表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/124

迷子と賊と聖女様(物理)





「随分と不躾な方々ですね。所属と階級、名を名乗りなさい」


 いつか見た兵隊さん達に囲まれていて、真っ先に口を開くのはスヴィータ。

 威風堂々としたメイドさんは腰の刀に手を添えて、臨戦態勢を取っている。

 どうしようかななんて考えていると、後ろから手が伸びてきてノアさんの腕に捕獲された。

 見上げると、笑ってないけど笑っているお母様がいた。

 ヴェールがないとはっきり顔が見えるのだけど、それは聖女としてしてはいけない顔だと思いますよお母様!


「メイドごときに名乗る名はない! さっさとそこをどけ! 邪魔立てするなら叩き斬るぞ!」

「はあ、お嬢様が大変魅力的で愛らしいのは理解しておりますし、自慢でもあるのですが。なぜこうも拉致被害にあうのでしょうねぇ……」

「……ミラちゃん、そんなに拐われてるの?」

「だいたい未遂で終わるからノーカウントだと思います」


 若干ノアさんの腕の力が強くなった気がする。

 ていうか、この兵士達はノアさんが居るというのにこんな態度を取っていていいのだろうか。

 どの兵士も全く気付いた様子が無く、疑問に思っている様子すら感じられない。

 前回も思ったが、短慮すぎやしないだろうか?


「王の兵であるにも関わらず所属、階級、名を名乗るつもりは無く、正式な令状も提示せず、剣に手をかけますか……成る程?」

「何をごちゃごちゃと! お前達、構わん、かかれ!」

「よろしい、現時刻をもって私の権限により、貴方がたをただの賊であると断定致します。王の兵を騙った国賊、この場で断罪してしまいましょう」


 スヴィータの腰から翼が伸びて開く。

 刀を抜くと共に切っ先で石畳を引っ掻き、高く音を奏でれば兵達の足が止まった。

 それでも止まらなかった隊長っぽい人を、背後から飛んできた矢が吹き飛ばした。

 スヴィータと並ぶように前に出たのは、露店の店主さん。


「メイドのおねーさん、ラピスちゃんも助太刀しますよー。目の前で誘拐未遂とか笑えないわー」

「スヴィータ、殺害はしないように。捕らえるだけにしておきなさい」

「助太刀の必要はありませんが、礼は言っておきましょう。全員、捕らえますが……相手は聖女様を狙う賊、手加減は必要ないでしょう。ラピスちゃん様は、お嬢様達の護衛をお願いします」

「りょーかい。任せてくださいな!」


 スヴィータがラピスさんに二枚のヴェールを手渡してから、一気に地面を蹴る。

 もはや互いに問答する気もないようで戦闘が始まってしまったのだがどうしよう?

