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和室と猫と護衛依頼




「ミラ様には恥ずかしい所ばかり見せてしまって、申し訳ない」

「いえ、私は構わないのですが。ああいった事はよくあるのですか?」

「そうだね……お恥ずかしながら、無いと言ったら嘘になる」


 場所は変わり、カグラさんに連れられて別室……というか、カグラさんの個人的な部屋に通された。

 組合で寝泊まりする事もよくあるらしく、私室が設けられているらしいのだが、その私室を見て驚いた。

 全面畳張りの和室であった事に驚き、炬燵があることにも驚き、真っ先にみそぎちゃんが炬燵に向けて頭から飛び込んで行った事に苦笑した。

 カグラさんによって引っ張り出され、頭に拳骨を受けていたのは気にしない事にする。

 ゲームの中で和風の部屋を見たのは初めてだ。どこかにそういう様式の国や地方もあるのかもしれないね。


 部屋に通され、カグラさんと対面して座布団に腰を下ろす。

 まず私が座り、私の両隣に猫耳の二人……白い髪の子がメイファ、黒い髪の子がランファと言うらしい。

 背丈は私と同じかそれより少し低いくらいで、まだ子供のように見える。

 メイファちゃんがそわそわと時折私の事を見てくるのはなんなんだろうね。

 ランファちゃんはそれをみて穏やかに笑っていた。



「主に、祈り人による女子供に対する強引なパーティー勧誘やらが増えてきていてね。実際に無理矢理連れていかれて……なんだ、道具みたいに扱われたり、暴行を受けたりといった被害報告も届いている」

「……組合の方での対応は?」

「勿論行っている、と言いたいんだけどね。まず第一に、職員は冒険者同士のいざこざややり取りには基本的に手出し、口出しは出来ない。明確な犯罪行為や組合に不利益が出る事が明らかなら別だけどね。後々判明して加害者を捕らえても、祈り人相手には大して効果が無いんだ」

「最悪、自害して復活されて終わり……ですか」

「本当に、困ったものでね」


 対面に胡座をかいて座るカグラさんと、その隣にはみそぎちゃん。

 こうやって二人が並ぶと、同じ狐の獣人だからか母娘のようにも見える。

 カグラさんの尻尾にみそぎちゃんが絡み付いていたりするのを見るに、何らかの関わりはあるのだろう。


「他にも、狩人が仕掛けた罠の獲物を横取りしたり、一般の店舗で横暴な振る舞いをしたりと言った報告が多いんだ。それも殆どが祈り人で、衛兵も人手が全く足りていないし、取り締まりも行き届いていないのが現状だね」

「王都だし、人が増える事は仕方がないんだろうけど。ボク達も実際に目の当たりに……というより、当事者になるとは思ってなかった」

「断っているのにしつこくて、急に腕を掴まれたから思わず殴ってしまいました」


 カグラさんの言葉に続いたのはメイファちゃんとランファちゃん。

 組合に入るときにドアと一緒に転がってきたのを吹っ飛ばしたのはどうやらランファちゃんだったようだ。

 自分より大きな剣を片手で振り回していた辺り、見かけよりも力があるのかな。

 部屋の隅に立て掛けてある剣をちらりと見る。

 畳がすこしへこんでしまっている辺り、結構な重量がありそうだ。


「まあ、この話はこれくらいにしておこう。ここで話しても仕方がないからね」

「祈り人の件は……そうですね、私から騎士トーマに相談しておきます。彼なら何か案を出してくれるかもしれません」

「それは、助かる。それなら、狩猟組合や商業組合も含めた会議で今後、祈り人の利用や取引を制限しようっていう話も出てることを伝えてくれるかい。彼らの狩ってくる獲物の素材やらは確かに大きいが、それ以上にお痛が過ぎるってのが各所で意見が出てる」

