みそぎと餌付けと猫耳二人
ながい(比較的
「もきゅ……おいしいの、もぐ、いのちのおんじんなの、もきゅもきゅ」
「お饅頭もあるけど、食べる?」
「ありがたくいただくの、もぐもぐ」
現在狐耳の女の子を餌付け中である。
おなかが空いたと言っていたのでインベントリに入ったままだったサンドイッチを差し出したら飛び付いてきた。
見たところ、十歳くらいの小さな女の子。
金色の長い髪に大きな狐の耳に尻尾、ミニ袴の巫女服といった格好で、今は私の膝の上に座ってご飯を食べている。
『う?』
『ぴ?』
『う!』
そして、女の子の許可を得た上で彼女の大きなもふもふした尻尾の中に潜って遊んでいるうにとサビク。
私も撫でていいか聞いたら構わないの、優しくしてほしいのとのお返事をいただけたので食べ物を与えながらもふもふしている。
こう、直接もふもふできる獣人さんには初めて会った気がするね。
とても可愛い、お持ち帰りしたい。
「もぐもぐ……けぷっ。お腹いっぱい、みそぎは満足なの。ごちそうさまでしたの」
「ジュース飲む?」
「のむのー」
そんなこんなで三十分くらい経ったところでお食事が終了、うにとサビクが戻って来たところで話を聞く事にする。
や、だって気になるじゃない、街中で行き倒れ? てたり、色々。
「で、なんでこんなところでお腹空かせてうずくまってたの?」
「ぼーけんしゃくみあいに行く途中だったの。そのついでに新しく思いついた術を試しながら歩いてたら、途中で魔力が尽きたの。せいてんのへきれきなの」
「青天の霹靂と言うには大袈裟だし予想は出来そうだけどね、うん。なんとなくの経緯はわかったよ」
「ひかりをくっせつさせてたいしょーのぎゃくのいちにこーけーをてんしゃする術なの。思ったより魔力を使ってびっくりなの。術ははつどーしてるから誰にも気付かれずに干物になるところだったの」
光を屈折させて対象の逆の位置に光景を転写する……?
光学迷彩みたいなものだろうか。この子、何者なんだろうね。
思いつきで作れる術なのだろうかこれ。
「なの。いのちのおんじんさんの名前を教えて欲しいの」
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったね」
「みそぎはみそぎなの。みてのとおりのてんさいびしょーじょふぉっくすなの」
「みそぎちゃんか、よろしくね。私はミラ、今はミラ・ムフロンと名乗っているよ」
「ミラねーさまなの。せーじょさまだったの。みそぎの術を見破るだけあるの、すごいの」
みそぎちゃんと言うらしい。
私の膝の上で機嫌よさげに尻尾をゆらゆら揺らしている。
さて、この子が言うなら目的地は同じのようだが、こんな小さい子が何をしに組合に行くんだろう。
冒険者なのかな。
「いっしゅくいっぱんのおんは返すの。ミラねーさまはどこにいくの?」
「私もみそぎちゃんと同じ、組合に行く途中だったんだけど、一緒に行くかい?」
「それはぐっどあいであなの。たびはみちづれよはなさけってやつなの」
「うん、今使う言葉じゃないんだけど、まあいいか、可愛いし。それじゃあ、一緒に行こうか」
「これでもみそぎはせーきぼーけんしゃーなの。どうちゅーのごえーはまかせるの」
ところどころ、舌足らずなみそぎちゃん。
たぶん、実際の年齢も見た目相応なんじゃないだろうかこの子。
それでも正規冒険者ってことはカグラさんが認めたって事で、やはりただの幼女という訳ではなさそうだね。
さらに十分ほど食休みをさせて、二人で手を繋いで歩き始める。
光学迷彩の術とやらは解除したのか、普通にすれ違う住民達と挨拶を交わしていた。
その際私に気付いた住民さん達に握手やらなんやらを求められたのもまあ、仕方ない事だろう。
「ミラねーさまはにんきものなの。さすがせーじょさまなの」
「いやいや、みそぎちゃんも結構な人気者じゃないか。お陰で両手がふさがってしまったね」
「たくさんもらったの。あとでたべるの」
「あ、組合が見えてきたよ」
「なの」
両手一杯の紙袋を抱え直し、みそぎちゃんと道を歩く。
進むたびに誰かに声をかけられお菓子をもらい、屋台の前を通れば食べ物をもらい、ベンチに座っていたお婆ちゃんに飴をもらったりして、組合に到着する頃には現在の有り様で。
インベントリに仕舞う暇もなくひっきりなしに声をかけられるとは思っていなかった。
もうこれ、住民全てに知れ渡ってるんじゃないのかな。
「? じょーかまちでせーじょミラさまを知らない人なんていないの。まちをおそった骨をじょーかしてみんなをすくったの」
「戦ったのは私じゃないんだけどね」
