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幕間「とある幼馴染とメイドの決意」

二章の前に幕間です







「お嬢様、お客様がお見えになっておいでです」

「へ? 私に客?」


 意気込んだはいいが、昼食の時間を告げるアラームによって強制的に切り上げさせられた昼下がり。

 食後のお茶を楽しみながら読書をしていた所、一旦席を外していた詩乃さんが部屋に戻るなりそう言った。

 来客の予定はあるにはあるが、今日はその日ではない筈である。

 パタンと本を閉じて、ソファーから腰を上げる。


「お掛けになったままでよろしいですよ、お嬢様。お客様は既にお通ししておりますので」

「うん? お客様って、まさか?」

「プリヴィエート、ミーリャ! 久しぶりね!」


 白い髪のメイドさんの背中から現れたのは、赤みがかった金髪の見知った顔の女の子だった。

 挨拶もそこそこに部屋へ飛び込んできた少女は真っ直ぐに私に向かい、その両腕で私の頭を絡め取る。

 むぎゅ、と。胸元に抱きすくめられた。


「会いたかったわ! 元気だった?」

「そういうそっちも、元気そうだね。前に会ったのは一年前かな?」

「一年と三十四日ね!」

「本当、記憶力は良いね。それを別の所へ使えばおじ様も喜ぶだろうに」

「無理だわ!」


 五分ほど再会を喜びあったところで、ハグを解かれた。

 少女がソファに腰掛け、その膝の上に横抱きで乗せられた。

 何度言ってもやめないので諦めたが、人を乗っけて何が楽しいのだろうか。

 


「それで、事前の連絡も無しに来るのはいつもの事だとして、今回はどうしたんだい、アーシャ?」

「パーパの仕事よ! 暫く此所で暮らす事になったわ!」

「こっちで、じゃなくて。此所でなんだね。で、暫くってどのくらい?」

「二年くらいかしら! 私としては、ずっとでもいいのだけれどね」

「おじ様とおば様が泣くから駄目だね」


 さて、この元気な娘は私の昔ながらの友人であり、幼馴染でもある。

 名前はアリサ。

 父方の友人の娘であり、日本人ではない。

 一人っ子の私にとっては姉のような存在でもある。


「相変わらず小さいわ、ミーリャ。もっとミルクを飲むべきよ?」

「アーシャ、こっちでは鏡華だよ、キョーカ」

「ああ、そうだったわね、ごめんなさいキョーカ。だって、久しぶりなんだもの、仕方ないじゃない?」


 私の母は日本人で、父はロシアの人間だ。

 アリサはロシアの方の友人で、つい五年ほど前までは向こうで暮らしていた。

 そして、先程からアリサが呼ぶ私の名前。

 お互いの家が私の名付け親を主張し、それぞれの家が名付けようとして。

 なぜだか両家で、なら両方つければいいよねということに落ち着き、私には名前が二つある事になった。

 御影鏡華と、カミーラ・アレクセエヴナ・ミクリナ。

 そして、偶然とは思えない、もうひとつの名前が増えた訳だよね。


「キョーカ、シノから聞いたけど、貴女。ゲームをするようになったのね!」

「うん。アニマスピリアオンラインっていう、VRゲームだよ。今日始めたばかりだけどね」

「報告通りね! という訳で、私もやるわ! シノもね!」

「何がという訳なのかよくわからないけど、やるのはいいんじゃないかな? ソフトとか機材が手にはいるかは――」

「確保して、準備も終わっているわ!」


 部屋の隅で待機している詩乃さんに視線を向ける。

 無言で頷かれた……いつの間に。


「うん? アーシャはいいとして、詩乃さんもやるの?」

「はい。お嬢様のお世話をするのが私の仕事ですので。そこが現実であろうと仮想空間であろうと、変わりはありません」

「シノの分も当然用意してあるわ!」

「君の行動力は本当に、どこから来るんだろうねぇ」

「キョーカへの愛からに決まっているじゃない! パーパも喜んで協力してくれたわ!」


 膝に乗せられたまま再び腕が私を包んで身体が不自由を得る。

 この子の抱きつき癖はいつまでたっても直らないなぁとか思いながら、ぺしぺしと腕を叩く。

 私の頭頂部にすりすりと頬擦りを繰り返している辺り、暫く離れそうにない。


「このゲーム、結構特殊なシステムがあるんだけど、その辺は大丈夫?」

「記憶とか、スピリアとかね! 私は当然、記憶持ちでやるわ! キョーカもそうしてるんでしょう?」

「うん。でも、記憶の内容とかは話さないし、話さないでね。それが普通らしいから」

「ええ、わかっているわ。報告を受けてからこっち、色々と予習はしてきたもの!」

「それならいいけどね……で、報告ってなに?」


 こちらの疑問への返答はない。

 

「まだこっちで色々やることがあるから、私はまだ始めないけれど、シノは明日からでも開始可能よ! おじ様にも許可は取ってるから安心してね!」

「ふにゅ」


 あー、ダメだ、彼女に抱っこされていると、何故だか力が抜けるのだ。

 ぽかぽかと温かいアリサの体温に身を委ね、瞼を閉じる。

 頬擦りをやめて、今度は優しく私の頭を撫でるアリサの手のひら。

 一年ぶりの、アリサの体温に次第にうとうとと、眠気に襲われる。


「……むう、アーシャ。げーむ、わたしは」

「無理しなくていいわよ、キョーカ。お昼寝しちゃいなさいな」

「お客を放って、寝るなんて、だめ」

「私は客じゃなくって、貴女のお姉ちゃんだから、ヘーキよ。ねえシノ」

「ええ。アリサ様もこの後お部屋に案内致しますし、荷物の整理もありますから。お休みくださいませ、お嬢様」


 頭を撫でる手が気持ちいい。

 アリサとシノの言葉に甘えて、微睡みに意識を委ねてしまおうか。

 起きたら、アリサと沢山話そう。

 そんな事を思いながら、私の意識は落ちていく。

 夕方には起きて、ゲームもしたいな。



「それで、シノ。ミーリャに好きな男が出来たってのは、本当なのかしら?」

「はい。お相手の方も、お嬢様へは悪くない感情を抱いているものかと思われます」

「少し目を放すとすぐに害虫がつくわね、腹立たしいわ。シノ、私達で見極めるわよ!」

「はい。勿論でございますよ、アリサ様」


 なんか不穏な会話は、聴かなかったことにする。








感想、誤字報告、評価等ありがとうございます。

お陰さまで更新する気力に繋がっております。


指摘を受けた部分を調べなおして修正しました

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