浄化とお宿とアリシエル
会話が
多いよ!
〈ワールドクエスト:不死者の行軍が終了しました〉
〈参加した全プレイヤーにボーナスポイント、スキルポイント、各種経験値が付与されました〉
〈参加した全プレイヤーに報酬アイテムが付与されました〉
〈各種MVPプレイヤーには個別に特別報酬が付与されました〉
〈ワールドクエスト成功ランクが規定値を越えている為、クランシステムが開放されました〉
ファンファーレと共に、大量のインフォメーションが一気に流れ出す。
レキシファーのHPがゼロになったから、ワールドクエストが終わったのだろう。
目の前の割れた頭蓋骨とボロボロのローブ。
膝の上の王冠を両手で持ち上げて、インベントリに仕舞いこむ。
ゆっくり立ち上がり、今まで呼んでこなかったそれを呼ぶ。
「神杖・ケーリュケイオン」
二匹の蛇が巻き付き、翼の装飾が施された短杖。
インベントリから取り出し、装備すればそれは独りでに宙に浮かび、私の周囲をくるくると周り始める。
出番を待っていたと言わんばかりに私の目の前で停止して、私の意図を汲むように一つの魔法を提示する。
黒い本を呼んで左の手のひらの上で開く、右の手のひらは宙に浮かぶ杖へ。
『善なるもの、悪なるもの、全てに等しき安らぎを。ディバイン・プリフィケーション』
ディバインの名を冠する二つ目の魔法をレキシファーの骸へと解き放つ。
真っ直ぐに空を貫く光柱がレキシファーの身体を包んで、光で呑み込む。
光柱から放たれる波紋が夜闇を照らし、私の中の瘴気ごと光の照らす範囲全てを浄化する。
「おやすみ、ありがとう」
光に導かれるようにレキシファーが光の粒子になって空へ昇っていく。
本からティムとメサルが飛び出して、私の左右で共に光を見送るように。
根本から光柱が消えて行くまで、黙ってそれを見送って。
『ミラ様、お身体は大丈夫ですか?』
『ミラちゃん、へーき?』
『ぴゃー?』
「うん、平気だよ。君達はレキシファーの話は聞いていたかい?」
『いえ、ミラ様の身体を瘴気が汚染するのを遅らせるのに尽力しておりました……大事な時にお力になれず、申し訳ありません』
『ごめんね。少しだけ、魂まで届いちゃった……』
『ぴー』
暫く静かだと思ったら、メサル達も頑張ってくれていたんだね。
申し訳なさそうにすり寄ってくる二人を撫でて、その後に首のサビクも撫でてやる。
一応、後でステータスとかもチェックしておいた方が良さそうなのかな。
たまにはワールドクエスト関連のインフォメーション以外を纏めて表示して確認をするべきだろう。
「ミーリャ、終わったのね」
「……今の光は、ううん、今は何も聞かない。それよりも、他の傭兵達が戻ってくる前にこの場を離れよう」
「そちらもお話は終わったのですか? なら、移動しましょうか」
背後から聞こえた声にティム、メサル、サビクが身を隠す。
戻ってきたアリサとシエルさんの手を借りて、クレーターから脱出して二人の言う通りに移動を始める。
一応王都の門の前だし、プレイヤー達もこちらに戻ってくるだろう。
とーまくんとスヴィータには連絡しておいて、さっさと退散するとしよう。
「ミラ様、お疲れ様です。レオリシェルテ王女殿下も、協力感謝します。……君は、はじめましてかな。私はカグラ、冒険者組合の一番偉い人だよ」
「自己紹介なんて必要ないから、お偉いさんだって言うならこの場の後始末は任せるわよ。別にミーリャが残ってやる事なんてないんでしょう?」
「私も残って手伝うから、アリシエルはミラをお願い」
「言われなくてもミーリャは私が面倒みるから問題ないわ。それじゃ、この場は頼むわよ、リーシェ」
