幕間「二人の王女」
「それでね、それでね、突然空から光と一緒に降りて来たのがミラお姉さまですのよ!」
「まあ、空から?」
「光がばーって広がりましてね! そうしたら、わたくしたちを囲んでいた化物たちがみーんな居なくなっていましたの!」
ぴょこぴょこと跳ね、身ぶり手振りも交えながら妹が楽しそうに言葉を紡ぐ。
この子の乗った馬車がアンデッドに襲われて、もう駄目かと思われていた時にアリエティスの次期聖女様に救っていただいたという報告は受けていて、詳しい話を聞きたくて妹を呼んだのだけれど。
「たくさん怪我をしていた兵の傷も全部治っていましたのよ! お姉さまの連れていたメイドさんもとっても強くて! わたくしなんて、怖くてなにもできなかったのよ!」
蝙蝠族のメイドと言えば、先日辞職を申し出てきたメイド長も蝙蝠族でしたね。
仕えるべき主を見つけたというのがその通りだと言うのなら、話を聞く限り納得してしまいそうになる。
突然引き抜かれて、文句の一つも言ってあげようと思っていたのだけれど……妹の命の恩人となるとそうもいかなくなりますね。
「お姉さまも聖女様なのですよね!? だったら、お姉さまもミラお姉さまと同じ魔法を使えますの?」
「そうねぇ……そのミラ様はどんな魔法を使っていたのかしら?」
「ええと、たしか、ホーリーライトと叫んでおりましたわ!」
神聖属性魔法、ホーリーライト。
聖なる光で悪しきを浄化し魂にダメージを与える基本にして究極の魔法。
聖女や神官であれば覚えていて当然の魔法。
「ホーリーライトなら、私も使えるわよ。でも、レフィの言ってるような凄い威力は出せないかもしれないわ」
「ミラお姉さまはホーリーライト一回で十匹以上の化物をやっつけてましたわ!」
「ミラ様はとても神様に愛されているのね。ノワイエ様が次期聖女に選ぶのも頷けるわ。……もう少し早ければ、私の次期聖女に出来ていたのだと思うと、本当に残念」
「お姉さま? 何か仰いました?」
「気にしないで、レフィ。他にも聞かせて欲しいわ……そうだ、兵達の傷を治した時はどんな魔法を?」
少し前に、父や宰相が話していた言葉を思い出す。
スピリアを二匹連れた、精霊語を話す金色の羊族。
報告を受けてすぐに会議が開かれてどう対応するかの話し合いもしたのだとか。
……上のお兄様が勝手に兵を動かしたという報告も上がっているけれど、それは失敗に終わったと聞く。
「ええと、よく覚えていないのですけれど。確か……でばーんひーる? と聞こえましたわ」
「でばーんひーる……ディバインヒール?」
「そう、それですわ! でばいんひーるですの!」
……次期聖女が、神威の魔法を?
ディバインの名を冠する魔法を与えられるのは神から直々に神託を受けた聖女のみのはず。
実はノワイエが既に聖女の座を譲っていた? それならば、少なくとも聖都への報告があるし、同時に聖都からの通知があるはずですね。
「レフィ? 他には何かなぁい?」
「そうですわ! わたくしミラお姉さまが聖区にいらっしゃると聞いて、思いきって訪ねてみましたの」
「それは初耳ねぇ……?」
ベッドから滅多に降りられないこの身体が少し恨めしい。
この子みたいに駆け回り、自由に動けたらもっとたくさんの事を自分から知りに行けるのにと常に思う。
一番上の姉は忙しいし、兄二人は何を考えているかわからない。
一番小さなレフィの話相手をできるのが私だけで、私の話相手になってくれるのもレフィだけ。
この子の活発さは美徳であるけれど、この活発さが時々心配になる。
「そうしたら、聖女様に怒られてしまいましたの……わたくしもご一緒したかったですわ」
「レフィ? お伺いするにも、まずは先に予定を聞いて、ちゃんと順序を踏まなくちゃダメよ? ミラ様やノワイエ様にも予定があるのだし、突然王女が訪問してきたら護衛の人も困るでしょう?」
「だって、お会いしたかったんですもの」
「もう……会いに行って嫌われたりしたらレフィも嫌でしょう? 今度からはちゃんとお父様にお願いして、予約を取って会いに行きなさいね。そうしたら、ノワイエ様も怒ったりはしないわ」
「……わかりましたわ。今度からそうします」
本当に、この子は自分で決めたら突っ走る癖を直させないといけないわ。
姉とこの子と下兄様は父に似てしまって、母の持つ落ち着きはいったいどこにいってしまったのかしら。
「それで、お会いしたミラ様はどうだった? お怪我をなさったりはしていなかった?」
「え? え、ええ、お元気そうでしたわ! ノワイエ様に怒られてるわたくしを庇ってくれて、また今度お話ししましょうと言ってくださいましたわ!」
「そうなの。お優しい方なのね」
「ええ、ええ! とっても優しくて、素敵な方ですわ! お膝に小さな蛇さんを乗せている姿も、とっても可愛らしいのよ!」
「蛇さん?」
「ええ、黒い蛇さんですわ!」
使い魔かしら?
聖女なら使い魔の一匹や二匹は使っていても不思議ではないけれど、蛇は珍しい。
蛇を使い魔にするのは昔から魔女ばかりだったから、そう思ってしまうのかしら。
魔女の間でだけ信仰されるという蛇の神がいると古い書物で読んだ事があるのだけれど……神威の魔法を使う次期聖女が、蛇の使い魔を……?
「……私も、そのミラ様に是非会ってみたくなったわ」
「それは良いですわ、お姉さま! きっとお姉さまもミラお姉さまを好きになりますわよ!」
「そうね、お父様にお願いして、ミラ様を呼んで貰おうかしら。本当は私から出向くのが礼儀なのだけど、それは許されないものね」
「お姉さまは足が動かないんだから、無理しちゃいけませんわ! わたくし、お父様にお願いしに行ってきますわね!」
「あ、レフィ、待ちなさい、お願いするにしても……全く、あの子ったら」
止める間もなくぱたぱたと駆け出して、部屋を出ていく妹を見送って。
慌てて妹を追いかける護衛達と、入れ違いに部屋に入ってくるメイド達。
差し出されたお水を一口飲んで、息を吐く。
「アリエティスの次期聖女、ミラ様について、可能な限り調べてちょうだい」
「かしこまりました」
「でも、深入りはダメよ。ノワイエ様と敵対したら元も子もないもの。調べられる範囲だけでいいから、報告してちょうだい」
突然現れて、アリエティスの聖女の義娘になり、その日の内に次期聖女と認められた羊族の女の子。
スピリアを二匹連れているという報告はないが、スピリアなんて身体に宿せばいくらでも隠せるのだから。
おそらく、精霊語を話していたという女の子はミラ様で間違いない。
私が知りたいのは、まだ聖女ではないのにディバインヒールを使えた理由と、蛇の使い魔の正体。
十三人目の聖女だなんて、今も昔も、聞いたことが無いのだから。
「やっぱり、一度直接会って、確かめないといけないわね」
妹を救ってもらった恩を返す為にも、姉や兄達よりも先に、手を打っておかなくては。
ちょっとだけ前の時間軸




