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レベルアップと指輪と更なる決意

 

 

 

 現在ゴブリンと睨み合い中。

 

「メサル、戦闘に使えるアーツって何がある?」

『現在のミラ様ですと、光系統魔法のライトバレットとヒール以外に存在しませんね。他は全てパッシブですし、操糸に関しては必要な装備が不足しております』

「必要な装備?」

『読んで字の如く、糸でございますね』

「成る程納得」


 腰の鞘から短剣を抜いて、両手に握る。

 ざっと確認してみたのだが、右の短剣は分厚く、鋭さは感じられなくて。逆に、左の短剣は片刃の鋭利な刃物でどちらかと言うとナイフに近い。

 少なくとも右の短剣では相手を斬る事はできそうにないね、せいぜい殴りつけられるくらいだろうか。


「そう言えば、短剣のアーツはパリングだっけ?」


 くるりと一度、右手の平で短剣を回して逆手に持つ。

 左の短剣はそのまま順手に構え、右半身を前にして左手の刃を身体で隠す。


『ゲッ、ゲッ』

『ミラ様は、剣の扱いをご存知で?』

「まさか。使った事はないよ。でもまあ、雑多な知識だけはそれなりにあるんだ」


 最初の勢いはどこへやら。

 奇襲が失敗したからか、こちらが武器を構えたからなのか。

 ゴブリンが一定の距離を取りつつ様子を伺っているのをいいことにメサルと言葉を交わす。

 相手も、数度の経験で単純な飛びかかりは通用しないと理解しているのだろうか。

 随分と優秀なAIだかEIだかを使っているように思える。


『一般的なゴブリンですね。武器も持っていないところから、最下級のもののようです。この森を抜ければ、人の集落なり街なりがありそうです』

「街? 何か根拠はあるの?」

『ええ。ゴブリンは、人の居る場所にしか生息しませんので』

「……その理由は聞かないでおくよ。そろそろ、仕掛ける」

『ご武運を』

『ミラちゃん、ファイト!』


 ゴブリンの攻撃を避けた時の事を思い出す。

 身体がまるで羽のように軽く感じて、一瞬で景色を置き去りにして驚いた。

 その割にティムを掴める程に意識も身体も判断も追い付いている。

 Agiにポイントを全て振った上で、敏捷強化と感覚強化の恩恵だろうと推測しつつ、トントンと爪先で軽く地面を叩く。

 スキル選択の時のナビさんのアドバイスは、早速役に立っているようだ。

 ……よし。


「……ふっ!」


 軽く息を吸い、吐くのと同時に地面を蹴る。

 右手の分厚い短剣を水平にして前へ。

 左手の短剣は真っ直ぐに、腕の延長であるようにして、伸ばして垂らす。

 ゴブリンの目が見開かれるのを見て、笑みを溢す。

 三歩も使わず、十メートル近くを駆け抜けた。

 目の前には緑色の小人。身体を捻り、一点を狙い左腕を振るい抜く。


『ギイィッ!?』

「……浅い、というよりも、攻撃力不足か。まあ、当たり前だよね」


 身体を捻り、回転した勢いそのままに脚を振りあげゴブリンの胸を蹴る。

 派手に吹き飛んだりする事は無いが、ひるませる事には成功。

 ついでに、蹴った勢いで距離を離し、着地しつつ体勢を立て直す。


 ゴブリンの頭上に、新たな発見。

 三分の一が赤で、残りが緑色の長方形のゲージのようなものが浮かんでいる。


「メサル、あのゲージみたいなのって」

『はい、ゴブリンのHPでございますね』

『あれの緑色を全部無くせば、やっつけられるよ!』

「予想通りで何よりだね。スペルってのは、どうやって使えばいいのかな」


 短剣の一撃と軽い回し蹴りで三分の一を減らせるのなら、倒すのは難しくなさそうだ。

 少なくとも一対一では負けないだろう。

 ならば、手札を試す実験台にするにも丁度いい。

 相手の攻撃でこちらがどのくらいHPを減らされるのかはわからないが、当たらなければどうという事はないってやつだよね。

 さすがとーま君だね、彼の言うとおりだ。


『基本的には思考操作でございます。使用したいスペルを脳内で選択しましたら、キャストタイムに移行します。そしてキャストタイム完了後に目標を指定してスペル名を発すれば発動します』