「それは……はい、お母様にも話を持っていってみます。既知だとは思いますが、念のため」


 ううん、カグラさんはさらっと言ったけど、これだいぶ危険な状態になってるんじゃないんだろうか。

 狩人の獲物を横取りとかはそのまま住民達の生活にも繋がっているのだろうし。

 とーま君ならもう既に何か動き始めてるかもしれないけど、一応相談しておこう。

 犯罪者の肩をもつつもりはないけど、真っ当なプレイヤーが巻き添えを食らうのはいただけない。


「かーさま、ミラねーさま、むずかしー話はおわったの?」

「ああ、終ったよ。しかし、久々に顔を出したと思えばミラ様とやってきたり、なにやってたんだい?」

「みそぎはわるくないの。わるいのはめーふぁとらんふぁにろーぜきをはたらいたばかやろーなの」

「相変わらず、なんでそんなに口が悪いのかねぇこの子は」

「ええと、かーさまとは、カグラさんが?」


 話の間、カグラさんの尻尾に絡み付きながらうにやサビクと遊んでいたみそぎちゃんが遊ぶのをやめてカグラさんの隣に座る。

 座ったのだが、何を思ったのか胡座をかいたカグラさんの足の間に入り込み、座りなおしたみそぎちゃん。

 それからカグラさんの言葉にいつもの舌足らずな口調で返したみそぎちゃんだが、その呼称に首をかしげた。


「ああ、そういえば紹介がまだだったね。なんでミラ様とこの子が一緒に居たのかは後で聞くとして、まずは紹介するよ。ミラ様、うちの娘で、禊と言う。娘と言っても血は繋がっていないんだがね」

「かーさまはかーさまなの」

「はいはい。ほら、ミラ様に自己紹介」

「はいなの」


 みそぎちゃんを後ろから抱えるように腕を回して抱き締めるカグラさんと、ごろごろと喉を鳴らして甘えているみそぎちゃん。

 なんというか、微笑ましい光景で胸が温かくなるね。

 一通り甘え終わったのか、カグラさんの足の上から退いて、その隣で正座する。

 スッと、みそぎちゃんの表情が変わり背筋を伸ばす。

 ぴんと立った狐の耳がぴくりと動く。


「みつるぎかぐらかーさまのむすめ、みつるぎみそぎなの。じゅっさいなの。あらためてよろしくおねがいするの、ミラねーさま」

「うん。こちらこそよろしくね、みそぎちゃん」

「なの!」


 無事挨拶を終えて、ふんすと鼻息を鳴らすみそぎちゃん。

 お日さまのような笑顔に戻るとまたカグラさんの胡座の上に戻っていく。

 年齢の割りに難しい言葉を知っていたり、魔法の技術が高かったりと不思議な子だ。


「ラン」

「わかってますよ、メイちゃん」


 みそぎちゃんが挨拶を終えると同時に左右の猫耳娘が立ち上がり、私の右手側に二人並んで膝を折る。

 拳を畳について、頭を下げる。

 いやいやいや。

 なんで突然片膝ついて頭下げてるのこの子達。


「火影梅花と申します、聖女様」

「同じく火影、蘭花と申します」

「え、えーと。ミラ・ムフロンです……あの、カグラさん?」

「あー、なんだ。その二人……というか、メイファの方がね。ミラ様のファンなんだ」

「ふぁん?」

「なのー!」


 今度は私に突撃してきたみそぎちゃんを受け止めて膝に座らせ、再び首をかしげてみる。

 お腹に手を回して抱っこするとぽかぽか暖かくて、眠くなってきそうだね。

 メイファちゃんと、ランファちゃん。

 そういえば、どこかで見たことがあるようなないような……いつだっけ?


「私とメイちゃん……メイファは、例の防衛戦に参戦してたんです。その時に、メイちゃんは少し大きい怪我をしたんです。必死で拠点に戻って、怪我をミラ様に治してもらって以来、ボクはあの人に仕えるって言って、服装までメイドさんに変えちゃったんですよ」


 くすくすと、ランファちゃんが笑う。

 頭を下げたままのメイファちゃんの顔は首筋まで真っ赤になっているようで、ぷるぷると僅かに身体を震わせていた。

 ランファちゃんが続ける。


「聖女様は覚えていらっしゃらないとは思いますが、あの時は、誠にありがとうございました。私が姉を失わずに済んだのも、帰る場所を失わずに済んだのも、貴女様のお陰でございます」


