騎士と魔王と聖女サマ?
「連行は貴方が?」
「そうですね、そうしたいのは山々なのですが、一旦国の方に任せる事になります」
「それは……そうですね、わかりました。人は呼んであるのですか?」
「ええ、使い魔を呼びに向かわせています」
とーま君とノアさんがなんだか親しげに話している。
話から察するにとーま君はノアさんの部下的な物になったんだろうっていうのはわかるんだけど、こう、なんだか胸の奥がざわざわする。
ちらりとスヴィータを見てみるも、彼女の視線はヴォルフに押さえつけられているであいちゅーさんに固定されていた。
「ええと、あの、お母様? 神殿騎士……とは、何なのでしょう?」
「ああ、そういえばミラちゃんには説明していなかったわね」
「できたら、教えて欲しいのですけれど……その」
続きの言葉が出てこずに、そこで止まる。
なんとか二人の意識をこちらに向ける事には成功したが、ここから先をどうしよう。
周囲の視線が鬱陶しい。
「神殿騎士っていうのはね、聖女や次期聖女に剣を捧げ、生涯護ると誓い、神様からもその許可を得た特別な人に与えられる称号で、職業よ。神殿騎士トーマは少し前に私の所へ来てね、神殿騎士の試練を受けたいって頼みに来たのよ」
「それは、大変名誉な事なのでは……?」
「ええ、素晴らしい事よ。この子ったら、一回で合格しちゃうんだもの」
「恐縮です」
ノアさんがとーま君を呼び寄せて、とーま君が私に向かって頭を下げる。
余計に何がなんだかよくわからなくなってきた上に、情報が多すぎると思うのだけど。
一度どこかに落ち着いて話をしたいけど、そうも行きそうにない。
「神殿騎士、トーマです。この度、アリエティスの次期聖女様の護衛兼御側付きになりました。明日、ご挨拶に伺う予定でしたが、少し前倒しになってしまいましたね」
「ふえ? 次期聖女のって……私の?」
「はい、貴女のです。貴女さえよろしければ、今ここで誓いを。聖女様、よろしいでしょうか?」
「私が決める事じゃないわ……二人きりがいいなら、聖堂に帰ってからでもいいのよ、ミラちゃん」
私の目の前で立ち止まり、そのまま石畳に膝をついて頭を垂れたとーま君。
前に見た時には持っていなかった腰にさげた剣を外して床に起き、そのまま止まる。
謎の魔王様コールがさらに大きくなって、口笛やら何やらどんどん騒がしくなってきて、ますます思考が纏まらない。
とーま君が、次期聖女……つまり、私の、ごえーけんおそばつき?
御側付きってあれだよね、従者とかそういうのだよね。
とーま君が、私の、騎士?
「ええと、ど、どうすれば?」
「お嬢様、お耳を」
ごにょごにょとスヴィータが耳打ちで助け船を出してくれる。
とーま君が両手で差し出した剥き身の剣を受け取り、強く握る。
ずしりと重い細身の直剣で、刀身は白銀。
言われた通りに両手で握った剣の腹でそっととーま君の肩に置く。
これ、映画とかそういうのでなんか見たことあるよ。
「神殿騎士トーマ。略式ではありますが、貴方を私の騎士として認め、アリエティスの次期聖女に仕える事を許します」
肩から剣を離し、切っ先を彼に向けて、そのまま下げる。
剣の刃にとーま君が口づけを。
少しどきりとして、とーま君の顔が離れてから剣を引いた。
「確かに、見届けましたよ。神殿騎士トーマ、その働きに期待しています」
「騎士トーマ、この身全て、次期聖女、ミラ様に捧げる事をここに誓います」
「はふぅ」
とーま君に剣を返す。
また両手で剣を受け取り、そのまま流れるように鞘におさめたとーま君。
立ち上がり、いつもの笑みを浮かべて、私と向かい合う。
いつもの八倍くらいかっこいいね、どうしよう、顔が熱いです。
「いい加減、ガイウス様を離しなさいよっ!」
そんな叫びと共に、ガキンと鳴る金属音。
あれだけ五月蝿かった喧騒が止み、湯だっていた頭が一気に冷める。
視線を向けた先にあったのはスヴィータの手から伸びる白刃。
カランと音を立てて、石畳を何かが転がった。
「ガイウス君、いま助けるからね……フレイムランス!」
「やああっ!」
声の主は、であいちゅーさんのお仲間の四人組から。
まず視界に入ったのは、カムイ、ラン、ガロ達狼に放たれた炎の塊。
それに続いて飛び出した剣士風の子と、その後ろからボウガンで私を狙っている子が。
最後の一人は杖を構えたまま身を固めていた。
「やれやれ……状況も、この世界についても不勉強みたいだね。普通の画面越しにやるMMOじゃないってのがわからないのかな。ミラさん、この場は僕に任せてください」
「……うん、お願い、とーま君! 怪我しないでね?」
