イベント開始と拠点とゾンビ
〈ワールドクエスト:不死者の行軍、最終段階が開始されます〉
〈これまでのアンデッド討伐数により敵軍勢の脅威度が決定されます〉
〈プレイヤーはNPCと協力し、王都を防衛してください〉
〈勝利条件:ボスモンスターの撃破、敗北条件:一定数のアンデッドによる王都到達〉
周囲からはプレイヤー達の歓声と雄叫びが響いてくる。
今私がいるのは王都の西門前の防衛拠点。
防衛拠点と言ってもバリケードと治療などを行い怪我人を休ませるためのテントがたっているだけの簡単なもので、総指揮官のカグラさんと共に戦場の最後方に位置している。
この防衛拠点には支援役のプレイヤーや住人の冒険者や神官達で集まり、それを護衛するための少なくない兵士や冒険者達。
私のすぐ後ろには王都の門があり、ここを通せば負けという訳だ。
運営からのワールドクエスト開始のアナウンスと同時に西の森側から大量のアンデッドが発生したとの伝令が届き、カグラさんが作戦の開始を指示。
時刻は夕刻前……彼女の読みは正しかったようだ。
「総長、まだリッチ系のアンデッドは確認できません!」
「敵総数は不明、次々に地面や森の中から現れています!」
「今のところ戦線は安定しています」
「油断するなよ! 足元から襲われるかもしれん、警戒は十全にしておけ」
「了解!」
ひっきりなしに人がやってきては、カグラさんに報告を行い去っていく。
去り際に私に頭を下げていく人が多くいて、その殆どはやはり住民のようだった。
私……次期聖女の噂だかはもう完全に王都の住民には広まっているようで、姿絵まで出回っていると聞いた時には少しだけ意識が遠くなった。
本業と変わらないでしょうとスヴィータに言われはしたが、これはこれ、それはそれである。
「騎士トーマ、狼は貸してくれないのかい!」
「こんな序盤の序盤にぼくが出たらみんなの経験にならないでしょう? 戦いはまだまだこれからなんです、相手に手札を見せる必要もまだありませんよ」
「……それもそうか。ミラ様は重傷の子が運ばれてきたら治療をお願いします!」
「ええ、お任せください。でも、できるだけ怪我はしないように言ってくださいね?」
「聞いたなお前ら! 怪我するなよ!」
正直、暇である。
スヴィータは私の護衛で張り付いており、とーまくんはカグラさんと同じように色んな報告を受けては指示にと忙しそうだ。
どうやらとーまくんはこの戦闘のプレイヤー達の総指揮官とやらに選ばれたらしく、そもそも前に出る事が好ましくなくなったらしい。
代わりに、専用のイベントチャットやらなんやらでプレイヤー達に指示を出したり、神殿から派遣されてきた住人の神官達に指示を出したりと忙しそうにしている。
私の今の装備はいつもの聖女セットと短剣二本。
そして、神殿が用意してくれていた装備の中にあった布でくるまれた細長い包み。
紐解いたそれは一本の杖で、先がフックのように曲がった、いつかノアさんが持っていたのと同じものだった。
鑑定をかけても情報が表示されない辺り、ニーナさんから貰った黒い本と同じく危険な香りがするね。
「……報告! 敵アンデッド、ゾンビ種は情報通りに討伐後一定時間でスケルトンとして復活するようです! 神官の報告では浄化耐性が高く、火で焼くか物理的に沈黙させる必要があると!」
「神官を下げて支援に回らせろ! 弓兵には火矢の使用を通達!」
「カグラ総長、こっちも同様の報告がきてます。あと、軍勢の最後尾にリッチを二体確認したそうです」
「さすがは祈り人だね! しかし、早い登場だね……各員、リッチの存在が確認された! 数は二、目視次第散開して迎撃! 魔法で一網打尽にされるなよ!」
しかし、さっきのアナウンスの敗北条件には一定数のアンデッドの王都到達ってあったけど、私の所に来た運営からのメッセージはなんだったのだろうか。
最終防衛目標を私にするってあったけど、今のところそんな気配はないし流れでもない。
もう少しイベントが進んだら何か変化があると見るべきだろうか。
……しかし、私が狙われる理由っていうのが特に思い浮かばないんだけども。
『見てるだけー、暇だねー』
『いけませんよ、ティム。これもミラ様のお仕事なんですからね』
『ぴ! あんでっど! した!』
『ミラ様!』
「魔法は装填済みだよ、浄化耐性があるって言ってたけど……通るのかな?」
ボコンと地面が脹らみ、そこから腕が生える。
とーまくんやスヴィータが反応するよりも早く、杖をかざして装填していた魔法を放つ。
一応、声には出しておこうね。
「ホーリーライト」
しかし、拠点に直接現れるとか難易度が鬼畜すぎやしないだろうか。
今現れたのは三体のゾンビだったが、これから数が増えて乗り込んでくるとなると少し不安になる。
ホーリーライトを受けたゾンビは灰になって崩れ落ちていくが、まだ油断はしてはいけない。