 そう言って、ランファちゃんまで深々と頭を下げる。

 そうか。あの戦い、あの場所に居たのはプレイヤーだけじゃないんだったね。

 二人を見ていて、ようやく記憶が甦ってくる。

 あの時は次々とやってくる怪我人の治療に意識が向いていて、個人個人の顔なんて殆ど覚えて居なかったけれど。

 泣きながら、大ケガをした子を背負い、必死に助けを求めて来た女の子が居たのは覚えている。

 そうやって意識すれば、その子の顔と、目の前のランファちゃんの顔が一致した。


「私は、私の仕事をしただけですよ。王都を守ったのは、貴女達の力。どうか、頭を上げてください」

「ありがとうございます、聖女様。しかし、あの時の恩を忘れる事はしません。我々の力が必要な時があれば、いつでもお申し付けください」

「我ら二人、何時如何なる時であろうと、馳せ参じます。命の恩は命で返すのが必定、この火影梅花、ミラ・ムフロン様に生涯仕え、この牙を捧げる事を誓いましょう」


 え、えーっと。

 どこをどうやったら生涯仕えるとかいう話になるのだろう。

 なんか話が大きくなりすぎてついて行けないんだけど、どうしようかな。

 ちらりとカグラさんに目を向けて助けを求めてみる。

 私の視線に気づいたカグラさんは苦笑を浮かべながら腰を上げて、柏手を一つ。


「ほら、そこまでにしときな。アンタ達の気持ちもわかるけど、生涯仕えるだのなんだの突然言われても、ミラ様だって困ってしまうよ」

「……そうだね。でも覚えておいてくださいね、ミラ様。ボク達はミラ様の為ならなんでもします」

「メイちゃんの言うとおりです。私達の事はメイファ、ランファとお呼びくださいね」

「……お気持ちだけ、受け取っておきましょう。メイファちゃん、ランファちゃん。その時が来たら、よろしくお願いしますね」

「御意に」

「なんなりと」


 ようやく顔を上げたメイファちゃんとランファちゃんは再び立ち上がり、また私を挟むように座布団へ腰を下ろす。

 左右に猫耳、膝の上に狐耳。


 ……私より小さい女の子って、新鮮だなあ。



「さて、色々と前置きが長くなったけれども」


 そうカグラさんが切り出して、姿勢を正して私に向き直る。

 威風堂々とした佇まいは格好よいのだけれど、たまにみそぎちゃんと目があったときに頬が綻んでいるせいで威厳と言うものは全く感じられない。

 ノアさんが私と居る時もあんな顔をしているので、カグラさんも母親なんだなと思う。


「ノワイエからの先触れで、ミラ様の目的は把握しているよ。ミラ様は護衛を探しに組合に依頼を出しに来たので、あっているかい?」

「ええ。西の地下墓地に用がありまして。西は危険が多いと聞いておりますが、そこまでの護衛が可能な方は今、空いておられますか? 依頼料に関しては気にしなくて構いませんので」

「ああ、ちょうどいい人材が居るよ。しかも、待ち時間無しで紹介できる」


 また左右の二人が立ち上がる。

 まあ、さっきの話からこの流れになれば、流石の私でも予想はできるけども。


「その任、是非ボク達にお任せください」

「西の森であれば、私達の庭でありますれば」

「と、そんな訳だね。まあ、この二人なら実力的にも問題はないよ、ミラ様。このカグラが保証する」


 これは、うん。

 二人ともやる気満々だし、断るっていう選択肢は無さそうだ。

 彼女達の実力に関しても、カグラさんが言うなら間違いはなさそうだし、さっきのいざこざでも片鱗は見ている。

 カグラさんの左右に並び、片膝ついて私を見つめる二人に、頷きで返す。

 ぱあ、と。ひまわりのように笑みを浮かべるメイファちゃんと、頭を下げるランファちゃん。


「それじゃあ、カグラさん」

「手続きは任せてくれていいよ。浄化が済んでるとは言え、何が起こるかはわからないからね……あと一人か二人は連れていく事を勧めるけど、どうする?」

「そうですね、他に誰か人材は――」

「みそぎ、みそぎがいくの! みそぎはミラねーさまのごえーなの、ひきつづきにんむをすいこーするの。いっしゅくいっぱんのおんはまだかえしきれてないの!」


 元気よく片手を上げてそう宣言するのは、私の膝の上の小さな狐ちゃん。

 カグラさんの耳がへにゃりと倒れ、みそぎちゃんの立候補に対してへの字に口を曲げる。


「ていうか、めーふぁとらんふぁはみそぎのくらんめんばーなの。りーだーとしてみそぎがいかないせんたくしはないの!」


『う?』

『ぴ?』


 うにとサビクがみそぎちゃんの尻尾から何事かと顔を出した。

 また埋もれてたのか、道理で静かな訳だ。


「……ミラ様、この子と何があったんだい?」


 とりあえず、みそぎちゃんとの出会ってからの事を話しておくとしよう。










カホレンジャーは増えるもの

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