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検証とくず餅と空中散歩

 




「さて、お嬢様の境遇などの擦り合わせなどしておきたいのですが、話せる範囲で構いませんのでお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うん……そうだね、他ならぬ詩乃さん、スヴィータだし。教えておいた方がいいか」

「ちなみに、私は王城に勤めるメイド長で、少しばかりの貴族位を戴いている――というものでした。まあ、今現在は個人的にムフロンの家に雇われているいちメイドとなっておりますが」

「王城のメイド長がそんな簡単に辞められるの……?」

「国としても、聖女本人に恩が売れる機会ですからね、意外とスムーズでしたよ。挨拶も程々に、お嬢様を追いかけてきた次第でございます」


 インベントリから取り出したサンドイッチを二人で食べる。

 この木の下は安全エリアらしく、フィールドにはこのような空間が所々に存在しているらしい。

 この中にいる間はモンスターから見つからないが、こちらからモンスターを見つける事もできないのだとか。

 ここから見る景色にモンスターの姿はなく、地平線へ沈む夕日をゆっくり見ることができた。

 ちなみにこの空間はパーティー単位らしくて、他のプレイヤーとかにも見られないし会話も聞かれない独立した空間らしい。

 外でログアウトしたいプレイヤーの為の配慮って所かな?



「私についてはどれくらい知ってるの?」

「組合前でのいざこざや、ガチャ屋でのものは全てお嬢様でしょう? 色々と推測も重ねてはみましたが、お嬢様の性格と性質から本物の聖女にでもなっていそうだなという結論に至った次第でございます」

