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聖女と聖区と枢機卿




「ここが神殿かぁ。途中で見たのが、王城?」

「ええ。一般市民の為の教会は街の各地にあるけれど、神殿は街の北西に一つだけあるのよ。王城があるのは一番西側ね」

「こんなに広いと見て回るだけで何日かかるんだろうなぁ、この街」


 ノアさんと並んで大きな門の前に立つ。

 図書館からこちらにはノアさん専用の馬車であっという間にたどり着いたのだけど、王都と言うだけあってかなり広い。

 中央広場と言っていたが実際に中央にあるわけではないらしく、壁で囲まれた西側の大半は貴族と王城がしめているらしい。

 西側の門は街の南西にあるが、こちらの警備は厚く貴族区にあるため、プレイヤーが利用する事もあまり無いとか。



「ご苦労様です、門を開いて貰えますか?」

「これは、ムフロン様」

「開門!」


 目の前の大きな門と、門番が二人。

 ノアさんが一言告げるだけで大きな音を立てて門が開いていくのはなかなか見ごたえがある。

 促されて、後に続いて門を越える。

 私について何か聞かれたりするのかと身構えていたが、門番の二人は頭を下げるだけだった。


「心配しなくてもいいのよ。聖女の私と、私のヴェールをつけた女の子を疑うような人はここには居ないもの」

「聖女って凄いんだねぇ……それで、ここから何処へ行くの?」

「直接枢機卿猊下に会って、私とミラさ……ちゃんの縁組みと、次期聖女の認定を済ませてしまいましょう。一応偉い人だから、気をつけてね」

「枢機卿猊下って、そんなに軽く会えるものなのかな?」

「ふふふ。聖女はね、教皇様の次に偉いのよ。なんてったって、世界に十二人しか居ないのだもの」

「なんでそんな偉い人が図書館で司書してるのかわからないよ……」

「趣味……かしら?」


 えーと、私の知識が正しければ、聖職者の位階は上から教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭……だっけ?

 その下にもいくつかあるけど、そこは省略。

 で、教皇と枢機卿の間に聖女が入ると。


「聖女見習いや次期聖女に関しては、司教相応に扱われるから不自由はしないと思うわ。そもそも、聖女を敵に回そうなんて人は余程の世間知らず以外には居ないと思うけれど」

「その、枢機卿猊下はぽっと出の私を認めてくれるのかな?」

「馬車の中で決めた通りにすれば、反対なんてできないわ。枢機卿猊下は信頼できる方だし、お優しいからきっと大丈夫よ。それに、枢機卿猊下は特にアリエティス様を信仰している人だから」


 門を抜けた先に広がっているのは噴水と緑が溢れる庭園で、その奥に大聖堂が見える。

 途中ですれ違う人はノアさんに気付くや否や頭を下げて、道をあけて行く。

 基本的にここ……聖区とか呼ばれているらしい場所に居るのは神殿の関係者だけで、一般人は立ち入り禁止。

 礼拝なんかは各地の教会で行われていて、このエリアはあくまで聖都の一部として国から提供された不可侵領域になっているのだとか。



「オウル、私です。入っても?」

「おや、聖女様ですか? 少しお待ち下さい」


 聖堂にもすんなり通されて、辿り着いたのは一番奥まった場所にあった豪奢な扉の部屋。

 ノアさんがノックと共に声をかければすぐに返事が返ってきて、扉が開かれた。

 ちなみに、ティムが言うにはこの聖区、図書館と同じように一部スキルが使用不可能になるエリアらしい。

 なのでダイアリーの追従機能は切ってあり、今は二人とも私の肩に乗ってお喋りを楽しんでいる。

 

「どうぞ、お座りください。今お茶を用意しましょう……そちらのお嬢様は、はじめましてですね?」

「お茶はいいので貴女も座ってください、オウル。ミラ様も、こちらへ」

「はい、失礼致します」


 本日二度目のよそ行きモードだね。

 父の仕事の関係でパーティーやらなんやらに出席する事もあって叩き込まれたこのよそ行きモード。

 ただでさえ難解な日本語だと言うのに、何種類も覚えて理解するのには苦労したものだ。

 アリサ曰く、私の普段の話し方は色々と混ざりすぎたからじゃないかしらとかなんとか言っていたね。



 さて、通されたのは思っていたよりもシンプルな部屋だった。

 ソファとテーブルがあるだけで、必要最低限の物だけを揃えたような空間だ。

 入り口とは別に扉が幾つか見えるが、そちらに本来の部屋があって、ここは応接間のような扱いなのかな?


