幕間「アニマスピリアオンライン」
あれからすぐスヴィータが戻ってきて、現実でもいい時間だった事もありログアウトした。
とーま君には連絡しておいたし、ノアさん宛の置き手紙も用意しておいたから特に問題はないと思う。
ログアウト後は日課等を済ませて就寝し、翌日は予定が入っていたのでゲームにはログインせず過ごした。
そしてその翌日、いつも通りの朝を迎えて朝の日課から朝食。
午前中の勉学と運動とを終え、自室で簡単な昼食をとっているとおもむろに詩乃さんがテレビの電源を入れる。
彼女にしては珍しいなと思いながらテレビの画面に意識を移す。
「おや、これはアニマスピリアオンラインかな?」
「はい、運営陣へのインタビュー番組のようです。よろしければ、そのままご覧になってくださいませ」
「ふむ、じゃあ早めに食べてしまおうかな」
今日のお昼はジャガイモの冷製スープ。
それとサラダにパンを合わせている、本当に簡単な物だ。
テレビから聞こえてくるインタビューは少し気にはなりはするが、食事しながらテレビにかじりつくのも無作法だからね。
なんとなく聞き流しつつ、昼食を終わらせた。
「ふう、ごちそうさま」
「お茶をどうぞ、お嬢様。食器をお下げ致します」
「ありがとう。さて、テレビはどんな感じかな?」
ティーセットと引き換えに詩乃さんが空いた皿を回収して部屋を出ていく。
カップを手に、テレビへ意識を向ける。
『VRMMOと言うのは、自身が体感できるもう一つの世界と言ってもいいでしょう、ですので、我々は特にリアリティを追求してシステム等も組み立てました。既存のMMORPGにあったスキルやレベル等はそのままに、もう一つの現実を作りたかったんです』
『確かに、先ほどのVTRでもプレイヤー以外の人達も本当に生きてるように生活して、受け答えをしていました。中にはプレイヤーととても親しそうにしているノンプレイヤーキャラクターも居ましたね』
『そこが、アニマスピリアオンラインのコンセプトと言っても良いでしょう』
『と、言いますと?』
さっきから画面の中央でインタビューを受けている人が、アニマスピリアオンラインのお偉いさんなのだろうね。
開発、運営責任者……名前を桜庭宗一郎。
その正面に女性のインタビュアーが座っていて……場所は、どこかの会議室のように見えた。
お茶を一口飲んで、続きに耳を傾ける。
『アニマスピリアオンラインのコンセプトと言いますか。我々が目指したのは、小説等で人気の高い異世界転生や異世界転移。あれをVRMMOに落としこめれば面白いんじゃないかと思ったんです』
『異世界転生や転移……今でも人気のジャンルですよね。ゲームやアニメ、コミックといったメディアミックスされている物も多いですね。しかし、VRMMOでは聞いたことがありませんね』
『そうでしょう? 開発を始めた切っ掛けが正にそれです。それで、どうやって異世界転生や転移をまとめて落とし込めるか考えた結果生まれたシステムが、記憶と言う物です』
『これも今までに見ない試みですよね、記憶システム。ゲーム開始時に記憶を持って始めるか持たずに始めるか選べるんですよね』
『はい。記憶を持って始めた場合は、異世界転生を。記憶を持たずに始めた場合は異世界転移をイメージしました。転生の場合は当然、今まで生きてきた時間や立場、人間関係があって当たり前ですからね。一方転移の場合は、なんのしがらみもなく自由にアニマスピリアオンラインの世界を楽しんで貰えればいいなと』
『ユーザーからの評判はどうなんでしょうか?』
『記憶の内容や固有スキルに関してはユーザーの脳波パターンを利用して決定していてほぼ固定になっていますので、中にはリセマラさせろとかいう声はありますが概ね良好ですよ。異世界転生の主人公だってリセマラしてませんからね、させるつもりもありませんが』
『記憶持ちは固有スキルが確定してて不公平だという言葉もあるようですが?』
