レベルアップと着替えと窒息の危機
「おはようございます、お嬢様……よくお休みになられておりましたね」
「ん、んん……うん、おはよう、詩乃しゃん」
いつもの声に呼び起こされて目を覚ます。
まだ眠い眼をこすりながら上体を起こすと背中を支えられて、水の入ったコップを渡される。
両手で受け取ってゆっくりと飲み干し、ようやく覚醒した。
「……あ、そっか、ゲーム内で寝たのか」
「時間的にはお昼寝でございますね。今は朝ですので、現実では夕方に差し掛かった頃でしょうか」
『おはよーミラちゃん!』
『おはようございます、ミラ様』
『ぴ!』
結構寝てたんだねぇ。
ぐいーっと両手を伸ばしてベッドから降りる。
枕元にいたらしいサビクが腕を伝って首に巻き付くのももう慣れた。
「お嬢様は使役系のスキルもお持ちなのですね」
「うん? うん、まあね。サビクって言うんだ」
「サビク様ですね、よろしくお願いします。私はスヴィータでございます」
『ぴぴっ!』
目を覚ました部屋は昨日案内された寝室だ。
どうやらノアさんは居ないようで、部屋にいるのは私とスヴィータと精霊達だけだ。
メサルもティムも、今はダイアリーの中ではなく各々部屋を飛び回っている。
そしてふと、視界の隅に浮かぶ文字列に気付いた。
「わーるどくえすと?」
「どうやら、昨日のアンデッドの群れはイベントだったようですね。あれをクリア……おそらくは王女殿下を生還させる事が条件だったのでしょう。それにより、ワールドクエストが発生したようです」
「へー。普通のクエストとは何か違うの、それ?」
「そうですねぇ。世界に影響を及ぼす重要な出来事と言いましょうか。これの成否により、今後のゲームの展開にも関わってくるかもしれない物ですね」
そんなものがあるんだね。
クエスト名は不死者の行軍だって。確かに昨日のが影響してそうだ。
寝室から自分の部屋に移動しながら通知されている文字列を流し見て、数分かけて読み終えた。
『ミラちゃん、レベルいっぱい上がってるよー?』
『倒した数が数ですからね。結構な経験値を取得したようです』
「……あ、ほんとだ。ステータス振っとかないと」
「お嬢様はどのような構成をなさっていらっしゃるので?」
「Agiっていう奴に全部入れてるよ?」
「まさかの極振りでございますか。流石お嬢様でございますね」
スキルもいくつかレベル上がったりして色々と増えているみたいだから、ついでに確認しておこうかな?
ダイアリーを呼んでページを開く。
今日はティムの当番なのか、真っ先に飛び込んで行ったね。
ネーム:ミラ・ムフロン
性別:女性
真名:カーミラ・アリエティス
種族:金羊族/Lv26
精霊:ティム/メサル
出身:精霊界
取得言語:精霊語/獣人共通語/古代神獣語
使い魔
サビク Lv6
神獣メドゥサ
Str 15+1
Int 46+1
Dex 24
Vit 15
Agi 148+13
Men 21
スキルポイント 18
22/14
短剣マスタリー Lv12
体術マスタリーLv9
敏捷強化 Lv14
感覚強化 Lv11
身体制御 Lv10
操糸 Lv1
光系統魔法 Lv13
鑑定 Lv6
アスクレピオスLv1
精霊魔法Lv5
神獣契約Lv4
魔法装填Lv3
空間魔法Lv1
神聖系統魔法Lv6
称号
蛇使いの聖女
女神の娘
聖女の娘
金羊の次期聖女
正規冒険者
とりあえずポイントは全部Agiに入れておいた。
十ポイント毎のボーナスが+で表記されるようになっていて分かりやすいね。
Agiだけ三桁台に突入していて、妙な達成感さえある。
スキルの方も色々とレベルが上がっているみたいで、レベル五毎に新しいアーツやスペルが増えているようだ。
操糸が全く上がっていないけど、これもどこかで使っておかないとね。
「あ、名前にファミリーネームがついてるね」
「正式にノワイエ様の養女となられたからでございますね」
「ううん……何か、他に名乗っておける名前も考えた方がいいかな?」
「ミーリャでよろしいのでは?」
「ああ、確かに。んじゃ、聖女活動してない時はミーリャで」
「かしこまりました」
『ミーリャ……良い名ですね』
『みーりゃちゃん!』
『ぴーぴゃ!』
私の名前、増えすぎではなかろうかと思うのはここだけの話だ。
それはそうと置いておき、続いて増えたスキルの確認をしようとソファに腰を下ろす。
それと同時、外へ続く扉を叩く音。
「失礼致します、ムフロン様。お目覚めでしょうか?」
「スヴィータ」
「ダー。少々お待ちください」
ダイアリーを閉じて、膝の上に置く。
対応に向かったスヴィータが扉の向こうといくつか言葉を交わし、すぐに戻ってくる。
向こうで染み込んだ習慣をゲーム内で使う事になるとは思ってもいなかったよね。
「お嬢様。ノワイエさまからの伝言をと。朝食を一緒にどうか、そしてその後一緒に街に出ないかとのお誘いでございますね」
「是非、と」
「かしこまりました」
ご飯にしろお出掛けにしろ、ノアさんからの誘いを断る必要なんて何もないよねと即座に返事。
扉の向こうにいるであろう存在に返事を返しに行ったスヴィータの背中を見ながらインベントリから出した果実のジュースに口をつける。
部屋にノアさんが居なかったのは先に起きていたからみたいだね。
まあ、昨日の事とかあるし聖女の仕事とかなのかな?