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 私とノアさんが並んで座り、その対面に枢機卿と思われる女性が座る。

 黒い長髪の目付きの柔らかな人だ。

 気になるのは獣の耳とかの要素は見当たらず、代わりに腕が羽毛に包まれていて、翼のように見えるところかな。

 公式のプレイアブル種族には鳥らしき物は無かったけれど、どういう事だろう?


「私とこの方の養子縁組の手続きと、この方を金羊の次期聖女としての認定を」

「……失礼ながら、そちらのお嬢様は? 貴女のヴェールを身につけているようですが、私の記憶の中にそちらのお嬢様の姿に覚えはないのですが」


 枢機卿猊下の視線が細く、鋭く私を射抜く。

 至極最もな反応に逆に安心するが、ここで気を抜いていい訳じゃあない。

 背中を伸ばし、真っ直ぐに視線を返す。

 段取りは既に済ませてあるから、その通りにするだけだ。


「私が昨日神託を得た話はしましたね?」

「ええ。貴方は詳しく教えてくださいませんでしたが。そのお嬢様に何か関係が?」

「この方はカーミラ・アリエティス様、金羊の女神アリエティス様の実の娘です」

「……は?」


 ノアさんと立てた計画がこれ。

 嘘偽りなくそのまま伝えてしまおう作戦である。

 ガチャ屋で兵隊に囲まれた事といい、間違いなく国の方には情報は回っている。

 ならば神殿側にも多少なりとも私の情報は入っているんじゃないかと予測して、自分から出向いてトップを味方に引き込んでしまえと。


「ああ、偽物などという疑念は捨て去りなさい、聖女である私が保証します。かと言って、神の娘として扱う事も許しません」

「しかし、それが事実であればすぐにでも聖都に」

「聞こえませんでしたか? 私は、この方との養子縁組と次期聖女への認定を依頼しに来たのです。この意味、貴女ならわかりますね?」

「……もしや、祈り人ですか?」


 黙って二人のやり取りを眺めている。

 ただひたすらに冷静に、冷淡に話を進めるノアさんと、表情をくるくると変え始める枢機卿……オウルさん、オウル様?

 二人の話を要約するとこうだ。

 私は神の娘で、昨日出会い本物であると確信したが、祈り人……手帳持ち、プレイヤーである事も知った。

 私が世界各地を回りたいと思っていて、国や権力に縛られる事は望んでいない事。

 義娘にして、聖女の庇護を与える事でそれらから私を守り、それによって神殿は私との繋がりを持っておけるという事。

 そして、未だ半信半疑の様子のオウル様に止めを刺したのは肩から飛び出したメサルとティムと、ヴェールを外した私の姿に許可を貰ってインベントリから取り出したアリエティスの指輪。

 二人のスピリアを連れた、金の髪の羊族。


 そこから話はあっと言う間に進み、養子縁組と次期聖女認定も即座に行われた。

 ばっさばっさと両腕の羽根を撒き散らしながら部屋を出ていったオウル様が持ってきた書類に、ノアさんに教わりながら必要事項を記入して。

 ついでに、私がアリエティスの娘である事は口外しないという事もオウル様に約束してもらった。


「何か困った事があれば、いつでも訪ねて来てください、カーミラ様」

「オウル、今は許しますが。今後、この子は私の娘のミラ・ムフロンです。わかっていますね?」

「お気遣い感謝します、オウル様。これから、よろしくお願いしますね」

「もったいないお言葉! 私の事はどうぞオウルとお呼びください、カ……こほん、ミラ様」


 なんというか、枢機卿のイメージとは大分かけ離れた気さくな人のようで。

 かつ、ノアさんの言っていた以上に女神アリエティスを深く信仰している人らしく、私の事を信じてからは凄まじい態度の変化だった。

 私の言葉一つ一つに反応して若干うざったいと思えるくらいで、ノアさんから小さく「ね、言った通りでしょう?」と

言われて納得してしまった。


「聖都への報告は任せましたよ。くれぐれも、この子に害が及ばぬよう、私の義娘で、次期聖女となったことだけを報告するように」

「お任せください、ノワイエ様。このオウル、必ずやアリエティス様のお力になることを誓いましょう」


 書くべき書類への記入も終わり、枢機卿の押印を済ませた時点で私はノアさんの娘になって、次期聖女として正式に認定された。

 その際、聖区内での非殺生系のスキルやインベントリ等の一部の手帳の機能を使う許可も貰えた。

 次期聖女としての役割や注意事項、神殿や聖都に関する様々な事等も話し合いを行い、色々な事を教わる事も出来た。

 あとは次期聖女としての祭服なども貰ったよ。

 渡された祭服は数があったのだが、鑑定してみればミトラと呼ばれる帽子とヴェール以外はセット服として纏められているようだ。



 [装備品]聖女の祭服/防具:身体

 レアリティ:M

 紛失無効/盗難無効/売却、譲渡不可

 肉体系状態異常耐性:中

 

