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ログインと護服とハッピーセット





「……さて、調薬するにしても材料とか必要な物もあるよね?」

『おはようございます、ミラ様。お久しぶりですね』

『ミラちゃんおはよー!』

『ぴ! みゃー!』

「ん、おはよう。メサル、ティム、サビク」


 ログインして、覚醒すると共に身体を起こす。

 私の胸の上で寝てたらしきサビクがころころと転がり落ちるのを受け止めて、間髪入れずにやってくるスピリア達に挨拶を返した。

 サビクを首筋まで上げてやればいつものように巻き付いて、精霊達は両肩へ。

 ベッドから起き上がる時の恒例となっているね。


「お嬢様、お目覚めになられておいでですか?」

「スヴィータかい? もう起きてるよ」

「失礼致します」


 そうこうしている間にスヴィータがやってきて、自室へと移動する。

 ノアさんは図書館の方でお仕事をしていると書き置きがあったので、後で顔を見せに行こうかな。

 特に変わったものもないのを確認し終えて、部屋の扉を開く。


「おや、ミラ様。どこかお出かけですか?」

「オウル様、お久しぶりです。ああ、そうだ、ちょうどいいのでお尋ねしたいのですが」

「私でわかる事でしたら、なんなりと」




 *




 という訳で、オウルさんに調薬用のアイテムとか、メジャーな素材とかを教えて貰って王都に繰り出した。

 オウルさんの用事はと言えば、テティスさんから預かっている服を渡しに来たのだとか。

 聖区の外に出るときは、祭服かこれを着て行って欲しいと念を押されてしまったので現在の私は既に着替え済みである。


「大変お似合いですよ、お嬢様?」

「まあ、いいものだし、デザインもいいよ。けれども、私……戦闘スタイルは伝えたよねぇ?」

『みゃー?』


 祭服の純白とは真逆の、黒と金のドレス……と言ったらいいだろうか。

 袖の無い、黒のAラインロングドレスになっていて、スカートは足首を隠す程まで長く。裾にはひらひらとした白いレースがあしらわれている。

 そこに上からさらに、黒に縁が金で彩られた薄い布地のケープコートを羽織って一式らしい。

 しかしこのケープ部分がコートより長いのは新しいね……そのせいで上も下もひらひらして仕方がない事になっているのだが。


 最後にいつものヴェールをかぶり、聖区から離れたところで黒のヴェールも重ねて被った。

 今日は調薬やらで色々と回りたいし、次期聖女として結構広まっちゃってるみたいだしね。

 という訳で、今日のスヴィータは私服というか、メイド服以外でお願いしてもらった。

 それで何故か騎士みたいな服を着てきたのはちょっとよくわからないけれども。


「ううん、不思議と動きにくさは感じないんだよねぇ、ドレスなのに重くも無いし」

「護服と言うのはそういうものだそうですよ、お嬢様。要人の身を守る為の衣服兼防具といった代物でしょうからね。いざ逃げようとするのに重かったり動きにくかったりでは本末転倒も良い所ですから」

「ううむ、ゲームだからで納得しておこう」

『ミラ様、とてもお似合いですよ!』

『黒いミラちゃんもいいね!』

『みゃー!』


 ちなみにこの服の鑑定はしたけれど、性能的には祭服と大差なかったよ。

 祭服よりは若干落ちるかな、くらいだと思う。他の人の装備とか知らないからコメントし辛いってだけなんだけど。

 ところでさっきからサビクは何をにゃーにゃー言ってるんだろう。

 君は猫じゃなくて蛇さんだよー?