「だからノアさん……聖女様に直談判したんだね。それ、外れてたらどうするつもりだったの」

「私がお嬢様に関することで間違える事などありませんよ?」

「よくもまあ、そこまで言い切れるよねえ」


 そこからは少しの時間をかけて、詩乃さんに現在置かれている状況を伝えていった。

 目覚めたところから、記憶の内容。

 二人のスピリアがいることから、言語も違っていたこと。

 それから図書館で言葉を覚えて、ノアさんと話して。

 ノアさんの家族になって、次期聖女にもなった事。

 表向きにはプレイヤーではなく聖女として振る舞ってみようと思っている事。


「しかし、それではお嬢様の取れる行動が大幅に制限されるのでは?」

「そこも、微妙に解決しているよ。詩乃さん、後ろ向いてて」

「かしこまりました」


 詩乃さんに後ろを向いてもらって、白いヴェールを外す。

 代わりに装備したのは黒き聖女のヴェール。

 今さっきまで話してた彼女がどう反応するかとかも情報遮断のいい検証になるだろう。


「スヴィータ」

「もうよろしいのですか? ……ふむ、これは、成る程。もう外してくださって構いませんよ」

「もう少し反応が欲しいなぁ」


 黒いヴェールを取り外して膝の上に置く。

 やはり、視線を外してもらっていたとは言え結び付ける要素が多すぎると同一人物と認識されてしまうのかな。


「確かに、それがあれば問題は解決致しますね。しかし、一瞬でもお嬢様をお嬢様だと認識できなかったのはこのスヴィータ、一生の不覚でした」

「ええと、今のシチュエーションを他の人とやったのなら、気付かれてた?」

「おそらくは不可能では? いえ、推測は可能でしょうからお奨めは致しません。お嬢様が突然別人になっていたような、そのような意識の改変を行われた感覚でしたね」

「さすが神装って言っていいのか、なんというか……お墨付きが貰えただけ収穫ってところかな?」


 こくんと最後の一切れを飲み込んで、果実のジュースに口をつける。

 詩乃さんはとっくの昔に食べ終わっており、刀の手入れをしていた。

 喉の渇きを癒した後はヴェールを白に戻して立ち上がる。



「すっかり夜だね。この先のエリアの確認をしにきたんだけど、スヴィータのレベル上げをした方が良さそうだ」

「かしこまりました。少なくともお嬢様のレベルには追い付いておきたいところですね」

「あ、じゃあ熊さんでも探す? 弱いわりに経験値おいしいよ、熊さん」

『ミラ様、普通はそんな風にボスモンスターを狩るものではありませんからね?』

『そもそも、狩ってから暫くはでてこないんだよー』


 なんだ、残念。

 詩乃さんには熊さんは諦めて貰って、このエリアの夜間モンスターの確認で我慢するとしよう。

 腰の剣帯から短剣を引き抜き、両手に握る。


「お嬢様は短剣なのですね。可能でしたら、お嬢様には後衛からの援護をお願いしたいのですが?」

「前に出ないから安心してよ。魔法で戦うにしても、剣を抜いておいた方が便利なんだよ」


 詩乃さんが先に安全エリアから顔を出し、周囲の敵影を確認してから外に出る。

 周囲はすっかり暗くなっていて、あれだけ居たウルフやボアの姿は見えなくなっていた。

 狼って夜行性なのに夜には消えるんだねえとか考えていると、詩乃さんが動く。


「……お嬢様、後ろへ」

「了解」


 スヴィータの刀が受け止めていたのは、一つの大きな丸い物体。

 一閃にて弾き飛ばされ、ぽよんぽよんと地面を弾んで離れていくモンスター。

 なんというか。でっかいくず餅がいた。


『スライム、ですね。物理に耐性のある魔法生物でございます』

『ぐにょぐにょだねー。無属性のフツーノスライムだね!』


 とりあえず魔法をキャストして、武器に装填しておく。

 あのぷるんぷるんなくず餅はスライムらしい。

 正式名称がフツーノスライムで、普通のスライムという訳ではない。

 フツージャナイスライムもいるのだろうか。


「スヴィータ、そいつは魔法攻撃の方がいいらしいよ」

「かしこまりました。それでは……参ります」


 腰だめに、納刀したままの刀を構えてスヴィータが大地を蹴る。

 こちらはこちらで魔法を選択して詠唱、いつでも放てるように準備と、周囲の警戒につとめておく。


「……疾っ!」


 白刃が煌めき、スライムを断つ。

 しかし、減少したHPは僅かで、スライムは吹き飛びはしたもののぽよんぽよんと跳ねるだけだ。

 抜刀した刀を下段に構えたスヴィータが突進、下からの一撃でスライムを空中へと打ち上げる。

 そして、納刀。

 打ち上げられたスライムが落ちて行くのは当然、スヴィータが構える目の前の空間。


「エンチャント・ブラッドアームズ」


 彼女の刀が赤い光を帯びたと思えば、放たれるのは再度の一閃。

 真っ直ぐに振り抜かれた刀と、空中で静止したスライムの身体。

 表示されているHPバーはその八割程が黒く染まっていて、思い出したかのようにスライムの身体に赤い線が浮き上がり、確かに斬られた事を示す証が現れた。

 スライムの身体の上下がずれる。


「我が白刃に断てぬもの無し」


 手元で刀を回し、納刀。

 鞘と柄が高く音を鳴らすと、完全にスライムの身体が上下に分かれて弾け飛ぶ。

 もう一度スライムのHPを見ると完全に黒く染まっていて、光になって消えて行った。


「お待たせ致しました、お嬢様」

「今の、魔法?」

「私の固有スキルである血命魔法の内の一つ、エンチャント・ブラッドアームズと言う物でございます。武器に吸血属性を付与し、一定時間の間武器に魔法属性とHPの吸収効果を与える魔法でございますね」

「……詩乃さんの種族の蝙蝠って、チスイコウモリなの?」

「おそらくはそうでないかと」


 しかし今の詩乃さんカッコよかったね。

 我が白刃に断てぬもの無し、だって!

 私もあんなカッコいいの言ってみたいなあ。

 何か考えてみようかなあ。


「お嬢様、あちらを」

「ううん……どんなのがいいかなあ」

「お嬢様?」

「ふぁっ!? うん、なんだい詩乃さん?」

「スヴィータでございます。あちらの方角をご覧下さい……どう思いますか?」

「うん?」


 脳内カッコいい台詞会議を切り上げて詩乃さんの指す方向に視線を向ける。

 一部がやけに明るくなっていて、どうにも様子がおかしそうだ。

 こんな街の外に街灯があるわけでもないし、焚き火にしては光が強すぎる。

 そもそも、こんな平原のど真ん中で焚き火をする人間はいないだろう。

 やるとしても安全エリアの中だ。


「位置的には隣のエリアだけど、そう遠くはないね」

「火事にしては不自然です。おそらく、なにか事件か事故でしょうか」

「道中の相手をしながらだと……間に合うか? スヴィータ、私が先行……わっ!」


 短剣を鞘に納めて駆け出そうとしたら、視界が回転した。

 目の前には詩乃さんの顔で、私はどうやら横抱きにされているらしい。

 何故この状態でお姫様抱っこをするのかと口を開こうとしたところで、彼女の腰の翼が大きく開く。


「それではお嬢様、しっかりと掴まっていてくださいませ」

「えーと。まさか、飛ぶ?」

「飛びます」


 ダン、と強く地を蹴る音と共に、高く舞い上がる。

 うわあ、と。始めての体験と光景に思わず息を呑む。

 星空が近く、大地が遠く。

 向かう先は不自然な発光物。


 平原のど真ん中にぼんやりと灯るそれは、星のようにも見えた。







詩乃さんはわりとノリノリ

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