指先でサビクと遊んでやっているとスヴィータが静かに戻って来た。
「では、着替えた後に食堂へ向かいましょう、お嬢様」
「着替え? 祭服でいいのかな……初期装備のワンピースしか持ってないよ?」
「部屋にある衣服は使用してもよいとの事です」
そう言いながらメイドが向かったのは部屋の隅にあるクローゼット。
大きく開け放たれたその中はウォークインになっていたようで、思った以上に広い空間が広がっていた。
ジュースをテーブルに置き、立ち上がる。
スヴィータの後ろからクローゼットの中を覗き込めば、そこには様々なドレスやら洋服やらがひしめき合って存在していた。
「……いつの間に、こんなに用意されていたの?」
「昨夜、お嬢様がお休みの間に運び込まれておりましたよ。全て自由に使って良いと言い付かっております」
「お、お姫様じゃあるまいし」
「……? お嬢様、聖女様の娘で次期聖女ともなれば、一国のお姫様にも負けておりませんよ?」
「まじかー」
「まじです」
これ、幾らかかってるんだろうとか思ってしまう。
自分が現実でもお嬢様だって事は理解しているが、金銭感覚はまともなつもりだ。
月々に両親から送られてくるお小遣いやら自分で稼いでいるお金があるとは言え、一人の高校生だからね。
プライベートでカードなんか使わないし、友人らと出かける事も普通にあるのだから当たり前の感覚だと思う。
アリサなんかは値段も見ずに気に入ったら全部買うタイプだけどね。
「お嬢様、こちらへ」
「え、あ、はい」
「失礼致しますね」
いつの間にか服を見繕っていたスヴィータ。
呼ばれるままに移動すれば大きな姿見の前で、何かいう前にてきぱきと着替えさせられた。
元々着ていたのとは質感も何もかも違う、白いロングのワンピースドレス。
その上に薄く透けた生地のショールを。
長く伸ばした左右の横髪にも白いリボンが絡めるように巻かれ、最後にいつものヴェールを纏う。
「……スヴィータにしては、普通だね」
「外出なさらないのであれば、もう少し可愛らしくなっていただきたかったのですが」
「外に誘ってくれて本当にありがとう、ノアさん」
着替えを終えて、スヴィータの先導で部屋を出る。
現実のスヴィータは事あるごとに私にひらひらふりふりごてごてな洋服やらドレスやらを着せようとしてくるので、地味めな衣装が好みになってしまったのだけど。
両親といいアリサといい、同じような服ばかりすすめてくるのだが、いい加減普通に着られる物と着られない物を区別して欲しい。
故に、私の部屋にはクローゼットが二つほどあり、私用とそうでないのとで分けられていたりもする。
詩乃さんについては、趣味に走った服を着せようとするのは屋敷内だけなのでまだマシではあるのだが。
てくてく歩き、昨夜も食事をいただいた食堂へ。
すれ違う人々に挨拶と頭を下げられるのに返していると思った以上に時間がかかった。
食堂の扉をスヴィータが叩き、私が訪れた事を告げると扉が開く。
「おはよう、ミラちゃん。とっても可愛いわね!」
「おはよう、ノアさ……ふぐむっ」
「おはようございます、ノワイエ様」
「おはよう、スヴィータ。貴女の申し出を受けて、本当に正解だったわ。ありがとう」
「勿体無きお言葉でございます」
「むー!」
ノアさんと顔を合わせる度に窒息の危機を覚えるのではなかろうかと思い始めたよ、私。
予測変換が勝手な仕事して変な誤字になってるのに気付くとクスッてなりますね。
そしてそんな誤字を報告してくださり助かっております。
なんでアンデッドがアンデルセンに変換されていたのか……フシギ!




