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兵隊さんとドゴンと女神様

 

 

 

 

「獣王直属の近衛ね……それが本当だと証明はできるのかな」

「何? 貴様、我らを愚弄するか?」

「申し訳ないけど、そう言って何も知らないプレイヤーを拐おうって奴等は結構見てきてるんだよね、こっちも」


 私が何か言う前に返事を返したのはとーま君。

 どこか口調というか、彼の声の質が変わった。

 とーま君の頭の上にいたノクトが私の頭の上に降りてくる。


『どうにも、おぬしと居ると退屈しそうにないの?』

『笑い事ではありませんよ、ノクト様』

『隠れんぼは得意だよー』


 うん、私は空気読んで黙ってるけど、髪の毛に埋もれてるメサルとティムやらの精霊組はお構い無しだよね。

 ていうか、獣王直属の近衛って言ってたよねこのおじさん達。

 やっぱり、獣王ってのがこの国の王様だったりするのだろうか……あれ、今とーま君危ないのでは?


「いいからその娘を引き渡せ! 獣王陛下の命令である!」

「だから、それを証明しろって言ってるんだよ。命令書も持ってないようだし、そもそも騎士だって言うなら名乗るくらいする物だろ?」

「貴様……こちらが下手に出ていれば! 構わん、命令を遂行するぞ!」


 とーま君めっちゃ煽ってた。

 危ないとかでなく完全に敵対してるように見えるのだけど気のせいかな。

 隊長っぽい人が腰の剣を抜き、それに続いて周囲の兵隊さん全員も剣を抜く。

 ここ街中なんだけど、大丈夫なのかなこれ。とーま君を見上げてみる


「下手に出られた覚えはないんですけどね……ああ、会長、少し下がっていてください」

「や、それはいいんだけど……これ、本当に大丈夫? ついていった方がいいんじゃない?」

「その必要はありませんよ。この正式版って、ベータの時のままデータを引き継いでましてね……リセットとかはされていないんですよ。ベータの時に獣王に会ったことありますけど、本物の近衛もどういうものかその時に見てますし、きちんと手続きを踏んでるならこんな態度はとらない筈ですからね」


 とーま君まで背中の弓を抜いて弦に指をかける。

 そういえばとーま君、弓も矢筒ももってるけど、矢筒には一本も矢が入ってないんだよね。どうやって戦うんだろう。

 一応、いつでも動けるように身構えてはおこうかな。


「娘さえ無事なら構わん、かかれ!」

「仮にも獣王の近衛を名乗るなら、そんなに簡単に剣を抜くべきじゃないね。正当防衛の行使は成立……と」

「とーま君ちょっと落ち着きすぎじゃないかな!」

「まあ、この程度の数なら……」


 ドゴン、と。

 何かがとてつもない勢いで衝突したような音と共に、隊長のおじさんが真っ直ぐに吹き飛んだ。

 とーま君が弓を構え、矢を放った後のような体勢で。

 しかし矢なんて持っていなかったよね。スキルか何かかな?

