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権能とヴェールとオヤクソク




 昼寝から目覚めると、アリサはおじ様に呼ばれて姿はなくて。

 夜には戻るから、その間はゲームをしていてはどうかと詩乃さんに提案されたのでお言葉に甘えログインした。

 詩乃さんは明日から始めると言っていたし、アリサはもう少し後になるだろうが、知り合いが増えるのは嬉しいし心強いものだ。


「おはよう、メサル、ティム」

『おはようございます、ミラ様』

『おはよーミラちゃん! トーマクンさんからメッセージが来てるよ!』


 寝心地がいいとは思えないベッドから身体を起こし、床に足をつける。

 ログアウトするためだけに泊まった、レオニスの街の宿屋の一室。

 利用するには一回十リア。一泊ではなく一回なのは、現実とこちら側では時間の進みが違うからだろう。

 ちなみにリアというのはこのゲームでの通貨の単位。元々持っていた五千から十引いて、残りは四千九百九十、かなり半端な数字になってしまったね。


「とーま君はなんだって?」

『んっとねー。インしたけど、ベータ時代の友人と少し一緒に行動しています。インしたら連絡だけしてくれれば迎えに行きますので……だって!』

『如何いたしますか、ミラ様?』


 んーっと、身体を伸ばす。

 髪をといて、身嗜みを整えて、インベントリから剣帯を取り出し装備した。

 装備がワンピース一枚と短剣二本に暗器っていうのは、今更ながら少し不安に思ってしまうね。


「そうだなあ。これからやることは冒険者組合の登録だっけ?」

『そうですね。金銭を稼ぐにしろ、情報を得るにしろ、組合に登録しておくのは間違いではないかと思われます』

『ミラちゃん、今のうちに……その、見ておく?』


 部屋に備え付けの椅子に腰掛け、インベントリから携帯食料を取り出して一口かじる。

 スティック状の栄養バーのような印象を持つ携帯食料で、お腹を満たすためだけに存在しているような味をしていた。

 一本食べきって、ごちそうさまをする。


「そうだね、見ておこう。目をそらすわけにもいかないし、確実に手に入るようにされていたなら、必要な物なんだろうからね」


 ティムが言っているのは、女神像に触れたときに手に入ったスキルの事だろう。

 ゲームプレイヤーなら利用しないなんて事はないであろう物に触れたらだなんてものだ、確実に手に入れるべきスキルだったのだと予想して、手帳を呼ぶ。


「……うん?」

『ドヤァ』

『ティム、口で言うものではないですよ?』


 ダイアリーと口にして姿を現したのは、小さな手帳ではなくそこそこの大きさを持つ一冊の本。

 なんとなく、元の様相は残しているものの、完全に別なものが出て来て首を傾げる。


「随分と、大きくなったね?」

『ミラちゃんには、こっちの方が使いやすいかなーって!』

『私も調べましたところ、ダイアリーの正式な機能のようですのでご安心ください。この外装でしたら、ダイアリーを所持、使用していてもプレイヤーではないと誤魔化す事も容易でありましょう』

「中身は……あ、結構使いやすくなってるね。ティムが言ってた改造ってのは、これの事か」


 パラパラと頁を捲って流し見る。

 目次からみてもステータスの項目やインベントリの位置も

使いやすいように並べ替えられていて、わかりやすい。

 スキル等に関しては使用可能なスキル等を纏めた頁が小さくショートカットのような形で追加されており、戦闘の時でも簡単に確認できそうだ。


「とりあえず、見てみようか」


 スキルの頁を開き、スキル一覧の一番下へと視線を送る。

 魔法装填のその下にそれを見つけ、詳細を開く。



 空間魔法 Lv1

 ┗空間拡張/パッシブ(インベントリ容量を10拡張する)

 ┗空間制御/パッシブ(自身の周囲に専用の領域を展開し、空間認識能力を強化する)

 ┗転移術式:アルゴナウタイ/EX(エクストラスキル:自身を含むパーティーメンバーを復活地点のポータルへと転移させる。非戦闘状態かつ、安全地帯でのみ使用可能)