倒したゾンビはスケルトンになって甦るというのは身に染みて理解しているからね。
「ミラ様、大丈夫かい!」
「お嬢様!」
「あー、平気平気。それよりも、スケルトンの警戒しておいて」
「浄化耐性持ちのゾンビを一撃ですか……A極とは思えない火力ですね、ミラさん」
「んー、装備の力だと思うよ、とーまくん」
杖にホーリーライトを装填し直して、用意されている椅子に腰を下ろす。
ゾンビがスケルトンとして復活するのは約一分程で、防衛拠点の護衛役の兵士達が武器を構えてゾンビの居た場所を囲んでいる。
「ありがと、サビク。また敵が来たらよろしくね」
『ぴ!』
「お嬢様? 自身で動かず、我々に指示を出してくださいますか? ノワイエ様に言いつけますよ?」
「……次からはオネガイシマス」
「よろしい」
真顔のスヴィータに肩を掴まれてオネガイされたりもしたが、それ以外に特に変化もなく。
たまに油断して怪我をおったプレイヤーや住民が運ばれてくるのをヒールしたり、不定期に地面から這い出てくるアンデッドを討伐したりして一時間程が経過した。
リッチとやらが戦場に現れたのは最初の報告の二体だけで、そのリッチもプレイヤーによって討伐されたとはとーまくんが言う。
「依然、敵の数は減らず! それどころか徐々に増えているようで、処理が追い付きません!」
「もう少しで夜になっちまうね……拠点を中心に火を焚きな! 完全に暗くなる前にケリをつけないとまずいよ!」
空が赤く染まりはじめ、夜へのカウントダウンが始まる。
アンデッドの本領発揮は月が出る夜の時間、まだ明るい今は序の口どころか浄化耐性があったとしても弱体化もいいところだと思う。
一時間たって、未だに敵の親玉すら現れていない状況。
本番は間違いなく暗くなってからで、今は前哨戦か……下手したら小手調べ、こちらの戦力を削ぐのが目的かもしれない。
「報告! 再びリッチ、右翼側に三!」
「報告! さらに左翼にもリッチ、数は二です!」
「祈り人を中心に一体ずつ各個撃破していけ! 怪我人はまとめて運んできな!」
「狼型のアンデッドが出現! さらにゴブリン、ロックリザード型も確認しました!」
「手当たり次第にアンデッドにしてるって訳か! 次期聖女様がいるからって、絶対に通すんじゃないよ!」
あちこちで爆発音が響き、空に登る火柱がここからでも見える。
治療の為に戻ってくる者、治療を終えてまた戦場へ向かう者。
現在、プレイヤーも住民にも死者はいないが、報告通りならこれからもっと強力なアンデッドが増えてくるのだろう。
「……住民には、死んでほしくないね」
「お気持ちはわかりますが、彼らも自分達の国を守る戦いをただ人に任せて見ているだけなのは我慢ならないでしょう」
「そうだけどね。私たち治療役が頑張るしかないか」
「御身は必ずお守りしますので、存分にお奮いください」
『ぴ! みーりゃ!』
「また来るよ! スヴィータ、とーまくん、全員迎撃を……ふぇ?」
もう何度めかわからない拠点への直接攻撃。
今までは普通のゾンビだったし、今回もそうだと思い、サビクが示した発生予想に目を向けたところで、言葉が詰まる。
ぼこりと地面が脹らみ突き出た腕までは変わらない、が。
「……お嬢様、お下がりを!」
「他の子も下がれ、ヒーラーの護衛に集中しろ!」
「こんなの報告にないぞ!」
突き出た腕は丸太のように太く、這い出てきたゾンビは相応に大きく巨大で。
太った巨人のゾンビと言えば伝わるだろうか。
びちゃびちゃと涎を振り撒き、眼窟には腐った目玉が片方だけ赤く光っている。
「騎士トーマ、騎士スヴィータ、神剣の抜刀を許可します……そして、私も参加しますよ」
「……了解です、お嬢様。神剣、抜刀」
「総長はその子達を守っててください! こいつは僕たちが!」
「仕方ないか……任せたよ、トーマ、スヴィータ! ミラ様は無理しないでください!」
カグラさんと兵士達にはヒーラーの子達を守ってもらわなければならないし、明らかに危険そうなのを住民の兵士達に相手させる訳にもいかないだろう。
スヴィータが刀を抜き、とーまくんが籠手を装着して弓を握る。
私は……前に出たら怒られそうだし、短剣であれをどうにか出来るとは思えないので素直に魔法による支援で行こう。
短剣がもう少し長ければいいのにね。
「出来るだけ早く片付けます。拠点にこんなのがいたのでは、衛生的にも悪いですからね」
「お嬢様には指一本触れさせませんよ、騎士トーマ」
「勿論。ヴォルフ!」
「行きます……ホーリーライト!」
巨大ゾンビの顔面にホーリーライトを撃ち込むのと同時に
、騎士二人が駆け出し戦闘を開始した。
これ、戦ってる間にも他のゾンビが現れて突破されたりしたら怖いね。
注意しておこうかな。
参加者に暇を与えさせない運営の鑑