「ふんふん。その間動けないなんてことは?」

『ございません。ですが、キャストタイム中は足下にキャストタイムを示す魔法陣が出現し、キャストタイム中に攻撃を受けた場合確率でキャストが中断されます』

「中断したくなかったら精神力を上げろって事かな。他に注意する事は?」

『スペル発動の成功、失敗に関わらず、キャストタイムが終了した直後からクールタイムが発生します。クールタイムは基本的にキャストタイムと同時間で、クールタイムが終了するまでは同一のスペルの使用は制限されます』

「わかりやすい説明ありがとう、メサル先生」


 突進してきたゴブリンを軽く跳んで避けつつ、右の短剣でもしもに備える。

 どうやら、さっきの連撃で怒らせてしまったのかな。

 ゴブリンは今までの慎重さはなく、牙を剥いて突撃を繰り返し始めた。

 自分より弱そうな生き物にしてやられたから怒ってるとかだったら、このゲームは一体どこまでリアルに作られているのだろう。

 もしくは単純にそういう行動パターンなのか。


「えーっと、使えるのはライトバレットだったかな。ふむ、キャストタイムは四秒で、クールタイムも四秒。消費するMPは十。これが多いのか少ないのかはよくわからないけど、使ってみないことにはなんとも言えないか」


 両手の短剣を鞘に戻し、ダイアリーの頁を開く。

 ゴブリンの攻撃は肉弾戦しかなさそうだし、意識さえしていれば回避は容易。

 ならばと、手帳を開いてスキルの頁へ、ライトバレットの詳細を確認する。

 頭の中でライトバレットの発動を意識すれば、視界の隅にCT4と言う白文字が現れた。


「成る程成る程……これがゼロになれば、スペルの準備が整う訳だね」


 ゴブリンが振るう爪を後ろに跳んでかわし、距離を取る。

 私の足下には白い三角形の魔法陣が現れて、視界の隅のCTのカウントダウンが進む度に魔法陣の光が強くなっている……気がする。

 CTがゼロになり、表示が発動待機という文字へと変化する。

 ゴブリンに視線を向ければ――背中を向けて、逃げ出していた。


「スペルの魔法陣を見て、危機を感じた……かな?」


 軽く地面を蹴りながら、手帳を仕舞い、左の短剣を抜く。

 当然、逃がすつもりも無いし、そもそも私の方が速いのだから、逃げたところで無意味なのだが。

 しかし、最下級のゴブリンでさえこんな知恵があるとすると、他のモンスターとかはどうなってしまうのだろうか。

 