「任された」
「王女殿下が残ってくれるなら助かるよ……まあ、ミラ様が何も言わないならいいさ。南の地区に宿を用意しておいた、これが地図だよ」
「気が利くじゃない。ミーリャ、スヴィータへの連絡は任せるわ」
アリサ……こっちではどうやらアリシエルと言うらしい彼女に手を引かれて門をくぐる。
カグラさんとシエルさんが私達を追おうとする何人かのプレイヤーを引き留め、門前に立ち塞がっているのが見えた。
今は人に囲まれたくはないし、どうやってボスを倒したのかとか聞かれても答えようがない。
「ミーリャ、歩ける?」
「うん、大丈夫だよ。それと、アーシャ、こっちではミラね。私もアリシエルって呼ぶから」
「あら、別にいいじゃない。ミラならミーリャでも」
「ミーリャって名前は他に使い道を考えてるから、お願い」
「ああ、そういえば貴女、今次期聖女なんてやってるんですっけ。偽名にでも使う訳ね」
「理解が早くて助かるよ、アリシエル」
「ま、仕方ないか。それじゃあさっさと転移して南まで行くわよ。用意してくれた宿とやらを使わせて貰いましょ」
ここからなら聖区の方がとも思ったが、部外者のアリシエルが立ち入れるかわからないので従い、女神像を使って転移し、南へ。
カグラさんから貰った地図を頼りにたどり着いた宿屋に入り、カグラさんの案内で来たと伝えた。
狐の獣人の女の子に部屋まで通され、一番奥の角部屋へ。
ベッドが四つにテーブルとクローゼットのある四人用の部屋で、四つの内の一つに腰を下ろしてようやく一息ついた。
「……アリシエル、ううん、今はアーシャでいいや。アーシャ、ありがと、助かったよ」
「ん、遅れてごめんなさいね、ミーリャ。アレのアンデッドの制御を奪うのに手間取っちゃったの。間に合って良かったわ」
隣に腰かけたアリサに肩を寄せると、そのまま引き寄せられて互いに互いを抱き締める。
あの時アリサが来ていなければ、私とシエルさんは間違いなく死んでいただろう。
レキシファーの目的が私だったのなら、もしかしたら私は死ななかったかもしれないけれど、私を庇っていたこの国の第一王女様が命を落としていたかもしれない。
王都の防衛を任されておいて、何も出来なかった自分に腹が立って、彼女の胸に顔を埋める。
「ミーリャ、あいつとどんな話をしたの?」
「まずは、アーシャのあの鎧さんが英霊だって教えて貰った」
「あら、気になる?」
「うん」
二メートルの鎧の軍団とか、気にならない訳がない。
間違いなく防ぎきれずに死ぬと思った攻撃を簡単に防ぎきって、圧倒的なまでにレキシファーを無力化にまで追いやった人たちだ。
いつの間にか姿を消していたけど、出てきた時と同じように地面の下に潜っているのだろうか。
「そうね。それじゃあ、私の記憶の事からお話ししましょうか」
「アーシャ? 記憶に関係してるなら、話さなくても……」
「私のは別に話しても影響ないから平気。私に合わせて自分も話そうなんて思わなくていいからね?」
「……アーシャがそう言うなら」
そのまま身体がずり落ちて、横になる。
アリサの膝に頭を預けて、仰向けに。
アリサの手が私の頭を撫でて、アリサの眼が私を見詰めている。
「私ね、一回死んでるのよ」
「……へ?」
「記憶の中では小さな女の子でね。住んでた村が襲われてたの。記憶の中のパーパとマーマが家から出ていって、お姉ちゃんと二人で家に隠れていたわ」
「アーシャ、話したくないなら」
「いいって言ってるでしょ。周りの家が燃えて、色んな人の悲鳴が聞こえたわ。襲って来てた奴らの目的は私のお姉ちゃんだったわ。お姉ちゃんは村でも特殊な役割を持っていて、その証である首飾りを常につけていたわ」
