聖なる光とゾンビとゾンビ
「お嬢様、目標地点まで到着、目視致しました」
「こっちも見えてる……馬車、かな?」
「はい。馬車が燃えているようですね……燃えている馬車を背後に、何者かが戦闘を行っているようです」
「見たところ囲まれてるね……盗賊か何かかな」
「その可能性は高そうです。如何いたしますか?」
「決まってる。ど真ん中に突っ込んで!」
「ダー」
明かりの正体は炎上している馬車のようなものだった。
もうすこし高度を下げれば、はっきりと肉眼で状況を確認できるだろう。
しかし、囲んでいる方の数がやけに多くないかな。
ぐんぐんと距離が縮むと共に、鼻をつく強烈な悪臭が届く。
「うえ、なにこの臭い!」
「腐敗臭でございますね……平原の真ん中で腐敗臭とは、また」
「スヴィータ、やっぱり誰か襲われてるみたいだね」
「しっかり掴まっていてください、お嬢様」
スヴィータが羽ばたくのを止めて、重力に身を任せた。
ひゅるると音を立てて落ちながら、魔法の詠唱を開始する。
燃えている馬車を背に、何人かが陣形を組んで襲撃者と戦っている。
陣形の中心にも人影があって、どうやらその人を守っているようだった。
見たところ八人程。対峙しているのは……やけに動きの遅い人型の集団。
『あれは、ゾンビでございますね……アンデッド系のモンスターです。火か神聖属性が有効で、物理に耐性を持ちます。動きは遅いですが、力は高いのでご注意下さい』
「なら、これだ! ホーリーライト!」
「お嬢様、着地致しますよ」
スヴィータの腕の中から魔法を放つ。
一団を取り囲んでいる集団の一角へ向けて放ったのは神聖系統魔法の一つ、ホーリーライト。
手のひらから飛び出した光の印がゾンビの一体に着弾した瞬間に光が迸り、光の直撃を受けたゾンビを一瞬で灰へと変える。
その間に着地、スヴィータの腕の中から飛び降りた。
「……何者だ!?」
「援軍か!?」
後ろから聞こえる誰何の声は一旦無視して、ダイアリーをから装備メニューを開く。
指示するまでもなく飛び出したスヴィータに一旦任せ、聖女の祭服とミトラを身につけ短剣を抜く。
「スヴィータ、倒さなくても構いません。近寄らせなければ、私が浄化します」
「ダー」
「メサル」
『こちらを』
ダイアリーのページがひとりでに開く。
開かれたのはスキルの一覧で、そこから目当ての物を見つけ詠唱を開始。
戦線をスヴィータに任せ、短剣をふりかざす。
『医の神の祝福を此処に。ディバインヒール』
自身を中心に光が溢れ、背後の集団を包み込む。
アスクレピオスのスキルの範囲回復魔法、ディバインヒール。結構なMPとクールタイムを要求されるが、詠唱自体はとても短い。
特徴としては、一定範囲内の味方と認識している全てに効果を発揮するという所か。
光がおさまり、背後からはまた困惑する声が届く。
「怪我は治します、出過ぎず、時間を稼いでいただけますか?」
後ろの集団に声をかけながら、詠唱を終えたホーリーライトを撃ち込み、ゾンビを吹き飛ばす。
ホーリーライトのクールタイムの間にライトバレットを詠唱、武器に装填。
こちらに寄ってくるゾンビを優先して斬り伏せていくスヴィータの背中を見守りながら、三度目のホーリーライトをゾンビが固まっている場所へと放った所で、状況を理解したであろう集団が武器を手に私の前に出た。
「す、凄い……よし、この子を守れ! ゾンビどもを近寄らせるな!」
「了解!」
「行くぞ!」
火に弱いゾンビが相手だ、燃え盛る馬車から距離を取るのは得策では無いね。
揃いの鎧を纏った七人と入れ替わるように後ろへ下がりつつ四発目のホーリーライトを放つ。
結構な数を吹き飛ばしたと思ったのだが、まだかなりの数のゾンビが残っているらしい。
倒しても倒しても、どこからか現れて来ているような感覚があった。
「貴殿方の代表はどちらでしょうか?」
「一応、私がこの護衛小隊の隊長を務めております!」
すがり寄ってくる、彼らが護っていたであろう小さな女の子を背中に庇いつつ、ゾンビと戦う集団へ声をかける。
最初に指示を出した男の人が私の側へ下がってくる。
光の弾丸をばらまきながらその男性を見上げる。
どこかで見たような鎧だったが、どこで見たんだろうねこれ。
「ここは私達が引き受けますので、貴殿方は王都へ離脱してください。走ることに専念すれば、ゾンビやスライム程度なら逃げ切れるでしょう?」
「は? それでは、貴女達が!」
「ホーリーライト。ご心配には及びません、それよりも、そちらの方を護りながらでは物量に圧されて負けますよ」
「……くっ、しかし!」
この集団が護っていた、小さな女の子に視線を向ける。
綺麗なドレスを身につけていて、あからさまに貴族のお嬢様みたいな風貌をしていた。
護衛小隊とか言っているし、重要な人物なのだろう。
