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組合と三人組とカグラさん

ふぉっくす!





「なんだあ、こいつ? NPCか?」

「見ろよあれ、背はちっせえ癖に胸はすげえデケエぜ」

「んじゃNPCだろ、実際にいるわきゃねーしな!」


 なんか、物凄く失礼な事を面と向かって言われているよね、これ。

 イラッと来たけど今は我慢。冷静に様子を見よう。

 吹き飛ばされてた人も気にはなるけれど、今は目の前の状況をどうにかしなければいけない。


『どうやら、彼等はミラ様をプレイヤーとは思っていないようですね』

『ミラちゃんのふかふかを馬鹿にしてる! 許すまじ!』


 まあ、自分でも身長に釣り合っていないバストはどうかとは思っているけどね。肩凝るし。

 だがしかし、見ず知らずの他人にとやかく言われるいわれはないし、気分の良い物でもない。

 感想ってのは、見て思ったままを口にしていいって物ではない。相手がどう思うかを想像してから表に出すべきものだ。

 相手を不快にさせるだけのそれはただの侮辱以外の何物でもないし、チラシの裏にでも書いておいて、表には出さないで欲しい。


『どうやら君達は、来る場所も、世界も、間違えているみたいだね』

「あん? なんて言ったんだ?」

「意味わかんねー事言ってやがるよこいつ」

「プレイヤーじゃねーってことはわかったんだし、次はこいつで遊ぼーぜ!」


 意を決し口を開く。

 獣人語ではなく精霊語で。

 そこそこ大きな声で、建物の中に届くように。

 視線の先にいた職員らしき一人が、目を見開いたのを確認する。


『ミラ様、よろしいのですか?』

『むしろ、こっちの方が都合がいいさ。ティム、制御は任せる』

『りょーかいだよミラちゃん!』


 何を思ったか、三人組がにやついた、気持ち悪い笑みを浮かべて私の方へと歩いてくる。

 見たところ、真ん中のリーダー格の男の得物は長剣で、防具は金属製の部分的な鎧。

 右の男は杖で、左の男は弓を持っていて、衣服は革らしき胸当てといった軽装だ。

 装備からして、初心者ではないだろうから、ベータプレイヤー。

 やがて私の正面に剣士、左右後方に弓と杖が位置し、囲まれる。

 視界の隅の通知欄を意識しつつ、いつでも動けるよう備えておく。

 たぶん、ゴブリンと同程度ではないだろうし。


「ようお嬢ちゃん、ここは子供がくるような場所じゃねーぞ。お兄さん達が家まで送ってってやるぜー?」

「そうそう、ここは冒険者組合っつって、血の気の多い奴等が集まってるあぶなーい場所だからよー」

「とりあえず、その布取って顔見せろや。場合によっちゃ……」


『私に触るな』


 ヴェールへ伸ばされた手を叩いて払う。

 同時に、通知欄に正当防衛成立と伝える通知。

 成り行きを見守っている外野は見たところ殆どが新規プレイヤーとNPCのようで、ベータ出身のこいつらには手を出せないでいるようだ。

 組合の職員達は慌ただしく動いているみたいだし、私にやれることをする。

 時間稼ぎとも言う。


「ってえなこのガキ!」


 正面から伸ばされた腕を身体を横にして右に避ける。

 当然、背を向けた男の方からも腕が伸びるが、それを右に跳んで回避、組合の建物の中へ飛び込むようにして距離を取る。

 入り口を塞がれた形になるが、まあ問題はない。


「取っ捕まえて売り飛ばしてやる!」

「そう言って殺すなよー」

「手加減苦手だからなー!」


 このゲーム、人身売買など可能なのであろうか。

 仮にあったとしても、人道的に考えて許される物でもないだろう。

 こいつらは、なんなんだろう。


「貴殿方は、何者でしょうか? このヴェールの意味を存じた上で、そのような発言をなされておいでなのでしょうか」


 佇まいを正し、口を開く。

 今度は相手にも理解できるように獣人語で。

 ティムの宿ったダイアリーが右手に落ちてきて、ひとりでに開く。

 記されている文字を頭に叩き込みながら、目の前の三人へと問うた。


「あん? んな布っきれとか知らねぇよ! たかがNPCの癖に偉そうにしてんじゃねーぞ!」

「もうやっちまおうぜ、生きてりゃそれでいいんだからよ!」

「麻痺矢でもうちこんでやれば一発で終わるだろ!」


 弓使いが矢をつがえ、こちらへと放つ。

 また身体を横にし避ければ矢が室内の床へと突き刺さり、鈍い音を立てる。

 外野がざわめく。


『どうやら、彼等の知能は見た目より大分低いみたいだね、あと、常識も無いようだ。NPCはただのゲーム上のプログラムの一つで、何をしてもいい……そんな所かな、彼等の意識は』

『ミラ様への数々の無礼……許しがたい!』


 ノアさんや、ガチャ屋のバニーガールさん達を見ていれば、そんな発想には至らないだろうに。

 しかも、ベータプレイヤーと言うのなら私よりも長くこの世界に生きていた筈なのだ。

 まるで、プレイヤー以外は物のように扱って見える彼らには、正直憤りを隠せない。


「武器をおさめて立ち去りなさい、今ならば赦しましょう。ノワイエ様へのご報告はさせていただきますが、私からは不問と致します」

「ああ? てめぇがなんだってんだ! どうせここに居る奴等なんざ俺達の相手にはなんねぇんだ、逃げられると思ってんなよ!」

「動くなよー、頭に当たったら死んじまうからなー!」

「足を狙えよー足を!」


 私の言葉に最も強く反応するのは誰だろう?

 目の前の三人?

 動こうともしない周囲のプレイヤー達?

