薬と本と死霊術師
おまたせ?
あれからゲーム内で四時間ほど、ニーナさんに調薬から薬学と、様々な事を教授してもらった。
薬草の取り方や見つけ方から始まって、中級ポーションや中級のMPポーション、キュアポーションの作り方等々。
といっても、最初の三時間程で今のレベルで教われる事は終わってしまったので、あとは技術の向上に努めていた。
「吸収が早くて教えがいがあるのはいいけど、手がかからないってのも寂しいものがあるねぇ」
「お嬢様は一度見た技術はほぼ完璧に再現が可能ですからね」
「全く、羨ましいねぇ。これが天才って奴かい」
「天才であり、努力家でもあります。自慢のお嬢様でございますね」
最初はかなり強く警戒していたスヴィータも、なんやかんやで仲良くなっていた。
品質の高いポーションは基本的に市井ではなく王城や教会の方が買っていくのだとかで、ノアさんとも仲が良いというのがスヴィータの警戒を解いたのだろう。
師匠としてのニーナさんは優秀で、品質Bの薬草からC+のポーションを作り上げる事に成功した時は自分の事のように喜んでくれた。
それならと、別のポーションの生成法に移行してこのような時間が経ってしまったのだけどね。
「今回は……よし、素材と同品質のキュアポーション、出来ましたよお師匠様!」
「流石、アスクレピオスの神子姫様だねえ。それだけ作れれば、基礎はもう教える事はないよ。あとはあんたがどうするか次第さ」
「お師匠様の教授の賜物です」
「本当にわからない事があったらいつでもおいで。もっと上位の素材を見つけたら、新しいレシピも教えてあげるよ」
予定外の時間を使ったし、まだノアさんにも顔を見せていないのでキリの良いタイミングで終わらせられたかな?
アスクレピオスのスキルレベルが物凄い勢いで上がってしまっているが、上がって損をするものでも無いし問題ないね。
スキルレベルはなんと1から一気に13だ。
スキルポイントも増えたし、そろそろ何か取得してみてもいいかもしれないね。
ちなみにスキルレベルが上がって覚えたアーツは薬物加工という調薬用のアーツと、戦闘用アーツのディバインブレス。
なんと、神聖系統魔法で取得したブレスの完全な上位互換スキルでした。
ブレスよりも強力な強化を付与しつつ、武器の攻撃に神聖属性もついてくるのだとか。
クールタイムは長いものの、ディバインヒールと同じように詠唱時間の短さがブレスと違うところかな。
「それじゃあ、お師匠様。私たちは、これで」
「そうかい、ノワイエによろしく言っといておくれ。ああそうだ、これを持っておいき」
「……本、ですか?」
ニーナさんに手渡されたのは一冊の分厚い黒色の本。
表紙にタイトルは無く、表面はざらざらとした材質で作られているようだ。
「それと、魔力感知と魔力操作を覚える事だね。あとは図書館に行って、魔法技能の本を読んでおいで。あたしの弟子になったんだ、魔術に通じておいてもらおうじゃないか」
「魔術……興味あります、是非とも! 魔力感知と魔力操作、図書館で魔法技能ですね、取得しておきます」
「その本を読めるようになったらまたおいで。それまでは……そうだね、手帳がわりに側に置いておきな。持ってるだけで意味はあるからね」
「手帳がわり……ですか?」
「ああ。あんた、祈り人だろう? 手帳をその本に重ねて、あとはスピリアに任せればいい」
「……ティム、できる?」
『できるよー?』
肩からひょいと飛び出したティム。
スピリア二人はニーナさんの前に姿は現していないので、メサルは隠れたままだけどね。
ダイアリーを呼んで、ティムに宿ってもらう。
テーブルに黒色の本を起き、その上にダイアリーを乗せる。
ちなみに、黒色の本は開いて見たけど全てのページが白紙で、読むどころか文字の一つもなかったよ。
鑑定を使っても情報が何も出て来なかったし、いったいなんの本なんだろうか。
『あーしてーこうしてー、こうなってー、かんせーい!』
「うんうん、スピリアとの仲も良好みたいだね。やっぱり、あんたは魔術に向いているよ」
「魔術はスピリアが関係しているのですか?」
「その辺も、それを読めるようになってからさね」
黒色の本の中にティムinダイアリーが溶けるように沈んで行って、黒色の本だけが残った。
ティムは大丈夫なのかなーと思いつつ見守っていると、本がふわりと宙に浮いて、ダイアリーのいつものポジションへと留まった。
手元に引き寄せ、頁を開くと、そこにはいつものダイアリーの目次が。
『この本、一応アクセサリー扱いの装備品みたい。詳しい事はよくわかんないけど、ミラちゃんの手帳と同じようなものみたいだよー』
「ふうむ? 色々と気になるけど、今は考えても仕方がないか。ティム、他に変わった事は?」
