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メイドと聖女と夜の世界




「いってぇな……君、街中で攻撃するとかなに考えてるんだ!」

「逆にお聞き致しますが、公衆の面前で次期聖女様へ不敬を働く貴方は何をお考えなのでしょう?」

「はあ!?」


 復活したナンパ男が迫ってくるのを、詩乃さん……スヴィータが手にした棒を向けて牽制する。

 流石に騒ぎになったからか周囲には野次馬が集まりはじめていて、こんな事ばっかりだなあとか思ってしまうね。

 リアルと同じくボリュームのあるポニーテールが目の前で揺れている。

 これ、ぎゅっと握りたくなるんだよね。


「聞こえませんでしたか? 次期聖女様を拉致しようとした犯罪者としてこの場で処断されるか、見逃されるか選べと言っているのですよ」


 カチリ、と小さな音が届く。

 スヴィータの持っている棒が、二つに分かたれて行く。

 からんと地面に転がったのは鞘で、メイドさんの手には鍔の無い白い刃。

 周囲にどよめきが走る。

 それはスヴィータが武器を抜いたからか、もしくは私を次期聖女と呼んだ事からか。

 いや、だから何で知ってるの?


「聖女って……その子はプレイヤーだろ? 転移してきたのは見てたからな!」

「金羊の女神の次期聖女様が、女神様の力を借り受けているのがおかしいと? それ以上の侮辱を行うのであれば、お覚悟を」


 切っ先はナンパ男を捉え、スヴィータの足が肩幅に開かれる。

 正眼に構えられた刀にナンパ男が一歩後ろに下がる。

 そして、ばさりと。

 彼女の腰から、皮膜の張られた一対の翼が広げられた。


「くそっ、意味わかんねえ。おい、見せ物じゃないぞ! どけよ!」


 人混みを押し退けて、ナンパ男が踵を返して去って行く。

 流石に、公衆の面前で彼女とやりあおうとは思わなかったようだね。

 ギャラリーもいるし、そもそも私に拘る理由だってないだろう。

 ただまあ……その、多分NPCであろう獣人さん達が殺気のこもった眼差しで彼を睨んでいるのはどうしよう。

 彼のお仲間っぽかった女性プレイヤーは此方を睨みながらナンパ男を追いかけて行ったようだ。



「……さて、先程の不敬者の言う通り見せ物ではありません。即座に道をあけ、立ち去りなさい」


 スヴィータが鞘を拾い、納刀して一言。

 彼女の視線は周囲のギャラリーに向けられ、彼女の言葉に応えるように左右に人垣がわかれて行く。

 それを見て満足げに頷き、いつでも抜刀できるぞと言わんばかりに刀を手にしたメイドさんが私に振り返る。

 うちのメイドさんカッコいい。


「お待たせ致しました、お嬢様。それでは、参りましょう」

「ええ、ありがとうスヴィータ。とても、困っていました」

「ご安心ください。しかし、これに懲りたらおひとりでこのような場所に出向かれませんよう」


 せっかく道が開けたので、さっさと立ち去ってしまう事にする。

 私が歩き出すと、その後ろにスヴィータが続く。

 ざわざわと喧騒に包まれながら人々の間を進んで行く。

 こちらに話しかけたそうにしている様子のプレイヤーばかりだが、後ろに控えるメイドさんの眼が光っているうちは大丈夫だろう。

 ……しかし、組合の時の出任せではなく本格的に聖女プレイしないといけなくなったね。

 黒いヴェール貰ってて本当に良かったかもしれない。


「次期聖女様……?」

「では、ムフロン様の……?」

「でも、そんな知らせは……」

「聖女ってあれだよな、神殿の……」

「ちっさ! でっか!」


 去り際に聞こえて来たのはそんな言葉たち。

 前半はNPCの住人で、後半はプレイヤーかな。

 一番最後の奴は素直でよろしいと誉めるべきか、スヴィータに斬られればいいと怒るべきかどちらだろう。

 数分とかからず広場を後にして、真っ直ぐに門を抜ける。

 門番の獣人がこちらに向かって深々と礼をしていたのは……気にしないでおこうかな?