『固有スキルはメリットに見えますが、固有スキル含めて記憶関連のイベントで取得できるスキルは取り外しが不可能っていうデメリットがありますから、それは人それぞれですね。記憶無しで固有スキルを確定させろっていうのは、当然論外です。記憶ってあれ、統括AIが独自にアニマスピリアオンライン全体の中から生成して決定してますので。特に変哲のない記憶から、世界的な重要人物にされたりとピンキリの博打みたいなものですから。その博打を受け入れた人に与えられるささやかなボーナスであり、制限でありっていう代物なので』
世界的な重要人物かー一体誰だろうなー。
私には皆目検討もつかないなー。
『世界的な重要人物……ですか。例えばどのような?』
『ははは、それは流石に教えられません。こちらで把握はしていますけど、プレイヤー間の暗黙の了解がありますからね』
『暗黙の了解ですか?』
『ええ。ベータの頃に生まれたんですけどね、我々もこれには納得していますし、尊重していますよ。一つ、自分の記憶は公表しない。二つ、自分の立場は公表しない。三つ、他人の固有スキルを詮索しない。そもそも、プレイヤーもノンプレイヤーキャラクターもこの世界の住人というのがアニマスピリアオンラインですからね。中にはノンプレイヤーキャラクターを演じているプレイヤーも存在していますよ』
「……お嬢様、アリサ様が今夜時間を空けておいてほしいとの事です」
「うん? まあ、構わないけれど……珍しいね?」
「詳細は記されておりませんでした。二十時頃に迎えに来るとの事です」
「そう、わかった。外に行くとなると……おじ様関連かな?」
「では、それを踏まえて準備をしておきます」
音もなく部屋に戻ってきた詩乃さんに手紙を手渡されて、目を通す。
携帯端末のメールを送ればいいと思うのだが、彼女の連絡手段は急ぎでもない限りは向こうの文字で書かれた手書きの手紙だ。
内容を確認した後は便箋に戻して封をし、ソファから立ち上がって自分の机へ。
一番下の鍵のかかった引き出しを開けて、彼女からの手紙が詰まっている専用の箱へと仕舞い込む。
……昔アリサに送った手紙は保存しておいてねと泣きつかれてから保管し続けてもう十年近くになるだろうか。
この箱もそろそろ満杯になりそうだ。
『ああそうだ、ここからはプレイヤーの皆様へのお知らせなのですが。現在進行しているワールドクエストですが、このまま順調に行けば近いうちに進行すると思います』
『なにか、今回のワールドクエスト発生は運営側にも想定外だとかお伺いしていますね』
『ええ、運がいいのか悪いのかわかりませんが、とあるプレイヤーがフラグを全て回収してしまいましてね。いやー、今だから言いますけど、三パーティーが同時に侵入していて、そこのボスと戦闘を行ったプレイヤーの内半数以上がボスを討伐後にダンジョンを出ることなく死亡するっていうのが発生条件でしたからねー』
『聞いただけだと簡単なようにも思えますが』
『いやいや、実はですね。あのダンジョンのMOBはボスを倒した後はリポップするまでノンアクティブになる仕様なんですよね。ボス戦後に満身創痍でわざわざMOBにちょっかいなんてかけないでしょ?』
『成る程……つまり、条件を達成するには?』
『ちょーし乗ってMOBにちょっかいかけるか、PKされるか、自殺のどれかって訳です。そもそも隠しエリアみたいなダンジョンですからね……いやあ、サービス開始初のワールドクエストがこれなのは統括AIも驚いていましたね』
『それでは、そのワールドクエストに関してなのですが――』
「詩乃さん、夜まで何か予定はあったかな?」
「今のところ、何もありませんね」
「ん、それじゃあ一日ぶりに向こうに行こうかな」
「向こうの方では随分と日にちが経っておりますからね、ノワイエ様に顔を見せて差し上げましょう」
「調薬とかも試したいからね。あ、とーま君に今からインするって伝えといた方がいいかな?」
テレビの電源を切って、部屋を後にする。
インタビューとか、背景で流れているPVやらを見ていると無性に向こうに行きたくなってしまった。
良い感じに食休みも出来た事だし、たっぷり時間の使える向こうでのんびりするのも悪くない。
「……五日か六日は経ってると思うと、少しドキドキするね」
「お嬢様の初死亡が窒息死になるのは、お控えいただければと」
「あはは……自信ないや」
頭痛で更新が不定期になっています。
体調治ったら一度見直しもしたいですね