アリサが胸元を広げ、首に下げられた月を模した首飾りを私に見せる。
「パーパもマーマも、お姉ちゃんを守る為に死んだわ。記憶の中の私が考えていたのは、自分もお姉ちゃんを守るんだっていう事だけ。お姉ちゃんを守るためにどうすればいいかって必死に考えたわ。だからね、私はお姉ちゃんの持っていた巫女の証の首飾りを奪って、お姉ちゃんを戸棚に閉じ込めて」
「……まさか」
「お姉ちゃんの代わりに、私が殺されればお姉ちゃんは助かると考えたわ。小さな私の試みは大成功。襲ってきた奴等は首飾りを持ってる私をお姉ちゃんだと勘違いして、殺した。証拠の首飾りも持っていって、ろくに確かめずもせずに出ていったわ」
一度言葉が途切れ、彼女の顔が天井へと向けられる。
少しの静寂。
たっぷり十秒ほど経って、アリサは上を向いたまま言葉を続けた。
「バカよね。そんな事をして、お姉ちゃんが喜ぶ訳ないのにね。死んでいく私を抱えて、お姉ちゃんは泣いてたわ。泣いて、叫んで、そして」
彼女は私を見下ろして。
「唯一生き残ったお姉ちゃんは、復讐と呪いに囚われたわ。お姉ちゃんはたった一人で、がむしゃらに自分を虐めて、鍛えて、力を付けて。ただ唯一、私達を殺した奴等を皆殺しにする為に。それだけを目標にして生き続けた」
アリサがインベントリから取り出したのは、彼女が背負っていた巨大なハンマー。
片手で軽々と保持して、ベッドへと立て掛けた。
「このハンマーはね。お姉ちゃんがとある人に弟子入りして、スキルを学び終えた時に餞別として作って貰ったらしい二つの武器の内の一つなの。魔導式鉄甲破砕鎚。お姉ちゃんはこれを自分で使わずに、私の為に、村に残して行ったわ」
ごとんと音を立ててハンマーがずれる。
アリサの顔を見上げる、手を伸ばす。
アリサは私の手を握ってくれる。
「……お姉ちゃんは復讐を果たしたわ。住民は全て殺して、唯一の関係した記憶を持った記憶持ちも永遠の眠りにつかせた。その後、取り返した首飾りをこの武器と一緒に置いて、永い眠りについた。お姉ちゃんの身体は未だに眠り続けていて、未だに一度も目覚めた事はないそうよ」
「ねえアーシャ。なんで、その後の事も知ってるの?」
「お姉ちゃんの名前はメリアリス。私と同じ兎族の、祈り人、プレイヤーよ。なんで知ってるかって言われるとね、さっき聞いたからよ。他の誰でもない、お姉ちゃんが弟子入りして、スキルを学び、二つの武器を作り手渡していた師匠にね」
「その師匠って、シエルさん?」
「そう。レオリシェルテ・レオニスがお姉ちゃんの師匠。アルケミック・アーツ……ミーリャも見ていたでしょう。あれを学ぶために、当時は冒険者としてお忍びで活動していた第一王女に弟子入りしてたのよ。レオリシェルテもお姉ちゃんの目的を知って、自分から協力したらしいわ。装備や衣食住に訓練、事件の揉み消しまで色々とね」
「……さっきリーシェって呼んでたのは?」
「メリアリスの妹なら、私の妹も同然だからリーシェでいいって言うのよ。ああ、ミーリャも今度会ったらリーシェって呼んでくれって言ってたわよ? メリアリスの妹の妹なら、私の妹だーって」
「無茶苦茶だね」
「全くよ」
ハンマーが姿を消して、代わりに私の頭にアリサの手のひらが乗る。
記憶というのは、本当に様々な物があって、一人一人に色んなしがらみがあるのだと改めて思う。
アリサと、アリサの記憶の中のお姉ちゃん。
お姉ちゃんが長い眠りについたと言うのは、きっとログアウトしたまま戻ってきていない……ゲームを引退した、という事なのだろう。