 *


「……えーと、一応確認しておくけどさ。詩乃さんだよね?」

「はい、此方ではスヴィータでございますが」


 街を出ると、私が後ろにスヴィータが前にと入れ替わる。

 ぴろーんと飛んできたパーティー申請を受諾して、スヴィータとパーティーを結成し、フレンドの交換も済ませておく。

 門を出て、真っ直ぐ歩く。

 寄ってくるモンスターはスヴィータが斬り伏せ、私はただ着いて行く。


『ミラちゃん、この人だれー?』

『随分と親しそうと言いますか……慣れていると言いましょうか』

『……まあ、私もプレイヤーだからね。言っただろう、仲間のあてがあるって』

『では、この方が?』

『うん、みんなも信頼していいよ。私が最も信頼していると言っていい人だからね』


 まだ夕方の時間ではモンスターの種類に変化はないので、私は動くつもりはない。

 全力で身体を動かしたい気もするけれど、今は出来ない理由もあるし。


「そういえばさ、詩乃さん……スヴィータか。ちょっといい?」

「なんでしょう? 後ろから着いてきている方々が目障りでしたら、今すぐに処理致しますが」

「や、そうじゃなくてさ。スヴィータさんは、なんの獣人なの? 腰から生えてるそれって、本物の翼だよね?」


 そう、メイドさんの腰から生えているのはまごうことなき翼なのである。

 頭の上には小さな獣の耳らしきものは生えているが、そこからでは判別が全くつきやしない。


「ああ、そうでしたね。私の種族は蝙蝠族でございます。器用と知力、次点で敏捷が高く、飛行能力がございます」

「ああ、なるほど。そう言われてみると、そんな感じもするね」

「どこかでゆっくりとお話ししたいところですが……そうなると後ろの連中が邪魔でございますね」

「かと言って、今の私は聖女様してるしなあ……うん、歩きながらでいいからなんで私の事知ってるかとかも教えて欲しいんだけど。メイド服とかどこで手に入れたのさ?」

「それは私がメイドだからです……いえ、本当に。お嬢様が聖女やらなんやらというのは、掲示板の情報から推測致しました。元々王城のメイドとして開始したのですが……都合よくも金羊の聖女様がお見えになられていたので、直談判した次第でございますね。なので、メイド服と刀は初期装備でございますよ」

「え、色々と突っ込みたいことがありまくるんだけど……じゃあ詩乃さん、今レベルいくつなの?」

「三でございますね」


 この人は本当になにをやってるんだろうね。

 開始がメイドってのは詩乃さんらしいと言えばらしいけど、そんなレベルでプレイヤーに喧嘩売ってたのか。

 その割には格上のウルフをさくさくと倒して行っているのは彼女本人の技術の賜物だろう。


「聖女様に直談判って、ノアさんがそれ許可したの?」

「はい。王城の元上司に許可も頂きましたし、聖女様からもよろしくとの言葉を賜っております。このスヴィータ、仮想であろうとどこであろうと、お嬢様以外のメイドになるつもりはございませんので」

「……後でノアさんとお話しとかないとねえ」


 てくてく歩きながら襲ってくるウルフを蹴散らして行く。

 時折魔法で援護してる以外はほとんどをスヴィータが受け持って、彼女を主体に経験値を稼いで行く。

 このゲーム、実際に戦闘行動に参加しないと経験値が殆んど入らない仕様になっているらしい。

 パーティーだけ組んで強い人にモンスターを倒してもらっても、戦いに参加していなかった人には全くと言っていい程経験値は入らない。

 それだと回復役の人には経験値が入らないんじゃないかとか思うのだが、そこは戦闘に参加する意志があるかどうかが重要になるってとーま君が言ってた。

 無駄に技術使ってるよね。



『……ミラ様』

『うん? どうかしたのかいメサル?』

『ミラちゃん!』

『ティムも?』

『ぴぴ!』

『サビクは真似しないの』

『ぴー』


 随分と歩いてエリアとエリアの境界付近。

 前にとーま君達と熊さんで遊んだ辺りかな?

 少し休憩という事で、近くに生えていた一本の木の根本に腰を下ろすとメサルとティムが左右から声を上げた。

 首に巻き付いているサビクは頭を指先で撫でてやりながらスルー。

 改めてステータスやスキルの確認をすると言ったスヴィータから、二人の精霊に意識を向ける。


『ミラ様……私、どうしましょう!』

『ミラちゃん、私、どうしよう!』

『どうしたのさ二人とも……?』


 何かあったのだろうかとダイアリーを引き寄せる。

 心なしか二人が震えてるように見えて、ページを開く。

 二人のステータスとか、確認できたっけな。


『……キャラが、被っているのです!』

『……あの人、お姉ちゃんが増えたみたいだよ!』


 心底どうでもよかった。





 

動きが少ないと文字数も減りますね


暫くはあっさりめの予感がします。

作者の負担は軽いです



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