『んーとね、たぶん、お姉ちゃんと二人で入っても平気そう!』
『つまり、ダイアリーの制御を私達で行えるようになった訳ですか……これまでよりもミラ様のお役に立てる、良い事です』
肩から腕を伝い、ニーナさんに見られないようにメサルもダイアリーに入り込む。
二人入ると何が変わるのか私には見当つかないが、まあ二人が嬉しいならそれでいいね。
とりあえず、先程も考えていた通りにスキルのリストを開いて目的の物を探す。
魔力感知と魔力操作、それぞれ必要なスキルポイントは3ポイントだが、取得可能リストには存在していたので取得しておこう。
一応、魔法技能というのも探してみたけれど、こっちは存在していなかった。
魔力感知は感覚強化の魔法版のようなもので、魔力操作と言うのは魔力の操作が上手くなる……らしい。
うん、わからん。
ニーナさんが必要だと言うなら必要なのだろう、疑う意味は薄いし、魔法が強化されるなら否はないしね。
「そういえば、ニーナ様、一つお尋ねしたい事があるのですが」
「うん、なんだい?」
「地底王国の死霊術師と言う名前に聞き覚えはございますか?」
「……それを、どこで知ったんだい? ミラお嬢ちゃん、もう少し時間を貰うことになりそうだね。あんたも聞いていきな」
「わかりました、お師匠様」
また椅子に腰を下ろして、スヴィータがお茶を用意する。
ニーナさんとスヴィータが真剣な顔つきになっているので、大事な話なのだろう。
地底王国の死霊術師、私は聞いたことないなあ。
「現在、王都周辺にアンデッドが出現しているのはご存知ですね?」
「ああ、おかげでポーションどころか物資の流通が遅れてる」
「ある筋からの情報ですと、その地底王国の死霊術師を討伐した事で発生している現象のようなのです。ニーナ様なら何かご存知ではないかと思いまして」
「地底王国の死霊術師、知ってるよ。昔……今から二百年程前かね、ここから西の森、あそこの地下を根城にしてたネクロマンサーが居たのさ。墓場から死体を持ち去ったり、冒険者を襲って殺し、ゾンビにして操っていた男だ。王都のすぐそこに潜伏して戦力を整えて、総勢一万もの色んなアンデッドを引き連れてレオニスに戦争を吹っ掛けた」
ていうか、ニーナさんはいくつなんだろうか。
「まあ、所詮はアンデッド。レオニスとアリエティスの二人の聖女に、王都の兵隊に冒険者。いくら数が多くたって所詮はアンデッドって訳で、当時は少数の犠牲は出しはしたが殲滅された。その時にそのネクロマンサーが名乗っていたのが地底王国の死霊術師だったって話だよ。倒されたと思っていたが、まさか生きていたとはねぇ……ああ、気を付けな。さっき討伐されたからだって言ってたが、間違いなく動いているよ」
「この現象を止める方法について、何か知っている事はございますか?」
「止めるには、そいつを完全に倒すしかないだろうね。でも、一度ならず二度も痛い目にあったのならそう簡単に姿は見せないだろうさ……奴がまだ王都を諦めずに狙っているなら、今は防衛に徹して機を待つしかないだろうね」
「やはり、そうですか」
「スヴィータ、それってもしかしてあれの事?」
「はい、我々が遭遇したアンデッドもそれに関連しています」
「それのおかげでアリエティスの次期聖女の人気は今でもうなぎ登りだよ、師匠としては鼻が高いね?」
「出歩くのに変装が必要になりましたけどね……」
「その辺はアスクレピオス様のヴェールを使っていれば問題はないさ。そのヴェールの正体がわかるのも、あたしらソルシエールの魔女くらいだろうからね」
あとはニーナさんから外に出るなら黒いヴェールはしておいた方がいいこと。
アンデッドは基本的に夜しか活動しないが、死霊術師の溜め込んでいる力によっては昼間にも出現する奴もいるかもしれない事。
素材の採取に外に行くなら出来るだけ朝に。
夕方から夜に出るなら、アンデッドに遭遇しても相手にせずに逃げるか、光や神聖、炎で浄化する事を教えて貰った。
「王都の中は安全だとは思うけどね、負の力が強い場所には気を付けるんだよ。あんたなら大丈夫だとは思うけどね。死霊術師に関してはあたしから王城に伝えておくよ、ノワイエにはそっちで伝えておくれ」
「わかりました、お師匠様。それでは、今度こそ失礼致します」
「情報ありがとうございます、ニーナ様。それでは、ニーナ様もお気を付けて」
「ああ、あんたもね。またおいで」
ワールドクエストの情報とやらを得て、ニーナさんのお店を後にする。
向かうのはノアさんのいるであろう図書館。
情報を伝えるついでに、魔法技能の本も読ませて貰うことにしよう。
四章・了
四章おしまい




