お出かけと筋肉とうねうねダンス
帰って行く王女様を見送った後、予定通りに共に出掛ける準備をしていると慌ただしくやって来たオウルさん。
彼女も、流石に王女様が乗り込んで来るとは思っていなかったようで、何があったのかとか少し話をした。
そこで、王家に聖女がいるせいで神殿としてもあまり強くは出られない事。
それ故に聖区、大聖堂への立ち入りも許してしまった事など。
聖女本人や本人の付き添いであれば問題は何もないのだが、そこは王女というだけあって無下にはできなかったと。
ひたすら謝るオウルさんを宥めているうちにお昼前。
オウルさんが馬車とか大量の護衛とかを手配しようとしたが、護衛はスヴィータ一人で充分だし、馬車だけで良いとノアさんが決めた。
アンデッドの群れから生還し、私を守りきったとかでノアさんもスヴィータの事はすっかり信用したらしく。
正式に私付きのメイドとして、そして聖区所属の獣人として登録されたようだ。
「それじゃあ、馬車で街を一周してから途中で気になったお店に行ってみましょ!」
「うん、賛成。案内よろしくね、お母様」
「ええ、勿論よ!」
「出発致しますよ、ノワイエ様、お嬢様」
ノアさんと二人で馬車に乗り込んで、スヴィータが御者席へ座る。
馬車の操縦とかできるのかと聞けば、現実の方で覚えているらしい。
なんでも出来るとは思っていたけど、馬車の操縦も出来るんだねこの人。
現代日本でその技術は必要ないだろうに……向こうでも使わないと思うよ、今時。
ゆっくりと走り出した二頭立ての馬車が聖区を出る。
西から北へ、そこから南までぐるりと一周して、中央を通って西へ戻るという予定だ。
馬車の中で、改めて王都についてノアさんに説明してもらう。
まず、西。
王城と聖区があり、その大半が貴族用の区画だ。
貴族区には王立の学園などもあるらしく、スキルを習う事もできるのだとか。
北は鉱山方面なだけあって、工業が盛んな区域だ。
職人が多く集まり、鍛冶や木工など、多種多様な産業が行われている。
冒険者向けの区画でもあり、組合があるのも北寄りだ。
そして東。
港町方面のこちらは交易を主としている区画。
他の街や国からさまざまな品物が集まり、常に人で賑わっている。
ノアさんが言うに、東区画で揃わない物は無いと言っていいとか。
最後に南。
こちらは国民用の居住区画で、旅人の為の宿屋などが揃っている。
貧民街……所謂スラムも存在していて、そこには近寄らないようにと釘を刺された。
カタカタと揺れる馬車の窓の向こうを眺める。
話を聞いているうちに西の貴族区は抜けたようで、そのまま北へと向かう。
「……そういえば、お母様?」
「どうかした?」
「うん、少し気になる事があって。聖女関連の事なんだけど」
「私にわかることなら、何でも聞いて?」
現在の私は、アスクレピオスの聖女で、アリエティスの次期聖女という事になっている。
アスクレピオスの聖女であることはスヴィータ含めて誰にも伝えていないので、表向きにはアリエティスの次期聖女というだけなのだが。
そこで、気になった事が一つ。
「聖女ってさ、二人以上の神様の聖女になることってあるのかなって。聖女は十二人って聞いてるから、それは無いのかな?」
「そうでも無いわ。私が知っている中では、何人か居ましたよ。流石に三人の神様から神託を受けた子は居なかったけれど、二人の神様に仕えた聖女は存在していたわ」
「何か不都合とかはなかったの?」
「特には無いけれど……神様二人からの祝福が凄くて困ってしまうと相談される事はあったわね。神様も、自分の方を頼って貰えるように競いあってしまうっていうのが不都合かしら?」
なんか思ってたのとは違うけれど、ある意味問題は無いらしい。
ノアさんはその聖女様とは知り合いだったようで、思い出したかのように苦笑を浮かべていた。
最終的にその聖女様はどちらの神様も大切にして、百二十年も生きて天に昇っていったらしい。
