キャラクターを作ろう
『アニマスピリアオンラインにようこそ。キャラクターアバターの作成を開始しますか?』
「あ、はい。よろしくお願いします」
『私はキャラクタークリエイトを担当致します、ナビとお呼びください』
降り立ったのは、一面の夜空と足元に広がる波紋。
水のような、鏡面のような、夜空の星を映した床。
そして、目の前に浮かんでいるのは野球ボールサイズの、二枚の翅が生えた光の玉。
『では、まずはプレイヤーネームを設定してください』
「えっと、確か、本名は避けたほうがいいんだっけ」
『お客様はVRMMORPGは初めてでしょうか?』
「うん、こういうゲームは初めてなんだ」
声はこの球体が発しているようで、パタパタと翅を動かしてその場に止まっているようだ。
『そうですね。本名や、本名に繋がる名前等は可能な限り避ける事をお勧め致します』
「うーん。それじゃあ……ミラ、で」
『ミラ様、ですね。……、はい、名前の重複は確認されませんでしたので、こちらで登録致します』
鏡華の鏡をミラーにして、ミラ。
少し安直過ぎたかなと思いつつも、重複で弾かれなかったようで一安心。
これがダメなら手当たり次第になるところだった。流石に、変な名前でプレイしたくはないものね。
『続いては種族の選択を行います、こちらをどうぞ』
「種族かあ。これは……手帳?」
『そちらを開いていただければ、初期選択可能な種族と、その簡単な説明が記載されております。既にお決まりの物がございましたら、直接告げてくださいませ』
この一週間色々と調べてきたけれど、肝心のこのゲームに関することは余り調べる事は出来なかった。
学校に勉強に、家の事もあるし、睡眠時間を減らすのは許容不可能だから。
調べられたのは、このゲームの簡単な概要と、仕様くらい。
ナビさんの前に突然現れた手の平サイズの真っ白い手帳を手に取り、頁を開く。
このゲームでプレイヤーが選べるキャラクターは、みんな身体の一部に動物の特徴があって、その種類は様々だ。
普通の人間という種族はなくて、狼とか猫とか兎とか。
ほとんどのキャラクターには動物の耳や尻尾があるのだとか。
パラパラと頁をめくり、目的の種族を探す。
公式サイトのスクリーンショットで目を惹かれた一つの種族。
七回ほど頁をめくったところで、それを見つけた。
――羊族。
魔法が得意で、防御面にも優れている。
力は弱いものの、バランスの取れたステータスを持つ。
「羊族で」
『かしこまりました。また後程変更する事も可能ですので、変更を希望する際はお伝えください』
開いていた手帳がひとりでに閉じて、一頁目が開かれる。
そこにはミラという名前と、その下に羊族と。そしてさらに下のスペースに幾つかの数字が並んでいた。
ネーム:ミラ
性別:女性
種族:羊族
HP425
MP625
Str 5
Int 30
Dex 20
Vit 15
Agi 10
Men 20
ボーナスポイント:50
『そちらに表記されているのが、羊族の初期ステータスです。そこにボーナスポイントの五十を任意の場所に割り振ってください。ボーナスポイントは十振るごとに一ポイント、さらにボーナスが与えられます』
「えーと、上から筋力、知力、器用さ、体力、敏捷さ、最後のは……精神力かな?」
『その通りです。各ステータスの詳細な説明は必要ですか?』
「筋力は物理攻撃力で、知力は魔法攻撃力、器用さは命中力とかかな? 体力は……防御力とかで、敏捷さはそのまま動きの速さだよね。最後の精神力は?」
『精神力は、状態異常への耐性や、アーツ、スペルの詠唱中に攻撃を受けた際に中断を受ける確率を減らします』
「集中力みたいなものかな……うーん、それじゃあ」
手帳の数字に触れると、数字の左右にプラスとマイナスのアイコンが浮かび上がる。
プラスに触れると一ポイント増えて、マイナスに触れると一ポイント減る。