 もう一度ノアさんを見上げてみる。


「ミラちゃんは何も心配しなくていいのよ。ついていった方がいいんじゃないかとか考えてるでしょ?」

「えーと……」

「ダメよ? 知らない相手でも、知ってる相手でも、それが正しい事のように思えても、ダメ。特に、この国では、絶対にダメ」

「お母様?」


 私を後ろから抱くノアさんは、何か違うものを見て、話しているように思える。

 そして、兵達を睨む彼女。

 何も言えずに、黙ってノアさんの手に自分の手を重ねるしか出来なかった。


「はいはーい、動いたら射つからねー。威力は食らってからのお楽しみ、運が良ければまあ、死なないよ? あ、これお返ししておきますね」

「随分と、手緩い。たかがメイド一人すら抜けないのですか?」

「お前達、何をしている! 全員でかかれ、このメイドだ!」

「隊長、しかしですね」

「さっさとしろお!」


 私とノアさんに近寄ろうとした兵士に矢を射かけるラピスさんと、単身隊長さんに肉薄して刀を振るうスヴィータ。

 隊長さんがなにやら叫んでいるが、ラピスさんが睨みをきかせているのが効いているのかほぼ膠着状態になっていた。

 それを見て、ラピスさんがスヴィータから渡されていたヴェールを返してくれる。

 ノアさんが私にヴェールを被せ、自分も身につけていつものスタイルに戻った。


「え、おい……あれ」

「あ? 何が……え?」


 そして、何人かの兵士の顔色が変わる。

 ノアさんを見て、私を見て、纏っているヴェールの純白に、兵士達の顔が蒼白に。

 ヴェールがあってようやく、自分達の所業に気付いたのだろうか。

 普通は聖女様の顔くらい覚えていて然るべきだと思うのだけど……近衛とか言ってたし王都の外から来た訳でもないだろうに。


「貴方がたにお尋ねします。貴方がたは、王国の兵か、ただの賊か、どちらなのでしょうか?」

「……っ、我々は誇り高き王の兵でありますっ!」

「その誇り高き王の兵がアリエティスの聖女様に刃を向けた国賊を、いつまで放置しているのですか?」

「恐れ入りますが、貴女は?」

「ノワイエ・ムフロンの娘にして、次期聖女。ミラ・ムフロンです……それで? 貴方がたは、本当に賊の仲間ではないのですか?」

「我々は、決して賊等では!」

「言葉ではなく、行動で示しなさい」

「……はっ! 全員、聖女様に仇なす国賊を捕らえるぞ!」


 この国の兵隊は人材不足か何かなのだろうか不安になるね。

 その場で踵を返して抜剣した兵士達が、未だにスヴィータと刃を交える隊長さんの元へと駆けていく。

 ようやく来たか、だの、遅いぞ、だのと叫ぶ隊長さんは未だにノアさんには気づいていないようで。

 スヴィータの隣を駆け抜けた兵士さん達が隊長さんを囲み、剣を突きつけ、取り押さえていく。


「貴様ら、これはどういうつもりだ! 上官に対してこのような事をして、ただで済むと思うな!」

「貴方こそ、ただで済むと思っているのですか? 辺境伯の三男坊が、聖女様に剣を向け、その娘である次期聖女様を拉致しようとした不敬。今すぐ首を落とされても余りある罪だと言う自覚はないようですね?」

「あ? 聖女だと? 何を言って……え?」


 兵士四人が取り押さえて地面に押し付け、そのうち二人が剣を向け、残りの兵は整列する。

 ノアさんの抱擁を解かれた私の側にスヴィータが戻り、三人で地に伏せる隊長さんの目の前まで歩いて行く。


「貴方は、以前にも私の娘を無理矢理に連れ去ろうとしたとか? 王都レオニスは、聖都へ宣戦布告でもなさる予定で?」


 ざわりと。ノアさんの言葉に兵士達と、いつの間にか集まっていたギャラリー達からざわめきが走る。

 正確にはあのときはまだ次期聖女でもノアさんの娘でもなんでもなかったけどね。

 いや、崇めてる女神様の娘ってだけで十分なのかな、この場合?


「な、えっ、聖女が、なんでこんな場所に……」

「この事は、私から、直接陛下へと申し立てておきます。本当に陛下からの勅命であるのなら、罰される事もないでしょう?」

「ま、待ってください! 私は、そこの娘を――」

「ええ、ですから。私の娘を拉致しようとした賊を……許すと思っているのかと、言っているんですよ」


 ノアさんが不意に前に出て、兵士の一人が持っていた剣を奪い、地に伏せる隊長さんの目の前に刃を突き立てた。

 鼻先ギリギリに突き立てられた剣に、隊長さんが大きく目を見開く。

 そして何よりも……十センチ以上も深く石畳に突き刺さった剣に、目を奪われていた。


「貴方達はこの賊を連行なさい。処分については、後日陛下とお会いしてから決定します」

「……はっ! この度は、大変申し訳ありませんでした!」

「謝罪は結構です。私からすれば、貴方がたが何を言おうが全員賊のようなもの。先程も言いましたが、言葉ではなく行動で示しなさい」

「はっ! これより王城まで連行する、急げ!」

「き、貴様ら……放せ、放さんか!」


 それからの兵士さん達の動きは迅速で、隊長さんを全員で囲んで広場から去って行った。

 本当に彼等で大丈夫なのかなあとか思いながらも、一件落着して息を吐く。

 もふんと、目の前から抱きしめてきたノアさんの腕の中でというのを付け加えておくが。


「スヴィータ、馬車に戻りますよ。聖区へ戻り、正式に王家へ抗議を申し立てます。ラピスさん、でしたか? 巻き込んでしまってごめんなさい?」

「いえいえ。髪飾りを買ってくれたお礼って事にしといてください。それじゃ、私はこれで」

「ええ、素敵な髪飾りをありがとう」


 どうやらラピスさんともお別れのようだ。

 私の視界は現在機能していないので、声のした方に手を振って別れを告げる。

 最後に、次期聖女様も買ってくれてありがとうと言う言葉が聞こえたので、別れを告げることには成功したようだ。

 そろそろ息が苦しくなってきたよ。


「それでは、参りましょう。それと、ノワイエ様。お嬢様が限界でございますよ」

「……あら、ごめんなさいね、ミラちゃん?」


 ギリギリセーフ!


 ……さて、アンデッドに加えてもう一つ厄介ごとの種が増えた気がするね。



 


 


更新しないとランキングめっちゃ落ちる。


さくらおぼえた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