ちなみに、ノアさんを除いて最も長く生きた聖女様がその人だと教えてもらった。
「まあ、今は全ての神様に聖女がついているからそんな心配はいらないわよ。聖女が変わるのは聖女が死ぬか、今の聖女が神様の許可を得て次期聖女に位を譲るかくらいしか無いからね」
「神様から指名されて変わったりは無いの?」
「滅多に無いわ。基本的に、神様は聖女の身体を通してしか物質界の様子を知ることは出来ないから。ああ、身体を通してって言うのは神様が聖女の身体を借りて顕現する事ね。聖女の身体にかかる負担が凄いから、これも殆ど行われる事はないの。聖女から神様に報告を行う事は出来るけれどね」
「成る程。よくわかったよ、ありがとう、お母様」
……となると、うちの蛇神様は本当に何者なんだろうね。
明らかに私の存在を認識して、私の夢(?)に干渉してきていた。
さらには向こうから聖女になるよう言ってきていたし、どうにも胡散臭い。
私の膝の上で体を起こし、うねうねと謎のダンスを披露している黒蛇ちゃんを見下ろす。
……、可愛いからいいや。
「そろそろ北の工業区画よ、ミラちゃん」
「意外と静かなんだね」
馬車の速度が一段階下がり、ノアさんと馬車の外に視線を移す。
サビクが私の腕を伝って頭の上に登り、一緒に外を覗き込む。
武器や鎧を身につけた人達が道を歩き、装備品を売っている店が軒を連ねている。
もくもくと煙を立てている建物が建ち並び、五月蝿くない程度に金槌を叩く音が響いている。
「魔法で音を小さくしているのよ。完全に消してしまうと不都合も多いから、あくまで音を下げるだけだけれどね」
「便利な魔法もあるんだねえ」
『ミラちゃんミラちゃん、あそこみてみて、すごい筋肉!』
『こら、ティム! 静かにしていなさいと言ったでしょう!』
『ぴーぴーぴぴーぴっぴー』
『鍛冶屋が火事や……ぷぷっ、三点だ、ぜー』
ティムの言葉に視線を向けると確かに凄い筋肉だった。
下半身は鎧をつけているのに上半身は殆ど何もつけていなくて、肉体美を前面に押し出した格好の獣人さんがいたのだ。
頭の上の耳はまるっこくて、胸元辺りに三日月の形の傷? のようなものがあった。
……ツキノワグマの獣人さんだろうか?
メサルがティムを嗜めて、シェラタンは相変わらずよくわからないが満足そうに揺れている。
サビクは可愛い、異論は認めない。
「ミラちゃん、街の外に出るときの装備とか、戦い方はどうしているの?」
「私? 武器は短剣を使ってるよ。これでも、速さには自信があるからね、魔法も使うけど、基本的には避けて斬る感じでやってるかな?」
「……防具は?」
「ワンピースかな?」
「……スヴィータ! 今すぐに、テティスの店へ!」
「かしこまりました、ノワイエ様!」
『ぴぴゃ!?』
ノアさんが突然叫んで、頭の上のサビクが転がり落ちて来た。
両手でキャッチして事なきを得るも、若干混乱したサビクがうねうねしながら首を左右に振っている。可愛い。
「ええと、お母様?」
「だめよ、ミラ! 外に出るときはちゃんと防具をつけないと、怪我をしたらどうするの! 街の周辺のモンスターはそんなに強くはないけれど、当たりどころが悪かったら死んだりもするのよ! ……ああっ、そんな装備でアンデッドの群れと戦ってたの!? スヴィータ!」
「はい、ノワイエ様」
「貴女の装備も揃えますよ! あと、お給金は予定の倍にしますからね! 店へ急ぎなさい!」
「お任せください、ノワイエ様」
「ちょ、お母様、落ち着い……」
「落ち着いて、いられるわけ、ないでしょ!」
『私としても、ノワイエに賛成でございます、ミラ様』
『ミラちゃん、プレイヤーさんでもね、死ぬのは怖いし、私達も嫌なんだよ?』
『ぴぴっぴぴ! ぴぴぴー!』
まさかの味方がゼロだった件。
鎌首をもたげて、頭の位置はそのまま身体をうねうねゆらす謎の踊り。
効果はない。強いて言えば可愛い。