「それはけんそんなの。ミラねーさまが居なかったらしゅよーせんりょくのほとんどはそろってなかったってかーさまが言ってたの」
「そういうものなのかな?」
「そーいうものなの」
そんなことを言い合いながら組合の前へたどり着く。
一息ついて、自分とみそぎちゃんの持っていた荷物を一旦インベントリに仕舞い込み扉に手を伸ばす。
みそぎちゃんが何故か絶望した顔をしていたが、後で分けようねと言ったらお日さま笑顔に戻っていた。
お菓子を独り占めしたと思われでもしたのだろうか。
お持ち帰りしちゃダメだろうか。
と、そんな事を考えていた。
「ミラねーさま、下がるの」
「へ?」
にゅるん、と。
みそぎちゃんの尻尾が私の腰に巻き付き、扉の前から引き離した。
扉から離れるようにみそぎちゃんが後ろに跳び、私の身体も移動する。
直後、扉が吹き飛んだ。
「ありがとう、みそぎちゃん」
「ごえーのつとめなの」
「頼りになる護衛さんで嬉しいね」
「えっへん、なの」
みそぎちゃんに下ろしてもらい、地面に立つ。
吹き飛んで行った扉と、それと一緒に転がっていく人物が一人。
なーんかどっかで見たことのある光景だなあとか思いつつ、みそぎちゃんと一緒に組合の中を覗きこむ。
「てめえ、何しやがる!」
「何をするも何も、ここはお見合い会場でもなければ、ナンパする場所でもない。盛るなら色町にでも行ってほしい」
「んだとこのガキ!」
五人の男に二人の女の子が囲まれているようだった。
かたや、白い肩までの髪で何故かメイド服を着た猫耳の女の子。
かたや、黒く腰までの髪で何故か着物に割烹着な猫耳の女の子。
組合内には他に人がいないようで、職員だけが様子を伺ったり、奥へ走って行ったりと動いている。
「えっと、私達、パーティーメンバーは募集していませんし、今日はお友だちと約束があって来ているので」
「だから、そのお友だちも一緒に入れてやるっつってんだろ!」
「うるさい、叫ばないで。ボク達は求めていないと言ってる、しつこいよ」
なんていうか、前回とは状況が違うっぽいけど、ここはアクシデントとイベントの宝庫か何かなのだろうか。
様子を伺いつつ、装備を確認して行く。
腰の二本の短剣に、背中に背負うノアさんに貰った先の曲がった杖。
みそぎちゃんも私の意図を察したのだろうか、ふんすと鼻息を鳴らしていつでも行けるぞと前傾姿勢で構えていた。
「みそぎのともだちにてをだすやつらはがいしゅーいっしょくでぶちのめすの」
「あ、あの二人の言ってるお友達ってみそぎちゃんなんだ」
「なの。えんりょはいらねーの。ごーいんなぱーてぃーかんゆーはきそくいはんなの。ぱーてぃーめんばーががいとうのひがいをうけているばあいぶりょくによるせいあつはきょかされているの。らちみすいなの」
「オーケー、それじゃあ……あ、一応手加減はするようにね?」
「ぜんしょするの」
まず最初にみそぎちゃんが駆け出して、静かに跳躍すれば両足を揃え、こちらに背中を向けている一人の後頭部へと突っ込んで行った。
見事なドロップキックが決まったところで、聖女スタイルに装備を変更、入り口から組合内へ。
突然の出来事に固まっている二人の少女と残り四人の男達。
そして、私の姿に気付いた組合職員の一人と目が合い、にっこり微笑んで見せた。
流石に、職員さんは動きが早いね。
「めーふぁ、らんふぁ、たすけにきたのーっ!」
「えっ、えっ、みそぎちゃん!?」
「待ち合わせから一時間遅れだよ、みそぎ」
「な、な、なにしやがるっ!?」
チンピラってのは、なにしやがるしか言うことが無いのだろうか。
軽く床を蹴って跳躍し、天井近くまで飛び上がる。
最近忘れているが、私のステータスは敏捷特化、やろうと思えばこれくらいはできる。
二人の猫耳ちゃんの前に立ちふさがるみそぎちゃんに、警戒して少し距離をあけた四人の間に向かって落下する。
その際背中から杖を引き抜いて、着地と同時に石突きで床を突いて大きく音を立てるようにする。
突然降ってきて大きな音を鳴らせば、男達はまたさらに一歩下がる。
「強引なパーティー勧誘は規則違反とうかがっていますが……あなたがたは何をしてらっしゃるのでしょうか? 聞いていたところ、彼女達は嫌がっている様子ですし。大人が複数で女の子を囲んで怒鳴り散らすとは、何事ですか?」
「なんなんだよ次から次と! 俺達はそいつらが依頼板見てたからパーティーに入れてやろうっつっただけだろ!」
「見習いのガキを正規の俺らの雑用に入れてやるんだからむしろ感謝しろよ!」
とりあえず会話を試みてみるが。
ううむ、本当に言葉が通じているのだろうか、これ。
私無意識に精霊語話したりしてないよね?