 とーま君が再び弦に指を持って行く。


「……特に、問題ありませんよ、会長。しかしこの眼鏡良いですね、特にクリティカルの補正がおいしいです」

「とーま君が喜んでくれて何よりだよ」


 ドゴゴゴゴン、と。

 兵隊さんが順番に吹き飛んで行くのは見ていて中々に爽快だった。

 周囲には騒ぎに気付いたらしき人だかりが出来ていて、結構な視線を感じる。

 といってもその殆どは自称近衛さん達ととーま君へ向かっているが。


『ミラよ、案ずるでないぞ。例えこやつらが本物の近衛だとしても、問題はあるまいよ』

『そうですね。仮にも王族の遣いだと言うのであれば、相応の礼儀は持って然るべきでございます』

『よくわかんないや! あ、ミラちゃん手帳のかいぞー終わったから後で見てね!』

「……改造?」


 とかなんとかやってる間に全ての兵隊さんが山になって積まれていた。

 隊長おじさんだけは剣を杖にしてのろのろと起き上がっている。

 とーま君が弓を構えた。


「ま、待て! 我々は本当に獣王の近衛で――」

「じゃあ、近衛騎士団長にでも伝えておいてください。部下に礼儀くらいは教えておけ、と」


 隊長さんが綺麗な弧をえがいてから、兵隊山(へいたいさん)の頂上に落下した。

 周囲の人だかりから歓声が上がる。

 よくやった、だの。こいつらにはムカついていた、だの。

 とーま君が弓を背負い直し、こちらへ振り返るとノクトも彼の頭の上へ戻って行く。

 ハラショーと、心の中で賛辞しておく。


「お待たせしました、会長。それじゃあ、広場の方へ行きましょうか」

「えー、なんか色々と突っ込みたい事しかないんだけど」

「ああ、この弓ですか? この弓は普通の弓なんですけどね。魔法矢っていうスキルで、MPを矢に変換して射てるんですよ」

「違う、そうじゃない……ふぁっ?」


 とーま君が私の手を取り、足早に歩き出す。

 歩幅のせいで私は少し駆け足のようになっているが、そこは問題じゃない。

 人だかりが左右に別れ、道を開ける。


「王城の方には連絡をやっといたからね!」

「あいつら最近近衛に入った成り上がりなんだけど、偉そうで迷惑してたんだ!」

「すっきりしたぜ兄ちゃん!」


 次々にかけられる声に、とーま君は無言で返して真っ直ぐに歩く。

 後ろの方でまたざわめきが起きたようだが、私の意識は一点にしか向いていない。

 て、手を、繋いでいるのですよ。


『はっはっは。どうやら本物だったようじゃな』

『ミラ様への無礼を働いたのです、当然の報いでしょうとも、ええ』

『トーマクンさんつよいねー!』


 充分に距離を稼いだところで、とーま君の歩調が緩くなり、ようやく追い付いた。

 握られていた手からも力が抜かれ、するりとほどける。

 むう、残念だ。名残惜しいなと思いながら彼の隣に並び、顔を見上げた。


「すみません、会長。広場はもう少しですから、そこで一度休憩しましょう。あと、相談する余裕がなくて、勝手に進めて申し訳ないです」

「うん、それはいいんだけどね。とーま君の新しい一面が見れたし」

「会長、今後一人で行動してる時も気をつけてくださいね。このゲーム、初心者に優しい部分は多いですけど……その、色んな所がかなりリアルな仕様になってますんで。プレイヤーとかNPCとか関係なく誘拐されたりとか、あるんですよ」


 それはゲームとして大丈夫なのだろうか……?

 そこの所を広場に到着するまでに聞いてみたけれど、年齢によるフィルターみたいなのはあるらしい。

 十五才以下なら設定しておけば弾かれるし、逆もまた然り。

 十五才以上は基本的に適用されるけど、あくまでイベント的な扱いでゲームとして詰むような事はほぼ無い。

 ほぼ、って所が引っかかるけどね。


「さっきみたいに無理矢理連れて行かれそうになったら、多分正当防衛成立とかそういう通知が出ますんで、相手がレッドネーム以外なら殺しさえしなければ罪に問われる事はありませんよ」

「レッドネームって……なんだっけ?」

「簡単に言うと犯罪者です。イエローネームが軽犯罪者、レッドネームが重犯罪者。どっちも、接近したら通知で知らせて貰えますので注意してください。レッドネームの場合は発見次第攻撃、捕縛及び殺害で賞金やらが貰えますね」

「レッドネームは指名手配犯ってところかな」

「殺すより生け捕りの方が報酬が高いのでこっちも覚えておいてくださいね。賞金稼ぎロールをするプレイヤーも結構居ます」


 もうしばらく歩いたところで、開けた場所にでた。

 高校のグラウンド程の広さのある円形の広場で、中央には遠くからでもわかる金色の女性の像。

 広場の外周は木々や草花が植えられた花壇で埋められ、それに添うように様々な獣人が露店なり屋台なりを開いている。


「ここが中央広場です。プレイヤーが露店を出すなら基本的にここですけど、露店を出すには組合への登録が必要ですので後で行きましょう」

「うん。しかし、人が多いね、はぐれたら合流に苦労しそうだね」

「はぐれたら中央広場の像の前で待ち合わせれば問題ないですよ、会長。それじゃあさっさと復活地点の登録をしてしまいましょう」

「う、うん、そうだね。はぐれたら中央広場の像だね、了解だよ」


 はぐれないようにもう一回手を繋いで欲しいなとか言えない自分がうらめしい。

 露店や屋台の呼び込みをすり抜けて、とーま君を追いかける。

 メサルとティムは未だに隠したままだが、二人は二人で周囲の観察をしたり雑談をしていたりで退屈はしていないようだ。

 途中、何度か知らない獣人に声をかけられたりしたものの、その都度とーま君が間に入ってくれて助かった。

 人混みは嫌いだ。騒がしいし、何よりも不躾な視線が不快になるから。


「……会長、到着しましたよ」

「なんか、凄く遠く感じてしまったよ」


 金色の像のすぐ側までたどり着いた。

 目測五メートル程の、台座の上に鎮座する女性の像。

 台座には四角いプレートのような物があるが、書かれている文字は殆ど掠れてしまっていて読むことは出来なかった。

 少しだけ後退りして、女性の像の全体の正面を視界にいれる。


 女神様と言われればそれっぽい、ひらひらしたドレスのような衣服で、両手を少し前に出して広げているポーズだ。

 髪は長く、膝よりも下まで広がっていて、陽光を反射して輝いているように見える。

 そして、目を引いたのは女神様の頭の横にある、くるりと巻いた獣の角と、飛び出した耳。

 穏やかそうな笑みを浮かべて、私を見下ろしている。


「ミラさん、台座に触ればポータルの解放と、復活地点の設定ができますよ」

「……うん。女神様って、羊族なんだね」

「正確には、この世界には十二人の神様がいます。黄道十二宮をモチーフにしていますね。で、この神様は……」


 歩いて近づき、台座にそっと手のひらで触れる。

 なんとなく、もう少し近くに寄りたいと思って。

 台座に触れれば、ポータルが解放されたという通知と、復活地点に設定しますか? と問うシステムメッセージ。

 当然イエスを選び、復活地点に設定した。



「この神様は、牡羊座のアリエティス様です。十二の神様の中で一番新しい女神で、冒険と救済を司っているらしいですよ」



 そして。



〈システムメッセージ:特殊条件を達成。空間魔法を習得しました。空間魔法にエクストラスキル『転移術式:アルゴナウタイ』が追加されます〉








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