私達プレイヤーと違って、NPCは死んだらそこで終わりだってとーま君が言っていた。
迫るゾンビの頭部にライトバレットを直撃させて、消し飛ばす。
「職務を全うするのが騎士の務めでしょう? 道は開きます、次のホーリーライトで全員走りなさい」
「……必ず、援軍を連れて戻ります」
「まずは、生き延びる事を優先してください。ホーリーライト!」
「全員、離脱する! 姫様は私が連れる、走れ!」
しかしこのホーリーライト、MPの消費が結構きついね。
ホーリーライトであけた穴に少女を抱き上げた隊長さんを中心に一団が駆け抜けて行く。
横合いから襲い掛かるゾンビはスヴィータが斬り払い、離脱を助けていた。
迫るゾンビの爪をイリスダガーで弾き、横に飛びつつ武器に装填したライトバレットを撃ち込んだ。
「お嬢様、ポーションを」
「ああ、そういえばそんなものもあったね……そっちは平気かい?」
「動きも遅いですし、体力が高いだけで問題はありません」
「あと何匹くらいいるのかな」
「目測でも百はいるかと」
スヴィータから受け取った小瓶の中身を飲み干して、ホーリーライトを詠唱する。
スヴィータは赤く光る刀を振り回し、確実に一体一体倒して行く。
ホーリーライトとライトバレットを交互に使い、距離を詰めてきたゾンビは短剣で切り捨てる。
『しかし、ゾンビがこのように大量に発生するなんて……少々不自然でございますね』
『お姉ちゃん、どーゆーことー?』
『ぴ?』
動きを最小限にゾンビの群れを捌いて行く。
駆け回るには視界が悪く、敵の数も多い。
そもそもゾンビは火に近寄らないようで、背後は安全が保たれているからわざわざ突っ込む必要もない。
ポーションを飲みながらホーリーライトを放つも、後から後からゾンビが押し寄せる。
『ゾンビ……アンデッドとは、死した生物の肉体が魔物化して発生するモンスターでございます。近くに墓場があるわけでもなく、戦場でもないこんな王都近くの平原にアンデッドが大量に発生する事は非常に考えにくいのです』
「確かに、言われてみればそうだね。ここの夜のフィールドのモンスターがゾンビっていう可能性は?」
『仮にそうだとしましても、この数は異常です。自然発生でないことは明らかかと』
『ぴー!』
「おっと、ありがとう、サビク」
会話に気をとられている間にゾンビが忍び寄って来ていたようで、サビクの鳴き声で飛び退いた所にゾンビが倒れこんでくる。
ベキンと音を立ててゾンビの腕が折れたのだが、転がっていくのは腕の形をした石の塊だった。
石化の魔眼って奴だろうか。
「お嬢様、どうやら一定の数を下回ると地面からゾンビが補充されているようです」
「どうりで減らない訳だ。彼らは逃げ切れたかな?」
「無事に逃げ切ったようです。我々は如何いたしますか?」
「適当に逃げたいところだけど、王都までついてこられても困るからねぇ」
スヴィータと背中合わせになって、ゾンビを迎え撃つ。
もう何発ホーリーライトを撃っただろう。
一分が一時間にも感じられる。
ひたすらに魔法を使い、短剣を振るう。
最後のMPポーションを飲み干して、ホーリーライトを撃つ。
ゾンビのうめき声ばかりが辺りに響く。
「……っ、仮想でも、疲れるんだねっ」
「そのようですね……飛んで逃げようにも、クールタイムはまだ暫く終わりそうにありません」
「こうなったら。とことんやるしかないよね。なんか、ゾンビの数、減ってきてるし!」
「ええ。上限でもあるのか、ゾンビを発生させている何かのリソースが切れたのか。なんにせよ、活路は見えました」
とは言え、まだ少なく見積もっても五十はいそうなのだけど。
よくもまあ、二人でここまでやれたものだ。
ホーリーライトが無かったら、多分無理だっただろう。
ありがとうアスクレピオス、この瞬間だけは本気で感謝しようと思うね。
首に巻き付いたサビクがぴっぴと鳴いている。
「私のMPが切れるのが先か、ゾンビの全滅が先か」
「ご安心ください、お嬢様には指一本触れさせませんので」
「頼りにしてる……そんじゃ、ラストスパートと行こうか」
ゾンビの群れの真ん中にホーリーライトを撃ち込んで、そこにスヴィータが突っ込んで行く。
ライトバレットを詠唱して武器に装填、スヴィータを抜けてきたゾンビの首をはねる。
『ミラちゃん、後ろー』
「おおっと、いつの間に!?」
馬車の炎は未だ衰える事はないのだが。
振り向き様に短剣を振り上げると、ガギンと、何か固い物にぶつかり刃が止まる。
炎に照らされて視界に映ったのは、短剣が受け止めたボロボロの剣と、それを振り下ろしている……。
「……骨?」
『骨だねー』
『スケルトンでございますね』
『ぴーっ!』
どうやら、ここに来て新手らしい。
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