とーまくんやスヴィータから色々と教えて貰ったものの中に、アカウントが残っている限りはその祈り人の身体はこの世界で眠り続ける事になるらしい。
そして、シエルさん……リーシェさんは、メリアリスさんが目覚めるのを待っているのかもしれない。
「……メリアリスさん、戻ってきてくれるといいのにね」
「全くよ。借りを作ったままじゃ私の気が済まないもの。さて、色々と脱線したわね。私は死んだわ。そして、私達の村は滅んだ……でもね、私達の村は西の森の奥にあって、その近くには、とある地下墓地が広がっていたの」
「レキシファー?」
「そう。殺されて、けど成仏も出来なかったパーパにマーマ、村のみんなは呪いとして焼け落ちた村にとどまった。最後に死んだ私の魂を守って、どんどんと呪いを強くして、ある日あいつが村に来たわ。あいつは私に言ったの、自分の後継者にならないかってね。私は死んでる。私のこの身体は焼け落ちた村の呪い達が作ってくれたもの。呪いと同化していたパーパやマーマ、みんなの魂は私と一つになった。私はレキシファーの力と魔力と知識を受け継いで、自分で自分を操って、不死者になったわ」
ああ、だからか。
彼女から温もりを感じないのは。
彼女の心地よい胸の鼓動を感じないのは。
彼女の色が褪せているのは。
彼女の灯す光が、普通とは違うのは。
「パーパとマーマとみんな、私とお姉ちゃんを除いた村人の数は四十四人」
「鎧の数と同じだね」
「パーパとマーマ、村長と、私達姉妹と仲の良かったお兄ちゃんがエインヘリヤル・レギオン・ヴァンガードに。残りのみんなはエインヘリヤル・レギオン・ガードナー、エインヘリヤル・レギオン・セイバー、エインヘリヤル・レギオン・セージ、エインヘリヤル・レギオン・アーチャーとして、私の死霊として護ると自分達から訴えてきたのよ。英霊でありながら、悪霊であり呪いでもある四十四の騎士、これが私の死霊魔法。あの規模で運用するには紅月と、高密度の瘴気と、夜とか、色々と条件はあるけどね」
「アーシャはさ、これからどうするの?」
「どうするって、決まってるじゃない、ミーリャと一緒にいるわ。復讐する相手もいない。お姉ちゃんもいない。でも、私は今ここにいて、お姉ちゃんの残してくれた装備をつけて、その力で私の妹を護れる」
ふふん、と。
アリサが自信満々の笑みを浮かべて見せる。
少しばかり傲慢で、少しばかり強引で、少しばかりうっかりやな。
大好きなお姉ちゃんが見せるいつもの笑みだ。
「それじゃあ、やっぱりレキシファーには感謝しないといけないよね」
「……まあ、そうね」
「私、レキシファーの居た地下墓地に行こうと思うんだ。彼と話した事もぜんぶそこで話すから、ついてきてくれる?」
「ふん、誰に言ってるのよ。お姉ちゃんに任せておきなさい」
トントントンと足音が聞こえ、直後に部屋のドアを叩く音。
アリサと顔を見合わせて、身体を起こす。
「お嬢様、私です。同行はトーマクン様だけです」
「いやー、迷子を追い払うのに苦労しましたよ」
部屋の外から聞こえる声に、どうぞと返事を返す。
とーまくんの声を聞いた瞬間にアリサの顔から表情が抜け落ちた気がしたけれど、気にしない。
とーまくんには早速がんばってもらう必要がありそうだね。
「……うん、これからよろしくね、アリシエル」
「ええ。まずは、神殿騎士とやらにならないとね」
「そんなにぽんぽん簡単になれていいのかなあ、神殿騎士」
まあ、お姉ちゃんならあっという間になっていそうだけどね。
毎度感想ブクマ評価等々ありがとうございます。
お姉ちゃん本格加入。
カホレンジャーが増殖しましたね。