「御心のままに」
とーま君が腰から抜き放った刃が放たれたボウガンの矢を切り払う。
カムイ達三匹にも意識を向ければ、三匹が炎の塊を避けるために散開したところを剣士風の子が突っ切っていた。
剣士風の子が抜いた剣を振り上げ、ヴォルフへ向かって振り下ろす。
口笛が響き、であいちゅーさんを押さえつけていたヴォルフと三匹が一瞬でとーま君の側へと移動した。
「痛た……助かったよ、ありがとう!」
「別に、あんたの為じゃないし」
「ガイウス君!」
「ガイウス様!」
であいちゅーさんの名前、ガイウスだ、ガイウス。
やっと思い出したよ……別に思い出さなくても良かったけれど。
それよりも、状況に気付かずに五人……四人で盛り上がっている彼らを眺める。
さっきも何もしていなかった杖を持った子を除いた三人がガイウスに駆け寄って、自分達の世界を展開していた。
や、さっきの私ととーま君もそうだろって言われたら否定できないけど。
「神殿騎士トーマ、私も手伝いましょう。私はスヴィータ、お嬢様の、メイドです」
「……成る程、よろしく、スヴィータさん。ヴォルフ、カムイ、ラン、ガロは聖女様達の護衛だ。アレは、僕の獲物だからね」
「ミラちゃん、私の側に居てね?」
「うん……とーま君、スヴィータ、無茶したらダメだよ!」
とーま君とスヴィータが前に出て、二人同時にそれぞれの剣を振り上げ、振るう。
ぎぃんっと高く響いたのは、剣と刀がぶつかり、打ち鳴らされた音。
ギャラリーも、自分達の世界に入っていた四人と一人も、全ての視線を集めてしまう。
「次期聖女……我が主へ刃を向けた事を後悔するといいよ、君達。そして、学習しない自分達の愚かさを恨むといい」
「お嬢様への不敬どころか、殺害を試みた罪。最早、是非も無し。お縄につくか斬られるか、選ぶ権利は失われた物と思え!」
「一瞬で終わらせるよ、スヴィータさんはあの子の確保をよろしく」
「ダー」
とーま君が手にしていた剣を床に突き刺し、背中から弓を手にする。
それと同時に納刀し、腰だめに刀を構えたスヴィータが飛び出した。
先程打ち鳴らした音で自分達の世界から抜け出した五人組がそれぞれの武器を構え、杖持ちの……魔法使いちゃんと呼称する。その子の足元に魔法陣が浮かんでいる。
ていうか、少なくともスヴィータがキレていた。
「たった二人で勝てると思ってんのかよ! ここで魔王を倒せば俺達がトップチームだな!」
「モンスター使わないなら、わたし達でも勝てるんじゃない?」
「ちょっと、クリス! あんたちゃんと支援しなさいよ!」
「えっと、うん……プロテクション! マジックバリア!」
「くらえっ! ファイアーランス!」
放たれた矢と炎をスヴィータが切り払って、とーま君が弓を引いて、弦を弾いた。
え? とか、へ? とか。
さっきからギャラリーが騒いだり、静かにしたりと忙しいとか思っていたけれど、今回ばかりは一瞬の静寂の後に大歓声が起こる。
とーま君の一動作だけで、ガイウス、剣士ちゃん、魔法使いちゃん、ボウガンちゃんの両手の肩から先が無くなったからだ。
「え、今、え?」
「流石魔王って言われてるだけあるわねぇ、騎士トーマ」
「え、魔王? とーま君が?」
「あら、ミラちゃんは知らなかった? 彼、前にも色々とやってて、陛下と謁見した事もあるのよ。たくさんの使い魔と、魔力を用いた弓撃、一人で大軍を相手に戦い抜いた様からつけられた異名が千刃の魔王」
「じゃあ、さっきから周りの人が言ってる魔王っていうのは……」
「騎士トーマの事ね」
両腕を飛ばされた四人組は次に足を失い、地面に転がって行く。
最後の一人の支援役の子はスヴィータが取り押さえ、正しく一瞬で戦いが終結した。
そして、全てが終わってからやってきた王国の兵達が合流する。
この惨状に加え、なぜか居る聖女と次期聖女に困惑を隠せないでいる兵達にとーま君が事情と出来事を説明すると、全員の目の色が変わるのを見た。
ノアさんは終始笑顔で兵達に指示を出し、スヴィータはギャラリーを解散させに出向いて行った。
「その、とーま君……結構有名人?」
「前にイベントで入賞したって言ったじゃないですか、ミラさん。まあ、魔王呼びは認めてませんけどね」
「とりあえず、神殿騎士云々についても、説明を求めます」
「イエス・ユア・マジェスティ……そんなに睨まないでくださいよ、ミラさん」
部位欠損したまま兵達に運ばれていくガイウス君と愉快な仲間達を見送ってから、とーま君も加えて馬車に乗り込んだ。
趣味と実益と私欲をかね揃えたさいきょうのジョブを手に入れたとーま君の行動力に乾杯
さすとま
……さすまお?