 ――それとも。


 再び放たれた矢を背中側へ飛んで避ける。

 着地と同時に剣士が剣を手に突っ込んでくるが、くるりと身を捻って入れ替わるように受け流す。


『ミラちゃん、うしろ!』

『大丈夫。見えているよ』


 飛んできているのは炎の矢弾。

 私の速さなら充分に間に合う、横へ跳んで回避。

 外野のプレイヤーがきゃーきゃー叫んでいたが、今は気にしないでいいか。

 ていうか、なんで逃げないんだろう。

 矢が迫る、その場で一回転すればすり抜けるように矢は空を切る。


「なんで当たんねーんだよ!」

「後ろに目でもついてんのか!」

「同時にやるぞ!」


 弓使いがインベントリから短剣を抜き、魔術師が杖を構える。

 三人同時に飛びかかれば捕まえられると踏んだのだろうか。

 でもまあ、目的は達した。



「そこまでだ。武装を解除して投降せよ。また、貴様らを組合への登録から除名、以後の立ち入りを禁ずる」


 凛と響く声にざわめきが消える。

 組合の奥から届いた声は人を割り、左右に別れた道から姿を現した人影。

 威風堂々と歩き、私の隣に立てばパチンと指が鳴る音。

 その人に続くように、おそらくは職員であろう揃いの制服を身につけた獣人達が立ち並び、私の前で壁を作った。

 ちらりと横目で見上げる。

 私の視線に気付いたのか、その人は私に一度笑いかけてから、その笑みを無くし三人組へと向ける。


「冒険者組合総長のカグラだ。組合内での暴行、迷惑行為、器物損壊。さらには違法行為を匂わせる発言に……聖女見習いへの不敬及び殺害、誘拐未遂。数えで役満吹っ切れているが、弁明があるなら聞こう」


 カグラと名乗ったその人は着流しの和服姿。

 頭の上には真っ直ぐに立つ狐の耳に、腰からはボリュームのある尻尾が生えている。

 帯には刀が二本差され、彼女の手は添えるように刀の柄に触れている。


「ぐ、なんで組合長が出てくるんだよ……おい、逃げるぞ!」

「ガキが、覚えとけよ!」

「次に会ったらぜってえ許さねえからな!」


 これが捨て台詞という奴だろうか、実際に聞く機会があるとは思わなかった。

 職員達とカグラさんに気圧されたのか、じりじりと後ろへ下がって行く三人組。

 はたして、このまま逃してもいいのだろうかと思いもすれど、被害が無く終わると言うのなら、その方がいいのだろう。


「お前たち、この子に感謝しろよ? この子が居なかったなら、私が斬っていたからな?」

「意味わかんねぇっつの!」

「訳わかんねー事言ってんじゃねえ!」

「は、早く行こうぜ」


 三人組が吹き飛ばした扉をくぐって退散する。

 威勢が良いのは構わないのだが、彼等はこれからも王都の組合を利用するつもりなのだろうかと疑問に思う。

 開いたままのダイアリーを閉じて、心の中でティムを労っておく。

 空間魔法の中の一つ、空間制御による認識強化。これによって背後からの攻撃も知覚できていた訳だが、慣れるまではティムにサポートしてもらって居るのだ。

 ダイアリーを展開していたのは補足の情報を文字と図にして表示しておいて貰うため。


「……ふう。これがオヤクソクと言う物なら、もう二度とごめんですね」

「くく、安心してくれ。奴等は二度とこの組合へは入れさせんよ。それどころか、この場から逃がしもしない。君が時間を稼いでくれたおかげでね」


「そこの三人! 全員その場で動かず武装を解除せよ!」

「レオニス王直属近衛騎士隊である! 抵抗するなら容赦はしない!」

「む、隊長、こいつら、過去に指名手配されている奴等です!」

「よし、確保しろ!」


 カグラさんが私の手を握り、そっと引く。

 職員さんの壁で外の様子は伺えないが、聞いていたところ兵隊が到着して捕縛に乗りきったという所だろうか。

 そもそもに、王都の重要な施設で騒ぎを起こせば遅かれ早かれ通報されて、警備なりが飛んでくるなど少し考えればわかるだろうに。


「奥に案内するよ。茶と菓子を用意する、時間を稼いでくれて助かったよ、ありがとう」

「他人事ではありませんでしたから、お気になさらず」


『ねーねーお姉ちゃん、ミラちゃん、凄いね!』

『そうですね。わざと精霊語を使ったのは、組合の獣人に聖女の関係者だと思わせるためですね?』

『まあ、意図が通じなかったら逃げてたけどね。プレイヤーではなく住民……それも、重要な施設の人達なら、わかるかなって思ってさ』


 ノアさんが、精霊語は聖女の必須技能だって言っていたから思い付いただけなんだけども。


 他に方法が無ければ全力疾走して逃げれば巻き込まれずに済んだのだろうけど、わざわざノアさんが贈ってくれたこのヴェール。

 勝手な憶測ではあるけれど、何かあったら有効に使ってくれというメッセージにも思えたんだ。

 まさか、こんなに早く助けられるとは思わなかったけど。


 なんにせよだ。顔と髪を隠せて、NPCと誤認させる事ができる手段が出来たというのはありがたい。

 このゲームはどうやら、仮想だと思って油断していると足を掬われてしまいそうだから。


「名前を聞いてもいいかな、小さな聖女様」

「今は、ミラと名乗っています」

「先も言ったが、私はカグラ。この冒険者組合の最高責任者さ」


 しかしあれだね。

 すんなり登録だけしてさようならとは行きそうにないね。








 

ふぉっk……感想評価ブクマ誤字報告等、ありがとうございます。

感想の方も必ず目を通させていただいております。

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