これをあわせて五十ポイント、好きに設定できるらしい。
「それじゃあ、これで」
『……えーと、失礼ですが、ミラ様はこういったゲームは初めてなのですよね』
「そうですね」
『配分に口を出すようで申し訳ないのですが、本当によろしいのですか?』
「うん。とーま君が言ってたんだ、当たらなければどうという事はないって」
ネーム:ミラ
性別:女性
種族:羊族
HP425
MP625
Str 5
Int 30
Dex 20
Vit 15
Agi 10+50(5)
Men 20
『……後程変更も可能ですので、その時はお伝えください』
「速く動くのって、少し憧れてたから。大丈夫です」
『それでは、次に初期スキルの設定に参りましょう』
頁がめくられる。
白紙の頁で、そこには何も書かれてはいない。
『初期選択可能なスキルは八つで、二つはキャラクター作成完了時にランダム選択されます。スキルは初期十枠、そこからレベルが一つ上がる毎に一つ増加していき、最大で三十枠まで拡張されます』
「うーん、スキル……かぁ」
『……武器スキルを最低でも一つ、魔法もあると良いかもしれません。後は、ステータスを強化するスキルなどもあるとよいでしょう』
「……うん、基礎は大事だもんね」
『頁をめくっていただければスキルの一覧を確認できます。ソートや絞りこみなども可能ですし、質問があればなんなりと』
「ありがとう。それじゃあ……まずは武器スキルだよね。後は――」
時間がかかりそうだからと、床に腰をおろして手帳をめくる。
ナビさんもふわふわと寄ってきて、一緒に覗きこむように空中で停止した。
そして、時折ナビさんと相談しながら十数分。
色々と想像しながら選んだスキルが、手帳の二頁目に並んでいた。
短剣マスタリー
体術マスタリー
敏捷強化
感覚強化
身体制御
操糸
光系統魔法
鑑定
『最終確認となります。ここで設定を確定されますと、もう変更はできません。種族、ステータス、スキルを確定させてよろしいですか?』
「うん、大丈夫。お願いします」
『かしこまりました。それでは種族、ステータス、スキルを確定いたしました。種族データをミラ様と同期いたします』
「同期? はわっ!?」
ナビさんの言葉と共に、足元から光が溢れて私を包む。
思わず目を閉じて、数秒、ナビさんの『同期を完了いたしました、詳細の設定が可能です』の声に目を開く。
戻った視界には相変わらずふわりと浮かぶナビさんと、頭の側面からくるりと巻かれた羊の角を生やした私が立っている。
「私がもう一人?」
『ミラ様の姿を映したマネキンのようなものとお考えください。体型や身長などの大きな変更は出来ません。髪の色や瞳の色など、細部の調整が可能です』
「なるほどー。身長は駄目ですかー残念。髪の色は……変えなくていいかな。その代わり、髪を伸ばす事ってできますか?」
『髪型の変更は可能です』
「それじゃあ、今の腰くらいのを、お尻くらいまで長くして……この横髪も腰まで伸ばしてみようかな。あとは……うん、瞳の色を青くして欲しいな。他は変えなくていいや」
『設定を反映します。――、完了しました。これでよろしいですか?』
「うん、オッケー」
『設定を完了致しました』
金の髪に青い瞳。
側頭部には羊の角に、横にぴょこんと飛び出たけもの耳。
お尻までの長さがある、端から見るとボリューミーなウェーブヘアー。
丁度角の下辺りから伸びている横髪が特徴的だ。
ついでとばかりにマネキンもどきの後ろに回りこんでお尻の方を確認してみれば、ちゃんと小さな尻尾が生えていた。
『設定を同期します。――完了いたしました。項目もあと二つですので、もう暫くお付き合いください』
「よろしくお願いしますね」
『はい。と言いましても、お時間はそう取らせる事はありませんので。アニマスピリアオンラインでは、プレイヤーは獣人として。そして、この世界に生きる獣人は全て、一人一人にパートナーとなる精霊が存在します』