 聖女の為の祭服。

 純白はそれだけでその者の身分と地位を約束する聖女の証。

 纏うものの余剰な魔力を用い、害あるものを防ぐ。



 [装備品]聖女のミトラ/防具:装飾

 レアリティ:M

 紛失無効/盗難無効/売却、譲渡不可

 精神系状態異常耐性:大


 聖女の為の祭服。

 純白はそれだけでその者の身分と地位を約束する聖女の証。

 纏うものの余剰な魔力を用い、悪意あるものを防ぐ。



 [装備品]聖女のヴェール/防具:頭

 レアリティ:M

 紛失無効/盗難無効/売却、譲渡不可

 情報隠蔽:大


 聖女に与えられる純白のヴェール。

 純白はそれだけでその者の身分と地位を約束する聖女の証。

 纏うものの余剰な魔力を用い、素顔を隠す。

 アリエティスの印が刺繍されている。



 常に着ておく必要はなくて、ヴェールだけ着けておけばそれでいいらしい。

 聖区や教会、聖都へ訪れる際や、正式な場などでは正装として身に付ける必要がある。

 見習い聖女のヴェールについてはノアさんに返却しようとしたが、そのまま持っておいて欲しいと言われてしまった。

 聖女のヴェールを受け取った時点で見習い聖女のヴェールは装備不可という効果が付与されてしまったのだが、大事に取っておこうと思う。



「ああそうだ、ミラ様。貴女にもう一つ差し上げたい物が」


 オウル様が奥の扉の先に消え、また戻ってきてテーブルに置いたのは二本の短剣。

 鞘はなく剥き身で、黄金の刃身が光を反射している。

 ノアさんを見上げる。静かに頷かれたのでテーブルの上のそれを手にした。

 なぜかしっくりと手になじむ、刃渡り十五センチ程のダガー。



 [装備品]イリスダガー/武器:双短剣

 レアリティ:EX

 所有者固定/紛失無効/盗難無効/売却、譲渡不可

 神器

 不壊

 光系統スキル強化:中

 神聖系統スキル強化:中

 空間魔法強化:大


 金羊の女神の聖遺物。

 女神アリエティスの残したとされる聖剣。

 闇を払い、救済を行う黄金の刃。

 けして折れず、壊れず、主を護る。

 

 持ち主に呼応しその姿を変える神器。



「えっと、これは大事な物なのでは?」

「この聖堂にて保管されていたアリエティス様の神器でございます。それは貴女様が持つべき物、どうかお持ちください」

「そうですね。きっと、貴女を護ってくれますよ」


 装飾も何も無い、黄金のダガー。

 元々装備していた短剣を外し、入れ換えるようにそれを鞘におさめる。

 言葉に出来ない安心感のようなものが全身を包むような気がして、最早受け取らないという結論には至らなかった。


「今日はもう暗くなります、お部屋を用意致しますので泊まって行ってくださいませ」

「そうですね。いい時間ですし、お言葉に甘えましょうか、ミラちゃん」

「はい。ありがとうございます、オウル様」

「では、お部屋に案内させますので少しお待ち下さいね」


 ログインして結構経つし、現実でもいい時間になっている事だろう。

 勉学や、他にやることもあるからゲームばかりしてはいられないものね。

 オウル様に呼ばれて部屋に訪れたのはシスターを思わせる女性の獣人で、客人用らしい部屋にノアさんと一緒に案内された。


 ノアさんと二人っきりになってようやく気を抜く事が出来て、どっと疲れが押し寄せた。

 ふらついた私を背中から支えてくれたノアさんはそのまま私をベッドへ連れて行って、寝かせてくれる。


「ノアさん、私、いつ起きるかわからないけれど……大丈夫なのかな?」

「ミラちゃんが祈り人って言うのは教えたから、大丈夫。私も一緒に居るから、安心して?」

「うん、わかった。色々ありすぎて、少し疲れちゃったから、もう休むね」

「ええ、お休みなさい。ありがとう、これからよろしくね、ミラちゃん。眼が覚めたら、お買い物に行きましょう」

「お休み、母様。それは、楽しみだね……うん、楽しみにしておくよ」


 横になって眼を閉じる。

 ログアウトを意識すれば、本当にログアウトするかどうかを確認するインフォメーションが表示され、イエスを選択。

 そういえば、とーま君は無事に救援を成功させたのだろうか。

 図書館といい聖区といい手帳が使えない場所にいたから、ログアウトしてからメールを送っておく事にしよう。


 少しすると身体から力が抜けて、私の意識はこの世界から浮上していった





 



 


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