「とんだろりこんなの。きもちわるいの。ふけつなの。このよからまっしょーしてもゆるされるの」
「ええと、駄目ですよ、みそぎちゃん? 一応、彼らも人ですから」
「そのヴェール……金の髪? まさか、うわぁ、うわぁ、どうしよう、ラン」
「え? あら、メイちゃん? ああ、成る程」
四人が私を睨み、見下ろす。
そのまま見下ろした視線が一部に集まっているのはもう現実でも慣れたものだが、不快感極まるね。
なぜどこの世界どこの国でも同じような視線を向けられなければならないのか。
ていうか本気で聞きたいのだが、男性諸君はばれていないと思っているのかな。
「彼女らはあなたがたとパーティーを組むのを拒否しました。それでも強引に勧誘し、彼女らを連れて行こうとするのであれば、この場に居合わせた以上、私の権限を持ってあなたがたに然るべき対応を行う事になりますが?」
「突然出て来てなんなんだよこのガキ!」
「NPCが調子乗ってんじゃねーぞ!」
「代わりにお前が俺たちのパーティーに入るってならそっちのは許してやってもいいけどな!」
ていうか、この人達は住民なのかプレイヤーなのか。
いや、プレイヤーなんだろうけど、そうだとしたらこういう輩は定期的に発生する仕組みでもあるのだろうか?
私の事は知らないらしいけど、正規冒険者は名乗っているし、私が居ない間に新しく始めた人達なのだろうか。
「そっちの黒いのと、おっぱいでかい二匹だけいりゃいいからよ!」
下劣である。
そして、ぶちんと。
私ではなく、私の背後でそんな気配がした。
うん、ここにはスヴィータもアリサもとーま君も居ない筈なんだけど、なんだろうこの悪寒。
今すぐこいつらをどうにかしないと惨劇が起こるような起こらないような――。
「みそぎはひんにゅーじゃないの、まだまだせいちょうきなの。それはともかくおんなのてきなの」
「メイちゃんはそっちの二人ね。私はそっちの二人を殺ります」
「了解。雷迅装」
びゅんと風が吹いて、髪が揺れた。
私の背後から飛び出したのはスヴィータとはまた違う白いメイドさん。
真正面の男に稲妻を纏った拳を叩きつけ、真っ直ぐに組合の出口へと吹き飛ばす。
流れるように身体を捻り、伸ばされた蹴りは吸い込まれるようにもう一人の男へ。
再び稲光が走り、組合の壁へと叩きつけた。
おそらく、最初に扉を壊したのもこれだったのだろうか、脚を突きだしたままの姿勢で、真っ直ぐに敵を見据えている。
「聖女様に手を出すって言うのなら、穏便に済むと思うな」
「そうですね。ていうか、なんですかおっぱいでかい二人って。メイちゃんの魅力もわからないんですか、ゴミですか」
「へぐぁっ!?」
続いて逆サイドから吹いた風は黒。
前方の二人を纏めて薙いだのは巨大な鉄の塊……鞘に入ったままの、持ち主の身長よりも二倍近い長さの巨大な剣。
それを振るい抜いた黒い割烹着の少女。
こっちの子はなんか別のベクトルの……そう、たまーにアリサから漂う妙な雰囲気を感じる。
「みそぎもまけてられないの! 我乞い願うは氷神の恩寵、絶対なる息吹の抱擁を以て終焉を与えん! えたーなるふぉーすぶり――」
「組合を消し飛ばす気かこの馬鹿者が!」
「なににょっ!?」
そして、どこから聞いても物騒な詠唱を行うみそぎちゃんの頭に拳骨を落として中断させたカグラさんの登場と同時に、蹴散らされた男達は職員によって捕縛。
事態は終結に至るのであった。
……私、結局何もしてないね、うん。
効果:あいてはしぬ




