリアリスさんの姿はそこには無く。

 ありすさんに抱かれていなければ、腰を抜かしてベッドから転がり落ちていたかもしれない。

 それほどまでに、恐怖を感じさせる低い声。


 数秒の間。

 メリアリスさんが口を開く


「私の村を焼いて、私の妹の魂を喰った、私の仇。はじめの頃はまだ復讐なんて考えていませんでした。ただただ何をするかもわからなくて、西の森で、この村で、モンスター相手に戦って、村を直すだけの日々を過ごしていました」


 私を抱くありすさんの腕にも力がこもっている。

 見上げたその表情は、彼女の話を聞いてやってくれと訴えているようで。

 私の膝に降りてきたメサルとティムを迎え、メリアリスさんの声に意識を戻す。


「ゲームをやめるっていう選択肢はなぜか浮かびませんでした。くる日もくる日も身体を鍛えて、村を建て直して。そんなある日、目覚めたのは知らない空間でした。辺り一面の星空で、何処までも続く水面の世界。そこで、神様に会いました」


 その場所は、私も心当たりがある。

 アスクレピオスと出会ったあそこと同じだろう。

 彼女はたしか、双女神の聖女と名乗ったはずだ。


「二人の女神様は言いました。生と死を司る女神であると。とある獣人、それもプレイヤーが、獣人の魂を冒涜していると。我々の聖女となって力を受けて、その咎人を滅せよと仰いました」


 抑揚無く言葉を続けるメリアリスさん。


「その咎人は私の妹の魂の半分を持っていると。このままでは輪廻にすら戻せないと。その時に、今まで感じた事のないような感情で頭が真っ白になったのは覚えています。怒りとか、憎しみとか、そんな言葉じゃ表せないくらいに激しい感情だったのは覚えています」

「その咎人っていうのが、アリシエルとメリアリスさんの記憶の?」

「ええ。私は受け入れて、聖女になりました。神の代行者として、まずは力をつけました。西の森で、ひたすらにモンスターを倒して、スキルを鍛えました。がむしゃらに戦って、戦って、戦って。リーシェに会ったのもその時でしたね」


 西の森というのは、今いるこの森だろう。

 とーまくんが難易度が高い場所だとか言っていた気がする。

 そんな場所で一人で、始めたての状態で戦い続けてきたのか。


「ある程度力が付いたら、双女神……ジェミア様達の指示に従って、各地の強力なモンスターの討伐を繰り返して装備を集めました。リーシェにアルケミック・アーツを教えて貰って、武器も貰いました。彼女には私が聖女であり、代行者である事は伝えたからか、色々と便宜を計ってくれましたね」


 アリシエルの持っていたハンマーともうひとつ、リーシェさんが造った武器。

 レキシファーを一瞬で倒したあれと同等の武器の正体とはどんなものなのだろうね。


「そして、見つけました。掲示板で、面白おかしく自己紹介をしていました」


 メリアリスさんが笑う。


「初めて王都へ行きました。そいつを追って、探して、見つけた時は夜の孤児院でした」

『手軽に弱っちょろい魂が集まる場所とか、格好の狩場とか思ったんでしょうねえ』


 表情が抜け落ちた同じ顔が二つあった。


「私達が追い付いた時には、もう手遅れでした。孤児院を管理していた狐族の夫婦も、子供たちも、みんな動かなくなっていて。そこには最後の生き残りの女の子と、そいつが居ました。気が付いた時にはその男の上半身と下半身はさよならしていましたよ。ええ、信じられないものを見たとでも言いたげな表情をしていました。だから、手向けに眉間を一突きして、最初の罰をプレゼントしました」


 つまり、その生き残りの女の子が、みそぎちゃん。


「私の剣、銘を神剣リベルタ。囚われたもの、縛られたもの達を解放する為の剣。私がジェミア様から与えられた使命がこの剣で咎人を討ち、魂を解放する事。神様に与えられた、私の復讐を後押しする為の大義名分」

『でも、一度殺して解放できるのは一つの魂だけだったからぁ……わかりますよねぇ?』

「……うん」


 アリシエルの魂の半分を取り戻すまで、殺し続けたのか。


「生き残りの女の子がみそぎちゃんでした。家族を失った禊ちゃんを保護したのは、当然の事だとか思いながら、初めて人を殺した自分への言い訳だったのでしょう。リーシェが用意してくれた隠れ家に禊ちゃんを残して、私は神様の代行と言う名の復讐に明け暮れました。邪魔をする人達がいればそれも纏めて殺しました。そして、魂を全て……妹の魂の半分を解放した直後に、相手はこの世界から消えて行きました。これで殺された人たちも救われると信じていたのに……一つだけ、誤算がありました」

「誤算?」


 彼女は一度瞼を閉じる。

 瞬きするように一瞬でメリアリスさんは優しげな笑みを取り戻し、雰囲気が戻る。

 ありすさんも同様に、不敵な笑みを浮かべていた。


「スピリアは魂です。だから、その男は丁寧にスピリアも殺していたんです。でも、解放できたのは獣人の魂だけ。そもそも存在が稀薄なスピリアの魂は、喰われた瞬間に消滅してしまっていたんです」

「つまり、みそぎちゃんのスピリアが居ない理由っていうのは」

「そいつに喰われた後だったんです。だから、禊ちゃんにはスピリアが居ません。一度スピリアが付いた獣人に再びスピリアが付く事は珍しいと言いますから……きっと、あの子はもうスピリアと過ごせるようになることは無いでしょう」


 メリアリスさんは窓の外へと目を向ける。

 

 みそぎの家族は、今度こそ、みそぎがまもるの。絶対なの。

 あの子の言葉には、彼女なりの意味を込めたものだったのだと知る。

 あの子の強さにも、納得がいったような気がする。


「後は、ミラちゃんも知っている通りです。神楽に禊ちゃんを預けて、私はこの世界から去りました。禊ちゃんはまだ小さかったし、日数で言えばそんなに長い間一緒に居た訳でもなかったから、忘れてくれればと思っていたのに。また、ああやってママと呼んでくれたのも、誤算ですね」


 ふふふ、と苦く笑うメリアリスさん。

 話はこれで終わりです、と付け加えてからベッドから立ちあがり、また窓の外を覗く彼女。

 ありすさんの膝から降りながら、気になる事が一つあったと思い返し、メリアリスさんに声をかけようとして、ドアが勢いよく開かれた音に遮られる。

 転がるように小屋に飛び込んで来たメイファちゃんが告げる。


「ミラ様、みそぎのママ達! ドラゴン、ドラゴンがこっちに来る!」

「へ?」

「ドラゴン……ですか?」

『あらぁ?』


 カマキリの次はドラゴンらしい。

 うん、規模が飛躍しすぎだと思うね。


 そんな事を考えながら、メリアリスさんに尋ねようとしていた言葉を忘れて、全員で小屋を飛び出した。




 七章・了





感想とか評価とかレビューとかくれると喜びますよ(ストレート


やっとタイトル回収&切り裂き兎さんの裏側。

長かったなあ(しみじみ


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