「スヴィータ、こっち寄って」

「お嬢様?」

「このままずっと歩くのもしんどいしね、少し近道しよう」

「馬車を断ったのはお嬢様でしょうに……いえ、教会の馬車を使っては人目につくのはわかっておりますが」

「いいからいいから。といっても、初めて使うんだけどね、私も」


 貴族区は人が少なくていいね。

 ちょうど人気の少なく、死角になっている場所へと身体を滑り込ませる。

 そこにスヴィータも引き入れて、とある魔法を選択、起動。


「転移術式:アルゴナウタイ」


 キャストタイムが無く、即座に発動したそれ。

 私の目の前に広がっている空間の裂け目のようななにか。

 説明通りならば、これを使えばパーティーメンバーと一緒に中央広場まで飛んで行ける筈である。

 復活地点のポータルであって、各方面の門への転移は出来ないようだけどね。


「はいはい、さっさと入ってね、スヴィータ」

「ふむ、お嬢様のスキルですか。それでは、先に失礼致しますね」

『あの、ミラ様? スヴィータ様はお嬢様呼びのままで宜しいので?』

「まあ、言っても変えないだろうしね。気にするだけ無駄だし、今は別の格好してるから問題ないでしょ」

『ちなみにですがあれ、神殿騎士の制服でございますよ』

「わあいきしがふえたー」


 にゅるんと空間の裂け目の向こうへ消えたスヴィータを見送って、メサルとやりとり。

 ある意味衝撃的な事実に後頭部を殴打された気分になりながら、自分も空間の裂け目に足を踏み入れ、通り抜ける。

 景色が変わり、そこは見慣れた中央広場。

 背後を見ても裂け目は無くて、普通に転移してきたように見えているだろうか。


「調薬に必要なのはまず、調薬キットか、調薬用の施設です。持ち運びできるキットと、プレイヤーホーム等に設置する施設の二択ですね。今回は資金的にも調薬キットでしょうか……お嬢様、リアはあるのですか?」

「……にせんろっぴゃくごじゅうでたりるかなー」

「間違いなく、足りませんね。まあ、その辺は問題はないですから、店を探しましょうか。北の方ですね」

「なんで問題ないんだい、スヴィータさんや」

「ノワイエ様から、お小遣いと称して多少のリアを預かっておりますので」

「なんだろう、ゲームしてる筈なのに私何もしてない気がする」

「お嬢様がお嬢様たる所以でございますれば」

「納得いかないなあ?」


 まあ、所持金が無いのは事実だし、今から組合に行って稼ぐってのも考えはしたけれど。

 スヴィータが問題ないって言うなら当初の予定通りに進めよう。

 生産関連は北、わかりやすくて助かるよね。




 *




 おそらくはドレスのせいなのだとは思うが、視線を感じる。

 別にこのヴェールは姿を隠してくれる訳でもないから、道を歩けば人の目にはうつっているのだが。

 いつの間にかスヴィータが取り出して差している日傘とか、その他諸々のせいで完全に注目を集めていた。

 どうにも、この黒いヴェールをつけている間は私から視線を外せば印象が残らなくなるとスヴィータは言うが、本当にこれ覚えられたりしないだろうか。

 黒いドレスに黒いヴェールで、騎士に日傘を差させて歩いているって……うーん?


「ちなみに、私も似たような効果のアクセサリーをノワイエ様からお借りしてきております。聖女様などがお忍びで出かける時に使うらしく、効果は保証されております」

「つまり、私たち揃って他人の印象に残らないようになってるって事?」

「はい。勘の鋭い方や、縁の深い人物には気付かれてしまうかもしれませんが……まあ、大丈夫でしょう」

『あ、ミラちゃんあそこ、薬屋って書いてあるよー』

『ミラ様、あちらに職人用道具店なる物が』

『ぴーにゃ!みーにゃ!』


 そんな感じでプレイヤーとか住人とかの視線を浴びながら到着した王都北側の職人通り。

 テティスさんの店もある、微妙に私たちの絵面とマッチしていない金属と筋肉に満ちた区域だ。

 メサルとティムがあっちだこっちだと騒ぐ中、にゅるにゅると首筋から私の胸へ、自然と添えてやった手のひらにサビクが移動した。

 うねうねと上半身(?)をくねらせながら、私を見上げるちび蛇さん。

 そういえば、さっきからいつもとは違う鳴き方ばかりしていたね。


「サビク、どうしたの?」

『ぴーりゃ! にゃー? みー!』

「サビク様?」

『どうかしましたか、サビク?』

『サビクちゃん、がんばっ』


『みーりゃ! みーら! みら!』

「ふぇ?」


 ……サビクが喋った!?










シャベッタァァァァァァァァァァ





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