「ライトバレット」


 右手を伸ばし、握り拳から親指と人差し指だけを立てて銃を模した形に。

 そのままゴブリンの背中に狙いをつけて、スペルを唱える。

 名前の通りの小さな光の弾丸が放たれる。

 ギリギリ目視可能な速度でゴブリンの背中へとたどり着いたそれは、その身体を貫いてHPゲージを大きく減らす。

 ゴブリンが体勢を崩してよろける頃には、既に私は追い付き短剣を構えている。


「これで、とどめっ」


 ゴブリンを追い越しながら短剣を振るう。

 放った一閃は残りのHPを削り切り、ゴブリンの頭上にあったゲージは赤から黒に変わって、砕け散る。


『お見事でございます』

『ミラちゃん凄い! 強い!』

「もっと色々できそうで楽しいね、この身体。向こうだと体力が続かないけど、こっちだとずっと動けていそう」


 HPゲージに続いて、ゴブリンの身体が光の粒子に変わって消えていくのを見届ける。

 短剣を手の平でくるりと回して鞘へ収め、飛んできた二人のスピリアを受け止めた。


『あ、ミラちゃん、レベルが上がったよ! 種族のレベルが二になりました!』

『おめでとうございます、ミラ様』

「おー、初めてのレベルアップだね。確か、レベルが上がったらステータスのポイントが貰えるんだっけ?」

『はい。一つレベルが上がる毎に、任意で使用出来るポイントが三と、ランダムに割り振られるポイントが二与えられます』

「合計五上げれるんだね。それじゃあ……全部Agiでよろしく、ティム」

『はーい! ランダムのは……Strと、Agiだよ、ミラちゃん』

「ランダムさんにナイスと言わざるを得ないね!」

『ナイスランダム!』

「ナイスランダム!」


 ティムとハイタッチ。

 や、まあ、私の手のひらにティムが体当たりしたようにしか見えないのだけれど。


『私からすると、何故ミラ様はそのようなステータスになっているのかが理解しかねるのですが』

「当たらなければどうという事はないって、とーま君が言ってた!」

『その、トーマクン様とは、お話をさせていただく必要がありそうですね』


 そういえば、なんとなく試しにティムに言ってみたけれど、無事にステータスは弄れたようだ。

 わざわざ手帳を取り出さなくてもこういう操作が出来るのって、現実の携帯端末とかでも使えるようになったらいいのにね。

 聞き間違いとか、持ち主以外の声にも反応してしまうからっていう理由で、実用化には至ってないと父が言っていた記憶がある。


『あと、ミラちゃんミラちゃん。ドロップアイテムでゴブリンの布切れを手に入れたよー』

「そっか。モンスターをやっつけたらアイテムとかも手に入るんだっけ」

『確実に手に入るという訳ではありませんが、モンスターを倒せば何らかの戦利品を獲得する事ができます。モンスターを倒すことで入手出来るのは主に経験値と素材アイテムです。通貨に関しては、戦利品を売却して得るのが基本でしょうか』

「そういえば、今の私の所持金とか、アイテムとかも確認してなかったね。装備も服と靴と短剣みたいだし」

『ミラちゃん、インベントリ開く?』

「うん、お願い、ティム」

『りょーかい!』


 ティムの声と同時に、空中に半透明の仮想ウィンドウが現れて、升目状に並んだ空白が映る。

 そのうちの上の方の幾つかにはなにやらアイコンがおさまっていて、瓶のようだったり、指輪のようだったり、様々だ。


『今ミラちゃんが持ってるのは、五千リアと、下級HPポーションが五つ、下級MPポーションが五つ。携帯食料が二つに、アリエティスの指輪が一つ。あとは、さっき手に入れたゴブリンの布切れと、なんだろ、特典ガチャチケット!』

「特典ガチャチケットは……そういえば特典コードとかいうのがあった気がするけど。それより、アリエティスの指輪?」

『……アリエティス家である事を示す家紋の入った指輪でございますね』

「ティム、出してくれるかな、その指輪」

『うん』


 差し出した手の平に落ちてきた小さな金色の指輪。

 家紋なのだろう紋様が刻まれた印章のわっか。

 私の指にはめるには少し大きいそれを見て、目覚める時に聞いた女性の声を思い出す。

 メサルとティムも指輪に寄ってきて、静かに揺れる。



 [装備品]アリエティスの指輪/イベントアイテム

 レアリティ:EX

 所有者固定/紛失無効/盗難無効/売却、譲渡不可


 アリエティスの家紋の入った指輪。

 これを持つのはアリエティスの一族である事の証明で、失われる事は無い。

 今のところ身分の証明以外に用途は無い。

 

 

 鑑定スキルを使って表示されたのは、こんな内容だった。

 装備してもステータスにはなんの影響も無い、ただの指輪。

 でも、これを持っている事が、何故か、とても嬉しく感じている自分がいる。


「メサル、ティム。私は、プレイヤーだけどさ」

『はい』

『うん』


 指輪をインベントリに仕舞って、一歩踏み出す。

 追従するスピリアに向けて、宣言する。


「私は、絶対に、見つけるよ。私のこの記憶の意味を、あの言葉の理由(わけ)を」

『はい』

『うんっ』


 それならば、こんなところで立ち止まってなどいられない。

 お昼寝も沢山したいけれど。

 それ以上に、したい事が、知りたい事が出来たから。


「この世界を見て回ろう。精霊界で私が産まれたなら、精霊界にも行こう」

『このメサル、カーミラ様へお伴いたします』

『ティムも、カーミラちゃんを、手伝うよ』


 二人の精霊を肩に乗せて、地面を蹴る。

 まずはこの森を抜けて、街を探そう。


「まずは街を探そう。年月が経ってるって言うのなら、図書館とかあれば、何かわかるかもしれないし」

『あまり、無理はなされませんように。例え貴女がプレイヤーだとしても、死は死です。我々は、貴女の死を見たくはありません』

『ご飯を食べて、寝て、たまには休まなきゃだめだよ、ミラちゃん。元気じゃないと、何も出来ないんだから!』

「のんびりするのは得意中の得意だから、問題は無いね。慌てず、のんびり、この世界を楽しみながら……旅をしよう」


 そして、いつか。

 もう一度あの人に会って、声を聞いて。


 話をすると、決めたから。





 

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