「インベントリの拡張と、知覚系の強化? あとは、自分を含むパーティーメンバーを復活地点のポータル……女神像に転移させる、かな」


 アルゴナウタイっていうのは確か、ギリシア神話の一つだ。

 金の羊の毛を求めてアルゴー船で冒険した英雄たちの総称。

 金の羊を求めて旅をする……成る程、私にぴったりな名前じゃないか。


「つまり、このスキルも、ピースの一つなんだね」

『おそらくは、あの方の神としての権能の一つなのでしょう』

「自身の像に自身の力を封じ、プレイヤーに少しの奇跡を貸した――だっけ。女神像の転移の力って事かな」

『それを、ミラ様が受け継いだ訳なのですね……ええ、ええ。それは、必然で、そうあるべきなのでしょう!』


 大きくなった手帳……もとい、本になったダイアリーを閉じて、仕舞おうと……したけれども、ふとティムに視線を向ける。


「ねえティム、これさ。いちいち取り出したり仕舞ったりしなくていい方法とかはないのかな?」

『ふえ? うん、できるよー。紐をつけてぶら下げるか、追従するように自律移動させたりとか!』

「なんか、凄い便利に聞こえるんだけど、自律移動。思考操作し続けるとか、そんなの?」

『ううん、そこは私達で制御するからだいじょーぶ! あ、私かお姉ちゃんが入ってたら、スピリアの数も誤魔化せるかもー?』

『えーっと、はい。スピリアによる自律制御は可能です。とは言え、それもプレイヤーとスピリアの信頼関係等が確立していないと不可能ですが』

「なら、私達にはなんの問題もないね」

『勿論でございます!』

『うん!』


 早速、自律移動とやらを試してみようという話にはなった。

 最初はティムがダイアリーの中に入り、制御を担当。外部でメサルが私の補助を担当。

 それを私がログインする度に交代するという事で二人の間で結論が出た……らしい。

 三十分ほど精霊の体当たり合戦が続くあいだは、魔法装填やら魔力糸のリングやら操糸のスキルやらを試していたよ。



「便利だねえ、これ」

『あはは、これ楽しいね!』

『ティム、余り変な動きをしてはいけませんよ。ミラ様に注目が集まってしまいますからね』

『はーい!』


 宿を引き払い、街を歩く。

 一応とーま君にはログインしたけど、こっちは気にせずに友人と遊んでいてくれていいよとメッセージは送っておいた。

 一分と経たずに帰ってきたメッセージには、わかったけど、何かあったら必ず自分を呼ぶ事と返事が。それともうひとつ、装備アイテムが添付されていた。

 そのアイテムというのが、私の髪を覆い隠せる程に長い純白のヴェール。

 装備してみれば私の頭と背中をすっぽりと包み込み、視界を邪魔しない程度に顔まで隠してくれると言う物だった。


 [装備品]見習い聖女のヴェール/防具:頭

 レアリティ:R+

 情報隠蔽:中


 聖女の従者に与えられる純白のヴェール。

 纏う者の姿を隠し、看破に対する中程度の抵抗を持つ。

 魔法に対してのみ僅かな防御性能を持つようだ。



 鑑定の結果はこうで、どこで手にいれたのかと尋ねれば、ノアさんから私に渡すように頼まれたのだと言う。

 なんでまたノアさんと会っているのか聞いてみたいところだったけれど、まあ、気にならない方がおかしいよねという事で。

 ノアさんも私の事を心配してくれているのだというのがわかるし、ありがたく受け取るだけに留めた。

 嫉妬に狂う女にはなりたくないよね、ドラマじゃないんだよ。


「しかし、とーま君から、純白のヴェールとか貰うと……なんか、えへへ」

『ミラ様、お顔が残念な事になっておりますので』

『ミラちゃーん、涎は駄目だと思うなー』

「……なんで涎が出るんだ。少しリアルすぎやしないかなあ?」


 という訳で、ワンピースと短剣二本に暗器という装備セットにヴェールが加わって。

 てくてくと街を歩いて、教えてもらった冒険者組合とやらにたどり着いたのである。

 途中でパーティーの勧誘とか、お店の呼び込みやらに時間は取られたものの、まあ予定通りと言ったところだろう。

 兵隊さんっぽい集団とすれ違った時は少し身構えてしまったが、特に何事もなかった。


 ちなみに、ティムの入った……宿った? ダイアリーは私の右肩の辺りを追従するように浮遊して、普段のティムと同じくらいの速度で飛行している。

 ダイアリーの中に入ったまま私の肩に乗ろうとしたティムがメサルの体当たりでお仕置きされたのはまた別の話だ。



「そういえばメサル、ティム」

『どうかなさいましたか、ミラ様?』

『はやく入ろー?』

「とーま君が言ってたんだけどさ。こういう冒険者組合? とか、ギルドとかいうところに一人で入ると必ず起こるオヤクソクとかいうのがあるらしいよ」

『オヤクソク、でございますか?』

『なにそれー?』


 私にもよくわかんないけど、何かそういう様式美があるとかないとか。

 まえに一度聞いただけだけど、今まさにそんな状況ではないだろうかと思うと、すこしワクワクしてきてしまう。


「後はね。戦ってる途中に、帰ったら幼馴染と結婚するって宣言したり、ここは任せて先に行けーって叫んだりするといいらしいんだよね」

『トーマクン様は不思議な知識をお持ちなのですね……なぜ戦いの最中に婚姻の宣言を?』

『ここは任せて先に行けーって、かっこいいよね!』

「私もとーま君に言われてみたいかもしれない」


 そんな事を話ながら両開きの扉の片方を押し開け、建物の中に入ろうとして……風が頬を撫でつけさらには扉に触れた手に衝撃が走る。

 私が開けようとしたのとは別の、もう片側の扉の姿が消えて、振り向けば地面に転がった扉とその上で仰向けに倒れている鎧姿のお兄さん。

 きぃーっと、慣性だけで残った扉が開いて行く。

 私も、メサルも、ティムも、思考が止まる。


「ただのNPCの癖に邪魔してんじゃねーよ! ただでさえ急いでんだから、俺達プレイヤーに順番を譲るのが当たり前だろーが!」


 ぐりんと首を回して建物の中へと視線を向ければ、武器を抜いたまま何やら叫んでいる獣人が一人。

 その左右にもう二人いて、やんややんやと真ん中の獣人へ賛辞を送っている。

 建物内の他の獣人達はみんな遠巻きにしていて、奥からは衛兵に連絡をとか叫ぶ声も聞こえてきていた。


「……これが、オヤクソクなのかな、メサル、ティム」

『オヤクソクかどうかは理解しかねますが、面倒事に巻き込まれそうな予感はひしひしと感じております』

『トーマクンさんに連絡しとくー?』

「じゃあ、お願いしようかな。よろしく、ティム」

『はーい!』


「あん? なに見てんだこら! ここはガキが来ていい場所じゃねぇぞ!」


 かかわり合いになりたくないし、どうしようかと考えてしまったのが運の尽きという奴かどうかは知らないけれど。


 うん、三人組めっちゃ私の事見てるね。









ブクマ感想評価誤字報告等毎度ありがとうございますヾ(´ー`)ノ

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