「うん、スピリア……だっけ」
『ミラ様には、自分の精霊を選んでいただきます。直感でも構いません、お好きな色の精霊をお選びください』
ナビさんの身体が光って、空間を満たす。
無色透明な光の玉だったナビさんは消えて、視界いっぱいに無数の色が飛び込んでくる。
赤い光、青い光、緑の光。
そのどれもが野球ボールくらいの大きさで、ちいさな二枚の翅を生やして浮かんでいる。
見回す、見上げる、一捻りしてくるりと回る。
それぞれが一つ一つ違う色の精霊達。
右も、左も、上も、後ろも前も。
どこを見ても無数の精霊に包まれていて、ふと見下ろす。
「うん、決めた」
屈みこむ。
足元にいたその子に手を伸ばして、指で触れる。
「私と同じ色の貴方がいいな」
そう告げると、周囲にいた無数の精霊達が消え去って、指先に触れた金色の精霊と二人きり。
顔を上げれば、再び無色透明の精霊、ナビさんが浮かんでいて、立ち上がる。
金色の精霊は私の胸の高さまで飛び上がり、そのままの勢いで――
「えっ?」
――とぷんと。波紋を残して、私の身体へと飛び込み、溶け込んでいった。
『精霊は、貴方のサポート役AIです。時にはアドバイスや、ゲームのヘルプへの接続。精霊の手帳……ダイアリーと呼ばれるユーザーインターフェースの代わりを行う事も可能です』
「とーま君が言ってた初心者にも優しい仕様っていうのは、これだよね。確かに、助かるかもしれない」
『精霊を呼ぶのも呼ばないのも、プレイヤーの自由です。精霊達はそれぞれが自分の意思をもっていますので、意見を違えたりする事もあるでしょう。一人で生きるのも、二人で生きるのも、貴方達の自由です』
ナビさんが宙を舞い、高く飛び上がる。
追いかけるように見上げれば、最初とは比べ物にならないほどの満天の星空で。
一つ、二つと光の筋が流れて、次から次へと消えてゆく。
『最後の設定です。アニマスピリアオンラインの世界では、プレイヤーも、NPCも、全てがその世界で産まれ、育ち、人生を歩んで来ました。貴方は今夢の中にいます。そして、この夢から覚める際。記憶を持って目覚め、この世界の一人として生きることを選びますか? それとも、全てを忘れた放浪者として、何のしがらみもなく生きることを選びますか?』
この選択の事だけは、とーま君が教えてくれた。
記憶を持って目覚めるを選ぶと、ミラというプレイヤーキャラクターが生きてきた背景と記憶を知り、自分の役割を持ってゲームの世界が始まる。
記憶を持たずに目覚めるを選べば、過去などない一人と一匹として世界が始まり、ただゲームとして、自分の好きなように生きる事ができる。
メリットもデメリットもあって、ただゲームを楽しみたいのなら、予測できない面倒ごとを避けるなら、記憶を持たずに始める事を推奨すると、ベータテストのプレイヤー達で結論が出たと。
記憶を持って目覚めたプレイヤーは時には犯罪者としての開始だったり。ボロボロの廃村で、孤児としてのスタートだったり。
中には貴族階級に産まれたプレイヤーもいたけれど、それはそれで行動に制限がついていたりしたという。
『貴方は、記憶を持って目覚めますか? それとも、記憶を持たずに目覚めますか?』
この話をとーま君から聞いた時から、私の選択は決まっている。
せっかく、初めてのゲームだから。
どうせなら、目一杯楽しみたいと思ったから。
だから、
「私は、記憶を持って目覚めるよ」
『かしこまりました。……貴方と精霊の歩む道に、祝福がありますように』
パリンと、硝子が砕けるような音がして。
星空も、床も、何もかもが割れて、身体が落ちてゆく。
私の目に映るのは遠くにある小さな小さな無色透明の輝き一つ。
どこまでもどこまでも落ちて、全てが闇に包まれて。
「……行ってきます!」
遠くに見える光がちかちか輝いた。